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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第13章 いつもみたいにできるはず
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そう思った

今回はほんの少しだけ長い話になります。

 私は昔から笑顔を作るのが苦手だった。

 兄さんがいたせいもあっていろいろ比べられた。

 勉強のこと、運動のこと、お稽古事のこと。なんでも比べられた。

 昔からいつもそうだった。


 あれはいつのことだったんだろう?もう結構前のことだ。兄さんがいじめられてるって知った。その時、私もいじめられるんじゃないかって思った。すごく怖かった。

 それで、できるだけ友達とかを作らないようにしようと思った時期があった。


 そう、あれは確か小学校三年生の時だ。

 その頃から私は学校で一人でいることが多くなった。他人が怖くて笑わなくなったし、話もしなくなった。そんな私を心配したのかお母さんが『どうしたの?』ってよく聞いてきた。でも、それも別に何も感じなかった。

 お母さんが心配しているのは兄さんのこと。私のことはそのついでに聞いてるだけ。

 兄さんは優秀。

 勉強もできるし運動もできる。

 私も勉強は頑張ってたけど、兄さんには届かなかった。

 運動も頑張った。でも、やっぱり兄さんには敵わない。

 私ってダメな子なんだっていつも思ってた。


 世界から色が消えていったように思った。



 四年生になって好きなものがひとつだけできた。

 ピアノだった。

 私にとってピアノは優しいお友達みたいなものだった。

 一生懸命練習したらそれに対して応えてくれる。初めは全然上手じゃなかったけど、ずっとピアノを弾いているうちに綺麗な音を出してくれるようになった。

 お母さんも私を見てくれるようになった。

 その頃から、少しずつ笑えるようになったと思う。

 少しだけ他人と付き合うこともできるようになった。


 でも、何かあったら嫌われちゃう。

 そう思って一生懸命に他人に嫌われないように頑張ってた。

 そのおかげで性格もいいって思われてた。


 だけど、本当の私はそんな人間じゃない。



 そして、中学校に入学してすぐ、あんなことがあった。

 もう、ダメだと思った。

 これで中学校でも友達なんかできない。そう思っていた。


 そこに突然立ち上がった男の子がいた。

 その人は名前も知らない他の小学校出身の男の子。後にその人が竹中っていう名前だと知った。

 嬉しかった。

 私なんかを助けてくれる男子がいるなんて思ってもいなかったから。


 だから、彼に興味を持った。

 初めて男の子に興味を持った瞬間だった。

 だって、男の子なんて・・・


 私のことをいじめるだけの存在。

 私にとっていらない存在。

 私のことを嫌いな存在。


 それだけだったから。



 どんな人なんだろうと思って頑張って話しかけてみた。

 竹中くんは優しい人だった。皆に優しい人。男子にも女子にも分け隔てなく優しい。そんな人が本当にいるなんて思ってなかった。

 だから、すごく気になった。

 それが好きだっていう感情だって気が付くのにはそんなに時間はかからなかった。

 だって、竹中くんと話しているときには苦手だった笑顔で自然にいられたから。


 世界に色が戻ってきたように思った。


 もっと仲良くなりたい。それで一緒に委員会活動をしようと思った。

 そして、私は中学校でも今までの自分を演じて行こうって決めた。

 本当の自分は封印。

 頑張って勉強もできて運動もできる、性格の良い女の子を演じよう。

 竹中くんには嫌われたくない。今までもできてた。だからきっとできる。

 そうして毎日を頑張っていたんだから。


 演技ではあっても笑顔でいられた私には新しい友達ができた。

 その友達っていうのは栗林さん。彼女も優しい人だった。栗林さんは私の演技に気が付いていないみたいだった。そして、杉田くんが好きだって私に相談してきた。仲良くなりたいって。だから、私は一生懸命に仲良くなれる方法を考えた。

 そんな栗林さんが羨ましいって思った。

 私も竹中くんと仲良くなりたい。

 そこで私も一つだけお願いしてみた。


 私も夕人くんと一緒に行きたいって。


 自分の本当の気持ちを他人に話したのは初めてだった。

 栗林さんは快く返事をしてくれていろいろしてくれた。

 そのおかげで、四人で遊びに行くことができた。

 みんなと一緒の時間。

 竹中くんと一緒の時間。

 本当に楽しかった。


 でも、そのおかげでわからないことができた。


 竹中くんはみんなに優しい。私に対してだけ優しいわけじゃない。だから、私と一緒に居てくれてるんだろう。

 私のこと、みんなのことを本当はどう思っているんだろう。

 私と同じで、他人に合わせたりしてるんじゃないの?

 そんな風に考えるようになった。

 竹中くんのことを信じることができない自分。

 竹中くんのことを信じたい自分。

 二人の自分が私の中でいつもケンカしていた。


 そんな時、先輩から告白された。

 怖いって思った。

 私はこの人のことを知らない。

 それなのに私のことが好きってどういうこと?


 怖い。

 イヤだ。

 気持ち悪い。


 だから当然断った。


 もちろん、演技をしたまま。

 誰にも嫌われないように。

 私自身を守るために。


 その後すぐに竹中くんが告白してきた。

 先輩に言われた時とは違って嬉しかった。

 でも、好きとは言ってくれなかった。

 信じたいのに信じることができない。


 いろいろ考えるとわからなくなってきた。


 そして、1つだけわかったことがあった。


 きっと、夕人くんは本当の私を好きだと思ってくれていたわけじゃない。

 演技をしている私のことが好きなんだって。

 漠然と感じていた夕人くんからの違和感の意味が分かった。


 本当の私を見てくれていないんだ。

 そう思ったら悲しくなった。とっても悲しくなった。

 なんで演技なんてしちゃったんだろうって。


 でも、もしかして、このまま演技を続けていたら竹中くんが見てくれる私になれるのかもしれない。そう思った。もっと私を見て、知って欲しくなった。

 だから私はその時に断ってしまった。


 その後はいろいろと必死だった。前みたいに話したりしたいって努力した。

 でも、やっぱり竹中くんとの距離は縮まらない。むしろ離れてしまった。

 そして、竹中くんは他の人のことが好きになってしまった。

 でもそれは仕方がない。私が悪いんだから。いつかわかってくれるかもしれない。本当の私のことを。

 その時まで私はこの自分で居続けなきゃいけない。

 ううん、今まで以上に他人からよく思われる『玉置環菜』であり続けないといけないんだ。


 そう思った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


環菜の話はもう少し続きます。

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