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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
番外編2 ifと言う世界があったなら
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番外編2-5 環菜という女の子

番外編の最終回です。

「夕人くん。私、まだ聞いてないことがあるの。」

「なんだろう?」


 じっと見つめてくる環菜のまなざしに耐えられなくなったのか、軽く目を泳がせながら環菜に先を促す。


「あのね?」

「うん。」

「夕人くんは私のこと、嫌いになった?」

「は?なにそれ、どういうこと?」

「お願い、教えて。」


 目をそらさずに聞いてくる。はっきり言ってその視線は眩しすぎる。環菜の可愛らしい目が、顔が夕人をじっと見ている。


 この聞き方はズルい。

 それは私にもわかってる。

 でも、今日、今、このタイミングじゃないともう二度と聞けない。

 そう思って勇気を振り絞って聞いてみた。

『あのね、夕人くん。私は好きだよ。だから、私のことを嫌いにならないで。』

 思わず口に出しそうになった。でも、それはダメ。

 まずは夕人くんの気持ちが知りたい。


「どうしてそんなこと聞きたがるんだよ。」

「だって、私のことがわからないって言った。今も、昔も、これからも、って。それってずっと私のことがわからないってことだよね。」


 なんだよその質問は。すごく答えにくいな。

 夕人は困ったような表情を浮かべて右手で軽く頬を掻く。


「うーん・・・えっとさ、その質問の答えになるかわからないけど、逆に聞かせてもらうよ。」


 夕人は頭の中でいろいろと考えた答えなのか。少しずつゆっくりと言葉にしていった。


「え?うん。」


 夕人くんを困らせちゃった。やっぱり、そうよね。私はズルい。

 今だって自分の気持ちは口にしないで、彼の気持ちを聞こうとしている。でも・・・


「俺はさ、こういう性格だからさ。色々とあるわけだよ。みんなとうまくやってるのも奇跡かなって思うくらい。でも、環菜は俺と友達でいてくれてるよな?」


 友達。

 すごく難しい言葉。でも、悪い言葉じゃないのはわかってる。

 でも、私は・・・本当は友達以上になりたい。


「うん。」

「俺も環菜のことを友達だと思っている。」

「友達・・・」


 みんな横並びの『友達』。

 茜も小町ちゃんも実花ちゃんも。それからきっとなっちゃんのことも。

 夕人くんにとってみんな友達。

 私も?


「そう、友達だよ。小町も、茜も。石井さんだって実花ちゃんだって。まぁ、足草はどうかな。あいつにはちょっといい感情を持ってないけど。」


 そう言って夕人は笑った。

 そんな笑顔はズルいと思う。もちろん私が言えた義理じゃないのはわかってるけど、でも、ズルいって思う。夕人くんはきっと知ってる。小町ちゃんやなっちゃんや茜の気持ち。それを知っていて『友達』っていう言葉を使った。

 それは、そういうことなんだと思う。でも、なんだろう。少し夕人くんが遠く感じる。

 昨日よりも、今朝よりも。そしてついさっきよりも。


「・・・なんか女の子ばっかりだね。」

「いや、そうでもないぞ?翔も友達だし、稚内くんとかも友達だしさ。」


 夕人は慌てて否定するが、やっぱり女の子の名前の方が多く挙がっている。


「そっか。そうだよね。みんな友達、だよね。」


 環菜は少しだけ寂しそうな表情の笑みを浮かべて夕人を見つめる。

 届かない自分の想いを心のうちに秘めたまま。

 そして、その想いを口にすることすらできない自分を歯がゆく感じながら。


 こんなに近くにいるのに。

 手を伸ばせば届く距離に座っているのに。

 もっと近い距離に感じた時期もあったのに。

 あの頃の二人にはもう、戻れない。


 だって、あの時を終わらせたのは私の言葉なんだから。

 そして、『友達でいて』とお願いしたのも私。


「そうだね。みんな友達。今はそんな感じかな。」


 夕人はしっかりと環菜の目を見たまま、そう言った。


「そっか・・・」


 ゆっくりと息を吐きながら環菜はそう言った。


「うん。」


 夕人くん、ごめんね。

 私は夕人くんのことが好き。

 でも、それは私からは絶対にあなたには言えない。

 一年前の私はあなたの想いを知っていながら断った。

 もちろん理由はあった。

 でも、私はズルかった。だって、今はお付き合いとかできないって言っておきながら、友達でいて欲しいなんて。そんな自分勝手なことを押し付けたんだから。


 だから、私には夕人くんを好きだと言う資格はない。そう思ってる。

 せめて、これからも友達で、できたら一番仲の良い友達でいさせて。

 それが私の・・・気持ちなの?


 やっぱり私はズルイ。

 夕人くんは思っていることをはっきりと言ってくれた。それなのに私は自分のことをはっきりとは言葉にしない。しないんじゃないできない。

 だって、夕人くんに嫌われるかもしれないから。

 私は小町ちゃんみたいに素直に行動できないし、茜みたいにもなれない。どうしたらいいんだろう。

 茜に相談してみようかな。茜なら何かいい答えを教えてくれるかもしれない。


 夕人と環菜。

 二人の気持ちはすれ違う。

 過去のほんの少しの気持ちのすれ違いから、ずっとそのまますれ違ったまま。

 今となっては離れてしまった気持ちは元には戻らない。


 それは誰よりも二人が一番よく知っていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


番外編はここで終わりです。

夕人と環菜の場合はこのくらいしか進展しないみたいです。

やっぱり過去のことが枷になってしまってるんでしょうね、特に環菜にとっては。


でもそれは夕人にとっても同じことです。

一度振られた相手にもう一度向かっていけるほど、夕人は強くはないのです。

それに、環菜のことを好きだという感情もはっきりというと失っています。

はっきりと夕人が言ったように、「みんな友達。」なんです。

今の夕人は恋愛なんていう感情を持っていないのかもしれません。

いつか、夕人にもそう言った感情が戻ってくるのでしょうか。


ifルートではありますが、夕人と環菜の感情面についての補足ができたので良かったのかなぁと。


これで、第2部は本当におしまいです。


次回の更新から第3部に進んでいきます。





本当に蛇足かもしれませんが、ある意味でのネタバレです。


本編のルートであってもifのルートであっても環菜がたどる未来は同じものになります。

どういった未来が待っているのかは、これからじっくり読んでいただければわかります。

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