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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
番外編2 ifと言う世界があったなら
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番外編2-2 お話とか・・・したいな

待ち合わせ当日です。

ノートと問題集を渡して終了。

そんなことにはならないはずです。

 次の日の昼一時頃。俺は図書館の前に立っていた。今日もいい天気で驚くほど暑い。蝉の鳴き声が喧しく感じるけど、これもあと数週間で聞こえなくと思うとさみしいもんだ。


「にしても・・・中で待ってようかな。暑すぎる・・・」


 俺は暑さにあまり強くない。寒いのは結構平気なんだけど。


「夕人くん。ごめん、待たせちゃった?」


 環菜が走って来る。

 待ってはいないな。だって、今の時間は十二時五十五分だ。腕時計がそう言っている。


「いや、俺も今来たところだよ。」

「ごめんごめん、走って来たんだけどね。」


 環菜は両手を膝に当てて大きく息をしている。もしかして全力疾走?


「そんなに走ってこなくてもよかったのに。」


 少し笑いながら腕を組んで環菜を見る。


「だって・・・待たせたら悪いと思って・・・」

「まだ一時になってないんだから、いいんだよ。」

「ううん、夕人くんなら・・・少し早く来ると思ったから・・・」


 肩で息をしながら会話をしようとするが、こう暑いと落ち着くものも落ち着かない。


「ま、とりあえず、中に入ろう?ここより少しは涼しいと思うよ。」

「・・・うん。」


 環菜はまだ肩で息をしている。なんでそんなに走ったのかな?俺は不思議に思いながら軽く首をかしげた。そして、とにかく俺たちは区民センターの中に入った。そこはまるで別世界。クーラーという科学の産物の影響でとても快適だ。


「涼しいねぇ。」


 思わず素直な感想を口にする。


「ほんと。気持ちいい。」


 環菜はそう言って、ハンカチで汗を拭きながら胸元をパタパタと仰いでいる。


「お、おう。そだね。」

「ん?どしたの?」


 環菜が不思議なものを見たかのように俺の顔を見る。


「いや、あんまり・・その、気をつけたほうがいいかなって。」


 今日の環菜の服装は半袖の白のブラウスに薄い水色のスカート。やっぱりお嬢様みたいな格好だ。それに対して俺はいつもの通りにシャツとジーンズ。なんというか、もう少し服装に気を使ったほうがいいのかな、俺。


「え?何が?」


 環菜は俺の言ったことがわからないようで、目をパチパチとしながらこちらを見ている。


「だからさ、その、あんまり胸元をさ・・・ね?」

「あ・・・」


 そう言って軽く手で胸元を抑える環菜。暑さのせいか今の俺の言葉のせいか。ほんのりと赤い環菜の頬が印象的だった。


「ボタンを開けすぎると見えちゃうんだよ。」


 目をそらしながら右手の人差し指で頬を軽く掻く。


「そっか。うん、気をつけるね。」


 環菜は笑いながら言った。


「おう、気をつけてくれ。」

「でも、そんなに見てないと思うよ?普通の人は。」

「んなことはない。男なんてみんな見てるよ。思ってる以上に。多分翔もさ。」

「そういうもんかなぁ。」

「そういうもんだ。」


 そう。それがたとえ幸せな瞬間であっても、見てはいけないとわかっていても、見てしまうのが男のサガというものだ。もう少し見たかった。正直な感想を口にするほど俺は馬鹿じゃない。


「・・・えっと、夕人くんも見たいの?」

「見たい。いや、別に・・・」

「あはは、正直だね。正直すぎてちょっと引いちゃう。」

「えぇ・・・そう言われると何も言えないや。ごめん。」


 そう言って頭をさげる。


「いいよ。きっとそんなもんなんだよね。男の子って。」

「そんなもんです。」


 何だろう、昨日までの環菜とは別人みたいだ。こんなに明るい子だったっけ。


「あ、で、ごめんね。どうしてか私のノートとかが夕人くんのカバンに入ってたんだよね。」


 ここまで脱線していたのを環菜がしっかりと元の路線に戻してくれる。さすが環菜といったところだろうか。


「うん、そうなんだ。俺もびっくりしたよ。」


 そう言いながらベンチのあるところに移動する。よく考えると区民センターの入り口付近に立っていると邪魔以外の何物でもない。環菜も俺の後をついてきている。


「本当にね。私も驚きだよ。どうしてこんなことになってるんだか。」


 おそらくは実花ちゃんが冗談のつもりでやったんだろうと思うけど、その意図がわからない。


「ま、いいや。とりあえず、コレ。返すね。」


 ベンチにカバンを置きながらゴソゴソと例の物を出して環菜に手渡す。


「ありがと。」


 環菜はそれを受け取って同じようにベンチにカバンを置き、中にしまい込んだ。


「さて、これで用事は済んだね。」

「そうだね。」


 ちょっとした沈黙。お互いに顔を見合わせたまま固まる。その沈黙に耐えられなかったのは環菜の方だった。


「あ、あのね?」

「ん?」

「その・・・できたらでいいんだけどね?」


 カバンを持つ手をモジモジとさせながら目をキョロキョロさせている。いつもの環菜らしくない。


「何?」


 俺は首を軽く傾げながら環菜の次の言葉を待った。


「・・・お話とか・・・したいなって。」


 軽く目を伏せながら少しだけ小さな声で環菜はそう言った。


「いいよ。別に。時間もあるし。でも、それだと図書館じゃダメだね。」

「うん、そうだね。」

「どこがいいかなぁ。」


 外は暑い。何と言っても一番暑い時間帯だ。とは言ってもこの近くに都合のいい場所なんてあっただろうか。


「・・・あのねっ、いいとこ知ってるんだ。そこだったら・・・お話しても大丈夫っていうか。」

「そうなん?どこ?」


 環菜がいい場所知っているなら嬉しい。きっといいところなんだろうし。


「ちょっとだけ歩くんだけど、いいかな。」

「いいよ、ここよりいいとこなんでしょう?」

「うん・・・多分。」

「ふーん、いいよ。そこ行こうか。」


 俺には妙案が思いつかないわけだし、ここは環菜の提案に乗っておけばいいだろうな。


「えっとね、地下鉄駅の近くなんだけど。」

「あら、結構遠いね、でも、ま、いいか。」

「そう?ありがとう。じゃ、行こう?」


 そう行って環菜は俺の手を取って歩き出した。


「あ、ちょっと待って、俺、自転車で来たから。」

「うん、そうだと思った。だから後ろに乗せて?」


 そう来たか。自転車の後ろになんて妹くらいしか乗せたことないんだけどなぁ。


「乗り心地のいいものじゃないと思うけど?」

「そうかなぁ。」

「それに、スカートだろ?大丈夫かなぁ。」

「大丈夫。こうやって押さえておけば。」


 そう行って環菜はスカートをキュッと細くまとめる。


「確かに。それなら大丈夫そうだね。」


 俺たちは自転車に乗って環菜の言ういい場所に向かった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


番外編、二話目。

環菜の誘いでどこか別の場所に移動してのお話になりそうです。

どこにいくのか。

ちょっとだけ期待してください。

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