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さて、帰宅しますか?

夕人の電話の内容はなんだったのでしょうか。

その内容が明らかになります。


それにしても、茜はほとんど一人暮らしみたいな感じなのでしょうか。

中学生からそんな生活って結構大変だと思いますが、女子力は上がりそうですね。

いや、どうなんでしょう?

「ごめん、お待たせ。ちょっと長くなっちゃった。」


 電話を終えて1階の居間に戻り、茜に話しかける。その表情は少しだけ複雑なものに見える。


「もしかして、怒られちゃった?それなら私からも謝らないと・・・」

「あー違う違う。そういうのじゃないよ。安心して。」


 もしかして、俺んちに電話してわざわざ謝るつもりだったのか?なんて言って謝るつもりだったんだよ。


「うん・・でもゴメンね。帰るの遅くなっちゃったね。」


 時間は8時。家を出てから1時間以上たっている。まぁ、電話では小言を言われたけど大丈夫。ちゃんと説得できた。


「あぁ、大丈夫。だから、茜も支度してくれよ。待ってるからさ。」


 茜が何言ってるのかわからないっていう顔をしている。


「え・・・っと?」

「確か三日間だよな。お母さんが仕事でいないのは。」

「うん、そうだけど・・・?」

「今、お母さんと連絡取れるか?」

「うん、お母さん携帯電話持ってるから。緊急連絡用の。」

「そっか、じゃ、連絡して。三日間は俺んちに泊まるって。」

「・・・え?え?なにそれ。どういうこと?」


 茜が取り乱す。俺の説明が足りないな、明らかに。まぁ、ワザとなんだけどな。


「茜さ、三日間は家で一人なんだろ?ご飯も一人で作ってさ。」

「うん。でも慣れてるから・・・」

「けど、寂しかったんだろ?昨日まであんなに楽しく遊んでたもんな。急に一人なんて俺だったら耐えられないよ。」

「でも・・・」

「いいんだよ。うちの母親には事情を話して了解をもらったから。あ、申し訳ないんだけど、あの・・お姉さんのことを母親だけには話しちゃった。絶対に他の人には言うなって強く言って。そしたら、俺のほうが怒られちゃったけどな。『他人様ひとさまの家の秘密を簡単に話すもんじゃない』ってさ。でもさ、うまく説明する方法が思いつかなくってさ。」


 右手で頭を掻きながら説明する。なんだか照れくさいけどな。


「・・・」

「いや、そのゴメン。内緒だって言われてたのに。でも、妹にも内緒にしろって言ったし、俺の親って結構口が堅いから大丈夫だって。」

「ううん、そうじゃないの・・・」


 そう言って茜が泣き出す。


「あ、お、おい・・・」

「だって・・・だってぇ・・・夕人くんが優しすぎるんだもん。ダメだよ、そうやってみんなに優しいんだから・・・」

「みんなにって・・・」


 そんなに俺っておかしいのかなぁ・・・


「・・・でも、嬉しい。お母さんに電話するから待ってね。」


 そう言ってそばにある電話から母親あてに電話を掛ける。


「あ、お母さん?・・・・うん、元気だよ・・・・・うん。・・・・大丈夫。あのね?話があるの。今日から三日間、夕人くんのうちに泊まりに行ってくる。・・・・・・・ううん、違うって。そういうのじゃなくって、ちゃんと事情を説明したくれたよ。・・・・・違うって。・・・・・うん、わかった、聞いてみる。ちょっと待ってね。ねぇ夕人くん、夕人くんちの電話番号教えてって。」

「そうだろうと思った。うちの母親も連絡したいから電話番号教えてくれって言ってたし。『そちらの親御さんから了解が取れたらいいわよ』って言ってたもんな。」

「お母さん、聞こえた?・・・・そう、ちゃんと夕人くんはお母さんと話してくれたんだって・・・・わかってる、ちょっと待ってね。ゴメンね、夕人くん。お母さん信じてくれなくて。早く電話番号教えろって。」

「そりゃそうだよ。女の子のお母さんなんだからさ。えっとね、〇一一‐○○○‐××××だよ。」

「うん、ありがとう。じゃ言うよ?大丈夫?・・・うん、えっとね市外局番があって、○○○‐××××だって・・・・うん、じゃ待ってるから。」


 ガチャン


「じゃ、準備して待ってよっか。うちの母親と話したら分かってもらえるって。」

「うん、ありがとう。」


 そう言って俺の顔をじっと見てくる。


「どした?」

「ううん、何でもない。」

「そうか?ならいいけど。・・・電話来ないな。」

「ぷっ、そんなに早くは来ないって。きっとまだしばらくはかかるよ。」


 そりゃそうか。俺のお母さんと電話で話して、それから折り返し連絡が来るんだもんな。お母さんがちゃんと話をしてくれるといいんだけどなぁ。


「うーん、でも、大丈夫だと思うけど返事が来るまでは。なんかね、ちょっと不安。」

「なんで不安なの?」

「イヤだってさ。俺は男じゃん?そこに泊まりに行くって言ったら普通の母親だったら心臓が飛び出るくらいビックリすると思うんだよね。」

「あ、そっか。そうだよね。」

「そうなんだよ。だからさ、大丈夫かなぁって。」

「う~ん、でも、夕人くんのことお母さんは知ってるし。今日まで泊まってた翔くんのことも。ちゃんと話してあるから大丈夫だと思うけど・・・」

「みんなで泊まるっていうのとは若干ニュアンスが違って聞こえるんじゃない?ほら・・・その・・・やっぱりさ。」


 そうだよ、ほとんど考えないで俺が決めちゃってたけど、お母さんにも言われたしなぁ。『あんたとその茜さんはどういう関係なの?』って。もちろん友達だよって答えたけどさ。当たり前だよね。


「ねぇ・・・隣、座ってもいい?」

「え?いいけど。」


 俺の返事を聞く前に座ってくる。


「どうしたのさ?」

「夕人くんってホントに優しいんだね。」

「またそれ?もう止めてくれよ、結構そう言われるのって照れくさいもんなんだからさ。」

「ううん、やめない。だってホントに嬉しかったんだもん。」


 そう言って俺の肩に頭をもたれかけてくる。おいおい、そういうのはナシだって。


「良かったよ、喜んでもらえて。」


 違うだろっ、俺。そうじゃなくってさ。他に言うことあるだろ?


「うん、でも・・・」

「でも?」


 茜の顔を見ようと顔を向けると茜と目が合った。


「環菜ちゃんと小町ちゃん、それになっちゃんに悪いかも・・・」


 なんでそこでその名前が出てくるんだよ。環菜はともかく・・・なっちゃんって・・・でも、もう関係ないし。いやいや、それより、なんかやましい気持ちがあって茜をうちに呼ぶわけじゃないし。そうだよ。母親もいるし妹もいる。


「はぁ・・・でも、そんなの関係ないだろ?」

「うん、そだね。・・・でも、私は会ったことないけど東山さんはどんな気持ちでいたんだろう。」


 東山さんか。もう懐かしい思い出だよ。たぶん、お互いにね。


「東山さんなんて茜には関係ないだろう?」

「そうだよね。・・・今の気持ちが大事だもんね。」


 今のってどういう意味だ?


「今の気持ち?」

「うん、そう。」


 そう言って俺の顔をジッと見つめてくる。

 その顔を見ていると思わず引き込まれそうになる。

 なんて綺麗なんだろう、茜って。初めて声かけた時にはそんなことを全然考えてなかったのに。

 ダメだ。吸い寄せられる・・・茜が少し目を細める。


 ピヨピヨッピヨピヨッ・・・・


 な、なんだ?電話の音か?

 茜がガバッと立ち上がって電話に走っていく。


「もしもし・・・・うん・・・・うん・・・ありがとう、お母さん。・・・・うん、わかってる。ちゃんと挨拶とかするから。・・・・うん、わかった。じゃ、またね。」


 そっか、オッケーが出たんだな。

 それにしても、危なかった。電話が来なかったらどうなっていたことだろう。

 思わず大きなため息をつく。


「行ってもいいって。やったぁ。これで寂しくないっ。じゃ、準備してくるから待っててね。」


 そう言って部屋まで駆け上がっていった。


「やっぱり、寂しかったんじゃないか。」


 バカだな・・・もっと前から言ってくれればよかったのに。

 俺にってわけじゃない。俺たちに言ってくれたらいろいろできたかもしれないのに。・・・いや無理かな。そうホイホイとそれぞれの家庭のことに口は出せないもんな。いろいろ事情だってあるだろうし。

 けど、さっきの茜の言葉は本心なんだろうな。『やったぁ。これで寂しくないっ』なんてさ。いつもの茜だったら絶対にそんなこと言わないもんな。きっと今までずっと我慢してきたんだろうな。俺だったら我慢できるんだろうか・・・無理かもしれない。料理だってそんなにできないし、下手したら毎日カップ麺生活だよ。それに洗濯だろ?あの二槽式洗濯機っていうのがよくわからないんだよな。全自動洗濯機っていうのか?あれだったら使えるのかもしれないけど。


 それにしても茜のヤツ、可愛かったな。さっきは思わず・・・ダメだって。そういうのはちゃんとした関係になってから・・・じゃないだろ?何考えてるんだよ。


「ゴメン、お待たせ。」

「いや、大丈夫。行こうか?。」

「うん。」


 二人で玄関へ向かう。茜の荷物はちょっと大きめのカバンひとつだけだ。


「あ、宿題はちゃんと持った?」


 少しだけ意地悪い感じで言う。


「あ・・・」


 そう言ってカバンを投げ出す。持ってこなかったのか。


「まったく・・・」


 仕方ない、もう少し待ってようか。放り出されたカバンをもって居間に戻り、ソファに腰を下ろす。



 思ってたより時間がかかるな・・・さっき準備してたのはきっと洋服だろうけど、宿題なんて適当にカバンに入れればいいんじゃないか?俺だったら3分で終わるぞ?


「ゴメン。今度こそ大丈夫。」


 そう言って戻ってきた。ホントに大丈夫なのか?


「忘れ物はない?また戻ってくればいいけど、結構遠いからね。あ、自転車あるっけ?」


 そう言ってソファから立ち上がる。


「う~ん、あるんだけど・・・今ちょっと調子悪いんだ。だから歩きでもいい?」


 一緒に玄関に向かって、もう一度歩きだす。


「いいけどさぁ。歩くと30分くらいかかるよ?」

「うん、いいよ。・・・でも、後ろに乗せてくれたら嬉しいなぁ。」


 いいんだけどさ、なんで俺の自転車が後ろに乗れるような自転車だって知ってるんだろう。それもカメラで見えてたのかな?


「いいよ。でも、オシリ痛いかもよ?」

「ううん、大丈夫。自転車の後ろって、乗ってみたかったんだ。」

「そうなの?思ってるよりいいもんじゃないと思うよ?」

「いいのっ。乗って見たいのっ。」

「わかったって・・・」


 なんで今日の茜はこんなに・・・


「ねぇ・・・、どうして、そんなに優しいの?」

「え?いや、それはさ・・・わからん。まぁ、そういうヤツだってことだよ。気にするな。」


 ちょっと照れくさいのもあって適当にごまかした。ちょうど靴を履いていたところだったから下を向いたまま言えたのもありがたい。


「ね、夕人くん。」

「なに?」


 立ち上がって振り向いた時、茜が飛びついてきた。


「‼」


 茜は目に涙を浮かべて言う。


「・・・ゴメンね。・・・でも・・・」


 何言ってるんだ?『ゴメンね?』俺に謝ってるのか?


 そう思った瞬間。ゆっくりと唇を合わせてきた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


まさかの展開でした。

茜の行動に翻弄されすぎです。

いや、夕人じゃなくても翻弄されるでしょう。

この後どうなってしまうのでしょうか。

もちろん、この後は夕人の家に二人で行くわけです。

そして二人は中学生です。

察してくださいね。


ということで、この章はここで終了です。


おいおい。思わせぶりな幕引きで終えるんじゃねぇよと思った方、申し訳ありません。


ただ、これで「それでも、俺のライラックは虹色に咲く。」が終わってしまうわけではないので次の章に期待してお待ちください。

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