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忘れ物をお届けにあがります

夕人はすぐに行動を起こしました。

茜に届けてあげたいという気持ちからです。

これが、小町や環菜だったらどうしていたのでしょうか?


やっぱり、届けるでしょうね。

そういう奴の様な気がします。

 自転車に乗ること20分。恐らく茜の家の近くであろう場所まで来た。

 ん~、小町の話だとこのあたりのはずなんだけどな・・・。玄関にある表札を見ながら自転車を押して歩く。えっと・・・小暮、小暮っと・・・お、あった。ここだな?あれ?電気がほとんどついてないぞ?二階の部屋だけだ。まぁいっか。とりあえずインターホンを押す。


 ピンポーン・・・


 ほとんど待たずに茜が顔を出した。おい、不用心だな。俺じゃなかったらどうするんだよ。


「ホントに来てくれたんだ。ありがと。」

「おう、さっき約束しただろ?来るに決まってるじゃないか。いや、それよりさ。」

「ん?どしたの?」


 いや、なんか茜ってこんなに可愛かったっけ?

 いやいや、そりゃ可愛いさね。今に始まったことじゃないよな。


「い、いや。ちゃんと確認してからドアを開けないと危ないだろう?知らない奴だったらどうするんだよ?」

「あ、うちはテレビドアホンなんだよ。カメラで映ってるんだよ?ほら、ここがカメラなの。それにうちっていろいろあるでしょ?だからほら?」


 そう言って指さすところを見ると・・・警備会社のシールが貼られている。なんていうか・・・セキュリティはしっかりしてるんだな・・・さすが芸能人の実家って感じか。


「お、おう。そうなんだな。知らなかったからさ・・・」

「ふふふ、そりゃそうよね。まぁ、こんなところで立ち話もなんだからさ、ちょっと入っていってよ。」


 もしかして、お母さんとかいるんじゃないのか?小町のお母さんとの苦い記憶を思い出す。


「え、いや、いいよ、これを渡しに来ただけだからさ。」

「いいからいいから、入っていってよ。」


 そう言って俺の手を引っ張る。おい、なんだよ。強引だなぁ。・・・あれ?随分静かだぞ?誰もいない家みたいだ。


「どうぞー。」


 そう言ってスリッパが出される。


「あ、ありがと。っと、おじゃましまーす。」


 シーン・・・返事がない。ただの屍のようだ。じゃない。誰もいないみたいだ。


「うふふっ、夕人くんって礼儀正しい人なんだね、やっぱり。昨日の浦川さんと北見さんと話してた時もそう思ったけどね。」


 いや、これくらいは普通だろう?こんな基本的な挨拶もできない中学生がいたらおしまいだって。いや、そんなことより気になることがある。


「あのさ、茜。もしかして、一人なのか?」


 そう言ってから後悔する。茜のうちはお姉さんの仕事の関係でお母さんがいないことが多いんだった。そう言えば、お父さんのことは聞いたことないな・・・もしかすると・・かもな。うん、聞くのはやめておこう。茜が自分から話すまでは。


「そだよ。」


 思ったより明るい返事が返ってくる。


「そっか。お母さんはお仕事か。」

「そうそう。なんか仕事で三日間帰ってこれないんだって。ほら、そんなことよりさ、せっかく来たんだから少しだけお話ししようよ。」


 いやいや、俺は一時間くらいで帰るって言ってあるし、夜に女の子と二人っきりっていうのは・・・その・・・マズいだろ?ダメだ。何を考えてるんだ俺は。


「いや、帰るよ。なんかその・・・ほら・・・な?わかるだろ?」

「う~ん、わかんないっ。私バカだからねぇ。とりあえずこっちこっち、翔くんちと違って普通の家だから心配しなくてもいいよ。」

「アイツんちは特別だって・・・あんな家が日本に何件もあってたまるかって。」

「あはは、ホントにそうだねぇ。」


 そんな会話をしているうちに居間に通される。確かに普通の感じの家だ。ソファとテレビがある。普通だ。ソファから台所も見える。普通だ。安心した。


「ね?普通でしょ?ちょっとそこで待ってて、今飲み物持ってくるから。」

「うん、わかった。」


 そう言ってソファに腰を下ろしたもののなんだか落ち着かない。だって、今は茜と二人きりなんだぞ?そんな気持ちなんて一切なかったのに落ち着かないのはなんでだろう。

 そうだ、他のことでも考えればいいんだ。翔との発明品のこととか・・・・無理だ。一昨日の夜のことが思い出されてしまう。あの時に茜と話したこともどんどん思い出してくる。


『ほら、うちのお姉ちゃんとかが忙しいからさ。お母さんも一緒に行っちゃうことも多いし。夜は結構一人のことが多いから、窓からよく見てるんだよね。』


 そうだよ。茜は顔にはあんまり出さないけど、結構寂しい思いをしてるんだろうな。だから、やっぱり一人っていうのは寂しくって、それできっと俺のことを家に上げたんだろうな。


「はいはーい。何考えてるのかはわかんないけど、とりあえず飲み物持ってきたよ~。」


 そう言って持ってきてくれたのはスポーツドリンクだ。コップに入ってはいるがあの特徴的な少し濁った色合いでわかる。


「ありがとう。いただきます。」

「ぷっ、夕人くんってば本当に礼儀正しい人なんだね。」

「・・・・」

「あれれ?怒っちゃった?」


 そう言って俺の左隣に座ってくる。


「怒ってないって。」


 ちょっとだけ茜から距離を保とうと後ずさりする。


「むぅ、なんで逃げるかなぁ。」

「茜が迫ってくるからだよ。」

「迫って無いし。隣に座ろうとしただけだし。」


 いやいや、だからとなりに座らなくてもいいだろ?せっかく俺の正面にもソファがあるのに。


「べ、別に隣に座らなくたっていいじゃないか。」


 茜は俺の言うことを無視して半ば強引に隣に座ってくる。


「お、おい。だから言ってるじゃないか。」

「私のこと・・・キライなの?」


 だからなんでそこでその質問をするんだよ。


「いや、だから、キライとかは全然ないよ。嫌いだと思ってたらわざわざ来ないしさ。」


 ん?この展開って・・・


「私のこと好き?」


 そう言ってさっきまでよりも距離を詰めてくる。おいおい、やっぱりっ。


「ふふっ、うふふ・・・あははは。」


 突然笑いだす茜。まったく。一昨日とおんなじ展開じゃないか。はぁ・・・また、俺のことを試してるんだな?それなら・・・


「茜・・・」


 そう言って茜のほうに体を向ける。


「なぁに?」


 茜は目を逸らさずちょっとだけ首を傾けるようにして俺のほうを見ている。俺はそのまま茜の肩に右手をかける。そう、この状態はまるで向かい合うような状態だ。


「俺も聞きたいことがあるんだ。」

「え?」

「・・・俺のこと、好き?」

「・・・え?」


 目を丸くする茜。あれ?俺の想像と違うリアクションだぞ?


「って、一昨日言ったよな?『茜が同じことやられたらどうする』って。」


 茜は放心したような感じで俺を見ている。ちょ・・これは?


「・・・あー、私のこと試したんだね?もうっ、夕人くんのバカバカバカバカッ。」


 そう言って俺を両手でどんどん叩く。


「イテテ。なんだよ。そっくりやり返しただけだろ?」

「男の子がやるとシャレにならないのっ。」


 そう言って立ち上がって台所の方に消えていく。これは・・・本当にマズったかもしれない。どうしよう。茜を怒らせた。しかも、やってはいけない冗談だったみたいだ。これは素直に謝るしかないな・・・そうこうしているうちに茜が戻ってきた。


「その・・・ゴメン。笑ってもらえるかと思ったんだけど・・・」

「ふふふ・・・」


 ん?笑ってる?


「あははっ、びっくりした?」


 にっこりと笑顔を浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。しまった・・・これもひっかけだったか。


「ふふ~ん。夕人くんが私に勝とうだなんて百年早いのですっ。」


 俺を指さしながら勝ち誇ったように言う。


「あぁ~、また騙されたか・・まったく。茜には敵わないや。」

「でしょ?あ、そうだ。ちょっと私の部屋に来てくれない?二階なんだけどさ。」

「は?いいけどさ。なんで?」

「んとね、見て欲しいものあるんだよね。」


 んん?これも聞いたことあるような・・・って。アレじゃねぇか。もしかしてこれもひっかけてくるつもりか?それはマズいぞ?いや・・・冷静になれ、俺。さすがにそれをしてくるような茜じゃないだろう。うん、これはきっと俺の早とちりだ。そうに違いない。


「あれ?また疑ってる?」

「・・・ちょっとだけな。」

「ひどぉーい。私のことそんな風に見てたんだ。」


 そう言って、両手で顔を覆う。ダメだ・・・茜が何を考えているのか全然わからない。


「いや、そうじゃないけど・・・」

「そう?じゃ、来て来て。」


 そう言って俺の手を取って立ち上がる。おいおい、泣いてたんじゃないの?

ここまで読んでくださってありがとうございます。


夕人に対しての茜、上手うわてすぎますね。

タジタジじゃないですか。


それにしても、茜がすごく楽しそうに見えるのは気のせいでしょうか。

学校にいる時よりもずっと生き生きしている様な感じがします。


さて、二階に行って何をするのか。

気になりますよね。

まさか・・・とは思いますが。

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