オセロってどうやったら強くなるんだ?
相当の量の夕食があったような気がしますけど、夕人たちは全て食べれたんでしょうか。
そして、食事のあとは勉強会になると思うんですけど・・・ありえないですか?
えぇ、ありえません。
健全な中学生は勉強よりも遊び。
そういうものでしょう?
超豪華な夕食であっても、食べられる量には限界がある。俺たちの母親たちが持ってきてくれたご飯は明らかに俺たちの食べられる限界を超えていた。残ってしまったご飯たちは明日の朝ご飯へと華麗なる変身を遂げるのは当然の流れだった。
そして時間は午後8時。お腹もいっぱいで少し気だるくなってきたときに小町からゲーム大会開催のお知らせが届いた。
「第一回トーナメント式、オセロ大会~」
オセロを両手で頭の上に掲げる小町の姿はまるで子供のようだ。
「あ、いいね、それ。」
実花ちゃんもいい感じに小町の提案に乗っている。
「でしょう?私ね、いっぱいゲーム持ってきたから、みんなでいろいろやらない?」
「あぁ、だからか。あんなにいっぱいの荷物になっていたのは。」
翔が冷静に突っ込みを入れる。
「そうそう。いっぱい持ってきたよ?えっとね、人生ゲームとかツイスターとか。」
「ツイスターってなに?」
環菜が『聞いたことないよ?』と小町に聞く。
ツイスターってのはまぁ、シートの上にある指示された色を二人で手足で一生懸命触っていくゲームだ。体勢なんかがエグいことになることが多くて、男女でやると異様なテンションになるゲームだと思う。少なくともテレビではそうなっていた。
「まぁ、やってみればわかるから、それは後でね。それからトランプとかウノとか。」
「うんうん、それじゃ、まずはオセロ大会やろうよ、小町ちゃん。で、優勝者には茜ちゃんからのキスってことで。」
「えぇっ?」
いきなり景品に差し出された茜としては堪ったもんじゃないだろう。しかもキス付き。
「いいじゃない、減るもんじゃないしさ。」
実花ちゃんの言いようは正しいけど正しくないような気がする。
「イヤだよ。そんなこと言うなら実花ちゃんがしたらいいじゃない。」
珍しく茜が本気で拒絶反応を示す。
「え?あたし?あたしは翔としかしたくないもん。」
「そんなの・・・私だって・・・好きな人としたいもん。」
「・・・・・」
「ま、その辺は置いといてさ?なんだか楽しそうだからやってみない?」
翔がいい感じに間に入ってその場は事なきを得た。
そしてトーナメントの組み合わせは厳選なる抽選の結果、第一回戦は『小町と杉田』、第二回戦は『俺と茜』で第三回戦は『実花ちゃんと環菜』ということになった。
でも、トーナメントっていっても六人だとうまくいかないんじゃないの?
とにもかくにも小町と翔の対戦が始まった。翔は勝つ自信がかなりあるみたいだ。
「まぁ、オセロなんて所詮パズルみたいなものさ。相手がどう打ってくるのかを考えれば負ける気がしないね。」
「ふ~ん。そんなこと言っちゃうと負けた時に大恥かくことになるよ?」
「見てろよ?完膚なきまでに叩きのめしてやるから。」
ほほぅ。なかなかの熱戦が期待できそうだぞ?
「ガンバレ~、小町ちゃん。」
茜からも声援が飛ぶ。始めのうちは翔が有利に進めているみたいだ。
「ふっ、相手を内側に閉じ込めて行けば負けはないのだよ。」
確かに。翔の言うことは一理あるけど・・・まだ小町にもチャンスがあるように見える。
「・・・・あれ?」
むむっ、翔の旗色が一気に悪くなったぞ?
「・・・・・・ありゃ?」
はぁ・・・四つ角を取られたら勝ち目がないだろう・・・
「小町ちゃんの圧勝~。」
実花ちゃんが高らかに宣言した。
「完敗だ・・・まさか、こんなことになるなんて・・・」
翔は大げさに頭を抱えて呻いている。小町は勝ち誇った表情で立ち上がり翔を見下ろしている。
「だから言ったのに。大口をたたくと痛い目を見るよって。」
これは強敵だ。俺も気を引き締めてかからないと大変な目にあいそうだ。
「次はぁ、茜ちゃん対夕人くん~。」
実花ちゃんはいつの間にか審判兼実況のようになっている。
「よし、始めよっか。」
「えっ・・・お手柔らかにね、夕人くん。」
「見てろよ?翔。俺が勝ち方の手本を見せてやるからな。」
自信があるわけじゃないけど、そうでも言っておかないと勝てる気がしない。自慢じゃないがオセロは全然強くないんだよ。
「私だって、負けないからね。」
茜が笑顔で宣戦布告してくる。
「・・・・んん・・・・くそっ・・・」
ダメだ。瞬殺された。全く勝負にならないや・・・
「あれ?夕人くん、すっごく弱くない?」
茜が勝ち誇った顔で俺を見てくる。
「はい、弱いです・・・」
「意外だねぇ、翔と夕人くんは頭いいからオセロも強いかと思ったのに。」
実花ちゃんが俺たちの傷口に塩を塗るようなことを言う。
「勉強とオセロは関係ないんだね。」
茜がトドメを刺してくる。しかし、結果が示すように反論の余地がない・・・
「ま、いいや。次の試合はあたしと環菜だね?負けないんだから。」
「あら?私は結構強いわよ?」
環菜が不敵な笑みを浮かべて実花ちゃんの挑発を受け流す。
「さてさて、やって見なくちゃわからないわよぉ~。」
三回戦が始まった。ゲームの序盤こそ実花ちゃんがリードしているように見えたが、徐々に環菜が盛り返してくる。最終的に一進一退の攻防を繰り返して環菜の勝利に終わった。オセロが超絶に弱い俺には何も言えないが、いい勝負だったようにみえた。
「やったぁ。勝ったぁ。」
環菜がこんなに喜んでいる姿は初めて見たような気がしないでもない。
「むぅ、もうちょっとだったのにぃ~。悔しいよぉ~翔~。」
「え?俺?」
翔が驚きながら実花ちゃんをみる。そりゃ、驚くよなぁ。俺たちは大見栄きっておいて惨敗したわけだから、このオセロ大会では発言権が無いに等しいからなぁ。
「ま、いっかぁ。翔には絶対に負けなそうだしぃ~。」
「くそっ、悔しいが返す言葉もない。」
「それに、夕人くんにもね。」
ニヤニヤしながら環菜が続ける。
「なんとっ?ここで俺もやり玉にあがりますか。確かに、俺には勝ち目がなさそうだなぁ・・・悔しいけどさ。」
「夕人っ、この屈辱はいつか晴らそうな。」
そう言って俺の肩をガシっと抱いてくる。確かに悔しい。けど、オセロは昔から弱いから俺には無理だ。将棋なんかも弱いんだよ。
「あ、あぁ、機会があったら・・・」
「なんだよ?夕人、いつにもなく弱気じゃないかよ。」
「苦手なんだよ・・・こういうの。」
「夕人って何でもできるのにね。本当に意外だったよ。」
小町にまでそう言われるとちょっと悲しくなってくる。なんとかリベンジしたいもんだ。
「何でもってわけじゃないさ。他にも苦手なものがいっぱいあるって。」
「へぇー?例えば何なの?」
小町がさらに突っ込んで聞いてくる。その表情は相変わらずニヤニヤとしていて勝ち誇った感じだ。
「そうだなぁ。実は・・・」
「実はぁ?」
茜まで食いついてきた。
「そう、実はね。運動が苦手だ。」
「はぁ~?運動が苦手っていうのは翔みたいなウンチのことを言うんだよ?夕人くんのはさ、得意じゃないの間違いじゃないの?」
実花ちゃんが間髪を入れずに突っ込みを入れてくる。そして、自分の彼氏をここまでコケおろすのも珍しい。
「その通り。運動が苦手というのは俺みたいなウンチのことを言うんだよ、夕人。」
「そうだよ。夕人は結構運動できるほうだよ?杉田なんかと違ってな。」
小町がそう言ってくれるのは嬉しいけど、翔の扱いが雑すぎやしないか?
「・・・そうだぞ、夕人。運動ができない奴っていうのは俺のことを言うんだよ・・・」
俺の両肩を両手でガッチリと掴んで翔が泣きそうな顔で言う。
「けど・・・俺は足も速くないし・・・」
「俺よりずっと速いだろ?」
「それに水泳でもバタフライができない。」
「俺はクロールができないぞ。」
「・・・えっ・・・と・・・?」
「さらに言うと俺はサッカーも野球もバスケもできないぞ?これでも運動が苦手とでもいうのか?夕人くんよ・・・」
「・・・すみませんでした・・・」
女子たちから笑い声が聞こえる。
「まぁまぁ、夕人くんはさ。昨日も言ったけど勇者みたいなものなんだよ。なんでもできるかもしれないけど、その道のスペシャリティには勝てない。でも、それは傍目から見たらとっても贅沢なことなんだよ?」
確かに昨日も茜に同じことを言われたような気がするけど・・・そう言われても実感がなければコンプレックスにしかならないんだよなぁ。
「ねぇねぇ、そんなことより続きやろうよぉ~。」
実花ちゃんのフワッとした感じで俺と翔の暴露合戦は終了した。いや、暴露にすらなっていたのかわからないけどな。
「そだね。こんな話してても楽しくないもんね。」
小町の言葉にはいちいちとげがあるような気がするのは気のせいだろうか。
「でも、勝ち残ったのは三人だよ?どうやって優勝とか決めるの?」
環菜が言うことはもっともなことだ。そもそも六人のトーナメントなんて聞いたことがなかったし。とは言っても総当たり戦じゃ時間がかかりすぎるしなぁ。三人で総当たりって言っても六戦もある。どうしたらいいのかなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
夕食後は小町の提案でオセロ大会になりました。
翔と夕人がここまで弱いとは以外ではありましたが、女子たちが強かったのか男子たちが弱かったのか。
それはみなさんのご想像にお任せします。
次章はオセロ大会の決勝戦になります。




