パスタって何種類あるんだよ
お昼ご飯の準備に買い物に行くことになりました。
とはいっても買い物自体は女の子に任せておけばいいと思います。
やる気になった女の子の邪魔をしてはいけません。
「よろしくねぇ~。」
玄関で実花ちゃんが手を振って見送ってくれた。この三人で買い物に行くっていうのは初めてだ。それに、朝はちょっと険悪だった二人だから心配していたんだよなぁ。おかしなことにならないかって。けど、さっきまでの様子を見る限り杞憂で終わりそうだ。
「なんのパスタにしよっか、小町ちゃん。」
「そだねぇ、やっぱり、ミートソースは欠かせないよね。」
「うんうん、そだねぇ。」
「でも、カルボナーラとかもいいよね。」
「あれも美味しいよねぇ。」
「でも、ペペロンチーノみたいなシンプルなのもいいと思う。」
さて、二人は何の話をしているんだ?ミートソースは分かる。けど、カルボ?ペペロン?なんだそりゃ。聞いたことないような言葉だな。二人は何やら楽しそうに話しながら俺の前を歩いている。
「ね、ね、夕人は何が食べたい?」
「あー、その、よくわからん。スパゲッティーってそんなにいろんな種類があるのか?」
そう言った俺を驚いたような表情で見る二人。
「な、なんだよ。しょうがないだろう?知らないんだからさ。」
とたんに笑いだす二人。くそぅ。こんなに悔しいのは久しぶりだ。
「いやぁ、夕人くんも知らないことがあるんだねぇ。」
「なんだよ。バカにするなよ?」
「いやいや、バカにしてないよ。そんなもんだよね、男子ってさ。」
茜と小町はおなかを抱えて笑っている。
「・・・絶対バカにしてるだろ、それ。」
「きっとさ、パスタとスパゲティーが違うものだってことも知らないよ。」
「そうだよねぇ。」
ひそひそ話してるけど聞こえてるからな。けど、確かにその違いは知らないな。
「悪かったな。俺が知るわけないだろう?」
「夕人、怒らないでよ。」
そう言って小町が背伸びをしながら俺の頭を撫でようとして来る。無理だって、届かないって。
「あぁ、本当にバカにしてるな?小町っ」
そう言って小町に撫でられるより先に、グリグリと頭を押さえつける。
「あ、あぁ~。せっかく夕人に勝てると思ったのにっ。」
不服そうに頬を膨らませる小町。『よし、勝った。』と思った瞬間。
「代わりに私が撫でとくねぇ。」
茜に頭を撫でられた。くっそぅ。女子二人を相手にすると勝てない・・・
「はぁ・・・まぁ、料理のことは全然わからんよ。そのパスタ?それなんて全然知らないからさ。二人に任せるよ・・・俺は荷物持ちですからね・・・」
「ふふっ、夕人くんの可愛いとこが見れて良かったねぇ、小町ちゃん。」
どこが可愛いんだか。ただ無知なだけだろう。
「そだねぇ。いつもはこんな夕人、見れないもんね。」
はぁ・・・もう好きにしてくれ。肩を落としながら歩きだす俺。
「あれ?怒ってる?」
ニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる小町。いつもは可愛らしく見える顔も今は憎たらしく見える。これはちょっとくらいやり返してもいいよな?
「こーまーちー」
そう言って小町の顔を両手で挟み込む。
「うにゃっ、何すりゅのしゃ。」
両手で顔を挟み込んでいるからはっきりとしゃべれないみたいだ。これはイイ。このままほっぺたを軽くつまんでやるか。
「いたたた・・・」
「痛くねぇだろ。軽くつまんだだけなんだから。」
小町は俺の手を掴んで顔から引き離そうとしているが、そう簡単に離してやるもんか。もうちょっとやり返してやる。
「いひゃいっへ・・・」
ほっぺたを両側に引っ張ってるからさっき以上に話せなくなっている。きっと『痛いって』とか言ってるんだろう。
「こら、まいったか、小町め。」
ズビシッ。後頭部に衝撃が走る。大した衝撃ではなかったけど、不意を突かれたせいで小町の顔から手を放してしまった。
「女の子の顔をそんな風にしたらダメじゃない。」
茜にチョップされたようだ。仁王様のように俺の横に立っている。笑顔だけど・・・怖い。
「そうは言うけどさぁ。小町の奴がさぁ・・・」
「だったら私も同じじゃん。なんで小町にばっかりそんなことするの?」
茜がさらに詰めよってくる。
「なんか、小町だといじりやすいんだよなぁ。」
軽く頭を掻きながら答える。小町は自分の頬を撫でながらこっちを見ている。
「夕人、痛い。」
目がちょっとだけ怒っている。やり過ぎたか。
「悪かったよ。」
ソッポを向きながら小町に謝るが聞き入れられない。
「バカ夕人。」
そう言って先に歩いて行ってしまった。
「あぁ~あ、怒らせちゃったねぇ。あとでちゃんと謝らないとね~。」
「わかったよ。謝るよ。」
「素直でよろしいです。じゃ、行きましょうか。」
「へいへい。」
「返事は一回でいいのよ?」
「へ~い。」
スーパーまでは歩いて十五分くらいだ。着くまでには追い付けるだろう。
翔の家を出てから一時間くらいで買い物から帰ってこれた。パスタ大量とソースを何種類か。それに飲み物。これを全部持つとなると結構しんどかった。一つくらい持ってくれてもいいだろうに、あの二人は楽しそうに話しながら俺の前をどんどん歩いて先に行ってしまった。これも身から出た錆とでもいうのだろうか。はぁ・・・
「おっそ~い。」
小町が数メートル先から声をかけてくる。しょうがないだろう、重いんだから。そう言い返したいのをこらえる。
「今行くからもうちょっとゆっくり歩いてくれよ。」
「早く戻らないと、ご飯作れなくなっちゃうでしょ?ほら、急いで急いでっ。」
茜まで・・・まったく、両手に荷物持ってるんだぞ?いったい何キロあるんだよ、この買い物袋。
「わかりましたよ・・・今行きますって。」
そう返事したときにはすでに二人は歩きだしていた。チクショウ。
「やっと着いた。」
これが正直な感想だった。重かった。昼になってようやく夏らしくなってきたせいもあって汗もかなりかいてしまった。
「ほい、お疲れさま。って、夕人、スゴイ汗だな。シャワーでも入るか?」
「あぁ、そうさせてもらってもいいか?」
「いいぞ、二階にあるから行って来いよ。」
「助かるわ。あとは任せるよ。」
そう言って翔の部屋に向かう。まず着替えを持っていかないとといけないからな。着替えを多めに持ってきてよかった。
シャワーに入ってすっきりしたところで居間に向かう。まだ、料理中みたいだ。いい匂いが台所のほうから漏れ出している。
「お、夕人、すっきりしたか?」
居間で本を読んでいた翔が声をかけてきた。
「あぁ、おかげさまですっきりしたよ。ありがとな。」
「気にするな。夏だからな。」
コイツのこういうところが好きなんだよな。
「翔、一人か?」
「そだよ。台所には茜と小町と実花がいる。何か楽しそうに作ってるぞ?」
そっか。まぁ、料理は『任せといて』って言ってる茜がいたわけだし、心配ないよな。あれ?でも・・・
「環菜は?」
「あぁ、それな。なんかよくわからないわ。お前たちが買い物に行ってから部屋に戻っちゃって出てこないんだわ。」
「ふ~ん。なんだかいつもの環菜らしくないな。」
「だよなぁ。何かあったのかなぁ。」
「さてね。俺にわかるわけないだろう?」
「そりゃそうだわな。」
環菜の様子が気にならないと言ったらウソになるが、何か訳があるからここにいないんだろう。俺がどうこうすることじゃないし。ここで翔と話でもしてるか。お昼ご飯の準備ができたら降りてくるだろうし。その時の俺は、環菜のいつもと違う様子を深く考えていなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
茜と小町のコンビはこれからも見られそうな気がしますね。
なんだか気の合いそうな二人ですし。
あ、でも、朝はちょっと喧嘩してたんでしたっけ?




