セレブの証なのだろうか
朝食も終わってついにプールに入るようですが、まずは掃除です。
何事も楽しいことの前にはやらねばならないことがあるというわけですね。
朝食も済んで、時計は9時を示している。
昨日の話だと今日はプールの掃除をする予定だ。とは言ってもこの時間じゃ夏と言っても北海道はまだ涼しい。水着で掃除はシンドイということで濡れてもいい格好で掃除をすることになった。
「ねぇ、翔?掃除ってどうやってするの?」
実花ちゃんがプールの縁に立ちながら翔に質問をする。
「うん、このモップ?ブラシ?まぁ、これを使ってそこから水を出しながら・・・いや、まずは中のごみを拾ってからかな。」
どうやって掃除をしたらいいのか考え込んでいる。プールの掃除をしたことがないみたいだ。
「もしかしてだけど・・・掃除の仕方を知らないのか?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか。ちゃんと親父から聞いたさ。えーと・・・ごみを拾うんだから、ゴミ袋が必要で・・・それから・・・いや、待てよ?」
こりゃ、絶対に知らないな。というより完全に忘れてるな。
「掃除したらいいんだよね?ならとりあえず、綺麗にすることから始める?」
茜の言うことが正解だろう。とりあえず、プールにあるゴミを拾ってしまえば良さそうな気がする。ん?あそこにあるプレハブはなんだ?プールと繋がってるホースみたいな?いや、ホースよりは太いし、ビニール製には見えない。それに蛇口もついてるし・・・送水管?
「あれ?あそこの建物は何?」
環菜が建物を指さして言う。そりゃ、俺じゃなくても気が付くか。
「うーん、なんだっけ。水をプールに入れるための機械だったと思うんだけど、何かしなきゃいけなかったような気がする。」
コイツ、本気で覚えていないのか?
「じゃ、ちょっと見てくるね。」
そう言うか言わないかのうちに環菜はプレハブの建物に走っていった。
「すまん。思い出せないが、掃除が終わったらあそこの建物から水を出せばよかったような気がする。」
翔ってこんなに物忘れの激しい奴だったか?俺の記憶の中では完璧超人に近かったはずなんだが。案外抜けてるところもあるのかもしれない。
正直言うと、プール掃除は本当に大変だった。いや、実は掃除自体は簡単に終わったんだ。ゴミだってそうたくさん落ちているわけでもないし、水をかけながらブラシで軽くこすって掃除をする。ここまでは本当に簡単だったんだ。けど、プールに水を入れるための機械の動かし方がわからない。これに関してはさすがに勝手にいじるわけにもいかない。だって壊れたら大変だろう?結局、どうしたらよいのかわからない俺たちは途方に暮れていた。
「どうするのさぁ、翔。何とか思い出せないの?」
「そういうけどさぁ。初めて使うんだぜ?俺もわからないよ。」
「けどさぁ。自分からうちのプールで遊べるって言ったんじゃん。」
「ゴメン。何とかしてみるけど・・・」
こんなに弱気な翔を見たことがない。実花ちゃんが強気なのはいつものこととして、本当に何か方法がないのかな。俺も考えてはいるんだけどまったくわからない。機械を見てたってわからないんだよなぁ。誰かに聞ければいいんだけど。
「そうだっ、いい考えがあるよっ。」
「いい考え?それってなんだよ、小町。」
あまりにも目を輝かせているから、相当に良いアイディアが浮かんだに違いない。
「うん、あのね?ここを作った人に聞けばいいんじゃない?」
「なるほどね、それはいい考えよ、小町ちゃん。」
「そうだよな。そうすればよかったんだ。俺、ちょっと電話してくる。」
翔が明るい表情で家に向かってぎこちない走り方で消えていく。本当に不細工な走り方だよなぁ。歩いたほうが早いんじゃないか?
5分くらいたって翔が笑顔で戻ってきた。
「何とかなりそう?」
環菜が心配そうに声をかける。
「大丈夫。結局親父の会社に電話して、ここの動かし方がわかる人が来てくれることになったから。あと30分くらいで来るってさ。」
翔のお父さんの会社の人・・・どういう会社なのかは知らないけど、社長の息子に『プールで遊びたいんだけど、どうやって水を出せばいいのかわからないから助けてくれ。』と言われる社員さんは堪ったもんじゃないよな。本来の仕事もあるはずだし、子供の遊びに付き合ってる暇なんてないだろうに。
「それって・・・なんだかすごいね。翔が呼びつけたの?」
「まさか。親父の会社にはここの管理をしている部署があるんだよ。そこに電話しただけ。そしたら『直接伺いますのでお待ちになってください。』っていうから『よろしく』って言っただけ。」
「・・・・・」
ダメだ。ついていけない。お金持ちってこういうものなのか?俺の家だったら風呂が壊れて業者に連絡したってすぐ来てはくれないぞ?たぶん。
「はぁ~。杉田くんちのそういう感覚にはついていけないわぁ。」
「だよね。私もちょっと驚きだよ。」
茜と環菜が驚くのも当然だよなぁ。昨日から、いや、初めてコイツのうちに来た時からそのセレブっぷりには驚かされてばかりだ。生まれながらの勝ち組っていうのが身近にいると世の中の考え方が変わってしまいそうだ。
「でさ、30分くらいはやることもなくなったわけじゃない?外もだいぶ暖かくなってきたけど、みんな濡れてるから一旦、家に入ろうか?」
そう言ってみんなにタオルを渡す翔。まぁ、確かに今のこの状態じゃできることなんてないよなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
掃除は簡単に終わりました。
しかし水の張り方がわからない。
翔にしては珍しいミスと言えるでしょう。
それにしても、北海道の家にプールがあるなんてかなり珍しいのでは無いでしょうか。
使える期間も短いですしね。




