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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第8章 Just between us -ここだけの話-
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予想していなかった懺悔

実花は翔の部屋に行ってしまいました。

夕人は居間で寝るしか無いようです。

そうはいってもソファーもあるようなのであまり辛そうには見えませんね。

 ソファから体を起こし、窓辺に向かう。

 この居間からは、庭に出られるようになっているらしい。窓を開けて外の空気を部屋に入れる。

 うん、夜の空気は少し涼しくて気持ちがいい。座り込んで外に足を投げ出し、体を反らせて夜空を眺めてみる。綺麗な夜空が広がっていて、細かいことを考えている自分が馬鹿らしく思えてくる。


 ガチャッ


 誰かが居間に入ってきたみたいだ。こんな時間に誰だろう?


「あれ?夕人くん?」


 あれ?茜?なんでこんな時間に?


「そうだけど、どうしたの?」

「いや・・・実花を見なかった?トイレに行くって言ったまま戻ってこないから。」


 そうか。当然といえば当然か。『彼の部屋に行ってくるね』なんて言えるわけないもんな。


「さぁ?俺は見てないけど。」


 こうやって何事もなかったように嘘をつけるようになるなんて思ってもいなかったな。


「そうなの?ふ~ん・・・なんとなく夕人くんは知ってそうな気がするけどね。」


 鋭いなぁ。さすがは茜というところなんだろうな。


「そんな感じする?」

「うん、するね。でも、いいや。なんとなくわかった気がするから。」


 そう言って、窓辺に近付いてくる。


「そっか。なら、何も言うことはないね、俺は。」

「そだね。」


 茜も俺の隣にやってきて腰を下ろし、夜空を眺めながら言う。


「わぁっ、星、結構見えるんだねぇ。」

「そうだね。思ってたよりも見えるね。」

「うんうん。結構綺麗だね。」


 月明かりのせいで見えてる星はそう多くはないだろうけど、そのおかげで部屋には適度な明るさがあってちょうどいい。横に座っている茜をふと見ると俺と同じような姿勢をしている。


「小町と環菜は?」

「ん?二人なら、もう寝ちゃったよ。」

「そっか。小町はみんなといるときから眠たそうにしてたもんね。環菜も寝ちゃうとは思わなかったけどさ。」


 なんとなく勝手に環菜には夜が強いイメージを持っていたから意外だった。


「今日は環菜ちゃんも疲れたんだよ、きっと。」

「そうなの?」

「そうなんだよ。女の子っていろいろあるんだよ。」


 いろいろかぁ。そりゃそうだろうけど、男の子にだっていろいろありますよ?


「いろいろねぇ。そりゃそうだよね。茜は?眠くないの?」

「わたし?そうねぇ。ちょっと眠いかな。でも、うん。せっかくイイ夜空だし、もうちょっと見てたいかなぁ。」


 確かに綺麗な星空だし、寒くもない。夜空を見るにはいい日なのかもしれない。


「そだね。もう少し見てようか。」

「うん。私さ、星見るの好きなんだ。」

「そうなんだ。星って綺麗だからね。」


 俺も星は好きだけど、こんなにじっくり見たことはないかもしれない。


「ほら、うちのお姉ちゃんとかが忙しいからさ。お母さんも一緒に行っちゃうことも多いし。夜は結構一人のことが多いから、窓からよく見てるんだよね。」

「そっか・・・」


 表情にも出さないし、言葉にもしないけど、やっぱり寂しいんだろうなぁ。茜が大人っぽいところがあるのも分かる気がする。


「そう言えば、夕人くんはどこで寝るの?」

「そうだなぁ。たぶん、そこのソファーでだと思う。」

「そうだよねぇ。それしかないもんね。あ、なんならぁ、女子部屋に来る?」


 そう体育すわりをして笑いながら言う姿はどこまで本気で言ってるのか全然見えてこない。


「冗談だろ?そりゃマズいって。」

「そう?私は全然平気だよ?あの二人も大丈夫だと思うけどね。」


 おいおい、勘弁してくれよ。仮にそっちが平気でも俺は平気じゃないって。


「いやぁ、それはどうかなぁ。」

「夕人くんってマジメだよねぇ。・・・冗談だってば。」


 だよなぁ。マジメっていうかさぁ。


「茜はどこまで本気なのかわかんないからなぁ・・・」

「あっ、それってひどくない?」


 笑いながら軽く叩いてくる。その表情は『そんなに気にしてないけどね。』と言ってるようにも見える。


「ちょっと言い過ぎたかなぁ。・・・そうだ、何か飲む?」


 銭湯の帰りに買ってきた飲み物が冷蔵庫にまだあったはず。


「ん~、私は大丈夫だよ。ありがとね。」

「そう?じゃ、俺はちょっと持ってくるかなぁ。」

「うん。」


 その返事を聞いてから、その場から立ち上がって冷蔵庫に飲み物を取りに行く。

 たしか『熱血飲料』なるものが残ってたはず。冷蔵庫を開けてみると・・・あったあった。茜はいらないって言ってたけど、一応持っていこうかな、茜の分も。350ミリリットル缶を2つ手に取って居間に戻る。

 あれ?茜がいないぞ?部屋に戻ったのかな?でも、窓は空いてるし。外に出たのかな?窓辺に近づいて外を見てみるが茜の姿はない。あれ?どこ行ったんだろう。


「わっ。」

「うわぁっ。」


 いきなり後ろから声をかけられて飛び上がるほど驚く。そのはずみで持っていた飲み物を落としてしまった。


「あっ、ごめん。そんなに驚くと思わなかったよ。」

「驚くよ。いなくなったのかと思ったんだから。」


 そう言いながら落とした缶を拾う。


「ごめんね。ちょっとした悪戯だって。怒らないでよぉ。」

「ん?怒ってないよ?そう見えた?」


 怒ったようなそぶりをした覚えは全然ないんだけどなぁ。


「ううん。見えない。」


 なんだよ。面白いな、茜は。


「はは、茜って面白いなぁ。」

「そう?そんな風に言われたことあんまりないよ。」


 そう言われればそうかも。

 茜は美人で気立てもいい子なんだけど、なんだかほんの少しだけクラスで浮いてしまってるとこもあるような気がする。なんでなんだろう?


「茜ってさ。・・・いや、いいや。なんでもないよ。」

「なにそれ?言いかけてやめるなんて男らしくないよ?」


 そう言って窓を閉める茜。そして、そのままソファに歩いていって腰を下ろす。


「そうか。・・・そうだね。」

「そうだよ。もしかして、なんか悪いこと言おうとした?」

「いやいや、そうじゃないよ。でも、ちょっと微妙なことだったかも。」


 飲み物をソファーテーブルに置いて自分も茜の向かい側のソファに腰を下ろす。


「いいよ。今は二人しかいないしさ。いろんなこと聞いてくれても。」


 そう言ってソファの上で体育座りをする。そう言えは茜の格好ってパジャマなのかな?少しゆったり目のパンツに半袖のシャツだ。昼間の服に比べたら露出度は低いけど、これはこれで色気を感じる。


「いや、そんなに改まって聞くようなことじゃないかもしれないけどさ。」

「うん。」


 俺の顔をまっすぐに見てくる。『あ、飲み物ありがとね。』といって一口飲む茜。『おう。』と言って俺も一口飲む。


「茜って俺たち以外の奴らとあんまり話してない気がするから・・・ちょっと心配だなって。」


 茜がちょっと困ったような表情を浮かべて、それから微笑みながら言う。


「そっかぁ。やっぱり分かっちゃうかぁ。うん、わたしってさ、あんまり友達いないんだ。」

「そうなの?そりゃ、不思議だよなぁ。こんなにいいヤツなのに。みんな見る目ないんだろうなぁ。」


 俺も友達は多い方じゃないから、人のことを言えた義理じゃないんだけど。


「昔色々あったんだよね。そのせいで今もちょっと・・・っていうのかな。」

「ふ~~ん。くだらないねぇ。昔は昔、今は今だと思うんだけどね。俺は今の茜を知ってるから、不思議でたまんないよ。」


 けれど確かに、茜から小学校時代の思い出話を聞いたことはないかも。


「一年生の時は本当に友達いなかったよ?学校に来るのも嫌になるくらいだった。」


 そうだったんだ。過去に何があったの知らないけど、学校に来るのが嫌になるくらいっていうのは相当のことがあったんだろうな。


「そうなんだね。俺も、違う意味で学校来るのが嫌な時期があったけどね。」

「そっかぁ。じゃ、私たちって似てるとこあるのかもね。」

「もしかしたら、そういうとこもあるのかもしれないね。」


 そう言って二人で笑う。昔の茜がどうだったのかなんて知らない。でも、それはそれでいいじゃないか。


「二年生の始業式の日、声かけてくれてありがとね。嬉しかったよ。」

「ん?そうだっけ?」

「そうだよ。ほら、初めは隣だったでしょ?」


 そうだ。確かに隣に茜がいた。


「あぁ、思い出してきた。たしかさ、全部教科書持ってきてたよね。」

「あ、それは思い出さなくてもよかったのにぃ~。」


 そう言いながら立ち上がって叩く真似をする。


「なんだか懐かしいね。まだ三か月くらいしかたってないのにね。」

「そうだね。あっという間だったね。」


 一学期はいろいろあったから大変だったけど、終わってしまえばあっという間だったような気がするから不思議だ。


「・・・昔のこと聞きたい?」


 茜が意を決したように聞いてくる。いつもはしっかりと目を見ながら話してくる茜にしては珍しくこちらを見ていない。


「ん~、そうだなぁ。茜が話して楽になるんだったら。聞かせてもらうけど?そうじゃないなら。聞かない。」


 なんていうのが正解なのかな。正直分からないや。


「はぁ~。夕人くんってちょっとズルイよね。そう言われたら、話しにくい。」


 顔を膝にくっつけて体育座りのようにして俯く。どうやら俺の対応は間違いだったみたいだ。


「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど。・・・聞いてもいいの?」


 俺も覚悟を決める。何を聞いても大丈夫。


「・・・聞いて欲しいんだ。」


 そういう茜は、決意をしたような表情に見える。


「うん。」

「わたし、昔は結構悪い子だったんだ。万引きとかもしたことあるし、いじめみたいなこともしてたんだ。それで、六年生の時に小学校を転校したんだ。でも、反省してもうそういうのはやめたの。でも、そういう話ってどこからか聞こえてくるみたいでね。友達できなかったんだ。」


 過去のことを話す茜はいつもの感じと違ってすごく落ち込んでいる様子だった。


「そうなんだね。」

「夕人くんはいじめとか大っ嫌いでしょ?軽蔑した?」

「うん、いじめはキライだよ。」

「そうだよね・・・」


 俯いたまま。暗い声を出す。


「でも、もう反省したんだろ?もうそういうことしてないでしょ?」

「うん、絶対しない。」


 茜はさっきとはうって変わって強い口調で言った。


「なら、いい。」


 俺も少し語気を強めて言った。茜はパッと顔を上げて俺のほうを見る。


「いいのかなぁ・・・」

「反省して、謝ったりもしたんだろ?反省しても許されないなんておかしい。それじゃ、生きていけないじゃん。」

「・・・うん。ありがと。」

「俺は別に茜を庇ってるわけじゃないよ。ただ、そう思うから言ってる。俺だって、良くないことをしてきたからさ。ケンカもしたし。」

「でも、夕人くんのケンカの理由ってなんとなく誰かのためっていう気がする。」

「さぁ?そんなこともないよ。結構いろいろやったもんだよ。」


 ニヤッと笑顔を浮かべて茜を見る。


「だからさ。もういいって。俺たちはそんなこと気にしてない。さっきも言ったけど、昔は昔、今は今だって。俺は今の茜を知ってる。少しお姉さん的なとこがあって優しい女の子だって。もっと自信持ったらいいよ。」

「うん。ありがと。」


 笑顔で俺を見ている。


「あ、でも。もうちょっと勉強は頑張ったほうがいいかも。」

「あぁ~、ヒドイっ。夕人くんってばそういうことをこういうタイミングで言うの?」


 そう言いながら小走りで俺のところにやって来て軽く叩く。


「だってさぁ。茜にも夢とかあるんだろ?頑張らなきゃ。」

「そうだね。もうちょっと頑張ってみるかな。」


 そう言ってストンと隣に座る。


「うん、一緒に頑張ろっか。」


 そう言って茜の頭を軽く撫でる。肩に茜の頭の重さを感じる。同時にシャンプーのいい匂いがしてきた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


茜の口から出てきた思わぬ言葉。

人にはそれぞれ隠しておきたいような過去もある。

そういうことだと思います。

彼女のやったことは決して褒められるようなことではありません。

むしろ、罰を受けるべきことです。

彼女の行為によって、心に深い傷を負った子もいることでしょう。

ですが、その行為を反省し、謝罪し、贖罪も行ったのでしょう。

であるならば、許されるべきです。彼女も一生そのことを心に留めて行きていくことになるのですから。


この件に関しては色々と思うところがある方もいると思います。


ですが、許されない世界というのは恐ろしいと思うのです。

でも、やっぱり、そうは簡単にいかないことだとは思います。

どうあっても軋轢は残ってしまう。私もそう思っています。

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