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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第8章 Just between us -ここだけの話-
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言ってないだけで隠しているわけじゃない

12時半までの時間つぶしが必要になった夕人。

でも、翔と一緒の時間であればあっと言う間のような気がしますけど。


とにかく、今夜の夕人の使命は実花の期待に応えること。

そういうことなのでしょうね。

 俺は杉田の部屋に泊まることになってるけど、部屋に入ったのは初めてだ。天才様の部屋を見るチャンスだから楽しみだ。


「な、なんだぁ?この部屋は?」


 ヤツの部屋は広い。それにしても、なんだこの広さは。俺んちの居間くらいあるんじゃないのか?壁には本棚がたくさんあり、たくさんの本が収められている。テレビもある。ベッドもある。よく見ると小さい冷蔵庫まである。


「適当なところに座ってくれよ。」


 そういってヤツは机のそばにあるドラマで見たような立派な椅子に座る。


「お前って、本当にすげぇのな。」

「いや、俺は何もすごくない。正直、親父がすごいんだ。」


 杉田はあっさりと言ってのけた。


「そりゃそうかも知れないけど。」

「まぁ、そんなことよりさ。俺はお前と久しぶりに本音で話せたから嬉しかったよ。ということで、銭湯での話の続きだ。」


 はぁ?まだ続けるのかよ。


「まぁ、なんだ?せっかくだしさ。いろいろ聞きたいんだよ。お前の本音をさ。」


 杉田が聞きたいことっていうのは要約するとこうだ。

 東山さんのことが吹っ切れてなくて好きな人ができないのか?

 一年生の時に環菜のことをどう思ってたのか?

 小町のことをどう思っているのか?

 あとは、やっぱり北田さんのことだ。そんなに聞きたいのか?もういいじゃないか、昔のことは。


「でもさ、きっとこれからお前が誰かを好きになるときに大事なことになると思うぞ?俺はな。・・なんて偉そうなことを言ってるけど、実は俺が聞きたいだけだ。」


 そう笑いながら言われると俺も、言わないわけにはいかないじゃないか。とは言え、今夜は実花ちゃんに頼まれたこともあるし、適当なところで話は切らないとな。


「ん、わかったよ。それじゃ、その中の一個だけ。今日は答えるよ。他はまた今度な。」

「えぇ、マジかよ。全部聞かせろよ。」

「二人で話できるのは今日が最後じゃないだろう?」

「・・わかったよ。でも一つかぁ。東山さんのことをいつまでも引きずり続けるようなお前じゃないだろうし、今さら環菜のことを聞いても仕方がないか?でもなぁ、小町のことっていうのもなぁ。」


 杉田にしては珍しく悩んでるみたいだな。興味本位で聞きたいっていうのもあるんだろうけど、なんだかんだで俺のことを考えてくれる奴だからな。答えられることには答えたっていいんだけどな。


「わかったよ。俺から話すよ。何か聞きたいことがあるなら途中で聞いてくれよ。」

「そうだな。そうしてもらえるとありがたいわ。」


 これで結局は全部話さなきゃいけないな。思わず笑みが浮かんでしまう。


「何笑ってるんだよ?」

「いや?俺、笑ってたか?なんとなく、頭の整理をするにはいいのかもって思ったんだよ。」

「整理ねぇ。お前ってさ、結構モテるからいろいろ大変だろう?」


 モテる?俺が?そんなこと思ったこともないけどな。


「それは知らない。俺は今はあんまり恋愛とかに興味ないからな。」

「それは嘘だな。絶対に嘘だ。」


 杉田がきっぱりと否定する。


「なんでだよ。嘘はついてないぞ?」


 本心で話しているのに頭ごなしに否定することはないんじゃないか?


「い~や、ウソだね。お前は恋愛に興味がないんじゃないよ。どうしたらいいのかわからないんだよ。」


 そう言われても困る。思い当たる節がない。


「そんなことはないと思うけど?」

「なあ、去年はさ、いろいろあっただろう。なんだかんだ言ってお前は二回フラれたんだからさ。でも、東山さんはもういない。それに詳しくは知らないけど、二人がおかしな関係じゃなかったのも知ってる。それは砂川さんも言ってたしな。」


 懐かしい名前が出てきたもんだ。砂川さんというのは東山さんの大親友だ。俺もいろいろとあの後助けてもらった。東山さんの住所も教えてもらったし。実はたまに手紙のやり取りなんかもしている。お互いに近況報告なんかをしているだけの手紙だけど。


「おかしな関係っていうのはどういうことだよ。今も俺たちはいい友達だぞ?」

「知ってるよ。文通してるんだろ?」

「‼」


 まさか、杉田にそんなことまで知られてるなんて。砂川さんから聞いたんだろうか。


「そう、驚くこともないだろう?手紙くらい別にどうってことじゃないだろう。」

「そうだけど・・・知られてるとは思わなかったからさ。」

「そりゃ、知ってるさ。お前のカバンの中に手紙入ってるもんな。前に落ちてたからカバンの中に戻しておいたことあるしさ。」


 不覚だ。まさか、学校で落としていたことがあったなんて。まさか中身を読んだなんてことはないよな?


「まさかとは思うけど、読んではいないよな?」

「おいおい、いくらなんでもそれはないって。お前の断りもなく読むわけないだろう?それとも、読んでほしかったのか?」


 読んでほしいわけあるかっ。


「んなわけないだろう。」

「ということでさ。内容は知らないけど文通してるような二人が悪い関係なわけがないわけでさ。どういう話をしてるか知らないけど、既に一つ乗り越えたって感じがするわけよ。」


 むむっ、相変わらず鋭い男だ。確かに、頻繁にやり取りをしてるわけじゃないけど、あの頃の辛かった俺はいないわけだし、彼女の文面からも明るさが伝わってくる。俺にとってはそれだけで嬉しかったりする。だって、彼女は一人で宇都宮に行ったわけだし。あ、もちろん家族はいるけど、今までの友達はみんな札幌にいるわけだから、俺なんかよりも大変な環境なわけだ。まぁ、乗り越えたと言えば乗り越えたってことだろうなぁ。


「そうだなぁ。失恋を引きずっているっていうのはないな。」

「だよな。それに関しては俺も心配してない。でも不思議なのは環菜だよなぁ。普通だったらあんな感じになったら友達でいるっていうのもしんどいと思うんだよな。」

「あんな感じって?」


 どういうことだ?もしかして、何か知ってるんだろうか。


「いやいや、俺はよく知らないけどさ。一年の一学期のことさ。相思相愛だと思ったよ。環菜とお前はさ。いや、多分そうだったんだろう。でも、何かがうまくいかなくて付き合うことにはならなかったわけだろう?んで、その後に東山さんのことがあって・・・。うん、ここからは俺の推測も入るけど聞いてくれるか?」


 杉田の推測というのは俺の推測なんかよりもずっと正しいものだろうし、俺も聞きたいと思う。はっきり言って俺は環菜のことを深く考えないようにしている。よくわからないんだ、環菜のことは。


「うん、聞かせてくれよ。」

「わかった。でも、本人から聞いたりしているわけじゃないし、正しいのかなんてわからない。それだけは先に言っておくな。」


 念を押してくる杉田に対して俺は頷くことしかできない。


「あのな?たぶん、環菜はお前のことが今でも気になってる。そうでもなかったら、今でも友達として付き合っていられるわけがない。それに、椎名先輩の時も一番いろいろ考えていたと思う。環菜が夕人の状況を教えてくれたわけだしな。それに北田さんの時もさ、表立って何かをすることはなかったけど、いつも様子をうかがってたことは確かだよ。俺にもちょこちょこ状況を聞きに来てたしな。」

「そうなんか。」

「そうだよ。環菜はもしかしたら、あの時からずっと悩んでいるのかもしれない。どうして付き合わなかったのかってことを。でも、今さら元には戻れないことを知ってるんだろう。だから、友達でいるんだろうな。」


 なんで、そこまでわかるんだ?杉田のことが少しだけ怖い。


「どうしてそう思うんだよ。」

「そりゃ、今まで確信があったわけじゃなかったけどさ。今日の環菜の様子見たらわかったよ。」


 今日の環菜の様子?確かに時折不思議な感じはあったけど、そこまで色々と分かるもんなのか?


「どのあたりがそう思う原因なんだよ。」

「はぁ・・・お前ってさ、昔から鈍いよな。自分に対して向けられている感情に関しても、自分の感情に対してもさ。」

「・・・悪かったな。苦手なんだよ、そういう人付き合いとかがさ。」

「そうなんだろうな。でも、苦手かも知れないけど下手じゃない。もっと、余裕をもって周りを見てみろよ。いろいろ分かると思うぞ?」


 同級生から言われてる言葉には聞こえない。まるで、年上の兄貴に諭されている気分だ。


「それは、翔には実花ちゃんがいるから余裕があるんだよ。俺にはいないからな。そういう余裕はないさ。」

「まぁ、それは認める。俺には実花がいるからな。正直、他の女子はその他大勢って感じだ。でも、だからこそわかるんだよ。今日の環菜の違和感がさ。」


 そうなんだよ。コイツの余裕は全部そこから端を発しているんだ。俺にとって羨ましいことだよ。いつかは俺もそんな余裕を持てるんだろうか。


「・・・で、その違和感って?」

「あぁ、そうだな。ちょっと話が逸れた。うん、そうだな。夕人さ、小町と一緒にうちに来たよな。その時の環菜の顔を見たか?」

「さぁ、覚えてない。見たかもしれないけど。」


 環菜の顔か。見たような気もするけど、はっきりとは覚えていない。そもそも、今日はあんまり話していないような気がする。


「すごくショックを受けたような顔してたぞ?きっと小町となんかあったと思ったんだろうなぁ。んで、なんとなく負けたとでも思ったのかもな。」

「負けたって・・・小町とはそういう関係でもなんでもないし・・・」


 何で負けたっていう発想になるのかがそもそも分からない。


「まぁなぁ。でも、俺も思ったぞ?小町といい感じなのかってさ。でも、夕人を見てるとそうじゃないんだろうなって思えた。ほら、お前ってさ、そういうの結構隠せないというか、隠さないというか。とにかく、俺にはわかるんだよ。」

「そうなのか?でも、俺には隠してることなんてないけどな。」


 言ってないだけで隠しているわけじゃない。心の中でそう付け加えた。


「そうだと思うわ。隠す必要なんかないもんな。」


 そう言われると少しだけ釈然としないところがあるけど、それは置いておこう。と、そんなことよりも、約束の時間はまだかな?そう思って部屋の時計に目を向けるとちょうど12時半だ。実花ちゃんと入れ替わる時間だな。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ。」

「あぁ、いっトイレ・・・・・。」

「「・・・・・」」


 無言で部屋を出る。

 翔も無言だ。

 あんな親父ギャグをかましてくるなんて、どうかしてるよ、翔のヤツ。けど、そういうとこも含めてあいつは面白い奴だよなぁ。

 そんなことを考えながら、一階にある居間に向かう。きっと実花ちゃんが待っているはずだ。

 ちょっと待てよ?実花ちゃんが翔の部屋に行ったら、俺はどこで寝たらいいんだ?居間か?まぁ、夏だから寒いってことはないだろうし、ソファもあったからとりあえず寝るには困らないよな。

 なんとかなるだろう・・・


 居間に着いたが、明かりはついていない。カーテンが明けられたままだから、月明かりが居間に差し込んでいてほんのりと明るい。その薄明かりの中、ソファーに実花ちゃんが一人で座っている。


「お待たせ。」

「ううん、待ってないよ。あたしも今来たところだから。」

「そっか、じゃ、あとは好きなようにしてくれよ。俺はここで寝るから。」

「うん、夕人くん、ありがとね。」

「いいって。それより、女の子たちはみんな寝たの?」

「うん、小町ちゃんは寝たよ。環菜も眠そうにしてたからもう寝たんじゃないかな。茜は分かんないけど。」

「そっか。わかったよ。って、わかったからってどうってことでもないんだけどね。」


 けど、これできっと、朝までここでゆっくり寝られるだろうな。


「じゃ、行ってくるね。」


 そう言って手を振りながら居間から出ていく。俺も手を振り返して彼女を見送る。誰もいなくなった居間でフゥっと息を吐きソファに体を預ける。一気に疲労感が出てくるような気がする。今日はいろいろなことがあったからなぁ。いろいろとよく考えてみないとな。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


翔と話をしている夕人は、いつもよりも素直な感じがしますね。

それも、心を許しているからでしょうか。それとも、翔が上手だからなのか。

どちらにしても、二人が良い関係なのは間違い無いということです。

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