強制力とでもいうのか
思わぬ出会いから仲が良くなることってありますよね。
でも、当然、「思わぬ出会い」なんて早々起こるわけじゃない。
何がきっかけかわからない。
だからこそ、「思わぬ出会い」なんですよね。
二年生になって数日。例の如くにクラス委員選抜の時期がやってきました。
去年はいろいろあって学級会長なんて大任をやらされた。それも一年間。正直、今年は会長はやりたくないなぁ。結構しんどいし。あ、もちろん、楽しいこともあるけどね。だから今年は、ぜひ、杉田にやってもらいたいと思ってる。あいつは成績に関していえば、非の打ち所がない奴だから反対者は出ないだろう。運動神経はちょっとアレなんだけどな。
「では、今年もクラス委員の選抜をしましょう。」
二年六組の担任、竹原先生だ。う~ん、社会科担当のこの先生は、頭頂部のアレが寂しい感じだ。まだ若いのに・・・。確か三十代半ばだったはず。噂では、うちの学校が生粋のヤンキー校だった時代に赴任してきて、髪の毛を毟り取られたとか。けど、それが真実なら、この先生は何年この学校にいるんだろう・・・。
まぁ、それは置いといて、いかに杉田に会長をやらせるかが問題だ。栗林さんがいれば問題なくヤツをプッシュできたのだけど、いないものは仕方がない。んで、俺は何にしようか?いまさら風紀委員もないだろうし。ふ~む。
おっ、いろいろと考えてる間に立候補者が出たみたいだな。なになに?
学級会長 足草
おい。これはまずいだろう?誰か、なんとかしろよ。そう思いながら教室を見渡してみると・・・ふーむ、みな、我、関せずって感じなのか?しかし、足草はまずい。担任もそう言いたいようだが立場上言えるもんじゃないだろう。マズいぞ。立候補者が既に立ってるから、推薦候補を募るとは考えにくい。どうする?
再度、教室を見渡すと、杉田と目が合った。
顎を使って『お前がやれ。』の合図を送る。
杉田は人差し指を自分の顔に向けて『俺か?』なんて顔している。
さらに、その指をそのままこちらに向けて、『お前やれよ。』という顔をする。
俺は、左右の人差し指でバツ印を作りやりたくない旨を示す。
杉田は、とぼけたような表情でこちらを見てくる。
おい、よく考えろよ?あいつが会長になったらどうする?去年のオリエンテーリングでもやらかしただろ?ついでに、『忘れ物キング』だぞ?そんな奴にやらせられるかよ。
「竹中くん、何やってるの?」
隣の小暮さんに問われる。確かに、傍目から見たら何やってるんだって感じだ。
「いや、足草が会長をやるのはマズい。非常にマズいんだよ。」
「そうなの?でも、他に立候補がいなんじゃ仕方なくない?っていうか、竹中くんがやればいいじゃん。」
「いや、俺はもう、十分やったよ。去年一年間やったしさ。」
「あら、それなら会長の仕事が良く分かってるってことじゃないの。やればいいんじゃない?」
マズい。これもマズい。おかしな展開になってきている。しかし、正論を突き付けられると反論の余地が・・・。
「俺は、他の委員会をやってみようかなぁと思ってるんだよ。」
「他のって?」
う、いや、それは口から出まかせだから・・・。
「えと、なんだろう・・・決めてない・・・かな。」
「そっかぁ、じゃ、竹中くん立候補しよう。はーい、横で竹中くんが会長やるって言ってます。」
おおおおお。なんてことを・・・。
「おや?竹中くんも立候補しますか?」
竹原先生が、まるで懇願するかのような表情で見ている。杉田、何とかしろよ。お前のせいだぞ?杉田のほうを見ると、両手を両頬に強く押し付けてアッチョンブリケな顔をしてる。くそぉ・・・杉田と小暮さんめ・・・。
「・・・はい、立候補します・・・。」
なんとなく拍手が起こる。勘弁してくれよ・・・。
「では、会長の立候補者は、足草くんと竹中くんでいいですか?」
「異議ナシっ」
そう叫んだのは杉田だ。あんにゃろめ。あぁ、二年生は緩く生きていこうと思ってたのに・・・。
「では、決を採りましょう。まず・・・足草くんがいいと思う人、手を挙げてください。」
上がった手は一本。足草・・・お前だけじゃねぇかよ。
「では次に、竹中くんがいいと思う人。」
「イエ~~~スッ」
黙れ、杉田。お前にやらせたかったのに。杉田の声につられるかのようにバラバラと手が上がる。
「では、会長は竹中くんにお願いします。」
「・・・はい、よろしくお願いします。」
パラパラと拍手が起こる。けど、正直、足草に負けなくてよかった・・・。
「いいぞぉ、竹中っ」
くっそ。杉田のヤツめ。こうなったら意地でもあいつに会長をやらせてやるからな。
「では、続けて副会長の立候補はいますか?会長は男子の竹中くんに決まりましたので、女子にお願いします。」
「はい、私やります。」
お?誰だ・・・?
「玉置さんですね?他に立候補はいますか?」
え?これって・・・これじゃ、まるで去年のデジャヴをみてるようじゃないかよ?
「いませんか?では、副会長は玉置さんでお願いします。」
大きな拍手が起こる。おい、俺の時とはずいぶん大きな差があるじゃないか。まぁ、美人で才女の玉置さんだからな。仕方がないか。一年の学年末試験での順位は六位だっけ?俺が三位で杉田が一位。足草は・・・言うまでもない。
「では、ここからは二人に任せますね。」
そう言って、先生は教壇をおりた。入れ替わりに俺と玉置さんが教壇に上がる。
「また一緒にできるね。ガンバロ?」
小声で俺に呟いた。
「あぁ、そうだね。やるしかないのかぁ。」
俺も小声で返した。
「あれ?私とじゃイヤだった?」
「そうじゃないけどさ・・・今年はゆっくりしたかったんだよ・・・。」
「いいじゃない。竹中くんは会長にピッタリだって。・・・東山さんもそう言ってたでしょ?」
「ちょ、なんでそこで東山さんが・・・」
「はい、ちゃんと進めてくださいね?お二人さん。」
先生の一言で我に返る。
「すみません。」
よし、やるか。気合を入れなおすために深呼吸する。
「では、続けて他の委員についても立候補を受けつけたいと思います。誰か立候補する人はいませんか?」
俺が議事進行を務めてる間に、玉置さんは板書をしていく。もうすっかり板についた感じだ。おかげで進行に不安は何も感じない。何といってもこれで三期連続この組み合わせなんだから。
予想以上に学級委員の立候補者がいた。これなら淡々と決まっていきそうだな。えっと、今のところの立候補者は、どうなってるんだ?
風紀委員 杉田
文化委員 小暮
美化委員
体育委員 青葉
保健委員
図書委員
放送委員 北田・足草
杉田め。なんで風紀委員なんかに立候補してるんだよ。文化委員は小暮さんで、体育委員は青葉さんか。あとは、美化委員と保健委員だな。保健委員かぁ。東山さんがいたら立候補してたんだろうけどな。いやいや、何考えてるんだ、俺は。それより、進めていかないとな。頭を軽く振って考えを切り替える。
「他に立候補はいませんか?」
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「いやぁ、やっぱり会長は竹中だよなぁ。」
委員選抜が終わった後、杉田が俺のところに寄ってきてこう言い放った。
「俺はお前にやらせたかったんだけどなぁ。学年一位の杉田様に。」
「やめてくれって、俺はガラじゃないからさ。」
「い~~や、そんなことはないぞ?お前はやる時はやる奴だからな。」
「勘弁してくれって。学級会長をやる以外の言うことは聞くからさ。」
ニヤリ。俺の表情が変わる。
「よし、その言葉に二言はないな?」
「竹中、貴様も言うようになったな。」
おい、それは誰の真似だ?また赤い彗星か?
「言ったな?よし。じゃぁ、後期の生徒会選挙で生徒会長に立候補しろ。それでチャラだ。」
「ええぃ、冗談ではないっ」
もう、本当に赤い彗星ゴッコはやめろっての。でも、まぁ、ここはヤツに乗ってやるか。
「大衆は常に英雄を求めているものさ。By白い悪魔」
「ならば、我、杉田が命ずるっ。竹中よ、貴様は副会長として、我を支えよっ。」
変なポーズを決めつつ、俺の目をしっかり見て言ってくる。なんだ?奴の左目に妙な説得力があるぞ?どういうことだ?
「・・・わかったよ。」
思わず受け入れてしまった。思わぬ強制力だ。
「ふっ。」
なんだ?結局、あいつの思うがままかよ。チクショウ。あっと、忘れるところだった。これだけは聞いておきたいんだった。
「で、なんで風紀委員なんだよ?」
「風紀を整えるっての?俺にピッタリじゃないか。そう思わないか?」
「いや、全然。」
実際は適任のような気もしないでもないが、これを認めるのは少し癪だった
「なんだよそれ。なんかひどくないか?」
「な~~に、やってんの?」
ん?声が聞こえたような?あたりを見渡す。
「だから、それはやめろって言ってるじゃんよ。」
青葉さんから軽いケリをお見舞いされる。
「いやいや、ある意味、これは礼儀かな、と。」
「はぁ、大体竹中さぁ、何やってるの?杉田みたいなバカなことはやめなって。」
「ふっ、坊やだからさ。」
すぎた~。その辺にしとかないと青葉さんがキレっぞ?
「でもさ、楽しそうだよね?」
楽しそうに見えてたならいいさ、小暮さん。
「けど、な~んか、杉田っていっつもなんかの真似してるんだろ?」
あぁ、青葉さんの言う通りだ。まぁ、一種の病気じゃね?アニメ、というかテレビの見過ぎなんだよ、あいつは。
「まぁ、中二といえば思春期真っ盛りだからな。いろいろあるって。そうだな・・・中二病とでも名付けるか?」
まったく・・・。自分で言ってりゃ世話ないよ・・・。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
竹中は三期連続で学級会長をやることになりました。
これが政治家だったら凄いことになってます。
ちなみに玉置さんも三期連続です。
ん〜、なんとなく、何かを感じますけど・・・気のせいですかね。
それにしても、板につくほど手慣れてるって、凄い息の合い方です。