万能という中途半端感=勇者
さてさて、いい加減に勉強会を始めないとただのお泊まり会になってしまいそうです。
とはいえ、それはそれでいい思い出になるんでしょうけどね。
結局、夕方までの勉強会は実花ちゃんと茜が俺たちの宿題をコピーする会になっていた。
俺たちは何していたのかというと、彼女たちがコピーしていない部分の宿題を進めるという感じだ。なんだか宿題をやっていて楽しいと感じたのは初めてだったのかもしれない。おかげで俺の宿題は八割くらいは終わった。
「夕人よ。お前、随分と順調だなぁ。」
いまいちやる気の出ない杉田がシャープペンシルを鼻と上唇に挟みながら言う。
「暇な時にちょこちょこ片付けてたからな。さっさと終わらせとかないとお盆は親戚の家に行くからさ。」
「その優秀な脳を分けてもらえませんでしょうか。」
茜にそう言われても単純に喜べない。
何といっても俺よりも杉田のほうが圧倒的に優秀なんだよ。あいつはやる気さえ出せばここにいる誰よりも、いやもしかしたら世界で通用するくらいの器かも知れないんだから。
「翔の脳だと運動できなくなるからイヤだよね。」
「おおっと、実花よ。それを言うかな?俺が最も気にしていることなのに。」
「だってそうじゃん。翔の体育の成績なんてテストがあるからかろうじて3なんじゃないの?」
そうか。杉田の体育の成績は3だったのか。俺の勝ちだが上には上がいるからな。
「えぇ、えぇ、どうせ俺は運動音痴ですよ。そういうところは夕人には敵いませんなぁ。」
「は?俺?運動全般は小町の十八番だろう?俺はそんなにできないって。」
そう。小町の運動神経は素晴らしい。伊達に体操選手ではないという感じだ。
「いやいや、夕人の万能なところはちょっとヤバいよ?」
万能?俺が?そんな風に考えたことなかったけどな。小町にはそんな風に見えてたのか?
「俺は万能じゃないって。それなりにできるってだけで。」
「そっか。そうだよっ。やっとわかった。勇者だよね。ドラクエの。」
ドラクエ?なんでこんな話が出てくるんだ?しかも茜から。
「どらくえ?勇者?どういうこと?」
やっぱり環菜はゲームとかやらないのかな。
「いやぁ、実は私ね、ドラクエはⅢだけやったんだよね、で、勇者って何でもできるのよ。でも、力は戦士のほうが上で、魔法も魔法使いには敵わないのよ。なんでもできるけど、中途半端な感じなの。」
「そっか、俺は中途半端な感じか。」
まぁ、そうかもなぁ。何かのスペシャリストって感じはないもんな。
「いやいや、最後まで聞いてよ、夕人くん。勇者っていうのは何でもできることが重要なんじゃなくて、存在そのものが凄いんだよ。魔王に立ち向かうみんなのヒーローなんだよ。代わりはいないのよね。少なくともここにいる私たちは、夕人くんのことをそんな感じに思ってるよ。」
「いや、俺はそんなやつじゃないよ。」
俺、なんか褒められてる?でも俺なんかヒーローなんてガラじゃない。
「いや、そうだよ。夕人はそういうやつだよ。」
杉田までそういうことを言い出すのか?
「なんだよ、それ。もうやめようぜ?そんな話は。」
なんだか、こんな話は気持ち悪いな。
「・・・そっか。勇者はヒーローか。」
環菜が呟いた一言にどんな意味があったんだろう。
「ま、夕人もこの話はイヤみたいだし、俺もこれ以上ダメな部分をさらされてもたまらんので、終了しましょう。んで、時間も四時半なんで、そろそろ銭湯組は準備していきませんかね?」
ありがとう、杉田。助け船を出してくれて。
「そだね。準備しようっか、実花ちゃん。」
小町が実花ちゃんに声をかけて荷物を取りに行く。
「結局、銭湯に行くのは誰?夕人も行くの?」
「おう、俺はそのつもりだったけど。」
銭湯に行くのは初めてだから行ってみたいし、環菜がおかしい気がする。ここにいるのもどうかなって思うし。
「じゃ、行くのは俺と竹中に、実花と小町。で、茜と環菜はご飯の準備をしてくれるってことでいいのかな?」
杉田がきちっと仕切ってくれるから安心だなぁ。
「うんうん、私たちはカレー作ってるよ。で、シャワーとか借りていいんだよね?」
「もちろん。好きに使ってくれよ。あ、鍵のかかった部屋があるんだけど、そこは親父たちの部屋だから。よろしくね。で、もし出かけるなら合鍵も渡しておくけど。」
「う~ん、出かけはしないと思うけど、万が一の時のために借りておこうかな。」
杉田がテキパキと進めていく。俺にもこういう感じで進めていける力が欲しいな。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
やっと勉強会になったみたいですが、あっという間に終了です。
二時集合して四時半には終了。
実質的には一時間半くらいなんでしょうか、勉強会は。
しかも翔の提案から考えると、これ以降に勉強会は組み込まれていません。
せっかくの夏休み。
遊ばにゃ損って感じなんでしょうか。
その気持ち、よくわかります。




