黒の下着は魅力的
北田さんの見せたいものってなんでしょう。
昔の写真とか?
それとも人形?
その答えは読んでいただければわかります。
ん?声が聞こえる。北田さんが呼んでるのか?
「ごめ~ん、部屋まで来てくれる?」
へいへい。なんだよ。持ってきてくれるのかと思ったら、部屋にあるから見に来てくれってことだったのか。それならそう言ってくれればいいのに。手持無沙汰になっていた手に持っていたコップをテーブルの上に置いて、北田さんの部屋があると思われる玄関のほうに向かう。あれ?部屋が二つあるぞ?どっちだよ。
「どっちの部屋?」
「あ、ごめん。ポスター貼ってないドアの方。」
「はいよ。」
ということはこっちか。一応、女の子の部屋だからな。入るときにはノックがいるんだろうなぁ。
コンコンッ
「入るよ。」
「どうぞ。」
そう中から声が聞こえた。扉を開けて中に入ろうとする。その時に異変に気が付いた。部屋が暗い。カーテンが引かれている。昼間なのに。それにさっき探し物に行ったはずじゃなかったっけ?
「なんでこんなに暗いんだよ。」
「ドアを閉めてくれる?」
北田さんは俺の質問には答えずにそう言った。
「なんだよ。わかったよ。閉めればいいんだろ?」
暗い部屋だ。カーテンを閉めただけでこんなに暗くなるものなのか?それとも遮光カーテンってこういう感じなのか?まったく見えないわけじゃない。でも、はっきり見えるようになるにはもう少し時間がかかるだろう。
「なぁ、なんだよ。暗いから明るくしてくれよ。」
「ダメ。」
驚いた。北田さんの声が間近から聞こえたのだから。それも耳元で。
「は?どういう・・。」
俺が言い終わらないうちに唇に柔らかい何かが触れる。そして、そのまま何かの圧力に押されるように倒れそうになった。マズイ、転ぶ。そう思った。
まるで押し倒されたように仰向けに倒れこんだ。けれど不思議と痛みはない。倒れこんだ先が適度に柔らかい。俺の背中がほんの少しだけ跳ねたような気がした。もしかして、これはベッドか?
相変わらず俺の体には何かの重みがかかっている。一体なんだ?この暖かく柔らかいものは。そして、この唇に触れる感触は?口に何かが覆いかぶさっているみたいで少し苦しい。そして、すごく近くから息遣いが聞こえてくる。俺のすぐ目の前からだ。それに、なんだか顔に息が当たっているような・・・?
目が少し慣れてきた。俺の目の前に見えるのは北田さんの顔だ。
は?もしかして、俺の上に持って圧力って北田さん自身か?
そう思って手をその重みに持っていく。
とても柔らかい感触。
ちょうど手のひらにマッチする布?
これって、もしかして。
あれか?
「んんっ。」
なんだ?変な艶っぽい声が。マズい、手をよけなきゃ。それに、今この唇にある感触って、もしかしてキスされたのか?
「おいっ。」
俺は両腕を使って北田さんの体だと思われるものを横にどける。
「あんっ。」
なんだよ。何が起こってるんだ?混乱した頭を整理するように、ベッドから立ち上がろうとする。けど、目がまだよく見えない。
「だめっ。」
そうこうしているうちにまた横から抱きつかれる。
今度ははっきりとわかる。これは北田さんの体だ。俺は北田さんを振り払おうとする。けれど、思いっきり振り払ってケガでもされたら困る。だから力を込めて、でもそっと北田さんの体に触れて引きはがそうとする。
その時にさっきとは違う柔らかい感触が俺の手のひら全体に伝わってくる。しかし、彼女の両腕が首に絡みついていて簡単には外れない。俺はその不安定な状態に耐えられず、ベットに倒れこみそうになるのを必死にこらえた。だけど、それにだって限界がある。俺は再びベッドと思われるところに倒れこみそうになる。
マズい、北田さんを潰してしまう。そう思った俺は、とっさに両腕で体を支えようとした。その体勢はまるでそう、腕立て伏せをしているような状態だ。
目がかなり慣れてきた。はっきり見えるわけじゃないけど、目の前のは良く見える。俺の目に飛び込んできたのは間違いなく北田さんの姿だ。
でも、こんな姿の同級生は見たことがない。
まさか。
おい、ウソだろ?
なんて格好してるんだよ。
そこにいた彼女の姿は、俺の度肝を抜くには十分すぎるものだった。
だって彼女は服を着ていなかったんだ。
下着姿だった。
しかも黒。
「な、何するんだよ。それに、なんだよ、その恰好はっ。」
俺はかなり動揺していた。そりゃ、そうだろう?だって俺はまだ中学二年生で、しかも目の前にいるのは同級生で。こんな経験したことあるわけないし。しかも、この前色々あった北田さんだぞ?もしこの状況だったらどんな奴だって動揺するさ。俺が特別なんじゃない。けど、正直、目をそらすことができない自分もいる。なんてことだ。
「・・・だから・・・見て欲しいもの・・・あるって言ったじゃない。」
そういう北田さんの声は、今まで聞いたことがないような大人の女性の声のように聞こえる。何言ってるんだ?何考えてるんだよ、この人は。全くわかんねぇよ。
いや、確かに俺だって、こういうのを見たくないわけじゃないさ。
でもさ、そうじゃなくって・・・あぁ、でも、目が離せない。だって、北田さんって正直、その、可愛くない子じゃないし、ほら、胸も結構・・・いや、かなりおっきいし。背は高くはないけど、スタイルは良さそうな子だったから。
その俺の目の前に広がる景色は驚きではあったけど、俺の想像をはるかに超えるようなすごいものだったから。
もうちょっと見てもいいか?
いやいや、そうじゃない。
なんでこんなことになってるんだよ。理性、俺の理性よ。頼む、俺を落ち着かせてくれっ。
そう心の中で思いながら目を閉じる。
そして、腕を振りほどいて立ち上がろうとする。
「バカ。何やってるんだよ。服着ろよ。」
大丈夫だ。何とか立ち上がれそうだ。
「イヤ。」
「なんでだよ?」
思わず目を開けそうになる。ダメだ。目を開けたらダメだ。
「私は、竹中くんが好きなの。」
「それはもう聞いたよ。でも、違うだろ?そんなのはダメだよ。」
「そんなことはない。だって、私は、本当にあなたのことが好きなの。」
その言葉と同時に北田さんが抱きついてくる。やめてくれ。そして耳元で囁いてくる。
「ね、だから。しよっ?」
バカなこと言うなよ。もういい加減にしてくれ。無言で北田さんを引きはがした。そして、目を開き、失われていた方向感覚を取り戻そうとあたりを見渡した。
「バカかよ?何考えてるんだよ。こういうのはダメなんだよっ。しちゃダメなんだよっ。こんな何の準備もできてない俺たちみたいな子供にはっ。」
「それなら大丈夫。アレもあるから。」
「そういうことじゃない。これは、この行為っていうのは、ほら、本当に好きな人同士じゃないとダメなんだよっ。」
「私は、夕人くんが好き。あなたが私のことをどう思っていても構わない。だから・・・」
「ダメだって言ってんだろ?何回も言わせるなよ。俺は北田さんのことが好きじゃないんだ。」
「・・・うん、わかってる。」
北田さんの声が泣き声に変わっている。鼻をすするような音も聞こえる。
「わかってない。北田さんは分かってないよ。女の子にとってこういうのは大事にしなきゃいけないことなんだよ。だから、俺なんかじゃなく、本当に北田さんのことを好きになってくれる人が現れるまで待てよ。」
俺の目の前にはさっきまで北田さんが羽織ってたと思われるカーディガンが落ちている。俺はそれを拾って、彼女のほうを見ることなくそれを手渡す。
「これ、着ろよ。」
だが、彼女が受け取る気配はない。
「あなたもわかってないよっ。私のこと。私が、私がどんな気持ちでずっといたのか。わかってくれようともしなかったじゃないっ。」
なんだよ。どういうことだよ。
「・・・どういうことだよ。」
「私は、一年生の時のあの事件の話を聞いた時に、あなたはどんな人なんだろうと思った。女の子を助けるために立ち上がった男の子。すごくカッコいいと思った。でも、クラスが違った私には話す機会なんてほとんどなかった。でも、そんな時に委員会で一緒にいられるってわかった。すごく嬉しかった。これで、少し話せるようになるって。でも、あなたはずっと玉置さんと一緒だった。あの事件と玉置さんのことも知ってた。だから、玉置さんがあなたのこと好きだと思っていた。あなたと玉置さんは、私から見てもとても仲がいいように見えた。だから、私は遠くから見ていられればいいやって諦めた。でも、たまたま見ちゃったの。学校帰りにあなたが玉置さんにフラれたところを。だから、もしかしたら私にもチャンスがあるかもしれないって思った。でも、そんなチャンスは全然なかった。だって、私は名前くらいしか覚えてもらえなかったんだもん。何回も諦めよう。そう思ったよ。けど、二年生になったら同じクラスになった。宿泊研修でも同じ班になれた。嬉しかった。そして、やっぱり好きだって思った。そして、この前、ビデオの編集してた時の帰り。あの大雨の時、あなたは私に傘を貸してくれた。優しい人だから、だから傘を貸してくれたんだって。そう思おうとしてた。気が付いてなかったでしょ?私の気持ちに。けど、私はなんとなく気が付いてた。私じゃなくてもきっと傘を貸しただろうって。私のことを思ってくれてるわけじゃないって。でも、私、ずっと好きだったんだからっ。それなのに、そうやってみんなに優しいところを見せるから。それにこのことにだって気が付いてないでしょう?玉置さんはあなたのことが好きだってこと。私だって、玉置さんと同じくらい、ううん、玉置さん以上にあなたのことが好きなのっ。でも、気が付いてないのよ、玉置さんの気持ちにも、私の気持ちにも。」
そう北田さんは一気に話して、そして泣き出した。
「どういうことだよ。」
「そんなのこともわからないの?こんなの、理由になってないよ。でも、私はうまく告白できなくて、それであんなことになっちゃたから、もう絶対に振り向いてもらえないと思ったんだもん。だって、『好きになれそうもない』って言ったじゃない。だったら、もう。こんなことでもしないと振り向いてもらえないと思ったんだよっ。」
なんてことだよ。俺のせいだって言うのかよ。俺が今までしてきたことってなんだよ。そんなことってあるかよ。それに、今でも玉置さんが俺のことを好きっていうのもなんだよ。もう、わけわかんないよ。
「けど、だからって・・・」
「ねぇ、お願いだから、私のことキライにならないで・・・」
なんでこうなるんだよ。俺は北田さんのことがキライだなんて一度も言った覚えがない。ただ、申し訳ないけど恋愛感情を持っていなかったんだ。友達としてしか見てなかったんだよ。でも、それって仕方ないじゃないか。違うのか?誰か教えてくれよ。
「・・・だから、俺はキライだなんて言ってない。」
「でも、好きじゃないんでしょ?それって、恋愛の中じゃキライっていうのと一緒だよ。ううん、むしろキライっていうのより残酷だよ?いっそ、キライだって言って突き放してくれたほうが楽な時だってあるんだよ?」
涙をぽろぽろ流しながら俺にいう。
俺が残酷?そんなバカなことあるかよ。でも、そうなのか。そうかもしれない。
「・・・ごめん。」
「謝らないでよ。もっとみじめな気持ちになるじゃない。」
どうすればよかったんだよ。俺は。
「・・・・」
俺には何も言葉が出てこなかった。何も言えなかった。
「でも、もし許されるなら・・・もう一回友達から・・・どうせ、かなわない恋だってわかってるからっ。せめて、友達になって・・・ください。」
これ以上、俺にも追い打ちをかけないでくれよ。俺だって、もうわけがわかんないんだから。けど、そうだよな。これだけは言わなきゃいけないよな。
「うん、友達・・・だよ。」
きっと、これで北田さんと恋愛に関してどうこうなることは二度とないだろう。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
・・・はい。以上です。
北田さんの想い。竹中にも伝わったと思います。
でも、こればっかりはどうしようもないことだと思います。
好きという気持ちだけは誰にも強制できませんから。
何としてでも竹中を繋ぎ止めたいという北田さんの気持ちもわかります。
けれど竹中にとっては逆効果だったのかもしれません。
でも、皆さん。
北田さんのことをキライにならないであげてくださいね。
彼女も必死だったんです。
ただ、ちょっとだけ間違っちゃっただけです。
昔の竹中と同じなんです。
ただ、それだけなんです。




