ワザとだ。いや、つい、かな。
前回は夏休み合宿の話が出ていました。
これは一大イベントですね。
とその前に、まだ一学期は終わっていないようですからその話を少ししていきましょう。
今回は竹中の行動がどうのこうのという話ではないようです。
一学期もあと一週間。もうすぐ嵐のようだった一学期も終わる。
そして、その後はみんなが楽しみにしている夏休みがやってくる。今年の夏休みは、杉田邸に二泊三日でのお泊り会を実行する予定だ。幸いなことに全員の都合がうまく合わせられたおかげで一人の欠席者も出さずに済みそうだ。
ちなみに一日目の夜は夏休みの宿題を片付けよう会が企画されている。発起人は栗林さんだ。どうあがいたって一日じゃ終わらないだろうし、計画通りに行かないような気がするけど、楽しいお泊り会になりそうなことは俺にだってわかる。
しかし、ここにきてとても大きな問題が発生していた。なんと、夏カゼが学校内で流行しだしたのだ。うちのクラスでも欠席者が10人近くいる。学年全体では40人くらいが休んでいるらしい。このままじゃ、学年閉鎖も近いのかもしれない。あのいつも元気な栗林さんや小町までやられて昨日から休んでいるというんだから驚異的だ。今日は茜もダウンして学校を休み、杉田まで早退した。これはマズい状態だ。
「夏カゼが流行っていますから、皆さんも体調管理には気を付けてくださいね。」
担任の竹原先生が帰りのホームルームで注意喚起を促しているが、もう今さらって感がある。
「ほんとに流行ってんなぁ、夏カゼ。」
ほとんど独り言だったんだが、環菜がそれに答えてくれた。
「本当だよねぇ。今日なんか杉田くんも早退するくらいだもんねぇ。」
杉田は健康優良児みたいなやつで、転校してきてから一度も欠席をしたことがなかった。去年の冬にインフルエンザが流行っていた時も平気だったのになぁ。
「俺にカゼ菌はきかないぜ。」
そうだった。こいつもアホのように体が強いんだったな。足草も健康優良児だ。もっとも、アイツの場合は体以外のところも鍛えて欲しいんだけどな。でも関わるとうるさいからほっとこう。
「なんかさ、俺もそんなに体調良くないような気がしてくるよ。」
そう言ってみたものの、実は俺の体調は良好だ。
「ホントよね。私も調子よくないような気がするもん。」
見たところ、環菜は調子が良くなさそうだ。いつもと比べて頬が赤い気がするし。なんとなく調子が悪そうだ。
「環菜さぁ。無理しないで早く帰って休んだほうがいいんじゃない?」
「そうかも。今日は部活お休みしようかと思ってるんだ。」
「それがいいよ。無理しても仕方がないしね。なんなら、送っていこうか?家まで。」
そんな軽口をたたけたのも北田さんが休んでいるせいかもしれない。彼女は今日も学校を休んでいた。これで四日連続だ。あんなことがあった相手とはいえ、四日も休むとちょっと心配になってくる。
「うん、でも大丈夫だよ。帰るだけだしね。それに移しちゃ悪いし。」
そっかぁ?学校なんてウイルスの温床みたいなもんだろう?今さら気にしたって仕方がないような気がするんだけどなぁ。
「ん、まぁ、無理にとは言わないさ。でもつらかったら無理すんなよ?」
「うん、ありがとう。」
そう言った環菜がちょっとだけ咳き込んだ。本当に大丈夫なのか?
「なぁ、竹中。ちょっといい?」
ん?この声は。
「デコリンか?」
「な、デコリンって言わない約束じゃなかった?」
デコリンこと石井さんが激しい抗議をしてくる。
「あぁ、すまん。ワザとだ。いや、つい、かな。」
「どっちもよくないっ。約束したでしょ?」
そうだった。約束したんだったな。
「すまん。悪かった。ちょっと調子に乗った。」
「い、いや。いいけどさ。」
「イイのか?もっと言っても。」
「夕人くん。それは本当に調子に乗り過ぎだよ。」
環菜にたしなめられた。そうだな。明らかに俺が悪いな。
「いや。ごめん。もう言わないよ。」
「はぁ、もうさ、その話はいいよ。それよりさ、言いにくいんだけど、お願いがあるんだ。」
石井さんが改まってお願いなんてどうしたんだろう。俺と石井さんはつい先日の事件で揉めたばっかりだ。まぁ、なんだかいろいろあって和解したんだけど。
「どしたんよ。お願いって。」
「そのさ・・・言いにくいんだけどさ。」
「なんだよ、石井さんらしくないな。はっきり言えよ。」
環菜も『何の話だろう?』っていう表情で一緒に話を聞いている。
「あのさ、昨日今日と結構重要なプリントとか配られただろ?」
「あぁ、確かにな。なんだっけ?えーと?」
「まぁ、内容は良いんだけどさ。提出期限が明後日なんだよ。でさ、なっちゃんなんだけど、今日も休んじゃったからプリント持ってないんだよ。」
まぁ、そりゃそういうことになるよな。けどそれは、小町もそういうことになるよな。
「はぁ。それで?」
「うん、それでさ。なっちゃんに届けてもらえないかなぁ。」
「は?なんで俺が?」
俺がそう返したのも当然だと思いたい。だってあんなことあったんだぞ?
「いや、言いにくいんだけど、私たちはあの時のことでケンカしちゃってさ。ちょっと行きにくいのよ。」
「はぁ、で、俺に尻拭いさせようって言うのか?随分と都合のよい話だよな。」
石井さんは俺の言葉に文句の一つでも返してくるだろうと思って強気に言ったんだけど・・・
「うん、それは分かってお願いしてるの。私はちょっと行けないんだ。」
う・・・。そんな感じで言われたら俺が悪者じゃないかよ。
「わかったよ。持ってくよ。けど、俺は家の場所は知ってても部屋番まで知らんよ?」
「ありがとう、竹中。なっちゃんちは107号室だよ。お願いね。」
そう言ってプリントを俺に渡して石井さんは帰っていった。
「はぁ、めんどくさいけど、仕方ないか。」
じゃ、さっさとめんどくさいことは終わらせよっか。そう思って荷物をもって教室を出ようと思っていた。
「ごめん。やっぱり、送ってもらってもいい?」
環菜が俺の左腕を掴んでこう言った。
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環菜を送っていく帰り道。やっぱりあんまり具合が良くなさそうだ。
「大丈夫か?環菜。」
「うん、ちょっとフラフラするだけ。」
そうは言ってもなんだかとても調子が悪そうだ。どうすることもできないけど、どうしたらいいんだろう。
「もしかして、熱上がってきてるんじゃないのか?寒気とかは?」
「うん、少し寒気がする。」
なんてこった。これはきっと熱が上がる前兆だよ。昔、体が弱かったからこういうのは何度も経験してるんだよ。
「おい、大丈夫か?」
そう言って、環菜の額に手のひらを当ててみる。かなり、アツい。
「かなり・・・熱かった?」
「熱い。これは結構マズいかも。あと少しだけど、歩けるか?」
「うん・・・大丈夫。」
そう言って気丈に立ち上がる。けど、その足元はとてもおぼつかない状態だ。
「大丈夫には見えないぞ。ほらっ、ふらついてるじゃないかよ。」
どうしよう。だんだん環菜の息使いが荒くなってきてるような気がする。
「環菜。俺の背中に乗れよ。そしたらすぐに着くっ。」
そうするのが一番早い。それに俺は環菜の部屋番号も知ってる。家まで行けば大丈夫なはずだ。
「・・・大丈夫だって・・・私、歩けるから・・・」
「いい加減にしろっ。そんなこと言ってる場合じゃないだろう。もうお前んちまで歩いてもすぐそこだ。いいから早く乗れ。」
そう言って環菜に背を向けてしゃがみ込む。しかし、環菜はかたくなに拒否する。
「あぁ、もう。こんなことしてる場合じゃないんだって。」
そう言って立ち上がり、環菜のカバンを奪い、彼女がいつも持っている薄手のパーカーを着せる。ひどい汗だ。そして肩を貸すようにしながら立ち上がらせて一緒に歩いていく。
「ごめんね。迷惑ばっかりかけて。」
「いいから。話さなくていいから。行くぞ?」
「うん。」
少し時間はかかるが仕方がない。
「ごめん、汗かいちゃったから。一人で歩く。」
そう言って環菜は俺から離れようとする。けど、相当具合が悪いのかそのまま座り込んでしまう。マンションの入り口まであと100メートルくらいなのに。
「気にするな。」
「ううん、気にするよ。だって、汗の匂いがしたらイヤだもん。」
こんな時に何言ってるんだか。俺は大きなため息をついて言った。
「わかったよ。じゃここで待ってろ。すぐにお前のお母さん呼んでくるから。いいな。」
彼女の返事を聞き終わらないうちに俺は走り出した。走ればすぐ着くはずだ。
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「じゃあ、僕はこれで失礼します。」
今、俺は環菜の家にいる。遊びに来たわけじゃない。帰り道で具合が悪くなった環菜を連れて来たんだ。あの後、環菜の家までダッシュして環菜のお母さんに状況を説明し、一緒に環菜を連れてきたんだ。
「竹中くん、ありがとうね。環菜もありがとうって言ってたわ。」
「いえ、大丈夫です。それじゃ、失礼します。」
「これからも、環菜をよろしくねぇ。」
「あ、こちらこそ。」
バタン。
扉が閉まった。
ふぅ。ちょっと疲れたぞ。今になって急に疲労感が湧き上がってくる。
さて・・・帰るか。じゃないな。まだ仕事が一つ残っていたんだ。
北田さんにプリントをもっていくんだったな。
やれやれ。こっちのほうが大変だよなぁ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
夏風邪が流行ってみんなダウン。
大変です。
チーム竹中は全滅まであと少し。いえ、環菜倒れたので竹中以外やられました。
そして、環菜の行動。本当に熱で辛かったのでしょうが・・・可愛いのかなんなのか。
とりあえずは本当に体調が悪かったようですね。
それにしても歩けなくなるまで頑張るだなんて。彼女らしいような気もします。
そして、竹中には大きな課題が残っていますよね。




