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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第52章 それぞれの色
230/235

青、黄、橙

小町、茜、実花の三人で話が進んでいくことになります。

夕人が知らないことの話ですね。

 時間は少し遡って土曜日の夕方。茜と小町、二人の雪まつり。



 夕人くんと小町ちゃんとの電話をした後にいろいろと考えていた。

 私には何ができるんだろうって。難しいことを考えているつもりはないの。ただ、このまま卒業っていうことになって、思い残すことはないのかなぁって。そんな事を考えていたの。


 やっぱりまずは小町ちゃんよね。

 元気に毎日を過ごす彼女を見ていると、自分まで元気になってくるの。それってスゴイことだと思うんだ。それに、本心を話せるのは小町ちゃんだけのような気がする。


 翔くんや実花ちゃん。

 二人にも本当にお世話になったと思うの。他にもいっぱい。こんなバカみたいな人生を過ごしてきた私にも素晴らしい友達ができたのははっきり言って夕人くんのおかげ。


 私の人生を変えてくれた夕人くん。

 彼からは本当にいろんなことを学んだと思う。他人との接し方とかね。それから広い心。正義感。そう言ったいろんなものを目に見える形で示してくれたって思うんだ。


 だからこそ、思うの。私はみんなに何ができたんだろうって。うん、これが思い上がりだってこともわかってる。私みたいなちっぽけな人間が一人で何かをなそうとして、何かができるわけじゃないから。そんなことはわかってるの。でもね?何かができたんじゃないかって。もっともっと。


 そうやってみんな事を考えていたら一つだけ。たった一つだけれどすごく気になることがあった。それはね・・・


「ね、小町ちゃん。」

「なに?」


 私の右下の方から声が聞こえてくる。

 別に変な意味で言ったんじゃないよ?ただの事実だから。


「ちょっと大事な話があるの。だからね?あそこの喫茶店に行かない?」


 そう言ってすすきの交差点にあるとある喫茶店を指さした。


「えー、喫茶店?高いから嫌だなぁ。もうちょっと安いとこがいい。」


 小町ちゃんはブーブー文句を言っているけれど、確かにそうよね。コーピー一杯が四百円とか、ちょっとつらいもんね。


「じゃ・・・向かいにあるマックにする?」


 必要なお金はあんまり変わらないけれど、食べ物と飲み物の両方がある方がコスパが良いよね。


「うむ、そこならいいよ。」


 グイッと胸を張って宣言している小町ちゃんを見ているとなんとなく笑顔になる。本当に小町ちゃんは私にとっての天使みたいな存在だよ。

 そういう感じで私たちはマックに入ったんだ。

 あぁ、そうそう。今日は私たち、二人で雪まつりに来ていたの。

 きっと夕人くんたちもどこかにいるんじゃないのかな?でも、今の私たちにはそのことはあんまり関係ないの。いや、関係ないってことじゃないのかな?うーん、そのあたりを考えるのはやめておこっかな。


*************************************


「でー。茜の話っていうのは何?」


 小町ちゃんはお腹が空いていたのかなぁ。ハンバーガーをペロッと平らげた後でポテトに手を付けながらようやく話し始めた。


「うん、すごく大切な話なの。」

「だーかーらー。その大切な話っていうのが何なの?って聞いてるんだけれど?」


 小町ちゃんの口調はちょっと厳しい感じ。でも、これもいつものこと。もう慣れちゃった。


「あのね?環菜ちゃんのことなの。」

「環菜?なんで急にそんなこと?」


 オレンジジュースをストローでギューっと一気に飲みながら興味がなさそうにしているのは、わざとなのかな?それとも本心?


「急にっていうか、昨日の電話の後でいろいろ考えたの。」

「へぇ〜。いろいろねぇ。」


 やっぱり興味がなさそう。でも、ちゃんと話さなくちゃダメ。小町ちゃんの協力なく、私の思いは絶対に届かないから。


「うん、いろいろなの。あのね?環菜ちゃんって私たちの友達、仲間だよね?」

「まぁ、そうなんじゃない?」


 予想通りの返事だった。きっと小町ちゃんは心の何処かで環菜ちゃんのことを嫌っちゃってる。それはまぁ・・・わからなくもないんだけれど。だからといってこんなギクシャクしたような感じで卒業しちゃうのは嫌だなって思うんだ。


「うん、だよね。そして、小町ちゃんは私の友達、ううん、親友?そう呼んでもいいよね。」

「うん、いい。」


 短い答えだけれど嬉しい。


「明菜ちゃんは?」

「友達でしょう。」


 小町ちゃんはあっという間にポテトも食べきってしまった。私はまだハンバーガーも半分くらいしか食べていないのに。スゴイなぁ、小町ちゃんの食欲。


「じゃ、実花ちゃんは?」

「友達。」

「なっちゃんは?」

「茜・・・何を言いたいのかは何となく分かるけれどさ。回りくどいよ。大切な話なんでしょう?遠回りしないではっきり言おうよ。」


 小町ちゃんが業を煮やしたように私の顔を見てため息を漏らした。


「そうだね。変に回りくどかったよね。じゃ、はっきり言うね。」

「うん。」


 小町ちゃんの表情が少しだけ変わった。準備は出来てるよ、と言わんばかりに。


「話っていうのは環菜ちゃんのことなの。」

「うん、そうだろうね。はじめにそう言ってたし。」


 そう言って私のポテトに手を付け始めた小町ちゃん。別にいいけれどね。全部は食べきれないかもしれないし。私の分も残してくれるなら。


「環菜ちゃんって、難しい性格じゃない?」

「まーねー。ちょっと自己中っていうか。自分が思ってるより周りのこと見えてないよね。それに、なんか暗い。」


 うっわぁ。辛辣な言葉。本人が聞いたら泣いちゃうんじゃない?


「あー。まぁ、そういうところもあるよね。でもさ、ほら、悪い子じゃないでしょう?小町ちゃんがあんなことになっていたときにも助けてくれようとしていたし。」

「うん、それは感謝してる。嬉しかったよ。」


 そうそう。小町ちゃんのこの素直な所が良いところなのよね。私も見習わないといけない。


「それで、ちょっと小町ちゃんの意見っていうか、考えを聞いてみたいんだ。」

「いいよ。何?」


 なんだろう、私のポテトが残り少ない。このままじゃ私のポテトが絶滅しちゃう。


「あ、その前に・・・私のポテト、全部食べちゃダメ。」

「あ、バレてた?何も言わないから食べちゃっていいのかなぁって。」

「いいわけないじゃない。私だって食べたいもん。」

「あはは、ごめんごめん。じゃ、食べるのはここまでにしとく。後で追加するかもしれないけれど・・・あ、でもそれは今夜の茜の家でもいいかなぁ。」


 今夜は小町ちゃんと私の家でオールナイトの予定。勉強もするつもりだけれどね。


「わかったから・・・なにかご飯とか作るから。」

「わーい、茜、大好き。」


 そう言って抱きついてくる小町ちゃんを見ていて、『話が進まないわ』って考えたのは当たり前のことよね・・・


「さて、ごめんね。環菜のことでしょう?茜が言いたいことは何となく分かるよ。」

「そう?」

「うん、夕人とか、そういうことの話でしょう?」


 流石に小町ちゃん。そこにはたどり着くよね。でも、私が考えているのはそこだけじゃないの。もっと、こう、重要なことっていうか。


「それもあるんだけれどね。もっと込み入った話かな。あのね?私には小町ちゃんとか明菜ちゃんとか夕人くんみたいなお友達がいるの。」

「そうだね。私もいる。」


 小町ちゃんの言葉に私は相槌を打った。そして、本題を切り出す。


「じゃ、環菜ちゃんはどうかなって。」

「さぁ・・・」


 そう、小町ちゃんのその答えが全てなんじゃないかなって私は思ったの。

 私と小町ちゃんは友達。もちろん環菜ちゃんも友達だと思ってる。でも、いろいろと考えてみたら私たちは夕人くんっていう存在があってこその繋がりだったと思うの。

 高校に進学してバラバラになっちゃった時、私たちは今みたいに友達のままいられるのかなぁって。


「私たちは卒業しても友達だよね?」

「あたりまえのことを・・・」


 そう言って小町ちゃんは席を立つ。


「どうしたの?」

「食べ足りないなぁって。セットもう一つ買ってくる。茜は?」


 私は首を横に振って『いらないよ』と口にした。それを見て小町ちゃんはダッシュで追加注文をしに向かった。私は小さくため息を付いて、四本しか残っていないポテトを口に運ぶ。


「小町ちゃん、食べ過ぎでしょう・・・」



 五分位で小町ちゃんは戻ってきた。大きなハンバーガーのセットにポテトが二個。どう考えても女の子の食欲を超えているように思うんだよね。


「はい、これ。茜のポテトね。」


 そう言ってSサイズのポテトを渡してきた。


「あ、ありがとう・・・」

「いっぱい食べちゃったからね。」


 そうですね。私のポテトはMサイズでしたから。


「で、話の続きを聞きましょう?」


 いつの間にかこんな感じに。でもいつもの通りかな。なんか、こんな感じの小町ちゃんを見ているのも楽しいし。


「うん、じゃ、続けるね。」


 小町ちゃんは自分の顔と同じくらいの大きさはあるハンバーガにかぶりついている。素晴らしい食べっぷり。それだけ食べても太らないっていうのは羨ましい。


「ふぬ・・・ぼうぼ・・・」


 口に入ったまましゃべるから・・・どうぞって言ったんだよね?


「だからね、環菜ちゃんのことなの。これって私の考えすぎかもしれないんだけれど、私たちって結構いつも同じメンバーでいるじゃない?遊びに行ったりとか、勉強会をしたりとか。でもね?それ以外の友達とも遊びに行ったり、そういうこともあるよね。まぁ、私はそんなにないけれど・・・」

「はふわへぇ。」


 もう、何言ってるのかわかんない。


「でね?環菜ちゃんは?って考えたの。そうしたら・・・」


 あっという間に大きなハンバーガーを平らげ、飲み物を飲んで落ち着いたみたい。小町ちゃんが私の言葉に続けた。


「まぁ、環菜はあんまり人付き合いが良くないかもね。」


 そう、それなの。私が気になっていたこと。


「やっぱりそう思う?」

「まぁね。環菜は私たちといない時は基本一人で何かをしてることが多いし。合唱部の部長とかやっているみたいだけれど・・・ま、その辺りは茜のほうが詳しいよね。」

「うん・・・」


 環菜ちゃんが部長になったのは顧問の先生の指名みたいなものだった。ピアノも引けるし歌も上手。藤原先生のお気に入りって言ったらそれまでだけれど・・・正直言えば合唱部がうまくまとまっていたかと言えば、なんとも言えない。


「それに、環菜には優先事項があって、それがはっきりしているからね。可愛い顔してるけれどエグいっていうか。そういう所あるかな。」


 ますます辛辣なお言葉。そしてその通りかなって思っちゃう私もまた、どうなんだろう。


「そうだけれど・・・それはちょっと厳しいんじゃない?」

「そうだね。だって、今は茜と二人だからぶっちゃけただけだよ。学校とかでそんな事言うわけないじゃない。」


 それはそう。そうなんだけれどね。


「環菜は基本的に夕人ありきなの。全ての行動の原点に夕人がいると思う。」


 小町ちゃんの言葉に思わず唸り声をあげてしまう。だって、本当にその通りだって思うから。


「学校祭の時の環菜の頑張りも、夕人に頼まれたからなのかなって思ってたし、それに打ち合わせどおりに喋らなかった環菜を見ているとどうしてもそう思えちゃうよ。」


 小町ちゃんが二つ目のポテトに手を伸ばしながらブツブツと口にしている。


「いやぁ・・・小町ちゃん。それはね、その気持ちはわかるけれど・・・」

「うん、そうだね。私も良くないと思う。だって、夕人は明菜のことが大好きで明菜も夕人のことが好き。これはちょっとやそっとで変わるってことじゃないし。今回の雪まつりのことは夕人がバカだとは思うけれども、でも、やっぱりちょっと環菜は怖い。」


 どうやら私が伝えたいことはきちんと伝わっていないんじゃないかなって思う。私がいいたいのはそういうことじゃない。


「そうじゃなくてね?怖いとか怖くないじゃないの。今のままだったら環菜ちゃん、きっと孤立しちゃうと思うんだ。」

「・・・」


 小町ちゃんは何も言わない。きっと小町ちゃんの心の中でもいろいろと思うところがあると思うんだ。だから何も言わないんだと思うの。


「あのね?それで私が言いたいのは・・・」

「茜。人の心っていうか性格っていうのはそう簡単に他人がどうこうできるものじゃないよ?」


 わかってる。やっぱり小町ちゃんはわかっていたんだ。私の言いたいこと。それがわかっていてわざとあんなにはっきりと言いにくいことを言ったんだね?


「だからさ。そういうのは背負い込まないほうがいいと思うんだ。茜には茜の人生があってさ。環菜には環菜の人生があるんだよ。私だってそう。よくわかっているわけじゃないけれどね。まだ、中学生だし。」


 いやいや、よくわかってるんじゃない?小町ちゃんって急に大人になったような気がするもん。そう、夕人くんのことでいろいろと考えたからなんじゃないかって思えるくらいに。


「そうかもしれないね。でも、私はこのまま終わっちゃうのは嫌だって思うの。」


 そう言って小町ちゃんの言葉を待った。小町ちゃんが賛同してくれなかったら・・・私だけじゃどうにもならないから。


「はぁ・・・茜のそういうところ、キライじゃないよ。でもさ、私たち子供の力じゃ、どうにもならないこともあると思うよ?」


 小町ちゃんの言葉には少し納得がいかない内容があった。


「どういうこと?」

「詳しくは知らない。実花なら知ってると思うけれど。」


 小町ちゃんの表情からすると、そんなに簡単なことじゃないのかもしれないって思う。でも、何か行動をしなければ何も変わらないよね。夕人くんだったらきっとそう言うはずだもの。


「私は・・・」

「いいよ、全部言わなくても。茜が環菜をなんとかしたいって思う気持ちはわからないでもないから。だって、私たちの中で一番環菜のことを知ってるもんね。」


 それはどうなんだろう。夕人くんのほうがいろいろと知っていそうに思うけれど。


「うーん・・・」


 苦笑いを浮かべて小町ちゃんの顔を見た。


「まぁ・・・とりあえずはどうしたいって思ってるの?」


 性格を変えたいとか、そんなだいそれた事は考えてないの。でも、このままじゃ環菜ちゃんは夕人くんから一生離れられなくなっちゃうような気がするから。それは環菜ちゃんにとっても辛いことになるかもしれないし、夕人くんにとってもそうなんじゃないかって思うから。

 だったら、私はどうしたいんだろう?

 漠然と考えてはいたけれど・・・いざ具体的に考えてみるといまいちピンとくる考えが浮かんでこない。


「いい考えは浮かんでこない?」

「うん・・・ごめん。」


 小町ちゃんの問いかけに申し訳なく思いながら頭を下げる。


「仕方がないなぁ・・・今夜はそういう事も含めていろいろ考えようっか。週明けには実花にも話してみよう。環菜の仲間である私たちが動かないとね。」


 小町ちゃん、ありがとう。何ができるとかできないとか、そんなことは私にはわからない。頭も良くないし。でも、一つずつ進めていけばいつかはきっと・・・


「ありがとう、小町ちゃん。」

「いいって。環菜は同じ高校に行くことになりそうだしさ。そういう意味では私が一番長い付き合いになりそうな気もするから。」


 そう言って笑ってくれた小町ちゃんだけれど、きっと環菜ちゃんのことは気になっていたんだよね。だからこそ、私の考えに同調してくれたって。私はそう思うよ。


***********************************


 週が開けて月曜日の放課後。来週末は私立高校の入試っていう時期。私たちは三人で集まっていた。ここは学校の教室。誰もいない、使っていない空き教室。内緒の話をするにはもってこいの場所だった。


「茜の話は大体わかったよ。でもさ、それってどうしたらいいのかな?あたしたちでどうにかできるようなことなの?」


 実花ちゃんは小町ちゃんと同じことを口にした。やっぱりそう思っちゃうよね。


「そうなのさ。口で言ってわかるような子ならとっくの昔に変わっているはずだからね。」


 小町ちゃんはため息混じり。

 でもその通りなのよね。だからこそ困ってる。去年の環菜ちゃんを知っている私たちとしては本当に。あのおかしくなってしまった時の環菜ちゃんはどうしようもなかった。私が何を言っても何をしても変わらなかった。

 でも夕人くんがいたから・・・ってだめ。そんな考えはダメ。夕人くんに頼ったってダメなの。


「翔や夕人くんにも相談してみる?」


 実花ちゃんは私の考えを読んでるのかな。そう思っちゃうくらいに的確なことを言ってくる。


「それじゃダメっしょ。環菜は夕人ラブだからね。それに、今は一昨日の雪まつりのことで浮かれちゃっているところもあるし。」


 小町ちゃんの言う通り。今日の環菜はすごく積極的だった。夕人くんの周りにずっといたし、それにやけに距離感も近くなっていたような気がしたから。


「でもね、たぶん・・・夕人くんと明菜。何かあったと思うよ?」


 実花ちゃんがニヤニヤとしながら私たちの顔を交互に見てくる。


「あ、やっぱりそう思う?」

「思わないわけがないでしょう。朝一緒に学校に来たじゃない。今までそんな事あった?環菜は全然気にしていないみたいだけれど。」


 というか・・・違うクラスの実花ちゃんがどうしてそこまで知っているんだろうって疑問に思わなかったわけじゃない。でも、実際にそんな感じだったし、なんとなくだけれど明菜の表情がなんとなく柔らかくなっているような気もする。


「もしかして・・・」


 小町ちゃんが笑顔を浮かべて実花ちゃんの顔を見る。


「もしかしちゃうかもね。」


 そんな表情を浮かべられている小町ちゃんって、本当にスゴイよね。小町ちゃんだって夕人くんのことが大好きだったのに。ちゃんと認めてあげられるんだね、二人のこと。

 え?私?

 私はもちろん。明菜ちゃんならきっといい彼女さんになるだろうなって思ってるよ。だから、もしそういう事になってるならお祝いしてあげなきゃいけないなって。


「いやいや、そのね?その辺りはある意味どうでもよくって・・・」

「いや、どうでも良くないでしょう。」

「そうよ?大事なことだと思うよ?」


 実花ちゃんと小町ちゃんが二人同時に私の顔を真剣な表情で見つめてくる。


「え・・・なんで?」

「だって・・・」

「ねぇ?」


 そう言って再び二人だけの世界に入っていこうとする。


「ちょっと・・・私にもわかるように話してよ。」


 ちょっと悔しい。私には全然わからないってことが。


「そりゃ、夕人くんが明菜と付き合うってことになったら?」


 実花ちゃんが私に問いかけてくる。


「いいことだよねぇ。」

「そうじゃなくって。」


 小町ちゃんが盛大にため息を漏らした。


「え?」

「え?じゃないって・・・あの二人が付き合うってことになったら、当然環菜はフラれるってことになるよね。」


 小町ちゃんが言ったことは当たり前のことだと思うけれど・・・夕人くんに限って二股とか、そういうことはしないと思うし。


「そうなると、ものすごくはっきりとした構図になるじゃない?」


 実花ちゃんは小町ちゃんに続けてそう私の顔を指差しながら言った。


「うん、あっ、そっかぁ。」

「鈍い茜もやっと気がついた?環菜がなにかに気付くきっかけになるかもしれないってこと。」


 確かにそうかもしれない。でも、でもだよ?ローザ先輩の時はどう?


「でも・・・茜が考えてることもわかるよ。ローザ先輩とのことでしょう?」


 実花ちゃんと小町ちゃんは私なんかよりもずっとスゴイよ。頭もいいしいろんな事を考えてるみたい。私なんて目の前のことを一個ずつ片付けていくことしかできないのに。


「あれはね、また少し違うと思うよ。ね?」


 小町ちゃんが実花ちゃんと顔を合わせる。


「そうね、あれはちょっと違うかもね。」

「どう違うの?」


 軽く首を傾げて二人に問いかけた。だって、わからないんだもん。


「いい?あの二人の時はな~んと無くだけれど、いつかは終わりそうな感じっていうの?いや、付き合っていても夕人くんはこちら側にいたっていう、そんな感じがあったでしょう?」


 実花ちゃんが力説して、小町ちゃんが頷いている。


「ま、それは小町ちゃんが原因だと思うけれどね。」


 実花ちゃんの言葉に小町が驚いて『えぇっ』と大声を出した。


「だって、あの時の夕人くんはさ。小町ちゃんのことを結構気にしていたと思うよ?むしろどうしてそっちに行ったのかって思うくらいだったし。」


 それは・・・わからないわけでもないけれど。私としてはちょっとピンとこないところもある。うーん、あの時は私も色んな意味で必死だったからかなぁ。


「そっかぁ・・・私のせいかぁ。意外と罪作りな女ってやつだね、私。」


 アハハと笑っている小町ちゃんを見ていると本当に強いんだなって思うよ。私が同じような立場だったらあんな感じに笑えたのかなって。


「まぁ・・・結果として小町も茜も辛い立場になっちゃったんだけれどね。まぁ、明菜が札幌に戻ってくるだなんて誰も予想しない出来事だったからね。もちろん夕人くん本人も、そして、明菜自身もね。だから、今回のことはね、うーん、もう考えても仕方がないっていうか。」


 実花ちゃんは私たちに気を使いながら話をしてくれてるんだね。でも、私は大丈夫。


「まったくだよねぇ、もう。でもさ、明菜はいい子じゃない。なんか憎めない性格っていうか、ポヤンとしてるし。」

「そこはね、あたしもそう思ってる。」


 そうだよね、明菜ちゃんがあんな感じの人だから。だから私たちも諦められたっていうか、『あぁ、こういう人が夕人くんの好きな人なんだ』っていう気持ちになれたもんね。


「そうかもね。」

「でしょう?だから、ここで必要な力っていうのが明菜の力だと思うの。」


 実花ちゃんの表情は至って真剣。どういう意味で明菜ちゃんの協力が不可欠だって言ったのか、その考えを聞きたいって思った。


「明菜ちゃんの力?」

「そう。でも今すぐってわけじゃないと思うの。そうね・・・入試が終わってからかな。環菜って思っている以上に打たれ弱いから。それは・・・まぁ、あたしたちと違って本当の意味で頼れる人がいないっていうのもあるのかもしれないけれどね。」


 実花ちゃんが言わんとしていること、それは私にもわからないわけじゃない。頼れる存在がいるっていうのは本当にすごく力になるから。だから、私がって言うわけじゃないけれど環菜ちゃんにも気がついて欲しいって、そう思うから。


「だねぇ。もし入試前に環菜が夕人たちのことに気がついたら・・・」


 そう言って小町ちゃんは表情を曇らせる。


「そうね・・・良い結果には向かわないでしょうね。」


 実花ちゃんも同様に表情を曇らせた。


「それって・・・」


 私の問いかけに答えてくれたのは実花ちゃんだった。小町ちゃんと顔を見合わせてから腕を組んで厳しい表情を浮かべる。


「環菜は夕人くんがいるから頑張れるっていう感じじゃない。そして、思い込みも激しい子。今回の雪まつりの件も『夕人くんに誘われた』っていうことだけに執着していて、明菜が一緒にいたことなんてどうでもいいのよね。あの時に一緒にいたからわかるのよ。なんていうか、夕人くんの気持ちは関係ない。明菜の気持ちも関係ない。私がっ・・・って感じかなぁ。うまく言えていないかもしれないけれどね。」

「そうだね、さらに言えば・・・夕人くんは私のことを好きでいるっていう思いがあるよね、きっと。」


 二人はお互いに顔を見合わせながら頷き、どちらからともなくため息を漏らす。


「ちょっと待って。環菜ちゃんはそこまでの子じゃないでしょう?」

「いや、茜。そういう子だと思うよ。三年間見てるとね、そう思うんだ。とはいえ、よくわからない子でもあるけれどさ。」


 実花ちゃんは組んでいた腕を解き、天を仰ぐようにした。


「私だってわからないよ。っていうかね、誰にも他人のことなんてわからないと思うよ。でも、環菜に関しては・・・危なさっていうか危うさっていうの?そういうのを感じちゃう。」


 小町ちゃん、そんなことを思って環菜ちゃんのことを見ていたんだ。今更ながらに驚かされるよ、ほんとに。


「だからね、少なくとも入試が終わるまでは下手なことをしないほうがいいんじゃないかって。そして、これは些細な期待なんだけれど・・・」


 実花ちゃんは顎に右手を添えながら、まるで推理小説に出てくる探偵さんのようにして話を続けた。


「環菜自身が夕人くんと明菜の関係を感じ取ってくれたらいいんだけれどね。」

「それができたら苦労はないんだよ・・・」


 小町ちゃんが実花ちゃんの肩に手を載せて首を横に振った。


「そう・・・だよねぇ。」


 つまり、こういうこと?私たちが直接何かをしてもいいことはないかも。だから、夕人くん達を見て自分からいろいろなことに気が付くのが一番だって。


「でも、それじゃ何も変わらないんじゃない?」


 私の言葉に二人はあっさりと頷いた。


「変わらないよ。」

「その通りでしょう。」


 いやいや、それじゃダメっていう話をしているんだけれど?


「待って待って。あのね?もうちょっと建設的な話をしない?」

「十分に建設的よ。」


 実花ちゃんは私の顔を下から覗き込むようにして言った。


「どうして?まるで他力本願じゃない。これじゃ・・・」

「そういうものなのよ。そして、そうなった時に、私たちが力を貸してあげるしかないのさ。そして、環菜自身が自分で明菜と夕人くんとの二人に決着をつけなくちゃ。そう・・・私たちみたいにね。」


 小町ちゃんの言葉にハッとする。


「私って・・・また自惚れてた。」


 なんでもできるって思っていたわけじゃないのに、いつの間にか私自身が何かをしなくちゃいけないって思い込んでいた?


「夕人くんはさ、そういうのが本当に上手なのよね。自分でできることはきっちりやって、それでいてできなさそうなことはきちんと誰かにお願いしてくる。まさに学校祭のときなんかそういう感じ。まぁ、オーバーワークで倒れてたけれどね。」


 実花ちゃんが言うことはよく分かる。


「そうだね。夕人は誰かに頼るってことを恥ずかしいって思っていないもん。助けてもらえることが嬉しいって。そんな感じだもんね。」


 小町ちゃんが言うこともよく分かる。


「その点はうちの翔にも見習って欲しいわね。あいつ、傍目から見てるとズルいのよねぇ。」


 苦笑いを浮かべて自分の彼氏を批判している姿はちょっとスゴイ。


「まぁ、杉田は杉田だからね。他の何者でもなし。頭もいいし、カリスマ性もあるからついてくる人は多いからね。でも、そこをちゃんと見極めて割り振りしてるじゃない。」

「そう見える?怠けたいからじゃないの?」

「信頼してるからでしょう?主に夕人のことを。」


 そっか、信頼。そういうことなんだね。翔くんと夕人くんは強い信頼関係で結ばれているから、だからこそあんな面白い関係ができるわけね。


「なんか、男の人達っていいよね。」


 私は思わず笑顔でそう口にした。


「なんかさ・・・」


 小町ちゃんが渋い表情を浮かべる。


「茜がいうとエロいね。」

「うえぇ?それってひどくない?」


 実花ちゃんは小町ちゃんと顔を見合わせて笑ってる。私も笑いが漏れてきた。


「ひどくないって。だってさー、茜って夕人によく迫ってるじゃん。その立派なおっぱいでっ。」

「うわっ。」


 小町ちゃんに両胸を鷲掴みにされる。


「ちょ、ちょっと小町ちゃん?」

「どうなんだぁ?これを揉ませたりもしたのか?ん?」


 ちっちゃいおっさんみたいなこと言わないでよっ。


「そ、そんなことしてないもん。」

「あーうそうそ。絶対に嘘だね。」

「嘘じゃないもん。」


 嘘です。はい、思いっきり嘘ついてます。でも、言えるわけないじゃないっ。


「なーんか、怪しいんだよねぇ。茜ってばもうしちゃってそうだし、夕人と。」

「あー、ありそう。」


 二人して・・・どうしてそんな事言うのかなぁ。


「それは・・・ないし。」


 そうなりたいって思ったこともあるけれど、結果としてそんなことはなかったわけだから。だからないってことでいいよね?ね?


「間があったねぇ。」

「ありましたねぇ。」


 だめ、この二人の圧力に屈してしまいそう私がいるわ。


「正直に言えば、楽になりますぜ?旦那ぁ。」


 どこの悪徳商人?みたいなセリフを小町ちゃんが口にする。


「素直に吐けば、お上からの情状酌量もありますぜ?」


 これじゃ魔女裁判っ。何を言っても有罪じゃないっ。


「やめてよっ。」


 私は軽く二人を突き飛ばそうとした。


「あらあら。」

「ねぇ?」


 だめだ・・・スイッチが入ってしまった二人を止めることだなんて出来やしない・・・


「正直に言ってくれる?」


 小町ちゃんが私にぐいっと顔を近づけてきながら来た。


「な、何かな?」

「迫ったことはあるでしょう?」


 どうしてなの?質問が実花ちゃんの口から為されたのは。


「・・・言わないとダメェ?」


 甘えた声を出して二人に懇願してみた。その結果・・・二人が揃って頭の上に両腕でバツじるしを作った。まるで、あのTV番組みたいに・・・


「・・・むぅ・・・絶対に明菜には言わないでよ?きっと夕人くんだって誰にも話してないんだから。」


 私の言葉に二人は打ち合わせでもしていたかのように揃って首を縦に振った。


「一歩か・・・二歩手前まで・・・かな。」


 私の小さな声での言葉を聞いて二人は発狂したかのように騒ぎ出す。


「ちょっとっ、やめてってっ。もう・・・」

「で、で?やっぱりなんか、スゴイの?あれって。」


 実花ちゃんってこんなにグイグイくる人なの?


「二歩手前ってどこよ。」


 小町ちゃんって思っていた以上にえっちい?


「二歩手前は二歩手前っ。これ以上は言わないもんっ。」


 そう言って二人から顔を背けた。


「そっかぁ、つまりはアレをナニしてあんなことを・・・」

「うひゃぁ・・・それは夕人、マズイねぇ・・・」


 え?何を話してるの?って思って二人を見た。なんか変な仕草でその状況を再現しようとしているように見えたけれど?


「そ、そんなことまでしてないもんっ。」


 二人の間に割って入る。もう、信じられないっ。


「わかってるって。ねぇ?小町。」

「もちろん。夕人がそんなことをできるわけないもん。」

「・・・はぁ?」


 情けない声が漏れたと思う。だって、今まで流れを急に断ち切ったみたいに二人が真面目な表情を浮かべるんだもん。真っ赤になって否定した私がバカみたいじゃないっ。

 でも・・・そうだよね。夕人くんがそんな事したら・・・


「もう、やだ・・・」


 ちょっと思い出しちゃったじゃない。


「おおっと。なんかいろいろ思い出してる?」


 実花ちゃんが顔を覗き込んできたから、顔をそらして首を横に必死に振った。


「もうやめて・・・」

「ま、そうね。茜いじりはこのくらいだね。」


 小町ちゃんがそう言って私の頭を撫でできた。


「二人とも・・・いじわるだぁっ。」


 私のその言葉に二人はまた笑い始めた。

ここまで読んでくださってありがとうございます


女の子三人、よればかしましいなんていいますけれど、それは彼女たちも同様のようです。

でも、なんだかいいですね。

本音で話し合える関係っていうのは。


そこに環菜が加われる日が来るといいですね。

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