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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第5章 友達って・・・
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俺に何を求めてるんだよ。

ついに下校時間ですね。

竹中vs北田の一騎打ちになります。


どういった話になるのでしょうか。

 さて、そろそろ行かないとな。確か玄関で待ってるって言ってたしな。ため息をつきながらダラダラと教室を出ようとしたその時。


「遅いのよ。何やってんの?」


 石井だ。さっきまでは五人でいたが今は一人で俺の前に立っている。


「俺にだって俺の用事があるんだよ。」

「あんたの用事なんか知らないわよ。待ってるんだから早くしなさいよ。」


 俺の返事を聞くまでもないと言わんばかりに、右手首を掴んで俺を連れていく。


「ちょっと待てよ。トイレくらい行かせろ。」


 そう言って手を振りはらう。


「はぁ?トイレ?何やってたのよ。早くしなさいよ。待ってるから。」


 なんでこいつにトイレまで監視されなきゃいけないんだよ。


「わーったよ。ちょっと待ってろ。デコリンが。」

「なっ、あんた、今、デコリン言わなかった?」

「あぁ、言ったがどうしたよ。」


 デコリンというのは石井のあだ名だ。もっともそれは男子でしか使われていない。特徴をしっかりと表したあだ名なんだが。


「デコリン言うな。」

「あー、悪うございました。でわ、わたくしはトイレに行かせていただきます。よろしいでしょうか。」

「早くいきなって。」


 へいへい。かしましい事この上ない。


************************


 トイレって言うのはある意味で聖域だ。この男子トイレには女子は入ってこれない。

 さて、思ったよりも面倒な気配だぞ。すでにかなり面倒な状態なんだが、足草が騒ぎまくってるということは、もう二年生全体に広まってると言っても過言ではないだろうし。

 しかも、あいつのことだ。なんて言いまわってるのかわかったもんじゃない。もしかしたら、付き合ってるくらいの世紀の大誤報を流しているかもしれない。


「まいったなぁ。」


 思わず独り言がでた。


「何そんなに悩んでるんだよ。お前らしくない。」


 なっ。どこからだよ。誰もいなかったぞ?ここには。

 ジャーっと水の流れる音がして個室から杉田が出てきた。

 驚かせるなよ。


「なんとなく聞いたぞ。」

「なんとなく聞いたか。」

「あぁ、なんとなくだ。」

「・・・・・・」

「断るんだろ?」

「そのつもりだ。」

「お前の思った通りで良いんでないかい?」

「思った通りがダメだったら困るわ。」

「まぁそうだな。何とかなるって。」


 そう言って俺の肩に手を置く。


「杉田・・・」

「なんだ?」

「手を洗ってからにしろ。」

「おまっ、いいところだったのよぉ、台無しじゃねぇか。」

「台無しとかそういうことじゃねぇって。」


 とりあえず、二人で洗面台で手を洗う。


「その、なんだ。あの子は気を付けたほうがいいよ。俺の感だけど。」


 そう言って俺の肩に手を置く。


「杉田・・・手を拭いてからにしろ。」

「だぁかぁらぁ、いいとこなのにって言ってるだろ?本当に台無しだよ。」

「でも、お前のおかげでリラックスできたわ。ありがとな。」

「おう、また明日な。」

「あぁ、また明日。」


*************************


 トイレから出ると、顔を真っ赤にしたデコリンがいた。


「ちょっと、中で何やってたのよっ。待ってるほうの身にもなりなさいよ。行くわよ。」


 なんだよ。面白い奴だな。そう思って少し驚く。さっきまでとは違う感想が出てきたのは意外だった。せっかくだから玄関まで移動する間にひとつ聞いておこう。


「なぁ、デコリ・・・石井さんよ。帰り道にはあんたもついてくるの?」

「後ろからね。あたしんちとなっちゃんんちは同じマンションなの。」

「っていうか、俺、家知らねぇんだけど。どこよ?」

「学校近くの団地だよ。」


 あそこか・・・。なんだかあそこのマンションには因縁みたいなものがあるな。


「そか。あそこか。でもさ、お前が付いて来たらできる話もできないんだけどな。できれば二人にしてくれないかな。」

「・・・そうだね。そうするよ。」

「うん、そうしてくれると助かるよ。」


*************************


 玄関では北田さんが一人で待っていた。

 デコリンと一言二言会話してデコリンがいなくなる。家に帰るのではなく、校内に戻るみたいだ。


「じゃ、そう言うことで。私は行かないから。二人でちゃんと話して。」

「わかったよ。」


 俺も心を決めて話しかける。


「じゃ、帰ろっか。」

「うん。」


 不思議な気分だ。付き合っている女子とでもないのに一緒に帰る。今までもこういうことはなかったわけじゃないけど、こんな流れで一緒に帰るなんてのは今までに経験がない。それに会話もない。俺から何か言うべきなんだろうか。


「えっと、どの道で帰るの?」

「こっちから。」


 そう指さしたほうは明らかに迂回ルート。通常ルートなら五分で終了なのに。


「そっか、なら行こうか。」

「うん。」


 ダメだ。会話になってない。というかなるわけないのか。そして、なんで俺がこんなに気を使う必要があるんだよ。

『でもさ、女の子にとって告白って、かなりのエネルギー使うんだよ?それは分かるでしょ?』

 茜の言葉を思い出した。そうだよな。それは、何話していいかわからないよな。それに、考えてみたら、コールドゲームなのに延長戦を戦っているようなものだ。楽なわけがない。


「はぁ~。あのさ。何か話してくれないと、俺も話しようがないんだけど。」


 北田さんは俯いたまま。俺の半歩後ろを歩いている。


「話すことないなら、俺、帰るけど。」

「・・・・・」

「はぁ。」

「・・・・・」


 なんだかなぁ。楽しくないな。デコリンにはちゃんと話せって言われたけど、俺から話すことなんかないしな。


「なぁ。なんか話せよ。」

「うん。」


 やっぱりダメだ。どうしたらいいんだろう。


「・・・あのね。」


 意を決したのか北田さんが重い口を開いた。


「なに?」


 俺が『何か話せ』といったくせにぶっきらぼうな返事をしてしまった。


「教えてほしいの。」

「何を?」

「足草くんが言ったこと。なんて言ってたの?」


 それが聞きたいのか。それは構わないがちゃんと話せるだろうか。

 俺はできる限り言われたとおりに言ったつもりだけど、何せ、記憶を辿りながらだから正確だったかどうかわからない。


「・・・・って感じかな。」

「そうなんだ・・それでなんて答えたの?」


 それを聞くのか。今。


「・・・そういう対象には見てないって・・・」

「そっか。」

「・・・・」

「じゃ・・キライって言ったわけじゃないんだ?」


 北田さんは少しだけホッとしたように息を軽く吐く。


「そんなことは言ってないな。あいつ、そう言ったのか?」


 無言で頷く。

 まったく、余計なことした上におかしなことを伝えやがって。まるで伝言ゲームの最初と最後の解答者くらいのズレがあるぞ。


「はぁ。なんで、アイツ経由でこんなことしたんだよ。」

「ごめん。私もそんなつもりじゃなかったの。ただ、急に聞かれたから・・・」


 全部アイツの暴走の結果じゃねぇか。・・・とも言えないか。俺が北田さんを恋愛対象として見てなかったことは変わらないもんな。


「あぁ、もうそのことはいいわ。なんか話しても仕方ないし。」


 歩きながら話す。半分くらいは歩いたかな。


「あと、さっきはごめんなさい。掃除の時。」

「あぁ、あれは最低だな。はっきり言ってムカついたわ。どういうつもりかわからんけどな。」

「本当にごめんなさい。」

「まぁ、もうそれも謝らなくていいわ。なんだか謝られてばかりでイヤになる。」


 謝られてもどうにもならない。もちろん、北田さんもそれは分かってるんだろうけど、謝らずにはいられないんだろう。だからって、俺の心にはなにも響いてこない。


「ごめん。でも、どうしても聞きたいんだけど。」

「なに?答えられることには答えるよ。この際だからね。はっきり言ってくれよ。」


 何を聞かれるのかは予想している。問題はなんて答えるか、だ。


「竹中くんは好きな人、いるの?」


 しまった、予想を外した。そういう聞き方だったか。好きな人か。


「今は・・・いないな。」


 たぶん、嘘じゃない。今は。


「じゃあ、他のことも聞いてもいい?」


 今まで横を歩いていたのに、俺の目の前まで走ってきて、そして、俺を見上げていった。


「いいよ。」

「私のことは、好き?それとも嫌い?」


 この質問はズルイだろう。

 なんで二択なんだ?

 第三の選択肢はないのか。

 仮に、嫌いと言った場合はあまりにヒドイ奴になる。

 それに別に嫌いというじゃない。

 なら、好きか?悪いけどそれもない。

 友達?そうは思っていた。

 そんなに親しいわけじゃないけど。

 だったらなんて答えるべきなんだろう。


「ごめん。その質問には答えない。だって、ズルイだろ、その聞き方は。」


 北田さんの横をすり抜けながら答える。


「そっか。そうだよね。」

「でも、あえて答えるなら嫌いじゃない。今日まではそう思っていたよ。けど、好きという感情も無かった。今まで。だから、付き合ってくれって言われても答えはノーだ。」


 そうこうしているうちに北田さんの家に近づいてきた。


「そういうことだから。もういいかな?」

「お願いがあるの。」

「どんなこと?」

「その・・・手をつないで欲しいの。」


 今なんて言った?

 俺の言ったこと、伝わってないのか?

 俺、何か誤解させるようなこと言ったか?

 いや、俺としては結構厳しいこと言ったはずなんだけど、どこをどう判断するとそのお願いが出てくるんだよ。


「えっと?意味が分からないんだけど?」

「だから、手をつなぎたいの。」

「それは無理だ。悪いけど。」


 自然、早足になる。早く、終わりにしたい。


「ごめん、今のはちょっと変だった。だから、もう一回。」


 ちょっとか?かなりぶっ飛んだ要求だったと思うけどな。


「なに。訳のわからないこと言ったらそのまま帰るよ。」

「竹中くんのことを好きなままでいてもいい?」


 なんだ?どういうことだよ。俺に何を求めてるんだよ。


「それは困るな。正直、北田さんのことは好きになれそうもない。」


 そう。好きになれそうもないんだ。


「そっか・・・それでも、私は竹中くんが好きだよ。」


 そう言って北田さんは家に向かって走っていった。


 よく考えてみると、面と向かって女の子に『好き』と言われたのは初めてだ。

 でも、どうしてだろう。嬉しいという気持ちにならないのは。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


杉田も出てこないと思っていましたが、こういうオチだったんですね。

男同士の友情とともにコント調になってしまう。

彼ららしいのかもしれません。


北田さんはどんな気持ちでいたのでしょう。

彼女は竹中のことが好きだったんでしょうね。本当に。

彼女の気持ちを考えるとちょっと切なくなります。


それにしても環菜は本当に登場しませんでしたね。

一体どこで何をしているのでしょうか。

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