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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第50章 それぞれの考えがあってそれぞれの行動がある
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雪まつりに行かないか?

受験直前のリラックスタイムとでも言ったところでしょうか。

 二月には受験がある。模試もあった。結果は悪くなかった。合格判定はAをもらえた。

 竹原先生からも『このまま行けば大丈夫だろう。』って言われたし、俺自身は順調だった。もちろん、翔のことは何も心配していない。アイツは絶対に大丈夫だ。きっと入試でも満点日回転数を取ってくるに違いないだろうし。


 そんなこんなで少し気が抜けてきそうな感じがあった。いや、もちろん勉強はしているぞ?塾にも行っているし。

 あぁ、あいつらは退塾になったよ。噂でしか聞いていないけれど、推薦が決まっていたアイツは取り消しになったとか。アイツのこれからの人生を考えると大変だろうな。俺の知ったことじゃないけれどさ。

 環菜も今までどおりに塾に通っている。一生懸命に頑張っているみたいだけれど、俺と一緒に受けた模試での合格判定はB。あんまり良い結果じゃなかったな。落ち込んでいるようには見えなかったけれども、環菜のことだから本当はすごく悩んでいるに違いない。


 そして、今週は雪まつりがある。俺は翔たちに声をかけて、みんなで遊びに行けたら最高だなって考えている。


 ん?

 入試が近いのに何を遊んでいるんだって?


 何を言っているのかね、息抜きだよ、息抜き。毎日のようにただ詰め込んでいたって効率が悪くなるじゃないか。そういうことにしておいてくれ。


 さぁ、翔に話をしよう。アイツならきっとノリノリで返事をしてくれるに違いない。そう思っての放課後。翔に明るく声をかけてみたんだ。


「翔、ちょっといいか?」


 翔は廊下で実花ちゃんと話しをしていた。ちょっと邪魔をしてしまったような気もしたけれど、ある意味好都合。二人同時に話をすることができるからな。


「お、夕人じゃないか。元気そうで何よりだなぁ。」

「いや・・・今日もいろいろと話しをしていたじゃないか。何を『今日初めて会ったけれど?』みたいなことを言ってんだよ。」


 翔の話し方は俺は結構好きなんだよな。こういう感じに楽しく話をすることが出来たら良いなって思うんだけれど。


「そうだなぁ・・・夕人と会うのは数分ぶりだもんな。」


 わかってる。そんなことは俺もわかってる。話をしたのは数時間ぶりではあるけれどな。


「そんな漫才はどうでもいいけれど、どうした改まって。なにか話があるんだろう?」

「そうそう。実はさ、雪祭りに行こうって思ってるんだ。だから一緒に行かないか?」


 俺の提案を聞くのと同時に翔と実花ちゃんはお互いにお互いの顔を見合わせる。


「えーっと、それはあたしのことも誘ってるのかな?」

「もちのろんですよ。できればみんなでーって考えてたんだ。」


 いつも以上にテンションがあがる。それは模試の結果が良かったことも原因なんだけれども、みんなで遊びにいけるっていうのが嬉しかったんだ。


「入試が近いってこと、わかってる?」


 実花ちゃんの表情が曇る。

 その表情の変化を見て、俺がいかに浮かれポンチだったのかを気付かされた。


「・・・わかってます。」

「まぁ、そう言うなよ、実花。夕人は息抜きをしようって言ってんだからさ。」

「そうそう。」


 翔の言葉に便乗しながら頷いた。翔は苦笑いを浮かべたままだった。


「でも・・・」

「じゃ、俺から言うか。」


 ん?なんだろう。良い予感はしないな。


「なんだよ・・・」

「実はな・・・」


 そう言って翔は肩を組みながら耳元で囁いてくる。


「俺達、二人で雪祭りに行く約束をしたんだ。だから・・・悪いな。」


 なんだよ。実花ちゃんめ。俺にはあんなことを言っておきながら二人でよろしくやっているんじゃないか。ちょっと悔しい気もするけれども、ジャマをするのも野暮ってもんだ。


「なるほど・・・」


 俺は軽く頷いた。そして翔が俺から少し離れてニヤッと笑みを浮かべる。


「他のやつを誘っていってこいよ。お前が声をかけたらみんな行くっていうんじゃないか?それこそ・・・」

「翔?何を言おうとしてるの?」


 実花ちゃんが翔の顔を睨みつけながら足をグリグリと踏んでいた。


「いてて・・・いや、別におかしなことは言っていないぞ?なんというか、そう。客観的事実を俺独自の考察を交えて口にしているだけだ。夕人はモテモテだからな。おそらく教室で声をかけたら五人位の女子は一緒に行くと言うはずだ。」

「五人?」

「翔・・・あんたってバカねぇ。夕人くんはそういう性格じゃないでしょうが。」


 呆れながら深い溜め息を漏らしている実花ちゃんだったけれど、それよりもさ、気になるのは五人っていう翔の意味深な人数のことだ。


「えっと・・・五人って?」


 だから、翔にそのまま疑問をぶつけてみた。実花ちゃんは俺の質問に驚いたような表情を浮かべ、すぐに首を左右にふる。


「ちょっと夕人くん。どうしてそんなことを聞くのかなぁ?」

「だって、気になるじゃないか。」

「気になるんだ・・・そうなんだ、へぇ・・・」


 実花ちゃんの目線が痛い。


「夕人よ。胸に手を当ててよく考えてみるのだ。」


 翔は実花ちゃんの態度を全く気にもせずに目を大きく見開いて言った。


「え・・・」


 頭の中で考えてみる。なんとなく良い返事が貰えそうな五人の顔が浮かんだような気がした。


「夕人くん?もし、そんな五人を連れて雪祭りに行くってなったら・・・クズ認定するからね。」

「クズ認定?」

「そう。そんな状態、あたしは許さない。」

「実花が許すとか許さないとかじゃないんじゃないか?はっきり言えば、夕人以外の女子たちがどう思うかってことだろう。」


 翔はムフーっと鼻息を荒くしながら俺と実花ちゃんの顔を見比べている。


「そうだけれど・・・」


 実花ちゃんは軽く息を吐き、首を左右に振った。


「まぁ、でもさ。みんなが行きたいって言うなら俺達も一緒に行くさ。な?実花?」

「え?それはもちろんそうだけれど。」


 翔の笑顔の言葉に実花ちゃんは呆れるでもなく、怒るでもなく答えていた。


「そっか、わかった。じゃ、みんなに声をかけてみるかな。」

「みんなとか言ってるけれど、本当は誘いたい子は決まってんだろ?」


 翔が拳で軽く俺の胸を小突いてきた。


「あ・・・えっと・・・」


 軽く笑みを浮かべて誤魔化してみた。


「あぁ、そういうことね。よくわかったわ。そういうことなら協力してもいいわよ。」


 実花ちゃんが笑みを浮かべて俺の顔を見てきた。俺は何も言っていないけれどなっ。


「いやいや・・・あはは・・・」

「ほら、じゃ、さっさと声をかけてきたら?お目当ての子は、きっと、その言葉を待ってるわよ?」


 実花ちゃんに腕と背中をバシバシっと叩かれながら教室の中に送り出される。


「いや、ほら、こういうのって心の準備が必要だろ?」


 俺の背中を押しながらニヤニヤしている実花ちゃんに首を後ろに向けながら話しかけた。


「あたしたちの助けが欲しいってこと?」

「平たく言えば。」

「根性なし。」


 ごもっともでございます。まったくもって。


「夕人。」


 翔がドアの隙間から顔を覗かせる。


「ん?」

「頑張れ。」


 そう言って親指を立ててみせる。


「ちょ・・・」


 そうこうしているうちに、実花ちゃんに俺の席の近くまで押し込まれてしまった。眼の前には本を読んでいる明菜が座っている。

 ドキドキしてきたぞ。


「あっきなー。夕人が話があるんだって、聞いてあげてくれる?」


 実花ちゃんは俺の背中からヒョイッと顔をのぞかせながら明菜に声をかけた。


「え?はなし?」


 明菜は本を読むのを中断して、俺の顔と実花ちゃんの顔を等分するように見ていた。その評定に驚きとか、戸惑いとか、そう言ったものは見られないように思えた。


「さ、あとは夕人くん次第だねぇ。」


 うふふふふと不気味な笑みを浮かべたまま実花ちゃんは教室から出ていった。


「えーっと、お話って?」


 明菜は読んでいた本にしおりを挟んでパタンと閉じ、机の上に置いた。」


「あー・・・その・・・何の本読んでるの?」


 違うだろう、俺。それを今聞くか?今じゃなくても良いはずだろう?


「あ、これ?小説だよ。『スタンド・バイ・ミー』っていう海外の本。すごく楽しいんだ。ちょっと暗いところもあるけれどね。」


 明菜は普通に笑顔だ。そう言えばいつも読んでいたような気がするな。思い返してみるとさ。それに、前にも聞いたような気がするし。


「あー・・・あれね。友達みんなで冒険に出るっていう。」

「そうっ、そのみんなの友情とか、そういうのが描かれていてね、好きなんだぁ。」

「へぇ・・・俺も今度読んでみよっかな。明菜が読み終わったら貸してよ。」

「いいよ。でも、夕人くんも本を読むんだね。なんとなくそういうイメージはなかったから。」


 俺ってそんなイメージ?まぁ、あんまり読まないことは確かだなぁ。読書感想文のために読むみたいな、そんな感じかもしれない。


「うーん、全く読まないってわけじゃないぞ?推理小説とかは読んだことあるし。」

「へぇ・・・おすすめとかある?」


 明菜の笑顔を見ながら話をしているとどんどん話が本題からそれていく。


「いや・・・羅生門・・・とか?」

「いやだぁ、あんなの暗いじゃないっっ。そりゃ、名作って言えば名作だけれど、そういうのじゃなくってね?」


 わかってる。明菜が言いたいことなんて百も承知だよ。でもさ、最近読んだのは一冊だけなんだよ。それに難しくていまいちわからないとこもあったからなぁ。


「ん・・・リプレイっていうのは読んだ。難しいっていうか、何ていうか・・・」

「リプレイ・・・再生?」


 明菜は首を傾げながら尋ねてくる。


「そう、人生をリプレイするっていう話。」

「へぇ・・・なんだか面白そうだね。うん、それ、今度貸してくれる?」

「いいよ。」

「ほんと?ありがとう。」


 両手を合わせるようにして満面の笑みを浮かべる明菜の表情をみて、誘うなら今しかないって思った。


「あのさ、それで、話が変わるんだけれど・・・」

「ん、何かな?」


 相変わらずの笑顔だ。いかん、本気でドキドキしてきた。彼女にこんな感じで声をかけるのは二年ぶりだ・・・


「雪まつり・・・一緒に行かない?」


 俺の言葉に明菜の表情が少し曇る。そして、目線を軽く右にそらした。


「えっと・・・それって、二人でってことかな・・・」


 小さめの言葉で問いかけてくる真意はわからない。


「えっと・・・二人でもいいかなって・・・思うんだけれど・・・だめかな?」


 俺の言葉に明菜はほんの少しだけ考えこむように右手を口元に持っていく。

 もしかして駄目だったのか?そう思ったときに明菜が返事をくれた。


「みんなが行くって言うなら・・・いいよ・・・」


 みんな。そのみんなっていうのは一体誰のことを言っているんだろう。


「みんな?」

「うん。小町ちゃんとか茜ちゃん。翔くんとか。」


 そういうみんな、か。でも、なんだろう。俺、明菜からは良い返事がもらえるって勝手に思っていた。だからかな、すごくがっかりした自分がいたんだ。


「そっか。」

「うん、みんなには声をかけたの?」

「まだ。」

「じゃ、私の返事はそれからね。」


 そう言うと明菜は机の上に置かれていた本をカバンにしまいこんで帰り支度を始める。


「あ、帰るんだったら一緒に帰らない?」


 とっさにその言葉が口から出た。


「んー、それは嬉しい言葉だけれど。雪祭りに行くんだったら今週末でしょう?で、今日は木曜日。早く声をかけたほうが良いと思うよ?今日は茜ちゃんも学校に来てるし、ね?」


 笑顔でそういう明菜の気持ちを俺は理解できなかった。


「じゃ・・・また、明日ね。夕人くん。」


 呆然とした俺の横を明菜がスッと歩いていった。

 そして、それを待っていたかのように廊下から翔と実花ちゃんが俺のもとにやってきた。


「どうだった?」

「ね、どうだったの?うまく誘えた?」


 翔は俺の肩を組みながら、実花ちゃんは俺の正面にしゃがみこんで覗き込むようにしてきた。


「いや・・・断られた。」

「マジか。」

「嘘でしょう?」


 二人とも驚きを隠せないといった表情を浮かべている。俺だって信じたくない。でも、事実だ。


「なんて言われたよ。」

「そうよ、なんて言われたのよ。」


 二人は俺の顔にグイッと迫ってきながら尋ねてきた。


「近いっ、顔が近いっ。」

「良いからいいなさいよ。」


 実花ちゃんはまるでひるまない。まぁ、こういう子だったよな、昔からさ。


「みんなでなら・・・行ってもいいって。」


 俺の言葉に翔が『うーん』と唸っている。対して実花ちゃんは『あぁ、そういうことかぁ。』なんて行って納得しているように見えた。


「二人で納得してんじゃねぇって。こう見えても凹んでんだぞ?」


 眉間にシワを寄せながら二人を睨みつける。


「で、夕人くんはどうすんの?」

「みんなに声かけるよ。」

「ほう・・・」


 実花ちゃんの問いに答えた俺に対して翔が一人頷く。


「みんなねぇ・・・」


 実花ちゃんはため息を漏らしていた。


「仕方がないだろう?明菜がそういうんだから・・・」

「まぁねぇ・・・でも、どうなのかなぁ。」


 実花ちゃんはそう言って再びため息を漏らした。


「だから、今から声かけてくる。そういうことだから、二人も頼むなっ、一緒に雪祭りに行ってくれるよね?」


 返事も聞かずに他の子のところに駆け出していく俺。さしあたっては誰に声を掛ける?みんなで行くってことなら小町か?小町だな。そうだな、小町と茜だ。よし。

 そんな夕人の姿を見ながら翔と実花は顔を見合わせて苦笑いを浮かべていた。



「小町、茜っ、ちょっと話があるんだけれど。」


 教室の隅っこの方で二人で話していた二人に声をかけた。


「あ、夕人くんじゃない。どしたの?なんか慌ててるね。」


 茜はあの日以来俺との距離感が変わったような気がする。小町も同様だ。でも、小町は何ていうか今までのように蹴り飛ばしてこなくなったってくらいの変化だけれど。


「いや、実はさ。みんなで雪祭りに行かないかって。翔たちも来るし、それに明菜も来ると思うんだけれど。今週末にどうかなって。」


 俺の思いをよそに二人は顔を見合わせている。そして、茜が申し訳なさそうに返事をしてきた。


「ごめんね、夕人くん。私は小町ちゃんと、ほかの友達と一緒に行くことになってるんだぁ。」

「そうそう、そうなのよねぇ。ちょっと遅かったよ、夕人。」


 小町も茜の言葉に続けてそう答えてきた。


「え、マジ?そうなん?」

「マジマジ。大マジよ?」


 茜は笑顔を浮かべたままだ。小町は『ごめんねぇ。』と言っている。どうやらこれは本気でダメっぽいな。マズイなぁ。どうしたらいいのかなぁ。そう考えながらいたところで茜に声をかけられる。


「環菜を誘ったら?ほら、去年の雪まつりはいろいろあって行けなかったみたいだから、今年は行きたいって行ってたよ?私たちも誘われたんだけれど、環菜も声をかけてくるのが遅いのよねぇ・・・」

「そうなのよ。本当は環菜も一緒でもいいかなって思うんだけれど、その友達っていうのが環菜と全然接点がないっていうか・・・」


 ふーむ、よくはわからないけれども、茜と小町にとっては共通の友達だけれども、環菜にとっては全く知らない人たちって言うことか。それは・・・環菜にとっては厳しいよなぁ。


「そっかぁ・・・」

「ごめんね。」


 茜が再度申し訳なさそうに両手を合わせながら謝ってきた。


「いやいや、俺が急だったから仕方がないよ。うん、楽しんできてくれよ。」


 俺は二人に笑顔を向けてその場を立ち去った。


「はぁ・・・あれで良かったのかな?」


 夕人が立ち去ったあとに茜が小町に声を掛ける。


「いいんじゃないの?私たちにはもう、それが一番いいと思うもん。」


 茜の言葉に小町が悲しそうな表情を浮かべて言った。


「でも、明菜はなんでそんなこといったんだろうね?」

「わかんないよ、でも、もし誘われたこう言おうって決めてたでしょう?私たちは。」


 小町は茜の言葉に少しだけぶっきらぼうに答えた。


「聞こえていたわけじゃないけれど、いや、ちょっとは聞こえていたけれど。わけ解んないね。」


 茜は腕組みをしながら口をとがらせてみせた。


「そんなの・・・私にわかるわけ無いじゃん。」


 小町はそのままそっぽを向いた。


「よしよし。小町ちゃんは頑張ったんだね。わかるよ、その気持ち。だ・か・ら・・・」


 そう言って茜は小町を軽くくすぐった。


「ちょっ、やめて・・・」


 小町は身悶えしながら大きな声で悲鳴のようなものを上げていた。それは教室から注目を集めていたけれども、いつもの二人のじゃれ合いだってことがわかるといつもの今日いつの雰囲気に戻っていった。


「一緒に行こっか。雪まつり。」

「うん・・・」


 茜の言葉に小町は頷いた。目にはくすぐられたせいか涙が少しだけ浮かんでいた。



「あーのさ、環菜。帰ろうとしてるとこ申し訳ないんだけれどさ。」


 茜と小町の大声での騒ぎ声が聞こえているさなかに声をかけた。


「え、なに?」


 環菜は塾の予習でもしていたのか、テキストとノートが机の上に広がっている。全然帰ろうとしていないじゃないか。


「勉強してたのか・・・帰るっていう感じじゃないね・・・」

「うん、模試もあんまりいい結果じゃなかったしね。もうちょっと頑張らないとマズイことになっちゃうかもしれないから。」


 環菜は苦笑いを浮かべている。


「マズイって言ってもさ、B判定じゃないか。問題ないと思うけれどなぁ。」


 環菜の苦笑いを見ていたら、簡単に笑みなんて浮かべることは出来ないけれども、でもそう思ったんだ。


「そうだと思いたいんだけれど。」


 環菜は笑みを浮かべながらも、不思議そうな表情を浮かべてきた。


「あの二人・・・なんであんなに騒いでいるの?」


 茜と小町の二人の方に目線を向けながら環菜は俺に尋ねてきた。


「さぁ・・・俺にもわからないけれど?」


 俺も二人の方を見たけれど、ただじゃれ合っているようにしかみえない。


「なんだか、楽しそう。」


 そう言って笑いだした環菜を見て少し安心した俺だった。


「そうだな、なんだか楽しそうだ。」

「そうね。それで?なにか話とか会ったから声をかけてきたんじゃないの?」


 そう、その通りなんだけれどさ。今の話の流れから雪祭りに行こうって声を掛けるのはいかがなものかと思うわけだ。


「あ、いや・・・うーん。」

「話しにくいこと?だったら・・・移動する?」


 環菜はそう言いながら机の上の物を片付け始める。


「いや、そんなことでもないんだけれどさ。」


 そう言って俺は右手で軽く頭をかいた。


「うーん、夕人くんがそういう仕草をするときって、ちょっと困ってるってことだよね?」

「あはは・・・バレたか。」


 さすが環菜。付き合いが長いだけあるよ。もう、丸々三年だもんな。そして、それは中学生活の終わりっていうことで、こんな関係も終わるってことを示してるわけだ。そう思うとなんだか寂しいっていう感じもするよな。


 環菜とはいろいろあったけれど、いい友達だったんじゃないかって思う。いろいろな場面で彼女には助けてもらった。小町の事件の時も、彼女がいなかったらどうなっていたか。


「それで?どうしたの?」


 環菜はハァッと軽く息を吐き、そう尋ねてきた。


「実はさ、みんなで雪祭りに行こうかって・・・そういう話が出てたんだけれど・・・どうかなって。」

「雪まつり?」

「うん、受験とかあるけれども息抜きにどうかなって。」


 恐る恐る環菜の表情を伺ってみると、彼女は目を左右に動かして何かを考えているみたいだ。何を考えているのかなんてことはもちろん俺にはわからない。


「そうね。うん、いいよ。行こうか。」


 環菜は頷きながら返事をくれた。


「いいのか?」

「いいよ。一日くらい勉強しなかったからってそう変わらないと思うし。」


 なんだろう、意外に環菜らしくないセリフが聞けたように思うけれど。


「そうだよな、今更そんなに変わらないよな。」

「それは・・・ちょっとひどいんじゃない?」


 環菜は笑みを浮かべながらも非難するような口調で言った。


「あ、ごめん、そういうつもりじゃないよ?」

「わかってる。それよりも、他には誰が来るの?茜とか?」


 環菜は軽く笑い声を上げながら当然の疑問を俺にぶつけてきた。


「いや、茜と小町は来ないんだ。っていうか、それは知ってるんじゃないの?」

「え?あ、うん。なんとなく・・・かな?知ってるっていうか・・・」


 なんだか歯切れが悪い。どういうことなのかはわからないけれど、女の子たちの事情に口をだすのもどうなのかって思う。だからこれ以上は聞かなかった。


「で、翔と実花ちゃんは多分来ると思う。」

「それから?」

「明菜はまだわからない。みんなが行くならって言ってたけれど。」


 俺の言葉に環菜が驚いたように目を丸くする。


「そうなの?」

「あぁ、今日はもう帰っちゃったみたいだから、明日聞いてみるけれど。」

「そう・・・」

「そうなんですよ。」


 不思議な沈黙の時間。俺のアホみたいな作り笑いだけが浮いてしまっている。


「ま、いいわ。きっと明菜も『来る』って言うだろうから。」


 だといいんだけれどなぁ。その言葉は口にせずに苦笑いを浮かべてみせた。


「じゃ、土曜日?それとも日曜日?土曜日だったら学校の帰りにそのままっていう手もあるし、でも、一度帰ってからのほうがいいわよねぇ。」


 環菜はなんだか楽しそうだ。少なくとも俺にはそう見えた。

 よくよく考えてみると、環菜と学校以外の場所で会うっていうのは久しぶり?いや、翔の家とか、そういうところではよくあっていたけれど、俺が声をかけて遊びに行くっていうのはあんまりなかったような気がする。


「そういえば・・・去年に私が声をかけた時は断られた。」


 環菜に言われて少しだけ考えてみた。


「ん・・・そうだったっけ?」

「そう、先約があるって。そして、みんなも都合が悪いって。」


 思い出した。そういう事もあったな。あの時はローザと出掛けたんだっけ。つまり・・・本当にあれから一年の時が流れたってことか。思い返すとあっという間のことだよな。この一年はいろんな事があったから、本当にそんな気がする。


「あぁ・・・そんなこともあったね。」

「うん、ローザ先輩と行くなら行くって、そう言ってくれたら良かったのに。」


 環菜が少しだけ意地の悪いことを言ってくる。でも、悪気があっていっているわけじゃないだろう。彼女はこういう性格の子だし。


「いや、それもなんだかさぁ。言いにくいじゃないか。」

「そうかしらね。」

「そうさ。」


 俺の言葉に環菜は納得がいかなそうな表情を浮かべている。


「ま、それはいいさ。で、土曜か日曜か、まだ決めてないけれど、どっちがいい?翔たちにも聞いてみないといけないけれどさ。」


 俺は話題を切り替えようといて雪まつりの話に無理矢理に戻した。


「そうね・・・私はどちらでも大丈夫。遅い時間にならなければね。」


 そう言って笑みを浮かべた。


「そっか。じゃ、そういうことで話を進めちゃうけれどいいかな?」

「うん、楽しみにしてる。」


 その時の環菜の浮かべた表情は今日一番の笑顔のように見えた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


どうやら夕人は目的のために手段を間違えているようですね。

そして、その手段を行使している間に目的を忘れているような・・・


さて、久しぶりに環菜の『怖さ』が垣間見えている気がします。

このあとはどうなっていくのでしょう。

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