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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第49章 あと・・・ひと月だね
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巻き込まれ・・・一応の解決へ

そう言えば、環菜と夕人の二人のシーンというのは意外に少ないですよね。

 それから警察署に連行される形で一時間ほどみっちりと事情聴取された。

 そして、警察からの連絡を受けていたお父さんと、担任の竹原先生からもきっちりと絞られることになった。竹原先生の話だと、相手方のあのバカの学校の先生も当然呼び出されていたようで、そちらとも話し合いが持たれたりしたようだ。どちらにしても、学校側からの処分はこれから検討ということになるらしい。

 そして、警察からの処分は・・・幸いして何もなし。被害者として認定されたらしい。お父さんと一緒に警察の人と話をした時に『傷害やら恐喝やら何やらで起訴することもできるけれどどうするか』なんてことも聞かれた。

 お父さんも俺に『どうしたい?』と聞いてきたから、『別に・・・』って答えた。だってさ、そんなの面倒だし、向こうの人生が終わっちゃうだろう?いや、実は凄く聖人のような事を言ったけれど実際はよくわかってなかったからお父さんに任せたんだ。そうしたら、さっきみたいな言葉を口にしたわけ。だから、俺の言葉じゃなくってお父さんの言葉ってことだ。

 そして時間にして12時少し前。ようやく解放されるということになった。


「お前の友達にお礼をしてこい。」


 お父さんにそう言われた。ローザと村雨先輩も警察署に来ていて、今まで俺のことを待っていてくれていたのだっていう話だ。


「うん、ちょっと行ってくる。」


 俺はお父さんにそう言ってローザたちの姿を探した。



「あ、終わったんだね?」


 俺の姿をいち早く見つけた村雨先輩が声をかけてきた。


「はい、終わりました。すみません、ご迷惑をおかけして。」

「いやいや、良かったよね、私たちがすぐ近くにいてさ。いなかったらマズイことになっていたかもよ?」


 頭を下げながら言った俺の言葉に間髪入れずにそう答えてくるレスポンスの良さ、さすがです。そして、ありがとうございます。


「でも、どうしてあんなところに居たんですか?」


 一つの疑問をぶつけていた。だって、あの辺りは村雨先輩の家の近くでもなければ、ローザの家の近くでもないのだから。


「あのね、実はあの辺りでうちの親がお店をやってるのよ。小さな喫茶店だけれどね。だから、今日はたまたま(・・・・)、ローザと話をしていたって言うわけ。」


 喫茶店?確かにそんなお店はあったような気がするけれども、世の中って狭いんだなぁ。悪いことはできないな、本当に。


「そういうことだからね、運が良かったということだよ。」


 村雨先輩は笑顔を浮かべたままいろいろと話しをしてくれているけれど、ローザは一言も話してくれない。俺だってやっぱり少し気まずいから、面と向かって話しかける事ができなかった。


「ところで・・・ローザとは別れたんだってね。」

「ちょっ・・・窓花っ、何言ってんのよっ。」


 突然の言葉に慌てふためいたようにしてローザが村雨先輩の腕を引っ張っている。


「ん?だって、私は聞いてないからね、彼から。今日は無理だとしても、近いうちに話をしなくちゃいけないなって思っていたのよね。」


 澄ました表情のままそう答えている村雨先輩が少し怖いと感じた。


「別に、話すようなこともないじゃない。私が話したでしょう?」

「あー、はいはい。わかったから。じゃ、そういうことで夕人くん。明日の放課後。ローザも連れて行くから区民センターで七時に。いい?」


 何という強制的な約束。これはもはや命令だよ。


「私、部活もあるし、七時って言われたって・・・」

「一日くらいサボりなさいよ。」


 なんてお人だ。ローザが一生懸命にやっている部活をあっさりとサボれとは。俺には絶対に言えないことだ。


「え・・・うん、わかった。」


 わかったって、それでいいの?ローザ。もしかして、なにか身辺に大きな変化でもあったのかな?


「じゃ、そういうことだから。私達は先に帰るね。いろいろな話は明日にしよう。」


 そう言って村雨先輩はローザの手を引き、警察署の出口に向かって歩きだした。


「あ、そうそう。玉置さんだっけ。あの子もまだここにいるはずよ。」


 俺だって環菜がいるってことを忘れていたわけじゃない。ただ姿が見当たらなかったから、もう帰ったのかとも思っていたんだ。


「そうですか、ありがとうございます。ちょっと探してみます。」

「さっきトイレに行ったよ。」


 ローザがそう答えてくれた。俺の顔は全然見ないけれど。


「そっか、わかったよ、ありがとう。」

「また、明日ね。」


 二人は建物から出ていった。

 いろいろと思うところはあるけれども、ローザに会えて元気な姿を見ることができたのは良かった。まぁ、あまりに意外すぎる出会いではあったけれど。


「さて、環菜にもお礼を言っておかないと。」


 トイレを探している時にお父さんに声をかけられた。


「お礼は言えたか?」

「あ、もう一人。同じクラスの玉置さんに。」


 そう言えば、彼女は母親とか来ていないのかな。帰りはどうするんだろう。


「同級生か。その子は同じ塾なのか?」

「うん。」


 そんなやり取りをしていたところに環菜の姿を見つけた。


「あ、環菜っ。」


 俺の声に反応した環菜はホッとしたような表情を浮かべた。しかしそれもつかの間。お父さんの姿を見たせいなのか緊張の面持ちに変わっていく。


「君が玉置さん?」


 俺が知っているよりもずっと優しい声を出したお父さんに驚いた。


「あ、はい。玉置環菜と言います。竹中くんとは学校と塾で同じクラスなんです。」


 頭を下げながらそう言っている環菜の姿はなんだか新鮮な感じがした。緊張している環菜を見る機会なんてあまりないし。


「今日はありがとう。夕人が迷惑をかけてしまったね。」

「いえ・・・そんなことは・・・」


 俯いているのは緊張しているからだろうな。


「玉置さんは帰りはどうするんだい?親御さんが迎えに来ているのかな?」

「いえ・・・うちのお母さんは・・・」

「だったら家まで送っていこう。車で来ているからね。夕人もそうしろって言っていたし。どうだい?」


 俺がいつそんな事を言ったよ。笑顔を浮かべながら俺の顔を見るなよ、お父さんっ。


「え、いえ・・・でもご迷惑がかかりますから・・・」

「こちらがかけた迷惑のほうが大きいよ。それに、遅い時間ではあるけれどそちらの親御様にもご挨拶をしなければいけないからね。きちんとしたお礼は、また、後日にお伺いするとしても。大切な娘さんをこんな時間まで夕人のことで引っ張り回してしまったんだから。」


 確かにお父さんの言うとおりだと思った。だから、俺も一言付け加えた。


「そうだよ。乗っていきなよ。」

「え、でも・・・」

「こんな時間だと危ないって。な?」

「う、うん・・・」


 妙にいつもよりも歯切れの悪い環菜だったけれど、お父さんが居たせいで緊張しているんだろう。うん、俺だって誰かの親御さんにあったら緊張するもんな。


「よし、では行くか。」


 そういうが早いか、お父さんはさっさと車に向かって歩き始めた。



 車の後部座席に環菜と一緒に座る。しかもお父さんの運転で。こんなことは初めての経験だった。


「大丈夫だった?夕人くん。」


 小さな声で話しかけてくるのはお父さんに聞かれたくないからなのか、それとも?


「うん、こってり絞られはしたけれど大丈夫。」

「何が『大丈夫』だ。こんなに色んな人達に迷惑をかけておいて。」

「う・・・それを言われると・・・」


 確かにその通りだよな。環菜だけじゃなく、村雨先輩やローザにまで迷惑をかけたもんな。


「でも、お父様。今回のことは私に原因があるのかも知れないんです。」


 環菜が半分身を乗り出すようにして運転中のお父さんに声をかけた。っていうか『お父様』って気持ち悪い響きだなぁ。


「君の?」


 お父さんは表情を変えることなく運転に集中しているようだ。なんと言ってもツルツルに凍っている冬道だからな。気をつけて運転しないと大変なことになってしまう。


「はい・・・私が一緒に居たせいでこんな事になったのかも知れません。」


 環菜がシュンとなり、俺の隣で小さくなる。


「そんなことはないって。関係ないだろう?あーゆー馬鹿な奴がいるんだって。」


 俺は環菜の事をかばっているわけじゃない。そう思っているからそう言ったんだ。


「夕人。その言い方は良くないな。それに、絡まれた方にも原因があるんじゃないか?お前が何かやらかしたってことはないか?全く身に覚えがないか?」


 え、そう言われるとどうなんだろう。無いとは思うけれど・・・自信はないなぁ・・・


「そんなことはないですよ、お父様。私は、夕人くんと塾でも一緒に居ましたけれど、夕人くんから何かをしたなんてことはありませんでした。」


 環菜がはっきりしっかりとそう言ってくれた。


「そうか。なら、そういうことにしておこうか。」


 お父さんはそう言って黙り込む。なんだよ、その言い方。まるで納得はしていないと言わんばかりじゃないか。


「私は・・・そういう災難を運んでくる人間かも知れないんです。」


 環菜の言葉にお父さんは何も言わないけれども、俺には思い当たることが一つだけあった。そう、入学式のことだ。でも、あれだって環菜に落ち度なんて一つもなかったと思うんだけれどな。


「何を言ってんだよ。そんな事あるわけがないじゃないか。」

「でも、あのときのことだってあるし・・・」

「ま~だそんなこと言ってんのかよ。アノ事はもう、解決しただろう?ちゃんと話をしたし、三年近く前のことじゃないか。」


 努めて明るく声を出す。環菜に嫌な思いをさせたくなかったから。


「うん、でも・・・」

「デモもクソもないんだよ。環菜は今までどおりにしていればいいんだよ。何も悪いこともしていないだし、いつもどおりでいいんだよ。」


 たぶん、それでいいはずだ。俺はそう思っていた。


「玉置さんの家は学校の裏手のマンションだったね。もうすぐ着くよ。」


 お父さんは環菜の言葉に対して何も言わない。いや、言わないのか言えないのか。それは俺にはわからなかった。


 ゆっくりではあるけれども確実に環菜の家に近づいているようだった。



「それじゃ、ここで待っているから、頼めるかな。」

「はい。わかりました。」


 二人の会話をただ眺めていた。

 ここは環菜の住んでいるマンションの入口。環菜がこんなに遅くなってしまったお詫びと事情の説明をさせて欲しいってことだ。ただし、時間が時間だ。もう夜中だからな。先方の都合が悪ければ改めて伺うという事になっている。


「夕人。あの子とはどういう関係なんだ?」

「は?」


 いきなりの質問に驚いた。だって、お父さんからこんな事を聞かれたのは初めてだったからさ。


「どういう関係って。クラスメートだよ。」


 それ以上のことなんて全く無い。そう、ウソじゃなくって本当に。


「そうか。」

「うん。」


 それっきりお父さんはまた黙り込んでしまった。

 なんだよ、ダンマリはやめてくれよな。



 玄関フロアで待つこと数分。再び環菜がやってきた。どうやら環菜のお母さんも一緒のようだった。


「わざわざすみません。警察からの話は聞いていたのですけれども、私には娘を迎えに行く手段がなくて・・・」


 そう言って頭を下げたのは環菜のお母さん。


「いえいえ、こちらこそ。大切な娘さんにご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。本日はそのお詫びといった形で夜分にもかかわらず申し訳ございませんでした。また、改めましてお礼とお詫びにお伺いさせていただきたいと考えております。」


「そんな、お礼だなんて。こうやって送り届けて頂けただけで十分ですのに。」

「いえ、しかしそれでは申し訳がございませんので。ほら、夕人もきちんと言いなさい。」


 お父さんに頭のグイッと押さえつけられた。


「あ・・・今日は本当にありがとうございます。そして、すみませんでした。」


 何を言っているんだ俺は。なんだかうまく言葉にできていないだろう、これ。


「いいえ、夕人くん。いつも環菜がお世話になっているって聞いてますよ。だから、これからも仲良くしてあげてもらえますか?環菜には友達なんて全然いないから・・・」


 友だちがいない?そんな事、無いと思うんだけれどな・・・


「はい、よろしくおねがいします。」


 でも、そんな事をここで言っても仕方がないよな。


「では、本日は簡単ではありますけれど、これで失礼させていただきます。また、改めてご挨拶に伺わせていただきますので。」

「お気になさらずに。そんな、お礼なんて結構ですから。」

「そうですか・・・では、夕人から御礼の品をお渡しさせていただきますのでご容赦頂けますでしょうか。」

「本当に結構ですから。娘と仲良くしていただいているのに、そんなものはうけとれません。」


 うーん、大人の会話だ。俺と環菜が口を挟む余地なんてありゃしない。


「そうですか・・・では、本日はこれで失礼させていただきます。」


 そう言って頭を下げたお父さんに倣って、俺も頭を下げる。


「こちらこそ、こんな場所でお構いもできずに。」

「夕人くん、また明日ね。」


 俺とお父さんは何度か頭を下げてその場を後にしたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます


ローザと村雨先輩が久しぶりに登場です。

いいところで彼女たちは登場してくれますよね。

私にとってもありがたい限りです。


それにしても、入試間近のこの時期にこんな事件は・・・かなりの大問題になること間違いないですよ。


さて、しばらくはこの事件の話が関わってくるんでしょうか?

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