バカ夕人って呼ぶなよ。チビ小町。
チーム北田と竹中の一戦。
なかなか強烈でした。
チーム竹中はどのような行動に出るのでしょうか。
「夕人くん・・・。ごめん。聞こえちゃってた。」
茜が教室の入口で呆然とした表情で立っている。
「見てたのか?」
「うん、全部。ごめん。見る気はなかったんだけど。」
茜がこんな困った表情をするなんて、よっぽどバツが悪いと思ったんだろうな。
「あれだけのことが起こってたら、そりゃ、誰かは見てるよな。」
「うん、結構聞こえてたと思う。」
「はぁ、どうしたもんかね。」
何かいい考えはないものだろうか。
「夕人くんは、どうしたいの?」
俺がどうしたいのか?そんなのは決まってる。
「俺には関係ないんじゃないか?そもそも、足草が悪いんだしさ。」
「そうかも知れないけど。悪いのは足草くんかも知れない。けどね。きっと、タイミングがなかったんだよ。北田さんには。だから、今日のタイミングを・・・なんて言ったらいいのかな。自分では言いにくい子だっているんだよ。みんながみんな、夕人くんみたいには強くないんだよ。」
それは分からないわけじゃない。
でも、タイミングがなかったにしてもさっきのはおかしいだろ?俺には理解できない。。
「そうだとしても、あのやり方っておかしくないか?」
「うん、それは私も思うよ。でもね。わかってあげて欲しいなと思う。知らない女の子を守るために立ち上がれる男の子なら、わかってあげられると思うんだ。北田さんの気持ちを受け入れなきゃいけないとは言わってないよ。当たり前だけど好きでもない人とは付き合えないもんね。それで良いと思うよ。けど、チャンスをもう一回だけ、一回だけでいいから。あげてもいいんじゃないかな。と、私は思うわけです。」
茜ってこんな子だっけ。いや、それより、正論すぎて反論ができない。
「チャンスって言ったってさ。あんな風にされたら、もう無理じゃないか。」
「北田さんってそんな人だった?今まで見てきて。もしかしたら、彼女の考えじゃなくて、彼女のことを思う一心から周りの友達が先に動いちゃった。そういう風には考えられない?」
「わからない。俺は女子じゃないし。」
茜の言ったことを考えてみる。確かに、北田さんはこんなことをする女子じゃなかったように思うけど。
「そうだね。私も彼女たちがどう思っていたのかは分からないかな。でも、もし、私が、例えばだよ?小町ちゃんが同じようなことになってたら・・・。あんな感じじゃないかもしれないけど、何かしちゃうかも。」
「そういうものかな。」
「さぁ、どうなんだろね。わかんない。そうなってみないと。女の子っていろいろ複雑なんだよ。男の子よりはね。」
それは分かる。女子のグループなんかを見てるといやでもわかる。連帯意識というか、そういうのは男子なんかよりもずっと強いように思う。それに、不文律みたいなものもあると思うし。例えばグループ同士のいざこざには他のグループが口を出さないとか。
「そうなんだろうね。」
「そうなんだよ。だから、とりあえず、今日は向こうの言い分に乗ってみたら?そして、ちゃんと自分の気持ちを伝えないとね。お互いに。」
「そうだね。けど、俺の答えは決まってるから。」
「うん、そうなんだろうね。でも、お昼の足草くんの時とはもう状況が違うでしょう?だったら、断るにしたってその言い方は変わるよね。」
だとしても、簡単に割り切れるものじゃない。だけど少し、気分が軽くなった。
「ありがとう。茜。助かるよ、本当に。」
「そう?でも、ズルイ事はしちゃだめだよ。夕人くんが思ってるよりも、みんな夕人くんのこと見てると思うよ。」
俺のことを見てる?それはどうだろうな。いろいろあったから注目はされたかも知れないけど、もう過去のことだ。今、俺とかかわりがある奴以外は覚えてもいないでしょう。それにズルイ事ってなんだよ。
「まぁ、その辺はよくわからないけど、とりあえず、掃除するわ。」
頭を掻きながら掃除に戻る。
「うん、そうだね。」
「あぁ、それと。」
「ん?」
「ありがとう。茜。」
「いいっていいって。友達でしょ?」
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掃除が終わった。ことのほかゆっくり掃除をしたつもりだったんだけど、十分もかからずに終わってしまった。もう帰るしかないのか。杉田でも戻ってくればなぁ。大事な時にアイツはどこに行ってるんだよ。
自分の机で帰り支度を始める。それこそノロノロと。そこに足草がやってきた。目の前の椅子に後ろ向きに座って話しかけてくる。
「いやぁ、竹中。なんかすごいことになってるな。」
「あぁ(怒)。誰のせいだと思ってるんだよ。」
「俺のせいだってか?けど、もうしゃーないべ。やっちまったんだしさ。あとはお前が何とかしてくれよ。」
コイツだけは許せそうもないな。
「お前と話すことはないな。俺の目の前から消えてくれ。」
もう話は終わりとばかりに、カバンを机の上に投げ出す。
「そうだな。俺は帰るわ。じゃあな。明日、結果教えてくれ。」
そう言って、足草はさっさと帰っていく。
誰がお前に話すか、バカたれが。それにしても、北田さんと何話したら良いのかわかんねぇよ。やっぱり、向こうが何を言ってくるのか次第だな。俺から話すのはそれからだ。
「なぁ、バカ夕人。」
今度は小町か。さっきまで足草が居たところに、まったく同じ状態で座る。
「バカ夕人って呼ぶなよ。チビ小町。」
バカと言われて腹がたったわけじゃない。たぶん、イライラを小町にぶつけてしまったんだ。
「うん、別にチビ小町でもいいから。ちょっと聞いてよ。」
そんな俺のイライラを小町は優しく受け止めてくれた。心の底では申し訳ないと思ったが、言葉には出来なかった。
「あぁ、もちろん。別に急いでないしな。」
むしろ歓迎だ。けど、小町の感じがいつもの元気な感じじゃない。
「いや、急いでないのはどうかと思うよ?たぶん待ってるだろうから。」
「それは待たせておけばいいんだよ。俺には俺の用事があるだろう?っていうか、お前なんで知ってるんだ?」
「うん、もうその辺で噂になってるよ。足草が騒いでるから。」
「にゃろう。あいつ、いっぺん絞めなきゃいけないな・・・で?なんだよ、小町。なんか話あるんだろ?」
急に、神妙な顔をして、顔を近づけながら言ってくる。小町の顔が超アップになる。可愛い顔だ。でも、いつものような輝きがない。
「あのさ、北田さんのこと、本当に何とも思ってないの?」
それって、さっきも聞かなかったか?
「無いなぁ。友達っていうか、そのくらいにしか思ってなかったわ。」
背もたれに寄りかかりながら天を仰いで言う。
「さっきの件があった後でもそうなの?」
俺の服を掴んで『ちゃんとこっちを見て』と小さな声で言ってジッと俺を見る。近い。小町、顔が近い。お前の吐息が俺の顔にかかってるっ。
「む、むしろ、さっきの件があったから、だよ。」
小町を少し遠ざけながら目を逸らして言う。
「そういうものなの?」
「俺はな。」
「そっか。・・・あ、あのさ。あたしたちは友達だよね?」
急に声を潜めて俯きながら聞いてきた。
「何をいまさら。そりゃそうだよ。小町は俺の友達だろ?違うのか?」
俺はずっとそう思ってきた。小町もそう思ってくれてたんじゃないのか?
「もちろん、そうだよ。・・・友達だよ。」
「だよなぁ。良かったよ。そう言ってもらえて。」
思わず頭をポンポンと撫でてしまった。
「だからさ・・・そういうのはやめてよ。」
「あ、ごめん。ついな。いつもの癖っていうか。」
そう言って手を引っ込める。
「なぁ、バカ夕人。ちゃんとケリつけてこないとダメだからね。」
そう言って笑顔で右こぶしを突き出してくる。
「おう、そうだな。」
俺も右こぶしをそれに合わせる。思ったよりも小さなこぶしだ。けど、なんだろう。小町や茜と話したおかげでかなり気持ちが楽になった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
チーム竹中は陰ながら支える作戦のようです。
茜と小町の優しさと愛を感じます。
優しさというか厳しさ。
どちらも含まれているようなアドバイスだと思います。




