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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第43章 ひとつの恋のかたち
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知ってるよ、キミの想い

サプライズイベントが終わり、その後の話です。

 スゴかった。

 カッコイイ。

 私は素直に感動していた。だって、私の知っている学校祭なんかとは全然違っていたんだもん。高校の学校祭なんかよりもずっとスゴいイベントだった。こんなイベントを企画してしまう夕人って何者なんだろうって考えていた。


「あ・・・私の彼氏?」


 一人でのろけて、勝手に笑みがこぼれてきた。


「大丈夫?」


 そう声をかけられて超絶に驚いた。

 よく考えてみたらここは私の部屋じゃない。グレーシアさんの控室だったんだ。私は我に返りながらもバクバクと凄い音を立てて鳴りつづけている心臓を押さえながら振り返った。


「大丈夫です。」

「そう?ならいいんだけれど。」


 笑顔で汗だくのグレーシアさんがそこに立っていた。


「はぁ〜、さすがに疲れちゃった。」


 そう言いながら準備されていた飲み物を一気に飲み干して、ソファに腰を下ろした。


「着替えなきゃー。でもだるいー。」


 そんなことを言っているグレーシアを見て、ローザは思わず笑ってしまった。


「なんで笑うのかなー。」


 そう問いかけてきたグレーシアも笑っていた。


「いえ、すみません。なんだか、芸能人って言ってもこういうところはおんなじ感じなんだなって。私も部活やってたんです。えっと、バレーボールなんですけれど。で、試合の後とか練習の後って今のグレーシアさんとおんなじ感じだなって思っちゃったんです。」


「そりゃそうだよ。芸能人って言ったって人間だしね。超人じゃないんだから。疲れもするし、文句だって言うことあるよ。」

「そりゃ、そうですよね。」


 ローザは笑みを浮かべてグレーシアさんの顔を見ていた。

 こんなに汗をかいていても綺麗な顔は変わらない。すごいなぁ、羨ましいなぁと思っていた。


「はぁー、着替えよっと。」


 足元におかれていたカバンからおもむろに服と下着を取り出した。


「え、ここでですか?」


 そのあまりの大胆さに驚いたローザは、思わずそう問いただしてしまった。


「うん、だってここ以外で着替えられるところ無いもん。」


 確かに、閉会式が行われている最中に、もしグレーシアが少しでも顔を見せたならば会場内は一気にパニックになってしまうに違いない。


「じゃ、私、外に出てます。」

「あ、大丈夫よ。それよりも着替えながらで申し訳ないんだけれど、少しお話がしたいなって思ってるんだけれどどうかな?」

「え?それは大丈夫ですけれど・・・あ、すみません。初めに言うべきだったんですけれど、新曲、すごくいい感じですねっ。」


 私の返事を聞く前に着替えを始めてしまっているグレーシアさんがそこにいたのだった。



 閉会式は翔と夕人が二人で開発した・・・いや、不思議な事に企業や大学と共同開発してしまった『スギウェイ』なる乗り物の披露から始まった。

 電動二輪車。二輪車と言っても自転車とは形状が異なり、車軸の上に立ち乗りをした状態で体重移動をすることによって移動するという乗り物だ。ただ、これはあくまで理想形であり、今回の試作品はそこまでには至っていない。もしかすると完成までにはまだ数年くらいの時間が必要なのかもしれない。

 しかし、受けは上々だったようで、翔が登場した時の歓声は中々のものだった。満足そうな表情を浮かべていた翔を見ればそれがよく分かる。これまでのちょこちょこと登場してきた翔と夕人の機器開発イベントはこれで一応の結果を得たわけだ。



 閉会式のことよりも、ずっと気になっていることがあるのではないだろうか。

 そう、グレーシアとローザの会話の内容だ。女性たちの会話を盗み見るのは少し気が引ける。何と言ってもこの行為は覗きと大差ないわけで、更に言えばグレーシアは着替えの最中なのだから。

 そういった理由から状況描写を極力減らした状態で音声を聞いてもらいたいと思う。もちろん、多少の描写はするのでご安心を。


 え?何でお前だけが見ることを許されるのか?


 いやだなぁ。そのあたりは触れないのがお約束・・・




「グレーシアさん。その・・・お話ってなんですか?」


 他人の着替えをじっと見ているのは失礼だとでも思ったのだろうか。ローザは目線をグレーシアから少しだけ外している。一方のグレーシアはローザのことをほとんど気にすることもなく着替えを着々と進めていた。


「ん、いやぁ、正直に言って私がこんな話をローザちゃんにしても良いのかどうかわからないんだけれどね。どうしても気になることがあるんだよね。」


 ようやく上着のブラウスを羽織ったところで少し落ち着いたのか、ホッとため息を漏らしていた。ちなみにローザはグレーシアの素晴らしいボディに目を奪われたことはないと言えばウソになる。


「こんな話?どういうことですか?」


 突然に切り出された意味深な言葉にローザの表情が少し曇る。当然、少し警戒心を抱いたというわけだ。


「うーーん・・・これを話すことになると、少しだけまわり道が必要かな。」


 ローザに向けた言葉ではなく、自分自身に対して向けた言葉なのだろうということをローザには理解できた。けれど、だからといって一度湧き上がってしまった不信感を拭い去れるのかと言えば、当然ありえない。


「そんなに難しい話なんですか?」

「難しいね。うん、すごく。なんて言ったら良いのかなぁ・・・そう、私が『弟』のように思っている子のこと。」


 ローザの問いに対して即答をしているけれども、『弟』つまりは夕人のことで話があり、しかも難しい話。ローザが少し身構えるような仕草を見せたのも無理はない。


「えっとね、私には妹がいるの。最初に断っておくけれども、これからする話は女同士の話。私は畔上グレーシアとしてではなく、本当の自分、小暮あかりとして話をしたいの。聞いてくれる?」


 グレーシアの言葉を聞いて一瞬表情が厳しいものになった。それは一種の防衛本能からの行動なのか、それとも他の何かの原理が働いているのか。そんなことは当のローザにもわかっていないのだろう。ただ、『小暮』という苗字には心あたりがあることだけを思い出した。


「・・・え?」


 そして、そのことからこれまでに漠然とあった疑問がスルスルっと解けていくような気がしたのだった。


「分かった?私が『誰』なのかってこと。」


 笑みを浮かべたままローザの顔を見つめている。見つめられている少女は頭のなかで目まぐるしく何かを考えているのだろう。表情がコロコロと変化をしている。それを見ていたグレーシアにとって少し可愛らしいものに見えたのだろう、思わず吹き出しそうになっていた。


「・・・はい?」


 どうやら答えは出ているけれども、それが正しい答えなのかわからない。それはまるで、今まで解くことができなかった超難問があっさりと解けてしまった時の受験生のような表情を浮かべていた。


「つまり、私は夕人くんのクラスメートの小暮茜のお姉さんってこと。もちろん、内緒なんだけれどね?」


 右目を軽く閉じながら右手人差し指を唇に当て、内緒であることを強調してみせた。


「どうして?」


 ローザの言葉にどんな意味が含まれていたのか。目を丸くしている彼女は聞きたいと思うことがたくさんあったのだろう。けれども口を開いて出てきた言葉はそれだけだったという印象だった。


「びっくりだよね。けれど、これで今までのいろんな疑問が解けるんじゃないかと思って。それに、私のは言葉をキチンと聞いて欲しかったから。それに、君の言葉もきちんと聞きたかったから。」


 そう言いながら徐々にローザに徐々に近づき、目の前まで来たところでたくさんの情報を頭のなかで整理しきれずに固まってしまっていたローザの顔を覗き込んだ。そして、お互いに椅子に座ろうと声をかけ、二人とも手近にあった椅子に腰を下ろした。


「本当のことなんですよね?それって・・・」

「そうよ。」


 短いやり取りではあったけれどローザは全てを納得したように大きく息を吸い、吐き出した。そして、脱力したように肩をダラリと下げた。


「なるほど・・・なんとなく納得しました。グレーシアさんがここに来た理由も、夕人の願いを聞いてくれたことも、私に対してここまでしてくれたことにも。」

「うん、納得してくれてありがとう。ま、もちろんそれだけじゃなくって、最初に言ったように大人の事情っていうのも絡んでいるってことは事実なんだけれどね。」


 グレーシアの言葉を理解できないほどローザは子供ではない。単純に好意だけで何かができると言うほど大人の世界が優しくないということを身をもって知ってしまっていたから。


「そういうことなんですね・・・」

「うん。そうなの。ごめんね、色々と隠していて。そして、私が聞きたいのは・・・えーっとね・・・」


 今まで歯切れ良く話していたにも関わらず口ごもってしまったことで、ローザはおおよその事を察した。そして自分から口を開いた。


「なんとなくわかりました。あの茜ちゃんのお姉さんってことですから聞きたいことっていうのはわかりますよ。それに・・・何やら夕人からいろいろなことを既に聞いてしまっていそうな気もしますし。」


 少し寂しそうな笑みを浮かべた事を見逃すようなグレーシア、いや、今ローザと話しているのはあかりなのだろう。だから、これからはあかりと呼ぼうと思う。とにかく、あかりはローザの小さな表情の変化を見逃しはしなかった。


「色々とは言っても、夕人くんはローザちゃんのことを詳しくは話していないわよ。あの子が話したのはあくまでも自分のことだからね。」


 自分のこと。そんなことを話すくらい二人な親密なのだろうか。ローザは一度は封じ込めることができた『不信感』という魔物が再び自分の心の中で目覚め始めていた。


「そうですか。でも、聞きたいとこはなんとなくわかります。私だっておもいっきりバカってわけじゃないですから。夕人が茜ちゃんのことが好きだった(・・・)ってことは知っていますし。でも、私、話せることなんてありませんけれど。」


 今までよりも少しだけ語気を強めたのは彼女自身の繊細な部分を守りたいから。大切な部分を守りたかったからだったに違いない。


「・・・私は知らなかったんだ。茜からも話を聞いたわけじゃないしね。昨日、夕人くんから少し聞いただけだし。それに、今は茜のことは関係ないのよ。恋愛ってそういうものでしょう?誰にも強制はできなくて、誰かに無理強いされるものでもないんだから。」


 あかりの表情が少しだけ曇る。

 彼女にとってもいろいろな過去があるに違いない。それを彼女自身が今ここで語るようなことはしないのだろうけれど。


「だったら、何の話なんですか?」


 ローザの目つきが今度は挑戦的なものへと変わっていく。

 夕人が自分にではなくあかりに何かを話していたという事実を知ったということの嫉妬と、茜の姉という事の苛立ちが彼女にこんな行動を取らせた要因だった。


「ローザちゃんの気持ちがわからないわけじゃないの。ただ、聞いてみたかったの。同じ女として貴女の想いを。」


 あかりはまっすぐにローザの睨みつけてくるような目線をまっすぐに受け止めていた。


「私の想い?」


 ローザは驚愕の表情を浮かべる。一体どんな権限があって私の気持ちを聞こうとするのか、それが全くわからなかった。確かにあかりと夕人との間はある程度の親密さがあるのだろうということはわかる。でも、ローザにとっての彼女は初めて出会ったばかりの相手だ。心の中に息づいていた魔物が一気に声を上げたのを感じた。


「そう。彼の気持ちを知っていながら受け止めた貴女の気持ち。」


 あかりは話の核心に一気に踏み込んだ。


「どうしてそんなことを聞きたいんですか。」


 とても冷静な声。少し冷ややかな声だった。不用意に入り込んできた相手に対しての拒絶の姿勢が現れているように聞こえた。


「彼の想いを知っていて、自分の気持ちもわかっていた。なおかつ貴女はそれ以上のこともわかっていた。私にはそう思ってしまうの。私は彼の心の扉を閉ざさせせてしまった当事者の一人として貴女に言わなければいけないこともあるから。」


 あかりの言葉は否応なく耳に入ってくる。閉会式が行われているであろう体育館の喧騒も耳には入ってくる。けれども、そんなことは関係なかった。ただ目の前の女性が口にした言葉が彼女の中の魔物をより攻撃的にさせる。


「当事者?何を言っているのかわかりませんけれど。」


 ローザのあかりを見る目つきは相変わらず厳しかったし、それ以上に敵意のようなものまで感じる。一言で言うならば、好戦的というべきなのだろうか。


「そう、当事者。彼とは前にあることについて話をしたことがあるの。その時の細かいやり取りについて話しはしないけれど、私の言葉、彼に対するアドバイスのつもりで言った言葉が彼のその後の人生に大きな影響を与えてしまったみたいなの。」


 あかりはそう言ってから少し目を伏せた。これまでまっすぐに受け止めていたローザの目線を受け止めきれなくなったのかもしれない。

 一方でローザは相変わらず険しい表情のままだ。


「そうでしたか。でも、夕人の過去に何があったのかだなんて、私、今はそんなことはどうだっていいんです。私にとっては夕人が夕人であるって、それだけなんですから。それに今は私にだっていろいろなことがあるので。」


 ローザはここで一度呼吸を整えるかのように深呼吸をした。彼女の中の魔物は、虎視眈々と獲物を待ち構える野獣のようにひっそりと息を潜め始めたかもしれない。


「あなたにどんな考えがあって、何を言ったのか。それはわかりません。でも、そんなふうに考えてるってことは相当のことを言ったってことですよね?」


 そうして一呼吸おくようにしてあかりに尋ねた。いや、むしろ責めたというべきだろうか。


「・・・聞きたいの?私が何を言ったのか。どうでもいいって言いながら、やっぱり気になるってこと?」


 どうしてあかりはこんな言い方をしたのだろう。あえてローザを焚き付けるような言い方を。彼女なりに考えるところがあってこう切り出したのだろうけれど、ローザの心の中の魔物は既にすっかり目覚め、今にも襲いかかろうとしているのは間違いなかった。


「いえ。聞きたくないです。でも、見当はついています。直接聞きましたから。」


 ローザが思い当たっている言葉。それは三月のあの日に聞いた言葉。正しいと思った言葉。でも、その言葉を目の前にいる人が言ったとなると話が違う。あの時と同じ気持ちで『その言葉』の意味を捉えることができない。


「聞いたんだ・・・」


 あかりは暗い表情から一転、ハッとしたような表情に変える。そして、昨日の夕人との話を思い出した。


「聞いていますけれど。それが何か?」


 ついに魔物は牙を向いた。今や彼女に取って代わるように言葉を発しているといっても過言ではないのかもしれない。


「それを聞いて、貴女はどう思ったの?」


 あかりはローザの攻撃的な言葉を受け流すかのようにして、さらに追い込みをかけてきた。


「どう?そりゃいろいろと思いましたよ。誰がそんなこと言ったんだって思いましたし、私の言葉が届かなかった原因もそれかって。憎らしく思ったこともありますよ。」

「でも、今の二人の関係って恋人同士なのよね。」


 あかりの真意が見えないローザにとって気持ちの悪い問いかけだった。だからこそ自己防衛の本能から攻撃的な言葉を返すしかなかった。


「そうよ。あなたにこれ以上のことを言われる筋合いはないわ。私は・・・夕人が好きだから。夕人が他の子の事が好きだって知っていても、それでも側にいて欲しかったから。だからそれをわかっていても、あんな言葉を口にしてでも・・・」


 あかりのことをキッと睨みつけながらも、彼女の目からあふれてくるものを止めることができなかった。


「わかってた。初めから分かってた。出会った時、好きだってわかった時、一緒にデートをしている時、ずっと夕人の中にはあの子のことが何処かにあったと思う。夕人は気がついていなかったと思うけれど、今はもう・・・わかってるんだ。それはさっきの舞台を見ていてもわかったんだから。」


 ローザの中の魔物は自身の意に反したかのように心内の全てを吐き出していく。それはこれまでに溜め込んでいた全ての葛藤、苛立ち、妬みといったものの全てを目の前の女性にぶつけているかのようだった。


「そう・・・」


 あかりはローザの言葉を身動き一つせずに聞いている。彼女が全てを受け止める必要など何一つ無いのにも関わらず。


「そう?なによそれ。あなただって夕人から聞いてるんでしょう?本当のことを。夕人は私のことなんか好きじゃないってことを。頼まれたんでしょう?夕人に。直接は言いにくいからって。そんな感じのことでも言ってさっ。」


 両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込み声を上げて泣いた。

 それは、ローザにとっての一つの恋が破れたことをはっきりと悟った瞬間だった。


「貴女は夕人くんのことをそんな子だって思っているの?だったらそれでもいいけれど。」


 あかりはパニックになりかけているローザに対してゆっくりと声をかけた。


「なによっ、どういうことよ。」

「今の貴女には、何をどう話したとしても私の言葉は届かないと思うけれど。それでも忘れないで。夕人くんは一言だって貴女が思ったような事を私に話していないわ。だから、彼のことを恨むようなことは言わないで。今ここで話しているのはあくまで私個人の意思。それに貴女自身にどんな大変なことがあったのかだって私は知らない。知る必要もないし、当然誰かに聞いたりしたこともない。そうね・・・貴女が決めたように行動するのがいいと思うわ。」


 そう言って椅子から立ち上がり、しゃがみこんでいるローザの肩に軽く触れた。


「私は、行動しないで後悔するくらいなら、行動して後悔する方がいい。何もしないで後悔するだなんて絶対にイヤ。だから、言われるまでもない。」


 あかりはどうしてここまでローザを追い詰めるようなことをしたのだろうか。

 あかりにはあかりなりの考えがあり、ローザにはローザなりの考えがあった。ただ、それがほんの少し噛み合わなかった。

 そして、これはとても繊細な事柄だった。さらに言えば人間関係の親密さ。これが大きな障害になってしまったのだろう。もう少し時間をかけて二人が話をすることができたのならば違う結果もあったのかもしれないが、そんなことを今さら口にしても仕方のないことだ。


「そうね。その通りね。私が悪かったわ。ごめんなさい。」


 あかりは素直に謝り頭を下げていたのだが、今のローザにはそれが余計に苛立ちを増幅させる結果となった。


「なんなのよっ、急に出てきて私のことを引っ掻き回して。あなたは何がしたかったのよっ。」


 ローザの心からの言葉があかりの胸に突き刺さる。


「・・・」

「あなたに言われなくても夕人と話をするつもりでいたから。今日のことは感謝するけれど、でも、それとこれは別。あなたには私の中まで入り込む資格はないわ。」


 しゃがみながらあかりの顔を再び睨みつける。ただ、どこか心の中を暴露できたことで落ち着きを取り戻しつつあるようにも見えた。


「その通りね。私が軽率だった。ごめんなさい。」


 再び頭を下げるあかりを横目に見ながら立ち上がったローザは控室となっている体育教員室から出ていこうとした。


「・・・何か伝えておくことはある?」


 ローザが出入り口の扉に手をかけようとしたところであかりはそう声をかけた。


「・・・一つだけ。いつものとこで待ってるって。本当は自分で言いたいけれど、今日は無理そうだから。悔しいけれど、あんたに頼むだなんてイヤだけれど。」


 振り向くこと無くローザは部屋から出ていった。


「ごめんなさい。ローザちゃん・・・」


 あかりは一人残された部屋でそう呟いた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


タイトルにある『キミ』が誰を意味しているのか。

それがわかってもらえたら嬉しいです。

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