あんた、ちょっとうるさいっ
昼休みが終わって5時間目の授業が始まります。
流石に授業中にこう言った話の進展はないと思いますが・・・
授業が始まれば、少しは事態が改善することを期待していた。しかし、状況は改善しない。北田さんは机に突っ伏したままだし、足草はその隣から冷やかしてくる。教室に入ってきた教師もその状況を見て、ただならぬ雰囲気に気が付いたことだろう。女性の教師で助かった。おそらくは、こういった場面を見たことがあるのだろう。この状況を見るや否や、
「はい、皆さん。授業を始めますよ。騒いでる人は静かにしなさいね。」
優しく、でも反論を許さない口調でクラス内に言った。
「北田さん。体調が悪いのだったら保健室に行きますか?」
続けて、北田さんを気遣う言葉。俺の周りの空気が読めるのか、
「足草くん。少し静かにしなさいね。それから北田さんと仲のいい女の子は?」
さっきの四人が手を挙げる。
「では、細木さん、確かあなたは保健委員だったわよね。悪いけど北田さんを保健室まで連れて行ってあげてくれる?」
助かった。これで今の時間は乗り切れる。そう思った。でも、
「・・・大丈夫です。ここにいます。」
北田さんは小さい声だが、はっきりとこう言った。一体、俺はどうすべきだったのか。全く何もできなかった。どうしようかと思っていた時、後ろから茜が小声で話しかけてくる。
「夕人くんは何もしなくていいよ。今は、何かをしても火に油を注ぐだけだからね。」
「そう・・・だね。というかできないよ。」
そう答えるのが精いっぱいだった。環菜もちょっとだけ振り返って小声で言う。
「どうしようもないよ。今はね。あとで、ちゃんと話をするだけだよ。」
「そうだな・・・」
そんな俺たちの空気を察したのか、先生は俺を一瞥して小さく頷いた。何を意味しているのかは分からないが、とりあえず、これ以上騒がないようにということなんだろう。隣の席に目をやると、北田さんが声を出さずに震えている。その奥でニヤつきながら何かを言っている足草が憎たらしい。小町も泣きそうな顔でこちらを見ている。俺の表情はさぞかし情けないものに見えただろう。そんな俺を見かねたのか、小町が足草の頭を一発殴った。
「あんた、ちょっとうるさいっ。」
その声に教室中が一瞬静まった。小町、なんでそんなことを?そんなことをしたらお前が面倒なことになるのに。しかし、先生はそのことに特に触れもせず、『さぁ、何でもないなら授業を始めますよ。』といい、授業を進め始めた。
この日の五時間目。いったいどんな内容の授業だったのか。授業の内容なんて頭には入ってこない。たまに隣に目をやるものの、景色は一向に変わらない。小町も気にしているのか何度か目が合った。これからどうしたらいいんだろう。そんなことを考えているうちに五時間目の授業が終わった。
結局、北田さんは一度も顔をあげなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
短い話になりました。
授業中の話ですが、チーム竹中の女子たちの助けがありがたいと思う竹中でしょう。
それにしても、自分の隣の席で、自分のことを理由に泣いている女子がいる。
想像するだけで逃げたくなるシチュエーションです。
当然、北田さんと仲の良い友だちもいるわけですから、そちらからの何らかのアプローチもあるでしょう。
竹中は無事にこの修羅場を生き残れるのでしょうか。




