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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第1章 Sweet Bitter Memories
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屋上に続く階段

「竹中夕人、中学校二年生編の反省会、行ってみよっか。」


玉置さんの掛け声から始まりました。二年生編。


あの件から半年。

さすがに気持ちの整理もついていることでしょう。

 今日から二年生か。

 ということは、クラス替えがあるわけだ。


「おー、竹中。元気だったか?」


 杉田が駆け寄ってきた。


「元気だったかって・・・。昨日も一緒に遊んでただろうよ。」

「ふっ、認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを。」


 だから、お前はっ。いつまで赤い彗星の影響を受けてるんだよ?


「はぁ、杉田。俺にかまけてる時間、あるのか?」

「ちょっと〜、か〜け〜る~。待ってよ〜。」


 小走りで近づいてくる。まったく、彼女を置いて俺のところに走ってきたのか?杉田は。最近、この二人は今までにも増して、仲がいい。


「あ、竹中くんもおはよう。今日から二年生よね。クラス替えの発表、見に行かない?」

「そだね。行こうか。杉田も行こうぜ?」

「おうよ。」


 日之出ヶ丘中学校では二年生になるときにクラス替えがある。三年生になるときはクラス替えがないから、このメンバーで修学旅行や受験なんかに臨むことになるんだろう。ということで、クラス替えは今後の人生を左右しかねない、非常に重要なイベントだ!

 いや、言い過ぎか?とは言っても、俺たち生徒には全くどうなるのかわからないことだ。噂では、担任の先生同士で生徒のトレードが行われるみたいだが・・・。真偽のほどは分からない。どちらにしても、俺達には結果を受け入れるという選択肢しかないのだから。


 それにしても、だ。今年もいろいろあるんだろうか?自分の身の回りだけでいろいろ大変な日々だったけど、世界では、もっともっと大変な事態になっていた。



 湾岸戦争。


 アメリカを中心にした国連軍が、中東の国家と戦争を行ったという、あれだ。

 戦争とは言っても、初めは対岸の火事のような感覚だった。日本も直接ではないにしろ、戦争にかかわるということで様々な議論が交わされ、戦争というものに対して向かい合うことが必要なのかと考えさせられたくらいだ。

 リアルに起こっている戦争の映像が毎日のようにテレビで放映されていた。俺たちみたいな戦後世代は、戦争のことは全く知らない。社会の授業やテレビで話を聞くくらいだ。両親の世代ですらほとんどが戦後世代なんだから仕方がない。

 ただ、三月にやっと、停戦になったようだ。戦争なんて起きなければいい。そう思った。


 けど、どっかの有識者が言っていた。


「戦争に善悪はない。強いて言えば、立場の違い。」

 

 なるほどな。俺にはいまいちわからない。

 戦争なんて、人が死ぬだけだ。勝ったほうが正しいなんて理論は動物と同じだ。だけど、武力なしで自分の国を守れるのかと言われるとそれもまだ同意できない。つまり、よくわからないということだ。もしかすると俺が大人になることには少しは分かるようになってるのかもしれない。その時には戦争のない世界になってるんだろうか。


 そんな大きな風呂敷を広げたところで、俺の生きている世界には全く関係ないんだよなぁ。俺には、目の前で起こってる出来事がすべてで、今のもっぱらの関心は、新しいクラスが何組で、誰と一緒なのかということだ。

 で、あそこにできている人だかりは、クラス割の発表場所か?


「えぇ~~と。俺は何組だ?」

「お、竹中ぁ。久しぶりだべな。お前は俺とおんなじ六組だべ。」


 こいつは足草次郎あしくさじろう。去年一年間で何一つ成長してない。相変わらずの『忘れ物キング』。すさまじいことこの上ない。いつも元気で体も強いが運動神経はイマイチ。ムードメーカー的な存在ではあるが空気は読めない。学校での忘れ物は日常茶飯事だし、宿題はいつも忘れる。遅刻はするし成績も下の下。むしろ、毎回最下位ぶっちぎり。これから二年間、こいつにひっかきまわされるのかと思うと気が重い。


「お、俺も六組だわ。竹中ぁ。よろしくなぁ。」


 杉田と一緒なら、これからも楽しくなる。


「あぁ、こちらこそ、よろしくな。」

「な・・なんで・・・。私は一組なのよ?よりにもよって一組?めっちゃ遠い・・・。」


 栗林さん。へこんでるなぁ。


「やぁやぁ、諸君。お久しぶり~。」


 ん?後ろから?声のしたほうを振り向いたが・・・


「あれ?」


 誰もいないぞ?


「おい、ふざけるなよ?いい加減、そういうネタはうんざりなんだけど?」


 いや、今のはネタじゃなくて。本当に見えてなかったんだよ。

 青葉さんは、去年の夏、杉田がらみで知り合いになった女子だ。身長が低いことがコンプレックスらしい。他人を見上げなければならないことが苦痛でたまらないとのことだ。その杉田がらみってのが、自転車接触『未遂』事件。いや、事故か?でも未遂だから、そもそも事故にならないはずだったんだよ。杉田の素晴らしい運動神経のおかげで、青葉さんが乗っていた自転車を華麗にかわし、そして、こけた。そのおかげでヤツ一人がケガをする羽目になったんだ。まったく。


『当たらなければ、どうということはない。』


 とか言ってる場合じゃなかったんだよなぁ。だいたい、『未遂』なんだから。


「あ、もしかして、同じクラス?」


 杉田、聞いてどうする?


「そうだよ。二年間、よろしくね。」

「あぁ、よろしくな。」


 そうか。青葉さんとも同じクラスなのか。


「仕方ない。よろしく頼むよ。」

「はぁ?仕方ないって何?どういうことよ?」


 む、しまった。考えてることがそのまま口から出ていたようだ。どうにも青葉さんに対して、俺は正直すぎる気がする。まぁ、青葉さんのことは杉田に任せて、さっさと移動しますかね。


*********************


 一年生の時の教室は二階だったけど、二年生になって三階に移動。たった一階増えただけなのになんなんだ?この倦怠感は。


「おはよう。元気そうだね。」

「あぁ、玉置さん。おはよう。」


 久しぶりに見た玉置さんはやっぱり、可愛い。気怠い階段も、誰かと歩くと少し気がまぎれる気がする。


「ねぇ、また、同じクラスだね。よろしく。」


 そうなのか?だとしても、気が付いてなかったな。


「そっか。よろしく頼むよ。」

「あれ?元気なかった?」

「いや?普通だけど。」

「そう?ならいいけど。」


 この階段・・・。屋上に続く階段だ。屋上は、俺の逃げ場所だ。そう言えば、あの時も屋上に逃げてたなぁ。



 去年の学校祭の準備時期。去年の9月末ころだから、今から半年くらい前のことだ。俺にはちょっと自暴自棄になった時期があった。あの子にフラれたことが原因で、日常から、すべてから逃げていた。


「あぁ、もう。やっぱりここにいたっ。」

「こんなところでサボってないで、みんなを手伝いなさいよっ。」

「なんだ、玉置か。うっせーな。めんどくせーんだよ。ほっといてくれ。」


 見事に玉砕したんだから、杉田も俺には関わりにくいよな。


「うるさいって・・・。何あったの?前はそんな感じじゃなかったじゃない?」


 いや、俺は元々ポジティブにできてないよ。こんなもんさ。大体、入学初日にあんなことがなかったら学級会長だってやってたかどうか。そうじゃなかったら、玉置とだって話すこともなかったのかもしれない。


「なんだよ。俺のこと、そんなに心配してくれるの?」

「そうじゃないよ。みんなに迷惑かかってるからちゃんとしなさいよ。そう言いに来ただけ。」


 そうですか、そうですか。迷惑がかかる、ね。そりゃそうか。一応与えられた仕事があるんだっけか。


「はいはい、これから戻りますよ。」


 やる気がないから戦力になるかはわかりませんがね。とりあえず戻りますかね。


 そして、十月一日。彼女は転校したんだ。



 懐かしいな。ふと、思い出したかのようにカバンから一通の封筒を取り出した。消印は去年の九月十八日。俺が彼女に告白した次の日だ。でも、俺のもとに届いたのは二週間後の十月一日。彼女からの初めての手紙。


「あれ?なぁに?その手紙・・・」


 玉置さんも封筒を見た瞬間、何の手紙なのかわかったみたいだ。


「あぁ、東山さんからの手紙だよ。」

「・・・・そ・・か・・・」


 あの時、今までの人生の中で最も大きなショックを受けた。



 去年の十月一日


「・・・・・・具合でも悪い?保健室に行く?」


 こんな時の先生の心遣いは、はっきり言って迷惑だ。でも、今は、そのありがた迷惑にでもすがりたい。


「ちょっと、なんか吐きそうなので。保健室に行きます。」

「大変、保健委員は・・・東山さんだったわね。じゃあ、玉置さん、お願いできるかしら?」

「・・・あ、はい・・・」


 玉置と一緒に、保健室へ向かう途中、こう切り出された。


「竹中くん、東山さんのこと好きだったんじゃない?」

「なんで、そんなこと言う?それも今。なんだよ。ほっといてくれよ。」

「だって、ほっとけないよ。それに、竹中くんは、この学校で初めて私を助けてくれた人なんだよ?そんな人を放っておけるわけないじゃないっ。」

「それでも、今はそっとしておいて欲しいよ。」

「・・・・そうだよね。ごめん。」

「・・・いや、俺もごめん。言い過ぎたよ。」



 そうか。この階段は、その時に保健室へと向かった階段でもあるわけだ。


「玉置さん、あの時はありがとうな。今更なんだけど。」


 素直にあの時のお礼を言ったのは初めてのような気がする。


「え?なぁに?ホントに今さらよね。」


 あぁ、まったくだ。


「・・・あ、あのね?聞きにくいんだけど・・・」

「なんだよ、玉置さん。らしくないんじゃない?」

「・・・その、今でも・・・」

「ん?」


 その質問をされたとき、俺はどんな表情をしてたんだろう。笑えてたんだろうか。


「・・・まぁ、いいよね。現在いま現在いまはよね。そうでしょう?竹中くん。」


 そう言いながら、思い切り背中をたたいてきた。そう、まるで不意打ちだ。


「お、おい。なんだよ。痛いだろ?」


 玉置さんってこんなキャラだったっけ?


「新学期初日から、暗いぞ?君は。元気出しなさいな。」


 そう言って階段を昇っていく彼女は、俺の知ってる玉置さんとは少し違って見えた。そうだ。これは過去のこと。そして、今の俺にとってかけがえのない思い出。封筒をカバンにしまい込みながら、自分に言い聞かせる。


「まぁ、何とかなりますかねぇ。」


 俺も、ゆっくりと自分の階段を昇って行こう。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

虹色ライラック・2部、二章の冒頭です。


クラス替えの結果はいつものメンバーが集まるということに。

いや、栗林さんだけが別のクラスになっちゃいましたね。ちょっと可愛そうな気もします。


それにしても、竹中は結構大人になってましたかね。

相変わらず、クールな感じを演じようとしているみたいですが。

そして、玉置さん。

良いところで出てきますね。

それに、新たなメンバーも加わりそうな予感です。


青葉小町。結構元気そうな女の子のようですが、竹中とはどのように関わっていくんでしょう?

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