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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第40章 『事件解決?』なのであります
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後味の良くない結末

ふーむ・・・不穏なタイトルとしか言いようがありません。

「環菜の髪、すごく伸びたよな。」


 俺は暖かい日差しを受けながら寝転がっていた。

 ここは俺達のベストプレイス、校舎の屋上だ。


「いまさら?」


 隣りに座っている環菜が驚いたようしてに目を丸くする。


「確かに。今さらだよなぁ。」


 環菜は今までずっと髪を伸ばしてきていた。

 その理由はわからないけれど、長い髪は大人っぽいっことで男子の中では中々に高評価だ。

 ちなみに茜は何かのコダワリがあるのかあんまり髪型は変わっていない。


「そうだよ。」


 そこまで話して、互いにため息が漏れる。あの件が一応の解決を見たあの日から二週間が経っていた。




 あれから何があったのか。

 それを簡単に説明していこうと思う。


 あの日、田中はあのまま警察に連行された。俺達は北見さんの運転する車で翔の家に連れて行かれて、そこで翔たちに事の顛末を伝えた。

 彼らは俺の話に驚いてはいたけれども、一応の事件解決ってことで喜んでくれていた。

 それにしても・・・あのタイミングでの浦河さんの登場はグッドタイミングだった。多分、翔が田中の連行を少しだけ急ぐように話をつけてくれたんだろう。そうは言っても、いくら翔であってもそこまでの力があるとは思えない。あの日に田中を任意で連行するという筋書きはあらかじめできていたんだろう。今ではそう考えるようになった。


 なぜならあの日の翌日、川井たちを含めた複数の人間が逮捕されたんだ。もちろん、川井はまだ未成年だったから顔も名前も公表はされていない。

 情報は翔と稚内くんから入ってきたものだった。

 一つは警察からの情報、もう一つは弁護士である稚内くんの父親からの情報らしい。容疑は如何わしいビデオの制作と販売。それに脅迫、恐喝など相当な種類の罪で逮捕されたらしい。


 それとほとんど時を同じくして二人の先生が学校に来なくなった。福島先生と小野寺先生だった。

 学校内ではつまらない噂が流れていた。もしかして駆け落ちしたんじゃないかとか・・・そんなことがあるわけ無いだろうとは思っていたけれど、事情がわからなければそんな考えに至る奴らもいるだろう。翔が笑みを浮かべることもなくそう言ったのを覚えている。

 とにかく、すぐに全校集会が開かれて『二人の先生が急に辞めることになった』とだけ伝えられるにとどまったわけだ。真相は生徒たちに伝えられないって言っていた稚内くんの言う通りだった。そして、もちろん田中も登校していない。

 生徒たちは誰もこの三人が犯罪に関わっていたとは想像もしていないだろう。ほとんどの生徒は今回の件を知らないし、被害にあった生徒たちも郊外するようなことはないだろうから、闇から闇へという表現が正しいのかもしれない。


 俺達は事情聴取という名目で警察に何度か呼び出された。

 特に俺はいくつかの証拠品となりうるものを持っていたから何度も何度も呼び出されることになった。小町も呼び出されたようだったけれど、どんな話だったのかまでは聞いていない。

 日高さんからは上野さんが少しずつ元気になってきたってことは聞いている。きっと、小町と同じように事情聴取されるんだろう。そして、恐らくは他にも多くの女子が・・・


 翔の話からすると今回の事件の被害者は数人程度なんていう生易しい規模ではなかったようだ。俺達が予測していた通り被害者は他校にもいたようで、しかも中学生だけにとどまらないそうだ。ニュースでは事件の内容についてほとんど取り上げられないけれど、暴力団関係の人もかなりの人数が逮捕されているらしい。


 そう、ここまではある程度俺達の予想通りだったんだ。


 つまり予想外なこともあったってこと。

 ローザのお父さんが任意で警察に連行されているらしいんだ。『任意』ということだから情報を提供するために呼ばれたんだと俺は信じていた。

 結果は残酷だった。

 あの日から一週間と少しが経った日、稚内くんから伝えられたんだ。どうやらローザのお父さんが逮捕されることになりそうだって。稚内くんも詳しいことはわからないと言っていたけれど、その日の夜のニュースを見て稚内くんの言葉がウソじゃないことを知ってしまったんだ。

 警察の豊田さんが言っていた言葉の意味、それが少しわかったような気がした。


 それから福島先生も逮捕された。

 川井に脅されて犯罪行為を行っていたことにはなっているようだけれど、主に例のビデオの編集に関わっていたらしい。実際に撮影現場にいたという報道もあったくらいだから、かなり真っ黒なんだろう。ニュースではそう伝えられていた。


 そして小野寺先生。彼女も逮捕された。容疑は盗撮。実行犯は田中ではなく彼女だった。

 犯行に及んだ理由はわからない。ニュースで聞く限りでは黙秘を続けているということだけれど、あの人に一体何があったんだろう。もう以前のように話すこともできないから、俺達が理由を聞くことはないのだろう。


 未だにわからないことも一つある。

 捜査中ということで詳しい話は聞けないのは仕方がないとして、田中が俺に口にした言葉だ。バレー部を狙っていた時にたまたま小町が写った。そして小町には本気だったって言うあの言葉。どういう意味で本気だったのか、俺には全く理解できない。

 どちらにしても、田中のやったことが糞だっていう事実しか残らないけれどな。


 そんなこんなで、俺達の学校は急に全国から注目を集める学校になってしまった。当然だけれどいい意味ではない。ワイドショーなんかでも取り上げられて、『学校に巣食う黒い罠』なんてタイトルまでつけられていたらしい。報道陣が連日のように押し寄せてきて俺達は辟易していた。中には過激なインタビューを受けたり、強引な報道陣を避けようと走ったところ転んでケガをしたり、家まであとをつけられたりと言った具合だった。

 校長先生はテレビで謝罪をしていたし、できるだけ親と登校するようにとか、集団下校が義務付けられたりと言った具合で俺たちの自由はどんどん奪われていった。


 そんな時、翔が生徒会長としてマスコミの前に立った。それはもちろん目立ちたいとかそんな理由ではない。生放送のマスコミを狙っていたから、編集でカットされることを恐れたんだろう。


『僕たち生徒はいま、本当にショックを受けています。それこそ立ち直れないくらいに精神的ダメージを受けている生徒もいることでしょう。ですが、マスコミの皆さんはそれをネタにしていませんか?ほんとうに僕たちのことを思っての取材であれば、もっと節度ある行動をしていただきたいのです。僕はこの学校の生徒会長として大人であるあなた方に苦言を申しあげます。先日、マスコミの皆さんの一部の強引な取材が原因で生徒がケガをしました。心当たりのある方がいるのではないですか?だから僕ははっきりと言います。迷惑です。二度とこの件でうちの学校に近付かないでもらいたい。それができないのであれば、僕は持てる力のすべてを使ってあなた方マスコミに対して正当な手段で反撃します。よろしいですか?二度は言いません。』


 翔はモザイクが一切かからない生放送でやってのけたのだ、生徒たちを守るために。つまりは俺たちを守るためだ。本来であれば教師の誰かがその行動を取るはずだったのに。

 その日を境にマスコミは一気にその数を減らした。一部の心無いマスコミがやってくることはあったものの、翔の演説以前と比べて明らかに過ごしやすくなった。ただ、その代償として翔は一週間の停学になった。

 俺達はその判断を不服として署名を集め、抗議を起こしたが受け入れられることはなかった。だから、翔は今、学校に来ていない。開催まで二ヶ月を切った学校祭の打ち合わせもうまく進んでいないのが現状だった。いや、むしろ開催が危ぶまれる状況になっている。生徒会顧問の吉田先生から聞いた話だから信頼度は高い。


 それが今の俺達の現状だった。




「小町は元気になってくれたよな。」

「うん。」

「それが唯一の救いだよ、今回はさ・・・」


 俺は再び太陽を見るように寝転がった。


「そうだね・・・こんな大事になるなんて、思わなかったもんね。」


 環菜は再びため息を漏らし、話を続けた。環菜の長い髪が太陽に照らされて光っているようにみえる。


「茜も・・・ショックを受けてた。こんな状況だからしばらくは学校に来れないって言ってたし。」

「そっか。」


 それは仕方がないことかもしれない。茜は既に芸能人だ。余計なトラブルは避けたいのだろう。


「うん・・・その・・・」

「ん?」

「ローザ先輩は・・・どう・・・なの?」


 環菜は申し訳なさそうに尋ねてきた。


「わからないんだ。連絡がつかないから。」


 何度か電話をしてみたけれど、いつも話し中でつながらない。待ち合わせ場所にも彼女が現れることもなかった。


「ちょっと前に村雨先輩には会ったんだ。でも、ローザのことはよくわからないって。あの人も学校が違うから・・・会えていないんだって。」


 俺は目をつぶって大きく息を吐いた。まぶたを閉じても太陽のお陰で明るい赤い視界が開けている。


「そうなんだ・・・心配、だよね。」

「あぁ。」


 その時、物音とともに視界が暗くなった。不思議に思った俺は目を開けて状況を確認した。


「会ってみたら?」


 環菜は立ち上がって俺にそう提案してきた。


「・・・」

「嫌なの?」

「・・・そうじゃない。」

「だったら、ウジウジしていても仕方がないじゃない。」

「そうだな・・・でもさ、それよりも重大なことがあるんだ。」


 俺は軽く目を閉じ、それからゆっくりと目を開いて、もう一度、今の事態を確認した。


「重大なこと?」

「うん、すごく大事なことだ。いや、別に無理はしなくてもいいんだ。俺にとって悪いことじゃないからな。」


 環菜は不思議そうな表情を浮かべて俺の顔を見下ろしている。


「なに?どうしたの?」

「いいか、環菜。俺はここに寝転がっているよな。」

「うん。」

「お前は立っている。俺の側に。」

「うん。」

「・・・水色ってかわいいよな。」

「水色?」

「みなまで言わすな。」


 ようやく環菜は事態を把握したようだ。顔を真赤にして俺から離れていく。


「夕人のエッチッ。」

「あー、翔の言葉を借りるとだな。男はみんなエロいんだ。」


 スラっと伸びる細い足とともに見えた絶景を、俺は生涯忘れないだろう。


「バカッ、夕人のバカッ。」


 環菜は大声で俺を罵倒して屋上から去っていった。


「あはは・・・バカかぁ。確かに、そうだよなぁ。」


 今のことに限ったわけじゃないけれど、俺の行動は本当に正しかったんだろうか。いや、今でも間違っていたとは思わない。現に小町を助けることができたわけだしな。でも、納得はできていない。もっとスマートに解決する方法があったんじゃないか。ずっとそのことばかりを考えていた。


 思いがけない事件に巻き込まれてしまった夏の終わり。このことを俺は一生忘れることはできないだろうと思う。


「あ、夕人ー、ここにいたんだ。」


 まるで環菜と入れ替わったかのように小町の声が聞こえてきた。


「今日は学校祭の打ち合わせがあるんじゃないの?」


 打ち合わせか・・・開催されないかもしれない学校祭の。小町たち各委員の委員長にはまだ何も伝えていない。だって、確定じゃないし、副会長である俺にしか吉田先生は話していないんだから。


「ちょっとぉ、聞いてるの?夕人っ。」


 小町の元気な声が聴こえるのは本当に嬉しい。この声を聴くために頑張ったようなものだから。


「一応は聞こえてる。」


 俺の適当な声に苛立ったのか小町の足音がどんどん近づいてくる。


「そろそろ、時間だゾ。」


 目を瞑っていた俺の耳元に小町の囁きが聞こえる。


「なぁ、小町。」


 俺は小さな声で呼びかけた。少しだけ秋の風になってきた空気が気持ちいい。


「なぁに?」


 可愛らしい小町の返事が聞こえる。


「もう少し、そばに居てくれないかな。」

「・・・え?」


 小町が今、どんな表情をしているのか手に取るようにわかる。きっと、驚きながらも怪訝な表情をしているに違いない。そう思いながら目を開く。そこには思っていたとおりの顔が見えた。


「小町が居てくれることが嬉しいよ。」

「な・・・何言ってんのよ。」


 アタフタしている彼女の素の姿を見ていると笑みがこぼれてくる。


「一緒に遅刻できるからな。」


 そう言って俺はまた笑いだした。


「もう・・・仕方がないな、夕人は。ちょっとだけだよ?」


 そう言って小町は俺の隣に腰を下ろした。


「あぁ、ちょっとだけでいい。もう少しこうしていたいんだ。」

「そうだね・・・私も・・・そんな気分だよ。」


 そんな言葉を聞いて、俺は笑みを浮かべたまま小町の腰に腕を回した。小町は俺の顔を見たまま何も言わない。


「もう・・・夏も終わるな。」

「うん。最後の夏が終わっちゃうね。」


 最後か。

 夏は毎年あるけれど、中学時代の夏はこれで終わりか。


「なぁ・・・今度の小町の大会、見に行ってもいいかな?」

「うん。」


 小町は嬉しそうに笑みを浮かべている。


「小町。」

「なに?」


 優しい笑みを浮かべている小町。この笑顔を守れたと思うと少しだけ誇らしい気持ちになれる気がした。


「今度さ、どっかに遊びに行こうか。」


 驚くほど自然にそう聞いていた。


「うん。」


 小町は俺の腕をそっと掴み、自分の腰を触っている俺の手をゆっくりと外した。


「そうだねっ。」


 これで今まで通りの日常が戻ってくるはずだ。少なくとも学校生活では。

 色々と気になることはあるけれど、今回のことで自分ではどうにもできないことがあるってことを身を持って知った。そして、なによりも友達が大切だってことも。


「さぁ、そろそろ行くかぁ。翔がいないから俺が色々とやらないといけないしな。」


 俺はパッと立ち上がりながらそう自分に言い聞かせた。


「そうだね・・・」


 暗い表情を浮かべた小町はまさか自分のせいとか考えているのか?


「アイツはアイツの思ったように行動したんだよ。」


 そう言いながら小町に右手を差し出してその場から立たせようとした。


「ん・・・」


 小町は俺の手を掴んでゆっくりと立ち上がる。


「小町、優しいんだな。」

「だって・・・」

「小町はなんにも悪くはないさ。そんなことを思っていてもアイツは喜ばないよ。」


 俺の目の前に立っている浮かない顔をした少女をジッと見た。


「ありがとう、夕人。」


 そう言ってぎこちない笑みを浮かべた。


「よしっ、それじゃ行こう。」


 小町を助けることができた。

 今はその事実でだけ満足することにしておこう。

 翔にもそう何度も言われたし。


 俺たちは笑みを浮かべ、屋上を後にした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


これで事件編は解決になります。

不完全燃焼?

そんな事は言わないでください。

これでも夕人たちは頑張ったんですから。


夕人たちにとって、本当にいろいろな意味で忘れられない夏になったことでしょう。


さて、次章からは中学生活で最後の学校祭編に入っていく予定です。

ご期待下さい!


あ、その前に・・・番外編が入るかも知れません。

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