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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第39章 『反撃開始!!』なのであります
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俺には何ができる?

何ができる?

ではなく

何をするか。

哲学みたいで嫌になりますね。

 週が開けて月曜日になった。

 大人になると月曜日は憂鬱でしかないらしい。人によっては日曜の夕方に放送されている国民的アニメのテーマソングを聞くと鬱になるなんて話を聞く。

 いつもどおりの俺だったら鬱も何も無いのだけれども、今状況は俺の気を重たくさせる。

 なんと言っても、小町に残された時間は殆ど無くなってきている。もちろん、田中に何らかの手を打たないと、という意味だ。言うまでもないことだけれど、敢えて言っておく。アイツに大した力があるなんて思っちゃいない。それに、そもそも何の情報が得られなくたって小町を田中ごときに渡すようなことはしない。絶対にだ。写真の拡散だって止めてみせるさ。

 アイツか、川井のどちらかが小町の写真を持っている。そして、小町の話だとそれは俺が見た写真よりも酷い写真だってことだ。だから最低でもそれだけは取り返して処分してしまいたい。それが今の俺の目的だった。

 けれども、悔しいことに決定的な何かが足りなくて、少し攻めあぐねているというのが現実だった。


 だから、今日というこの日。頼れる翔と話して何かの策を練りたい、そう考えていた。

 それに昨晩はローザに電話をして現状を報告した。お父さんにも伝えてくれるということだったから、さらに何らかの動きはあるのかもしれない。



「今日も集まってくれてありがとう。小町に代わって俺からお礼を言わせてもらうよ。」


 放課後に翔の家に集まってくれたみんなにそう言って頭を下げた。

 今日集まってくれたのはなっちゃんと環菜。ここは翔の家だからもちろん翔はいる。そして実花ちゃんだ。


「そんなことよりも、何か情報があったって?」


 翔が俺に尋ねてきた。


「そうなんだ。でも学校じゃ言えないことだったから今まで話せないでいた。」


 そう言って昨日手に入れた写真とメモ用紙をみんなに見せる。昨日、小町に見せたものと同じものだ。ただし、指紋をつけないように透明袋に入れてある。


「おい・・・これって確定じゃないか?」


 翔が深い溜め息を漏らす。


「そうだね。そうとしか思えない。」


 実花ちゃんも翔と同じ意見のようだ。


「福島先生が・・・写真を準備してた?」


 なっちゃんは驚愕の表情を浮かべている。自分の委員会の顧問が関わっていたんだから、ショックをうけるのも仕方がない。


「でも、これだけじゃ何の写真のことなのかわからない。」


 環菜はみんなの言葉を冷静に聞きながら独り言のようにポツリと口に出した。


「そうなんだ。俺もこのローザが写っていた写真や小町の写真のことだろうと思った。でも、環菜の言う通り。『何の写真』なのかわからない。だから、どうしたらいいのかみんなに聞きたいんだ。」


 俺の言葉に皆が一様に黙り込んでしまう。誰も決定打を見いだせないからに違いない。


「あのさぁ、夕人くん。ちょっと整理してみてくれない?あたし、ちょっと混乱してる。えーと・・・結局はどういうことなの?」


 実花ちゃんが両腕を組んで眉間にしわを寄せている。


「そうだな。頼むよ、夕人。」

「俺がか?うまく話せるかわからないけれど・・・」


 そう言ってから少し頭で整理して話し始めた。


「恐らくは・・・川井たちが怪しげなビデオを作るために写真なんかで女子たちを脅してるんだと思う。その脅す役が残念だけれど同級生の田中だ。今回の小町もこの流れで脅されたんじゃないかって思っている。そして、写真は田中か・・・別の人間が撮っていると考えられて、現像しているのは福島先生みたいだ。川井と福島先生との繋がりは詳しくはわからない。もしかしたら金での繋がりなのか・・・他にもあるのか。そして小野寺先生のこともまだわからない。ローザが調べるって言っていたけれど。時間がないからな。正直に言えば、今日・・・何もできなかったのは痛い。」


 俺がわかるのはこのくらいだ。あんまり進展していないということだけがわかる。


「夕人。小町は今日も休んでいるよな。小町から何か聞いてるか?」

「いや、今話したこと以上のことは知らないと思う。田中からも何も接触はないみたいだし。」


 翔の質問にわかっていることだけを答えた。


「そっか・・・とりあえずは福島先生と小野寺先生の繋がり。福島先生と川井との繋がり。これがわかれば全貌が見えてくるかもしれないってことか。」


 翔の言葉にみんなが同時に頷く。


「遅れてすまないね。」


 そう言って稚内くんが部屋に入ってきた。


「いや、今始まったばかりだから。大丈夫だよ。」


 翔が笑顔で稚内くんを歓迎する。


「実は一つ情報を手に入れた。とは言っても手に入れたのは親父だ。」


 稚内くんは少しだけ長めの前髪を右手で掻き上げた。


「情報?どんな話よ。もったいぶらずに話しなさいよ。」


 実花ちゃんが一歩歩み寄って強い口調でそう言った。


「そうだね。でもこれはやばめの話だから僕たち以外の人間には公言しないほうがいい。」

「大丈夫。ここにいるみんなは信用できるし口も固いさ。」


 翔が稚内くんの肩をポンっと軽く叩いた。


「うん、そう思っているから僕もここに来たんだけれどね。それじゃ、話すよ。親父が手に入れた情報っていうのは福島先生のことだ。親父は別件で調べていることがあるんだ。それが何かは言えないけれどね。とにかく、それで手に入れた情報だっていうこと。」

「だから・・・前置きが長いんだって・・・」


 実花ちゃんがチャチャを入れ、翔が無言でそれを制する。


「すまない。でも、大事なことだからさ。えーと、それじゃ本題。福島先生は借金があるみたいだね。何で借金を作ったのか、それは問題じゃない。ただ、借りた先が良くなかったみたいでね、どうも闇金みたいな、そういうところらしい。」

「闇金?」


 なっちゃんが初めて聞いた言葉だと言わんばかりに稚内くんに聞き返す。


「そう、闇金。闇金っていうのは闇金融業者のこと。平たく言えば正規の届け出をして認可された貸金業じゃない業者のことさ。お金を借りると金利っていう利子が付くんだ。これが貸した側の利益になるわけなんだけれど、それがバカ高いんだ。正規の業者には年間数%の国が定めた利率の範囲内に設定していて、借りた側はそれを支払っていくのだけれども、これが闇金だと十日で一割とか。そういうあり得ない金利がついてくる。その代わり、めんどくさい審査なんかもなくって簡単に貸してくれるってわけさ。銀行なんかとは違ってね。でも・・・取り立ては半端じゃなくヤバイ。下手すると命まで取られることもあるらしい。」


 稚内くんは弁護士を目指しているのもあって説明がわかりやすい・・・かどうかはともかく、詳しいな。


「ちょっと待ってよ。十日で一割って返せるわけ無いじゃん。だってさ、千円借りて、すぐに千百円を返さなきゃいけないんでしょう?あれれ?これだと返せそうな気がしてきた・・・」


 なっちゃんが驚きの表情を浮かべながら言ったけれど、たとえ話が可愛らしすぎて俺は思わず笑いをこぼしそうになった。


「うん、なっちゃんが言うような金額なら簡単かもね。けれども、実際に闇金からお金を借りようっていう人たちはね、銀行や金融業者からは既にお金を借りることが出来ないような人達が多いらしいんだ。それだけ追い詰められているともいえるんだけれど・・・」


 ため息を漏らしながら首を横に振り、さらに言葉を続けた。


「だから普通に考えたのなら返せない。返済できるわけがない。下手をすると借金を返すためにどこからかお金を借りて・・・なんていう悪循環に陥っている人もいるって話だよ。」


 稚内くんの話を聞いていると恐ろしくなってくるのは俺だけではなかっただろう。


「だからこんなところから借りないのが正しい選択だ。でもね、世の中にはそうでもしないと行きていけない人がいるみたいで、そういうところにつけ込むっている悪い人間も居るわけさ。」


 稚内くんの話は理解できないと言った表情でなっちゃんが首を横に振っている。


「で、その闇金から福島先生がお金を借りてたとして、どう繋がるの?」


 実花ちゃんが話の先を促す。


「ふぅ・・・そこなんだよ。その闇金っていうのが例の川井って人が関わってる。」


 稚内くんはいつもどおりにクールな仕草でそう言った。


「そうか・・・これで福島先生と川井の繋がりはわかったわけだ。」


 翔が『うーん』と唸りながら腕を組んでいる。俺も同じ気持ちだった。


「話が大きすぎる・・・私達の手に負えないよ。」


 そう言って、環菜が落胆の表情を浮かべる。


「そうかも・・・」


 なっちゃんも暗い表情を浮かべている。


「夕人。お前はどう思う?」


 翔が俺に意見を求めてきた。

 俺はなんて答えたらいいさ?

 環菜の言うこともよく分かる。今回のことはただの中学生の俺達にはどうすることもできないことが多すぎる。でも、だからってここで諦めるのか?


 小町を見捨てる?

 そんな選択肢を選びたくはない。もっと他の方法を考えろ。全てを解決できなくても、小町を助ける手段を。


「・・・俺はあきらめない。」


 それだけを口にした。


「けれど、どうする?確かに環菜の言うように俺達の手に余る事態だぞ?」


 翔はいつだって冷静だ。きちんと物事を考えている。感情だけで動こうとはしない。でも、俺は違う。感情抜きで動けるほど大人じゃない。


「小町の写真だけでも取りかえしてやる。その後のことは知らない。俺の知ったことじゃない。」

「夕人。それはムリだ。写真がどこにあるのかわからない以上、どうあがいても手には入らない。」


 翔は俺の言葉を頭から否定してきた。


「田中が持ってる。」

「写真は持っているかもしれない。でも、ネガは?それも田中が持ってるといい切れるか?」


 翔は夕人のもとに歩み寄って肩を掴んだ。


「わからない。田中を問い詰めればいいだけじゃないか。そうだよ。簡単なことだったんだ。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのかな。そうさ。始めっから俺がそうしてればもっと簡単に片がついたんだ。」


 俺は肩を掴んでいる翔の腕を振り払った。


「夕人っ。」

「うるさいんだよっ。翔っ、お前は小町がこんな目にあってるってのに諦めるっていうのかよっ。手に負えない?そんなのは初めからわかってただろうよ。田中一人でできることじゃないってのもわかっていたし、バックに何かが居るんじゃないかって。そんなのも予想していたじゃないか。一番簡単な手段を取るだけだ。それの何が悪い?」


 俺の怒鳴り声に皆が静まり返る。


「なんだよ・・・みんな何も言えないのか?嘘でもいいからその通りだって言うやつはここにいないのか?」


 たたみかけた俺の言葉を聞いても一人も口を開かない。翔ですら目を瞑ってした唇を噛み締めているだけだ。


「わかった。いいよ。俺一人でやる。」


 俺はそう言って翔に背を向けて部屋から出ていこうとした。


「待ってよ、夕人くん。一人じゃ危ないよ。」


 環菜が駆け寄ってきて俺の手を掴んだ。


「危ない?何がだよ。大したことじゃないさ。ちょっと田中を問い詰めるだけなんだ。簡単なことだろう?」

「どうやって問い詰めるつもり?なんて迫るの?小町の写真を持ってたら寄こせとでも言うつもり?そうだね、夕人くんには正義があるもんね。でも、それで田中が口を割るとでも思ってるの?」


 環菜のその口調が俺を苛立たせた。


「そうだな。俺は間違ったことはしていないからな。何をしたって手に入れてみせる。」

「竹中くん。それじゃダメだ。」


 稚内くんが俺に苦言を呈してきた。


「なにがさ。」

「解決になっていない。君が青葉さんのことを思っている気持ちはよく分かるよ。でもね。それで解決するほど今回の件は簡単なものじゃない。それにまだ、わかっていないこともあるだろう?」


 わかっていないことだって?

 小野寺先生のことか?だから何だよ。小町には関係ないんだよ、そんなことはさ。

 そんなことを考えながら俺は稚内くんを睨みつけた。彼は落ち着き払った表情で俺の顔を見ていた。そんな澄ました姿はますます俺を苛立たせた。


「僕が言っていることがわからないほど、君はバカじゃないと思うけれどね。」

「そうだよ、夕人くん。」


 環菜は俺の手をしっかりと握りしめたまま言った。彼女の表情には夕人の激しい口調に動揺が見られた。


「わかってるさ・・・でも、何もしないってわけにはいかないんだよ。俺は小町と約束したんだ。俺が終わらせてやるってさ。だから・・・やらなきゃいけない。」


 環菜の手を振り払って部屋を出ていった。俺の事を追ってくるやつは誰もいなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


夕人がここまで感情を爆発させるのは珍しいことなのでしょう。

環菜の童謡からもそれがわかってもらえるかと思います。


さて・・・もっとも手段としては好ましくない方向に進んでいます。

自分の手には負えないと感じたことからの苛立ちなのでしょうけれど、体を張って夕人を止めようとしたのが環菜だけだったというのは・・・


何度かあとがきには書いていますけれど、これは推理小説的なものではありません。

ですから、そう言った内容を期待されるのであれば・・・

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