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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第36章 『何かが起こっている?』のであります
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少しずつ動き始める

小町を救うためにどうしたらいいのか。

夕人の頭の中はそのことでいっぱいです。

どう動いていったら良いのか。思案に思案を重ねるのでしょう。

 俺は考え事をしていた。

 もちろん小町を困らせているアイツ、田中のことだ。


 本当ならば今日からすぐにでも動きたかったのだけれど、残念なことに今日は塾に行かなければならない日だった。いつも通りに自転車で教室へ向かい、目を瞑って考えていたんだ。


 明日からどうする?

 まずは翔と話をするか?

 いや、その前に自分で少し情報を集めておく?

 俺一人で情報を集める?


 どうやってだよ。

 実花ちゃんみたいな情報通と協力しないと無理だ。

 でも、俺が信じられるって思った名前にはすぐに挙がらなかった。ごめんよ、翔、実花ちゃん。二人は俺が入学してすぐに巻き込まれたトラブルの直後から俺に良くしてくれた友人だ。信じられない訳がないじゃないか。こんな気持ちになるだなんて・・・これも全部アイツのせいだ。訳の分からない事をしやがって。


 砂川さんにはなんて話をしたら良いんだ?

 素直にすべてを話すのが一番なんだろうけれど、それが難しいから困っている。でも、彼女にはウソは通じない。そもそもそういう曲がったことが好きじゃないだろうしな、彼女は。だったら遠回しに話しかけて、その時の成り行き次第ってことか?何の作戦にもなってないじゃないか。やれやれ。


 なっちゃんには?

 あの子に話すほうがずっと難しい。砂川さんに話すよりも難しいんじゃないか?

 よく考えたら。でも・・・そうか。写真のとり方とか、ビデオとか、そういった話から進めていけばいいのか。急にこんな話をしたら怪しまれるんじゃないかな。でも、女子の協力者は何人でも欲しい。特にタイプの違う女子なら言うまでもなくありがたい。交友関係の違いがあるだろうから情報の入り方だって違う。


 環菜は?あの子は・・・きっと大丈夫。信じていい。今まで二年間彼女を一緒にクラス運営をしてきた。仕事もできるし頭も切れる。俺が冷静になれないとき、彼女のおかげで何度助かったことか。東山さんのときも・・・助けてもらったよな、そう言えば。


「どうしたの?夕人くん。」

「ん?いや、ちょっと考え事をしてたんだ。」

「ふーん、何かあったの?周りが見えないくらいに考え込むなんて珍しいんじゃない。」

「うん。まぁね。」


 え?

 今の声って環菜じゃないか?あれ?ここ、学校じゃないよな?

 俺は驚いて目を開けた。目の前に見慣れた制服姿の環菜の顔がある。


「え?環菜?どうしてここに?」


 俺は驚いて立ち上がった。

 少し大きな声が出てしまったみたいで、しかも思い切り立ち上がったもんだから他のクラスメート(この場合は塾のだけれど)たちが驚いたみたいだった。


「今日から私もここに通うことにしたの。よろしくね。」


 環菜はそう言って軽くウインクをした。いつもの環菜とはどこか違う。そんな感じがした。


*********************************


「なんだってまた急に?」


 塾の帰り道、俺は自転車を押しながら隣を歩く環菜と話していた。


「ほら?前に色々聞いたでしょ?塾のこととか。それでね?私は勉強を頑張らなきゃいけないなって思ったから。あと半年だけれどね、ここに通おうかなって思ったんだ。」


 そう話す環菜の口調は、今までよりもずっと明るく、そして元気だった。


「ふーん、それにしても本当にいきなりだよなぁ。」


 環菜がこの塾に来ることになるなんてことは、俺はもちろん知らなかった。それにクラスの中に急に美人がやってきたものだから、さながら転校生がやってきたかのような雰囲気になっていた。名前を聞かれていたり、どこの学校なのかって聞かれたり。なんだか改めて環菜が美人だってことを確認することになった。


 そして、環菜の座席を決めようということになったのだけれど、ここで環菜が『あ、私は竹中くんの隣に座りまーす。』なんて大きな声で宣言したものだからクラスは大きくザワツイたんだよ。全員で十人くらいしかいない小規模なクラスだったけれど、驚くくらいにやかましくなった。隣のクラスで授業をしていた先生からクレームが来たのも無理もない。やれやれ・・・


「だって、予め言ったら夕人くんが他のクラスに行っちゃいそうでしょう?」


 環菜が『えへへ』と笑ってそう言ったけれど、そんなことはしないと思うんだけれどな。今さらクラスを変えるのも面倒だし。


「それはないけどさ・・・はぁ。」

「え?嫌だった?」


 環菜が俺の顔を覗き込んできながら尋ねてきた。


「そんなことはないけれど、驚いたんだよ。前にも言ったかもしれないけれどさ、このあたりの塾は俺が通っているクラス以外の生徒は少しガラが悪いんだよ。同じ時間帯に他の学校の奴らが集まっているクラスがあってさ。だから、あんまりお薦めはできないって思ってたんだけどなぁ。」


 俺の溜息混じりのその言葉を聞いて、環菜が大げさに驚いてみせた。


「えぇっ、そうなの?でも、いいのっ。何かあったら夕人くんが守ってくれるもんね。」

「守るも何も・・・何も起こらないのが一番なんだよ。」

「あ、そりゃそうだね。」


 なんだか妙にごきげんな環菜と一緒に塾からの帰路につく。とても不思議な感じだ。


「あ、環菜、自転車じゃないのか?」


 よくよく考えたら俺は自転車を押して歩いていたけれど環菜は普通に徒歩だ。


「あ、私は地下鉄。でも、家から地下鉄まで結構遠いんだよね。今度から自転車で来たほうがいいかな?」


 環菜の仕草はいつもとは違ってなんだか落ち着きが感じられない。そう、言うなればウキウキしている?そんな感じに見えなくもない。まったく、何がそんなに嬉しいんだか。それに、何でこんなにテンションが高いんだよ?


「ん、まぁ、どっちでもいいんじゃないか?でも、そもそもこのあたりはちょっとガラの悪いのもいるからオススメはしない。」

「だったら、一緒に行こう?帰りも一緒に。ね?ダメ?」


 俺の隣で環菜はスキップをするように歩いている。やれやれ一方的だよなぁ。


「いいけどさぁ。俺も時間とか約束できないぞ?塾に行く時間はだいたい同じだけれど、ほら、生徒会とかあったらギリギリになったりするし。環菜も部活とかあるだろ?」

「うん、いいの。大丈夫。」

「わかったよ・・・塾のある日は学校で時間とか打ち合わせしよう・・・」


 もう何を言っても無駄なんだろうな。こんな強引さは今までの環菜にはなかったよなぁ。どちらかと言うと遠慮がちなところがあったから、いい傾向って感じなのかもしれないけれど。


「うん、でね?今日は後ろに乗っけてよ。」

「はぁ?」


 間抜けな声と表情を同時に環菜に見せる。しかし、環菜はそれにどうじたような様子は全然見えない。

 なんていうかさ、俺の自転車は環菜のタクシーじゃねぇっての。


「こうやって二人で歩いてたら帰るの遅くなっちゃうじゃない。夕人くんちの方が私の家より遠いんだし、あんまりおそくなっちゃマズイでしょう?」

「はぁ?」


 だったら環菜は地下鉄で変えればいいのに。そう思っていたとしてもそれを言っちゃ終わりだよなぁ。お父さんからも女の子には優しくしろって言われてるし、まぁ・・・環菜だしな。


「一緒に帰りたいです。だから後ろに乗せてください。」


 そう言って今度は急に頭を下げてくる。


「ダメ?」


 極めつけはそこからちょっとだけ顔を上げて小首を傾げるような仕草。


「いいけど・・・お尻が痛くなるかもしれないぞ?」


 大体にして俺の自転車は結構古いやつだからな。いわゆるママチャリってやつだ。母親が使っていたのを貰ったって感じ。はっきり言って女の子を乗せるような立派なものじゃないんだよな。いや、茜は後ろに乗ったこともあるけれど。それはちょっと置いておこう。な?


「大丈夫っ、痛くなったら立つから。」

「それは危ないから止めてくれ。横向きに座れよ?ゆっくり行くからな。」

「うん。初めて夕人くんの後ろに乗せてもらった。」

「・・・いいから行くぞ。」

「・・・うん。」


 環菜が後ろに座ったのを確認して、腕が俺に絡みついてくる感触を感じながら、俺はゆっくりと自転車を漕ぎ始めた。


*********************************


 もうすぐ環菜のマンションに到着するってところで環菜が話を切り替えてきた。それまでは他愛のない話をしていたんだけれど、口調や声色まで変わったんだ。


「ねぇ、何を悩んでるの?」


 背中から聞こえる声は俺のことを思っていってくれているのがわかる声。少し低めの声。


「なんのことだよ。」

「隠したって無駄だよ。夕人くん、何か悩んでる。」


 隠しているわけじゃない。まだどうしたらいいのかわからないから何も言えないんだ。


「「別に・・・」」


 俺と環菜の声がぴったりと揃う。環菜は後ろで『フフッ』と笑っている。なんなんだよ、このシンクロした感じは。


「やっぱりね。私で良かったら話を聞くよ?」

「いや、気持ちはありがたいけれど、まだ言えないんだ。」


 俺は前を向いたまま自転車を漕ぎ、そう言った。


「夕人くん、すごく悩んでるみたいだね。」


 あぁ、悩んでいる。環菜の申し出はありがたいけれど、小町にとっての大問題なんだ。いくら一任されているからと言ってもそう軽々に話す訳にはいかないんだ。

 もちろん環菜のことは信用している。今回のことを相談してもいいはずだ。でも、今ひとつ踏ん切りがつかない。


「うん、ありがとう。今はまだどうしていいのかわからないんだ。でも、時間はないから急がないといけない。」


 俺は何を言いたいんだろう。こんな言い方じゃ環菜を混乱させるだけじゃないか。俺は誰かに相談したいんじゃないか?信頼できる人に。小町を助けるために。


「なんだか、深刻そうな話みたい。」

「うん。」

「私には話せない?」


 そんなことはない。環菜のことはよくわかってる。とても頼りにできる信頼できる女の子だってことを。


「そんなこと・・・ないんだけど。」

「夕人くん、また一人で抱え込もうとしてるんじゃない?それじゃ、解決できるものもできなくなっちゃうよ。」


 環菜が後ろから俺の腰をギュッと抱きしめ、背中に顔を当ててきた。今は夏だから俺は薄着だった。環菜の体温が薄布越しに伝わってくるのがわかる。


「一人で解決しようとは思ってないよ。ただ、どう進めたらいいのか。それが見えてこないから。ただ闇雲に他人を巻き込んじゃいけないって思うから。」

「人は一人じゃ生きられない、でしょう?」


 環菜の優しさは痛いほど伝わる。でも、いいのか?小町。環菜に助力を頼んでも。


「うん・・・」

「分かった。話せるときにちゃんと話して。私も出来る限り協力するからね。だって、夕人くんが悩んでるときって『誰かの事で』だもんね。夕人くんをそこまで悩ませるなんて、ちょっと羨ましくも思うけれど、こんな言い方はダメだね。ごめん。」


 環菜の声が小さくて後半はよく聞き取れなかった。

 でも、とにかく一人で何かをするには限界がある。明日、俺の信頼できる人たちに相談しよう。小町を、いや、多分もっと多くの子を助けるために。


「明日。話を聞いてくれるかな。今回は本当にヤバイことになると思う。それこそ、警察沙汰とか。そういったことになるかもしれないんだ。」

「そんなに・・・」


 さすがに環菜が想像していたことよりも重大なことだったようだ。環菜の顔が俺の背から離れる。


「わからないけれど・・・たぶん。」

「わかった。いいよ。どんなことでも夕人くんがやろうとしていることなら協力する。ううん、協力させて。」


 そして、俺の背に環菜がコツンと額をぶつけてきた。


「ありがとう、環菜。」

ここまで読んでくださってありがとうございます


夕人にとって予期しない事態が起こります。

そもそも、小町の件とその他のことは基本的にはなんの関係もない出来事です。

並行して事柄が進んでも何もおかしなことはないんですよね。


それにしても、環菜の積極性は恐ろしいものがあります。

これも夕人のそばにいたい精神から来る行動なんでしょうか。

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