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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第36章 『何かが起こっている?』のであります
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小町の異変

少し嫌な内容が続いていきそうな気配です。

 今日から二学期が始まった。

 そろそろ受験シーズンって感じがしないでもない。

 九月から十一月までは三回の学力テストがあって、その三回の平均点が入試の点数の予想点数になるとか。しかも、このテストから各教科六十点満点になって合計点は三百点満点になる。何の意味があるのかわからないけれど、そういうことになっている。

 そして二学期といえば俺たち生徒会の最後のイベント、学校祭が十月にある。しかも今年は開校三十周年ということで今までとは違うちょっとしたイベントを企画中だ。学校の説得の方は完了している。生徒たちにはまだ何も告知していないから、いつも通りの学校祭だと思っているに違いない。

 そのイベントっていうのは茜のお姉さん、畔上くろうえグレーシアさんを呼ぶっていうものだ。そして、その前座として俺たち有志がバンドで場を盛り上げる。そういう予定になっている。その辺の練習もしなきゃいけないし、メンバーを集めたりしないといけない。近いうちに学校祭企画・実行委員会を招集しておかないとなぁ。なんだか、忙しくなりそうだぞっと。



「おはよー。」


 茜が教室に元気よく入ってきた。

 それにしても茜は以前にも増してキレイになった。まだテレビ番組で見かけるようなことはないけれど、きっとそのうち有名人になるんだろうなぁ。

 そんなことを考えていたら朝の挨拶をするのが足草に先を越された。


「おはよう、小暮。」

「おはよう、茜。」


 なんだか悔しいけれど、ま、いっか。今日はそれなりに気分もいいし、天気もいい。小さなことを気にしないことにしよう。


「あ、おはよう。夕人くんに足草くん。」


 よっし、足草よりも先に名前を呼ばれたぜ。つまらない意地の張り合いみたいなところもあるけれど、一人で勝手に勝ち誇った気分になり足草の顔を見た。あいつは特に何も気にしていないようだな。チクショウ。虚しくなるじゃないか。

 とまぁ、そんなことはさておき、茜は笑顔を浮かべたまま小町のところに歩いていった。

 そう言えば今日の小町は元気がないな。ちょっとからかってくるかな。


「元気ないぞー、小町。」


 後ろから声をかけ、椅子に座ってジッとしている小町の頭を撫でてみた。


「あ、夕人。うん、ちょっとね。」


 あれ?本当に元気ないな。俺と同じように思ったのか茜も少し首を傾げている。


「どうした?なんかあったのか?」

「ん・・・ちょっとね。」


 小町は笑顔で俺の顔を見上げてきた。その目は何かを伝えようとしているように見えるのだけれど、それが何なのかまではわからない。

 ちょっとって何だよ。おかしいな。こんな言い方はいつもの小町からは考えられないのに。


「夕人くん、私から聞いてみるから。ちょっと待っててくれる?」


 茜が小町の背を軽く撫でるようにしながら俺にそう言った。


「あ、あぁ・・・うん。わかった。」


 小町の縋るような目に、後ろ髪を引かれる思いを持ちながらもその場を後にした。



 その日の放課後。

 放課後と言っても今日は始業式だけだから、まだ午前中だったけれど。とにかく、茜が俺に声をかけてきた。その表情を見る限りはいつもどおりの茜と何も変わらないように見えたけれど、小町のことはどうだったのかな。でも、今になって考えてみると茜も冷静ではなかったのかもしれない。


「ちょっと時間あるかな?」


 俺は生徒会の仕事がちょこっとあるだけだったから、特に時間の制限なんてものはない。今日は塾の日だったけれど、それだって夕方過ぎなんだからな。


「もちろん、いいよ。」


 手に持ったカバンを机の上に置き、茜の顔を見てそう答えた。


「あのね、ここではちょっと話しにくい。」


 茜の表情は何一つ変わらず、むしろ笑顔を浮かべていた。それが逆に何か大きな問題があったんだと俺に悟らせた。


「そっか。いい場所がある。生徒会室横の資料室に行こう。」


 だから、俺も笑顔でそう答えたんだ。だって、小町に何かがあったに違いないんだから。


****************************


「ここなら誰も来ない。大きな声さえ出さなければ誰にも聞こえない。大丈夫だよ。」


 茜の目を見てそう言った。さっきまでとは打って変わって茜の表情は暗い。


「私もまだ全部は話を聞けてないの。さすがに時間が足りなくて。それに、私は今日の夜の飛行機で東京に行かなきゃいけない。だから、これ以上は何もできないの。」


 茜は苦しそうな表情を浮かべて言った。


「ちょっと待って。何の話だ?茜が仕事の関係で北海道と本州を行ったり来たりしているのは知っているけれど、それが話したかったことじゃないよな?」


 おそらく茜は少し混乱してるんだろう。それくらいに重大な何かがあったということなのかもしれない。小町の朝のあの目、それがとても気になった。


「ごめん・・・私も何から話したらいいのかわからなくて。」

「いいよ。一つずつ話してよ。」


 俺だって気になるけれどさ。急かしても仕方ないよな。


「うん、ごめんね。あのね、小町ちゃんなんだけれどね。その・・・田中に迫られて困ってるって・・・」


 茜は小町と面と向かって話す時以外は以前と同じように小町ちゃんって呼んでいる。って、そんなことよりも田中に迫られてる?


「そんなの、興味が無いからって言ってフッちまえばいいじゃないか。」


 俺はそれでいいと思うんだけれどな。大体にして田中ごときが小町と釣り合うわけがないだろう。小町にはもっとこう・・・いいヤツじゃないとダメなんだ。

 そんなことを考えつつ、少し不機嫌な気持ちになった自分に違和感を覚えた。


「うん、私もそう思うんだけど・・・なんかそうもいかない何かがあるみたいで。でも、それを聞き出そうとしても何も言ってくれないから。」

「茜にも言えないこと?なんだろうなぁ。」


 親友にも言えないことってなると一体なんだ?これも意味がわからない。小町のあのアクティブさというか、歯切れの良さというか、元気の良さが全く感じられない。

 そうなってくると俺が一人で考えても想像もつかないことなのかもしれない。


「分からない。でも、きっとすごく面倒なことがあるんじゃないかな。小町ちゃんと田中って同じ部活だし、それに・・・」

「体操のジムも一緒だったよな。」

「うん。」


 茜の言っていることはわかるよ。角を立てたくないとか、そういった気持ちがあるならそりゃ面倒だと思う。でも、それにしたって迫られているっていうのは何か言葉がズレているっていうか、悪意みたいなものを感じてしまう。

 だってそうだろう?

 迫るって言う言葉は重いよ。普通なら告白されたとか、言い寄られたとか。そういう感じの言葉になるんじゃないのか?うーん、後者の方も悪意があるっちゃあるような気がするけれどさ。


「何か、あったってことなのかな?」

「たぶんね。でも、私には聞き出せなかったの。だからってまた夕人くんに頼るのは私もおかしな話だとは思うの。でもね、私が一番信頼できるのは夕人くんだし、小町ちゃんもそうだと思うの。」


 そう言われて悪い気はしない。しないけれども、俺にできることってなんなのだろう。見守ることとか、話を聞くくらいのことしかできないと思うんだ。

 けれども、不思議とやる気だけは湧いてくる気がした。


「そう・・・なのか?」

「そうよ。わかってるでしょ?そんなことは。」


 茜が片目を閉じ、ウインクをしてみせる。その姿はなんというか・・・色っぽいな・・・

 いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃないだろ?しっかりしろよ、俺っ。


「ねぇ、田中ってどんなやつなの?」


 俺の考えを読み取ったのか、茜がさっきとは違って少し厳し目の表情を浮かべて聞いてきた。

 そうだよ、今は小町と田中のことに集中しなきゃいけないんだから。


「どんな・・・そうだな。俺もよくは知らないけれど、あんまりいい話は聞かないなぁ。」


 いい話は聞かない、いや、どうなんだろう。俺の情報が偏っているだけなのかもしれない。いや、でも・・・修学旅行のときにも話したじゃないか。そうだよ。間違ってはいないはずだ。

 俺は素直にそう答えたんだけれど、そこに茜が食いついてきた。


「あのね?私たち女子の中では田中ってそれなりに評判がいいの。結構イケメンだし、女の子に優しいって。」


 茜の表情は変わらない。何かを感づいているけれど確信はないっていうのかな。

 そういう表情にも見えた。だってそうだろう?男子と女子との間でここまで評判が違うっていうのは、何かおかしいじゃないか。そりゃ、モテる男子相手には嫉妬のような感情を抱くときもあるよ?でもさ、それだけで180度違うなんてことにはならないもんだよ。


「ふーん、茜ってあんな感じのやつが好みなんか?」


 あえてこう聞いたのは茜の本心を聞き出すため。でも、すぐに反省することになるのはわかっていた。


「違うよ。それはない。その聞き方は意地悪だよね。私の気持ちは知ってるくせにさ・・・」


 そう言って茜が目を伏せた。俺の予想通り俺はすぐに反省することになった。やっぱりな。茜が田中なんかに興味をもつはずがないんだ。わかってはいたけれど、最悪の方法だったのは確かだった。


「悪かったよ・・・どうしても、確認しておきたかったんだ。」


 俺は頭を軽く掻きながらそう言うしかなかった。


「何を?確認したかったの?」

「以前に俺が話したことを信じてくれているかどうか、を。」


 茜は俺の目をジッと見ている。そのまっすぐな眼差しは、俺がどれくらいくだらない方法を取ってしまったのかと思わせるのに十分過ぎるバツだった。


「ごめん。試すようなことをして。」

「いいよ。大丈夫。私は夕人くんのことを信じてるから。それに今はそんな話をしてる場合じゃないと思うの。時間はあまりないからね。」


 そうだ、確かに時間はないけれど、でも・・・それで良いのか?いくら小町が困っているとは言っても人の恋路に口を挟むっていうのはどうなんだろう。


「あのさ、今更かもしれないけれど、俺がとやかく言っていいのかな?」


 俺の言葉を聞いて茜が呆れたような表情を浮かべて俺を見た。


「何を言ってるのかなぁ、夕人くんは。小町ちゃんが望んでいる方向じゃないっていうのは分からないの?さすがにそのくらいはわかるでしょう?鈍感な夕人くんでもさ。」

「む、鈍感?」


 茜の言葉に少しムッとしたけれど、言われてみればそうなのかもしれないと思うところがあることを否定はできない。だって、小町は『困っている』って茜に言ったんだ。あの小町がだぞ?


「そうだよ。でも、それも今の論点から外れてる。だから話を戻すね。」


 そう言って茜はゆっくりと大きく息を吸い、そして同じようにゆっくりと吐き出した。


「私は不思議なの。女子ウケのいい田中のことを夕人くんは評判が悪いって言ってた。それって単純に夕人くんのヒガミとかやっかみとか、そういうことかな?私には絶対にそう思えないの。だってね、男子の中には当然、普段の田中を見ていて良い感情を抱いている人もいると思うのよ。でも、夕人くんはあの時も、今もはっきりと断言した。すまり、夕人くんは何かを知ってるんじゃない?みんなが知らない田中の何かを。」


 茜っていう子は時々、いや、結構鋭いところがある。特に他人の感情とかそういったものに対してすごく敏感だと思う。だからなんだろうな。俺が言った言葉の一つ一つをよく考えているみたいだ。

 そんな茜に対して試そうとした自分を恥じていた。


「知っているってほどじゃないんだ。ただ・・・生徒会にはちょっとした情報も入ってくることがあるっていうだけなんだ。それも、全員じゃない。翔と俺にだけだ。」


 それは極秘情報と言っても過言じゃない情報。これだって本当はあまり良くないことなのかもしれない。だって個人情報だからな。まぁ、先生たちから流れてきた情報じゃないから許されるのか?


「どういうこと?」


 茜の表情が曇る。俺の言葉をすぐには飲み込めないといった、そういう表情にみえた。


「んー、平たく言えば実花ちゃんとか、そんな感じに噂好きな子の話を聞いたりっていうのか?翔ってほら、例のあの親衛隊とかいるだろ?そういうところからの情報っていうか・・・まぁ、他校の話なんかも入ってくる時があるんだ。」


 たぶん、これって俺たちが特別なんだろうなってことはわかっているつもりだ。生徒会としての役割を逸脱していると言われても仕方のない越権行為なのかもしれない。


「そっか・・・なるほどね。それで、実花ちゃんからの情報っていうのはあるの?」

「特にはない。でも・・・他校で田中の評判はすこぶる悪いみたいだ。ほら、当たり前だけれど、中学校に進学するときってそのまま持ち上がりとは行かないだろ?それでさ、ちょっと気になることがあるっていうか・・・」


 これ以上はいくら茜にでも言えない。だって、確定情報じゃないんだから。


「そっか・・・田中って私とも夕人くんとも違う小学校だったね。」

「そう。もちろん翔もな。ま、アイツと同じ小学校のやつなんていないんだけれども。」


 アイツは他県からの転校生だからな。当たり前だ。いや、そんな翔が生徒会長だからこそ、みんなの情報が集まってくるのかもしれない。過去のしがらみっていうのが少ないアイツだからこそ。


「んー、それってどんな話?」

「悪いけれどそれは言えない。茜が小町のことが心配で、田中のことを聞きたいっていうのはわかるよ。でも、ごめん。今はまだ言えない。」


 少し俺の中でも気になることがある。これは早めに動く必要がありそうだな。そう考えていた。


「そう・・・だね。ごめん。夕人くんを困らせるようなこと言って。でも、なんとかしてあげたくて・・・このまま放っておいたらとんでもないことになりそうな、そんな嫌な予感がするの。それくらい小町ちゃんの様子がおかしいから。」

「そんなに小町はおかしな感じなのか?」


 俺の鈍い勘もあながち間違っていないってことなのかもしれない。

 つまりは、俺が朝の小町を見た時に感じた不思議な感覚は正しかったということになる。


「うん、溜息ばっかりだし、それに・・・学校が怖いって。」

「学校が怖い?」


 俺にはよくわからない言葉だな。いったいどういうことなんだろう。恐い?田中がじゃなく、学校が?


「私にもわからないよ。でもね、これだけは言われた。」

「なに?」

「学校で着替える時は細心の注意を払ったほうがいいかもって。」


 着替える時は細心の注意?なんだそりゃ?

 いや、俺は男だからな。着替えが見たいなんて言われたり思われることはないと思うんだよ。まぁ、茜みたいな超絶美人や女子たちの着替えならともかく・・・だから、初めからわかってることなんじゃないか?

 けれど、よく考えてみろよ?小町があえてその言葉を口にした理由。意味があるんじゃないか?


「茜がそう言われて思い当たること、って言うか、ほら、茜は芸能人だろ?そういうのは俺よりもよく分かるんじゃないか?」


 俺の言葉を聞いて、茜はハッとしたような表情を浮かべた。これは明らかに何か、思い当たることがあるってことだよな?


「もしかして・・・盗撮?」

「は?盗撮?」


 まて、それは俺の予測の範疇を超えてるぞ?だって、それって完全に犯罪じゃないかよ。それがうちの学校で起こっているっていうのか?


「うん・・・私たちはそういうことには特に注意するよ。だって、外での撮影とかもあるからね。私は車の中で完全に外部から遮断されたところでしか着替えないよ。それくらい気を使ってるけれど、流石に学校では・・・そこまで気をつけてなかった・・・」


 それはそうだよ。学校ってそういうところだよな?信頼しているっていうか、無条件で安全な場所だって思っているフシがある。俺だってそうだ。


「盗撮・・・更衣室とか?」

「うん、後はトイレとか。」

「はぁ・・・変態かよ・・・」


 俺は思わず溜息が漏れた。卑怯っていうか、まるっきりクズじゃないか。芸能界っていうのは大変だな・・・って、こんなことが学校で起こっているなんて考えたくもないけれど。


「でも・・・立派な装置があったらすぐにバレちゃうと思うから・・・」

「・・・考えたくはないけれど、犯人は女子?」


 俺の言葉に茜は頷いた。そして小さな声で『そういうこともあるって聞いたことがあるよ』と付け加えた。


「でもさ、それと田中ってどうつながるんだろう。」


 ちょっと話が飛躍しすぎた感がないか?俺たちの考えすぎであって欲しいけれど、という考えが茜にも伝わったのかもしれない。茜も考え込むように黙り込んでしまった。


「とにかく。俺はすぐに動いてみる。田中の周辺を少し調べる。信用できる人に声をかけてみるし、小町とも話をしてみる。」


 俺の言葉を聞いて茜は少しだけ笑顔を浮かべた。


「ありがとう。やっぱ夕人くんに話してよかった。でも、まだ実花ちゃんや環菜には話をしないで。小町ちゃんも嫌がってたから。」

「俺に話してよかったのか?」

「夕人くんは別。きっと小町ちゃんも本当は相談したいはずだから。でも、小町ちゃんの性格的に考えたら・・・」

「自分で解決しようとする?」


 茜は無言で頷いた。

 小町の性格的にはそうかもしれない。けれど、今回はどうなんだ?


「自分で解決できるならそれで構わないけれど、さっきの話を整理すると・・・」


 俺は茜と話したことを自分の頭で整理してみた。

 まず、小町は田中に迫られているって言うことだった。それもどうしてか簡単には断れないようだ。そして小町が茜に言ったこと、学校での着替えは気をつけろ、か。ん?思ったよりも話が繋がりやしないか?

 俺の頭をよぎったもの。それは『恐喝』という言葉。

 それってもはや完全に犯罪だろう?

 そう考えるのは時期尚早か?


「どうしたの?」


 俺の表情が厳しいものになったせいだろうか。茜が心配そうに覗き込んできた。


「ん・・・情報が少なすぎてあまりに無理な結びつけかもしれないけれど。小町が田中に脅されているとか。そして、それは・・・」

「まさかっ。それって・・・」

「うん、犯罪っていうか、完全に小町がヤバイ。でも、確信がない。」


 俺は腕を組んで頷いた。俺の予想が外れていて欲しいと願いながら。


「そ・・・そうだけれど・・・でも、本当にそうだとしたら?」

「時間がない。それに、もう・・・マズイことになっているかもしれないし、被害者は小町以外にもいるかもしれない・・・」


 最悪の予想だったけれど、最悪を予想して動かないと取り返しの付かないことになるかもしれない。

 こんな時に信頼できるのはやっぱり翔だ。それにローザ。できれば女子の手を少し借りたい。本当は茜が最適なんだけれど茜は明日から暫くは北海道にいられない。

 俺はどうしたらいいんだ?確信がない以上、先生たちに言うこともできない。

 それに、有耶無耶にされてもみ消される可能性もある。


「どうしたらいいんだろう。」


 茜は少し震えるようにして自分の体をギュッと掴んでいる。


「できることからやる。まずは小町と話す。それから行動する。茜には何かわかれば連絡するよ。あの番号に電話する。ただ、家からだしあんまり頻繁には連絡できないけれど。」


 茜を少しでも安心させようと思って笑顔を浮かべて彼女の肩にポンと右手をのせた。


「ありがとう・・・お願い。」


 茜は頷き、そして俺の左手を両手で掴んできた。


「どうした?」


 俺は驚きながらそう言った。


「夕人くんはスゴイね。まだ何も解決していないのに、もうなんとかなりそうな気がしてきた。」

「それは俺のことを買いかぶりすぎだ。兎にも角にもこれは時間が問題のような気がする。だから急がないと。あ、茜、小町はまだ学校に?」


 俺は茜の目を見てそう尋ねた。


「わからない。でも、すぐに帰るって言ってたからもういないと思う。」


 そりゃそうだ。できるだけここから早く離れたいよな。今は安心できる場所は家だけだろうから。


「茜は何時まで時間ある?」

「え?今日は二時くらい・・・ごめん。もうちょっとしか時間ない・・・」


 そうだったな。今夜東京に行くって言ってたもんな。


「今は十二時ちょっと前だから準備の時間を入れたらもう時間ないか。」

「準備は終わっているし、お母さんと一緒だから。ギリギリまでは大丈夫だけど。」


 茜は少し考え込むようにしながらそう答えた。


「だったらこれから小町のうちに行く。茜も一緒に来てくれよ。頼む。」


 俺はそう言って茜に頭を下げた。これから仕事っていう茜にこんなことを頼むのは心苦しいけれど、いきなり俺が一人で小町の家に行っても会ってもらえないかもしれない。

 いや、違う。俺一人じゃ不安なんだ。どうしたらいいのかわからない不安。それに押しつぶされたくないんだ。共有できる誰かといたい。


「いいよ。もちろん。私の方こそお願い。でも・・・最後までは一緒にいられないかもしれないけれど。」


 俺は茜の言葉に無言で頷いて、握られっぱなしの手をそのまま掴み直し資料室から出ようとした。


「あ、待って・・・」

「どうした?」

「ううん・・・ごめん。行こうっ。」


 茜は一瞬だけ表情を曇らせ、そしてすぐに笑顔を浮かべた。

 俺にはその茜の表情の意味が全くわからなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


うーん、あっという間に真相までたどり着きそうな気配です。

でも、証拠をどうやって押さえたらいいのでしょうね。

小町はあの写真を破ってしまいましたし、田中だって簡単には尻尾を出さないでしょうから。


とは言っても、これは推理小説ではありませんから。

そのあたりは安心していただければいいなぁ、と思っています。

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