久しぶりの組み合わせ
合宿という名のお泊まり会が始まっているようですが、翔と実花の夫婦漫才のお陰で夕人が苦戦しているみたいですね。
この場を収めることができるのは一体誰なんでしょうか。
私が到着したのは四時過ぎ。
塾の夏期講習が終わって家に戻ってから急いできたんだけれど、どうしてこんなことになっているの?
何があったのかはわからないけれど、めちゃくちゃじゃないのっ。
「翔が悪いんだからっ。」
「なにおぅ。俺の何が悪いっていうんだ。」
「落ち着け。な?」
居間では翔くんと実花の二人が喧嘩をしている。
玄関に私を迎えに来てくれたのは夕人くん。そして、私の顔を見るなり『環菜、よく来てくれた。待ってたぞっ。』と言って手を取り、すぐにこの居間に連れてこられた。何かあったのかとは思ったけれど、まさかこんなことになっているなんて。
「何があったの?」
私の質問に答えてくれたのは夕人くんだった。
「いや、これは喧嘩じゃないんだ。きっとパフォーマンスなんだと思うけれど・・・」
「え?意味がわからない。」
だって、居間にはスケッチブックや宿題が散乱している。しかも、なぜか文字を練習したと思われる紙も散乱していた。
「なんかさ、翔の字が汚いってことで揉めたんだよ。」
「はぁ・・・」
字が汚い・・・ね。
まぁ、たしかに翔くんの字はお世辞にもキレイとはいえないけれど、大喧嘩するようなことじゃないよ。
「それでさ、三人のうちで誰の字が綺麗かってことになったんだ。それで、最下位のやつは文字の書き取りをするってことに。で、案の定翔が最下位になって、で、文字の練習をしてたんだけれど・・・」
「喧嘩になった?」
「そう・・・」
夕人くんがガックリと肩を落とす。なんでこんなことで大喧嘩できるのやら・・・
「ねぇ、二人には気が済むまでやらせたほうがいいわよ。そうしないと後々まで禍根を残すわよ?特に実花の。」
やれやれ。これは面倒なことになったわね。夕人くんですら止められないものを、私が止められるわけがないじゃない。無理よ、無理無理。
「そうかな・・・」
「そうよ。放っておきましょう。そのうち翔くんの方から上手に折れてくるから。それまで私たちは他の部屋で待ってましょうよ。」
そう言って夕人くんの手を取り、居間から出た。
よく考えたら他の部屋って言っても勝手に入っちゃいけないわよね。だったら、ちょっとだけ外に出てたほうがいいかな。お庭も広いし、そこで話をしている内に実花が呼びに来るだろうから。
「外の庭に行かない?」
「え?暑くないか?」
「もう大丈夫だよ。私は歩いてきたけれど、結構平気だったもん。」
そう言って半ば強引に夕人くんと二人っきりになったのだった。
そして思う。私ってやっぱりズルいよね、って。
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「夕方にもなると、やっぱり少しは涼しくなってきてるな。」
夕人くんが大きく伸びをしながらそう口にした。
「そうでしょう?」
「あぁ。でも、暑くないと夏っていう感じもしないな。」
そう言って夕人くんは笑顔を見せた。その見慣れた笑顔。少しだけ大人っぽくなったように思う。それに、背も伸びたんだよね。私よりもずっと背が高くなった。
「そうだね。」
そんなことを考えながら、私も笑顔を浮かべた。
「あ、そう言えば夕人くんは夏期講習とか無いの?」
ちょっと不自然だったかな?でも、聞いておきたいことがあったし、早めに聞いておきたくて。
「んとな、日程をズラしたんだ。参加できる日程にさ。いつものクラスとは違うクラスで講習を受けることにしたんだ。」
なるほど、上手に日程を組んだってことね、さすが夕人くん。抜かり無いわね。
「ね、夕人くんの言ってる塾の教室って何処なの?」
「俺か?俺は学校のみんながいないとこを選んでるから、ちょっと遠いんだ。澄川ってとこ。わかる?」
学校のみんながいないところ。どうしてそんなとこにしたんだろう。澄川って言ったらそんなに遠いところではないと思うけれど、でも、確かに家の学校の生徒は通ってはいなさそう。
「わかるけれど、どうしてそんなところにしたの?」
「だって、学校とおんなじメンツだと楽しくないだろう?いつもの学校の延長みたいでさ。それならいっそのこと、違うところに行ったほうが面白いし。別にテスト対策もいらないし。」
なるほどね。そういう考えなんだ。
でも、塾なんて楽しいところじゃないよね?本来は。
「でも、なんでそんなこと聞くんだ?」
「実はね、私の成績ってちょっと下がってるから・・・」
二年生の時まではなんとか学年十位以内をキープできていたけれど、三年生になった最初の一学期末試験の結果はボロボロだった。過去のワースト記録を更新。それで、どうしたらいいのかなって思っていたところだった。
「あぁ・・・そういうことか。うーん、勉強っていうのはさ、俺たちみたいな普通の奴らにはシンドいからなぁ。翔みたいなのは別格だし。」
夕人くんが苦笑いをしながらそう言って、家の縁側のようなところに腰を下ろした。私のそれに習って夕人くんの隣に腰を下ろす。
「まぁ、翔くんは別格よね、本当に。だって、勉強しているところ、見たこと無いものね。」
なんて羨ましい話なのかしら。天才っていうのは本当にいるのよね。少しだけ憎らしいって思っちゃう。
「俺も見たこと無いんだ。一度なんかさ、『授業の内容を聞いたら覚えられるだろう?』とかほざきやがったっ。」
夕人くんは少しクチの悪い表現をしたけれどその顔は笑っている。だから、悔しいとか憎らしいというよりも呆れたっていうのが本心なのかな?
「それは、羨ましいね。」
「まったくだー。あんなのが同じ世代だと一生苦しむわ。」
そう言って大笑いを始めた。私もそれにつられて笑い出す。
そう、私と夕人くんは同世代でクラスメート。でも、それはきっと中学の時だけ。私は夕人くんと同じ高校には行けそうもない。
「ね、進路は決めた?」
「まだかなー。南か旭丘か。そんなところかなって考えてるけど。環菜は?」
「私?私は・・・東が精一杯。でも、仕方がないかなって。」
だからあと半年しか夕人くんとは一緒にはいられない。だから少しでも一緒にいられる時間を増やしたいって思うのは変かな?
「東かぁ。あそこだっていい学校じゃないか。歴史も古いし、結構な進学校じゃないか。あ、でも、音楽とかはどうなのかな?」
音楽・・・それはなかなか狭い門なのよね。本当に才能のある人たちだけがくぐることを許されるところ。音大とか芸術系の学校はさらに狭き門だから、きちんと勉強もして保険的なものもないといけないのよね。
「うーん、わからない。結構厳しいかなって思ってるんだ。」
「諦めるのか?」
「諦めるってわけじゃないよ?でも、他のことも考えておかなきゃいけないかなって。そう思ってるよ。」
夕人くんは『ふーん。』って言いながら何かを考えているみたいに黙り込んだ。もしかしたら夕人くん自身の将来のことを考えているのかな。
「諦めるっていうのは環菜らしくない。いや、わからないけれどな。頑張ってみろよ。まだ、わからないだろう?」
「そうだね。頑張ってみる。」
「俺はさ、先生になろうかと思ってる。中学校か高校の。教科はまだ決めてないけれど、理科とかかな?でさ、色々な子の夢を一緒に語ったり、応援したりしたいなって思うんだ。」
竹中先生か。うん、なんか似合ってるような気がする。きっと色々な生徒のことに気を配れるいい先生になるんだろうなって想像できちゃう。
「そうなんだ。きっといい先生になれるよ。」
「ありがとう。でも、その前に高校、大学と進まないとなぁ。」
そうなんだよね、人生って長いようで短いって言う人がいる。でも、私たちなんてまだたった十数年しか生きていないんだもんね。夕人くんの言うように諦めたらダメ・・・そうだよね。
「そうだね。私もまだ諦めないよ。」
「そうさ、諦めたら終わりだからね。でも、頑張るだけの人生はダメなのかも。目標ってか夢かな?それがあれば頑張れる。頑張ろうとするだけの人生はきっとダメだろうなぁ。頑張れなくなったら終わっちゃうから。」
どうしたんだろう。いつもの夕人くんよりもすごく大人っぽい。不思議。いつもの夕人くんとは別人みたい。
「あ、これって塾の先生の受け売りね。先生って言っても大学生とかじゃなくて、結構なおっさんの先生が言ってたんだ。なんかいい言葉だなぁって思ってさ。」
「なーんだ、びっくり。そんなこと言うのは翔くんだけで十分だもんね。」
「違いないっ。」
私達はそう言って二人で笑いあった。なんだか久しぶりに心から笑えたと思う。
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「すまなかった。」
翔くんが実花と一緒に私達に頭を下げている。
「ごめんなさいです。」
「別にもういいからさ。ご飯にしないか?俺と翔は昼から食べてないんだから。」
「え?お昼も食べてないの?」
私の驚きの言葉に夕人くんが苦笑いを浮かべる。
「実はな、食べてないんだ。だからヤバイくらいに腹減った。」
「ふふ・・・そうだろうと思って出前を頼んだっ。なんとな、俺じゃなくて親父が頼んでくれていたらしい。さっき、電話が来たんだ。」
電話?あれ?翔くんのお父さんって海外に行ってるんじゃ・・・あれ?
「海外からか?すげぇな。」
夕人くんが私の代わりにそう言ってくれた。
「でな?恐ろしいことに、寿司屋が来るらしいぞ。」
「「「はぁ?」」」
私たちは翔くん以外の全員が声を揃えた。もしかして実花も初めて聞いたってこと?
「驚くのも無理はない。実はな。これも親父が始めようとしている事業の一つなんだとさ。」
相変わらずスケールが大きな話だこと。翔くんはそんなお父さんのあとを継ぐのかしら?
「寿司屋が来るってどういうことだよ。」
そうそう、そのことよね。今の大事な話は。
「俺もよくわからないけれどな。出張寿司屋っていうやつらしい。寿司職人さんがネタを持ってきて、目の前で握ってくれるとか。」
それって、私たちみたいな子供が相手でいいの?絶対にお高いでしょう?無理よ、私はそんなの緊張して食べられないっ。
「なんで・・・それが今日なんだよ。翔のお父さんがいる時に頼むべきだろう?」
夕人くんも驚いているみたい。当たり前だよね。お寿司なんてめったに食べられないもの。しかも職人さんが目の前で握ってくれるお店なんて行ったこともないし。
「さぁ・・・それは親父の話だと先方の都合なんだそうだ。職人さんも初めてのことだから、いきなり本番というよりは予行練習がしたいってことみたいだけれど・・・なんなんだろうな?うちの親父って。」
はっはっはと笑っているけれど、どういうことなのよぉ。
それからしばらく経ったところで、本当にお寿司屋さんがやってきた。なにやらいろいろなものを持って。
クーラボックスの大きいものとか、長くで分厚い木の板。それからガラス張りのケース、楽器が入っていそうな大きなカバン。後にこれが包丁入れだっていうことがわかったけれども、とにかくどんなことが起きるんだろうって思ってドキドキしていたよ。
そして、簡易的なテーブルのようなものを作ったかと思うと、テレビでしか見たことがないカウンター式のお寿司屋さんみたいな物が出来上がったの。すごいよね。
そして、職人さんが『何から始めましょうか』って聞いてきたの。翔くんが『おまかせします』って答えていた。私たちはただ、ドギマギして目をパチパチさせるしかなかったわ。
それにしても・・・本来のお寿司っていうのはこういうものなのね。
トロはとろけるみたいに口に入れるとすぐに無くなっちゃうし、ウニも甘いし。エビなんて生きてたよ?私の人生で初めての本格的なお寿司屋さんが翔くんの家っていうよくわからない事になっちゃったけれど、すごく美味しかった。もう二度と食べられないかもしれないからよく味わっておかなきゃって思ってたら、緊張のせいなのかだんだん味がわからなくなっちゃった。
とにかく、そんな至福の時間が終わって、お寿司屋さんもお帰りになったあと。これからどうするって話になった時に実花が切り出したの。
「お風呂に入ろうと思います。」
「風呂?」
翔くんが実花の言葉に疑問形で返した。
「うちの風呂はそこまで広くはないぞ?みんなで入るのはちょっと問題がある広さだ。」
そっか・・・確かにこの前お借りした時はそこまで広くは・・・って、え?みんなで?
「あたしは一緒に入るなら、多少狭くたっていいよ?」
み、実花?何を言っているの?一緒に入るって言わなかった?
「俺は広いほうがいいな。っていうかさ、実花ちゃん。俺と風呂に入りたいわけ?」
夕人くん、冷静すぎっ。だって一緒って、え?それは・・・でも、夕人くんとなら・・・
「それはない。あたしは翔と一緒に入りたいだけ。」
実花は真面目な表情のまま腕を組んでいる。それ、本気で言ってるの?
「実花は馬鹿だからな。放っておいていいぞ。とは言っても確かに風呂には入りたいよな。去年みたいに銭湯に行くか?それとも、順番にシャワーでも浴びるか?」
「だから、あたしは翔と一緒にお風呂に入るっていってるじゃん。」
実花って超積極的なのよね・・・もしかして、もうそういう関係なの?
私は一人で妄想を膨らませてしまって目のやり場に困ってしまった。そして、実花と目があった。マズイ、って思った時にはもう遅かった。
「環菜も夕人くんと入りたいって。どうする?夕人くん?」
「な・・・そんなこと言ってないでしょっ。」
私は間髪入れずに大声で否定した・・・あれ?なんでみんな静かになってるの?
「環菜・・・スゴいでかい声だな、びっくりしたぞ・・・」
夕人くんが目を丸くしたまま私の顔を見ている。
「ほんとに。鼓膜が破れるかと思った。」
実花までそんなことを言うの?でも、私の声ってそんなに大きかったの?
「俺は何も聞こえなくなった。」
え?嘘?それ、ほんと?
「え・・・ごめんなさい、翔くん。大丈夫?」
「大丈夫だ。」
翔くんが私の言葉に頷いた。え?頷いた?
「ほんと?よかった・・・え?」
「聞こえてないわけ無いじゃん。このバカの嘘よ、ウソ。環菜ってほんとに簡単に騙せちゃうのよねぇ。」
実花がそう言ったのに合わせるかのように夕人くんと翔くんが笑いだした。
「ひどーい。そうやって私の事いじめるのね・・・」
やり返してあげるんだから。みてなさいよっ。
「ほら、環菜が拗ねちゃったじゃないか。その辺にしといてやれよ、実花ちゃん。お風呂のネタだって冗談なんだろ?」
あれ?私が想定したのとは違う展開なんですけれど。
「いや、あれは本気。」
「はっはっはぁ、実花よ。その辺にしとけよー。」
なんか、私って遊ばれてる?ひどい、ひどいよ。夕人くんまで・・・って思うけれど、なんかこれはこれで楽しいかも。
「ま、そういうことで、じゃ、翔は実花ちゃんと風呂に入るってことで、俺は環菜と入るかぁ。な?環菜。」
夕人くん・・・それはちょっと・・・だって、ほら・・・もう、そこまでにしてください。
「夕人よー、お前も悪乗りしてるなぁ。」
翔くんが呆れたようにため息を漏らした。
「いや、なんかさ。このメンバーって一年生の時以来じゃないか?ほら、翔が転校してきたばっかりの頃の。なんか懐かしくてさ。」
「おー、そういわれてみたらそうだねぇ。」
実花がウンウンと首を縦に振りながら右手の拳をポンと左手の掌に軽く打ち付けた。
「あ、確かにな。偶然だけれど、その通りだわ。」
「あ・・・」
そっか。夕人くん、翔くん、実花に私。あの時のメンバーだ。そっかぁ。そんなときもあったよね。
「だからいつもよりもハメを外してみてもいいのかなって。」
夕人くんが笑いながら右手で軽く頭を掻いた。たしかにね、もしかしたら、一番にお互いのことがわかっているメンバーなのかな?あれ、それは違うかな・・・
「えぇっ、慣れているメンバーだからハメてやるですって?」
「実花ー、殴るぞー。」
感情のこもっていない声で翔くんが実花をたしなめた。
「あたし、そういうのでは萌えないの。ごめん、翔・・・」
「よーっし、みんなで銭湯に行こう。このままじゃ本当に収拾がつかなくなるからな。」
翔くんが実花の頭を左手で軽く叩いて、そして夕人くんと私の顔を交互に見た。
「そうだな。くだらない話はここまでかな。」
夕人くんも笑顔でそう言った。
「あたしはかなり本気よ。まだあきらめて・・・いたっ。なにすんのよ?」
「実花ー。次に言ったら帰宅命令な。」
翔くんが目を大きく開きながらニヤァっと笑みを浮かべて実花の顔を見つめる。結構・・・怖いんですけれど、その表情。
「わかったわよ・・・でもね、あたし、まだ諦めてないわよ。だって、こんな機会はなかなか無いものね・・・って、おいていかないでー。」
私たちは実花のことは放って置いてさっさと準備を始めることにした。だって、どんどん遅くなっちゃうもんね。お寿司もごちそうになったからもう八時近い時間だし。
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「一年ぶりだったな、あそこに行くのは。」
夕人くんが帰り道にそう口にした。
「そうだなぁ。普段は銭湯なんか行かないもんな。俺んちに泊まることはあっても。」
翔くんがそう言って夕人くんと会話をしていた。一年前っていうのはあの時のことだね。私は茜とご飯を作って待ってたから行かなかったけれど。
「ねぇねぇ、環菜ー。」
「なに?実花。」
「これからどうする?」
「これから?」
「そ。夜は長いよ?」
夜は長いって、宿題とかやるんじゃないの?
そう思って実花の表情を見ると・・・なんか企んでる?そんな悪そうな表情、見たこと無いよ?
「な、長くたって何もしないよ。そんなの・・・」
「あれれ〜、環菜ってば良からぬことを考えていらっしゃる?」
図られたっ。実花に図られたっ。いや、違くてね?そういうその、アレなことは考えてなくてね?
「違うもん。そんなこと考えてないもん。」
思いっきり否定した。今度は少し小さめの声で。
そう、そんなことは考えてないもん。ちょっと念入りに体とかキレイに洗ったけれども、決してそういう気持ちとかはないです。
「ん?どした環菜?」
夕人くんが私の様子を見て不思議に思ったのか声をかけてきてくれた。
「あのね、夕人くん。環菜ってばね?」
そう言って実花は夕人くんの耳元で何かを囁く。絶対変なこと言ってるっ。私のことをまるで変態か何かのように言ってるんだっ。
「環菜・・・」
実花が囁き終わるのと同時に夕人くんが私のもとに歩み寄ってきた。
「は、はい。」
「今日は夜通し遊ぶって?」
「はい?」
「ふふふ・・・」
実花は私たちの様子を見ながら不敵な笑みを浮かべている。
「えっと・・・なんのこと?」
「実花ちゃんからそう聞いたぞ?」
夕人くんは呆れたような表情でそう言ったけれど、私はそんなこと言ってないよ?
「言ってないよ・・・」
私はそんなことは言ってないんだけれど、でも、それならそれでいいのかなとも思った。
「あのねー、夕人くん。環菜ってばね・・・」
再び実花が何かを言おうとしている。今度のあの笑みは・・・絶対に危険っ。私の勘がそう言ってるっ。
「何を言おうとしてるのよー。」
そう言って実花のもとに駆け寄って口元を押さえ込もうとしたんだけれど、華麗に躱されてしまった。
「みんなでいっぱい話がしたいんだって。」
実花はいたずらっぽい笑みを浮かべて私のことを見ていた。もう、実花ってば・・・
「なーんだ。そんなことか。俺ってばてっきり環菜がシモネタでも繰り出したのかと思って期待したんだけれどな。」
翔くんが笑いながら私と夕人くんの表情を見て楽しんでいる。
「環菜がシモネタ?それは聞いてみたい気もするな。」
夕人くんまでそんなこと言うの?
「でしょう?そういうことなら、今夜は猥談だねっ。」
実花が最後にそう言って締めた。あぁ・・・私はそういう話は得意じゃないのにぃ。でも、実はそんなに嫌いじゃないかもって言ったら・・・マズイかな・・・
だって、興味だけはあるよ?
私だって、健全な中学生なんだから。
「まぁ、それは置いといて。楽しくやろうよ。」
夕人くんのその言葉で、なんだか救われたような気がしたよ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
合宿に環菜が参戦です。
環菜目線で物語を見ていくと、少しだけ新鮮な感じがしますね。
それに、思っていた以上に環菜が女の子していますし。
こうやって見ていると、普通の女の子っていう感じがするんですけれどねぇ。
それにしても実花の暴走が凄まじいですね。どこまでが本気なのかは全然わかりませんけれど。
良いようにあしらわれている環菜を見るのは初めてかも?ですね。




