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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第4章 トラブルメイカー
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いつも以上に平穏で楽しい時間

新しい章になって最初の話になります。

タイトル通りの平穏な日常の一コマになります。

「夕人。ちょっと話あるんだけど。」


 そう話しかけてきたのは杉田だった。今は三時限目の授業が終わった直後。いわゆる休み時間だ。


「ん?それって今じゃないとダメなのか?」


 とりあえず俺はそう聞き返す。


「いや、今はむしろダメなんだ。だから放課後でもいいか?」


 今はダメなら、なぜ、今、このタイミングで声をかけるのかを問いたい。


「俺は構わないけど。」


 なんだか深刻そうな話みたいだ。


「いや、やっぱりいいや。悪いな、忘れてくれ。」

「忘れてくれと言われて忘れられるほど俺は賢くないな。」

「いや、夕人は賢いから大丈夫だ。」

「勘弁してくれ。気になって仕方ない。」


 結局何を話したかったのか。杉田は適当に返事をしながら教室から出て行った。取り残された感になった俺は、首をかしげるしかなかった。


「バカ夕人、どうしたのさ。」


 小町が一部始終を見ていたのか声をかけてくる。


「・・・どこかからか声が・・・グフッ。」


 みぞおちに強烈な一撃でもない正拳突きが加えられる。効果音はもちろん大げさに表現したものだ。そうじゃないと死んでしまいそうな音だろう?


「そのネタさ、飽きたって言わなかったっけ?それに、あんまり嬉しくないんだけど。」


 小町が一撃を加えたポーズのままこちらを見上げている。可愛らしい顔が恐ろしく見えるのはこの瞬間だけだ。ただ、俺は地味にこのやり取りが好きだった。


「痛いじゃないか。」


 そう言って小町の頭をグリグリと押し込む。ここまではある程度おきまりのパターンだ。


「バカ夕人、あんたね。もっと他のアクションはできないの?」

「ふむ、別のアクションね・・・」


 そう言って考え込む仕草を見せる。が、実際はあまり考えていない。そもそも小町が喜びそうないじりが思いつかないのだ。この流れだって元々は小町が嫌っていたネタの一つだ。にもかかわらず俺がこれをやり続けるには意味がある。それはまぁ、いつか話すかもしれないし話さないかもしれない。


「そうだよ。ワンパターンだとつまんないじゃない。」


 なんだよそれ。俺は夫婦漫才をやってるわけじゃないんだが。いや、漫才みたいなものか。


「ふむ・・・」


 突然、天から何かが降ってくる。


「おっ。」

「あ、何か思いついたか?」


 小町は目を輝かせながら俺を見ている。


「思いついたぞ。これならいいかもしれない。」


 そう言って俺は素早く小町の腰を掴み持ち上げて、空に放り投げる。いわゆる赤ちゃんにやる遊び、『高い高い』である。


「え?う、ウワァッ」


 小町は声にならない声をあげながら俺に何度が空に投げられる。


「どうだっ、小町っ。」


 自信満々で声をかける俺に、悲鳴に近い声をあげ続ける小町。どこからどう見ても妹をあやしている兄にしか見えない構図。三回目に落ちてきた小町を抱きかかえた時に小町が言った。


「これ・・・どうかと思う・・・」

「・・・そうだな。俺もそう思う・・・」


 二人で思い切り反省する。教室内が少し騒ついているのはあまりに俺のテンションが上がってしまったせいだ。それは否定しない。はっきり言おう。楽しかった、と。


「二人で何やってるの?」


 茜が笑いながら俺たちを見ている。


「高い高いだ。見てわかるだろ?」


「うん、わかるけどね。それを教室でやるっていうのはどうかと思うなぁ。だって、小町ちゃんは女の子なんだよ?それを受け止める時に抱きしめてるっていうのは・・・まずいんじゃないかなぁ。」


 あらかじめ訂正しておく。俺は抱きしめたのではない。抱きかかえたのだ。結果同じように見えるがその内容は天と地ほどの違いがある。


「違うぞ、茜。俺は抱きしめたんじゃない。抱きかかえたんだ。」

「どう違うの?」


 茜が腕を組みながら聞いてくる。それはまるで俺を非難しているようだ。


「どう違うのかって?そんなの簡単じゃないか。愛があるか無いかだ。」

「夕人くんは小町ちゃんに愛情を持ってないの?」


 痛いところを突いてくる。愛情がないわけがないだろう。嫌いだったらこんなことしないしな。


「そっか、バカ夕人は私に愛情なんてものは持ち合わせていなかったんだ。」


 小町もここぞとばかりに茜の言葉に乗ってくる。しかも泣き真似までしている。


「いやいや、ちょっと待ってくれ。愛情がないとは言わないさ。いや、そのなんだ?えっとだな・・・」

「ふむふむ。」


 茜が片目を瞑りながら腕組みをしてこちらを見ている。小町も泣き真似をしながらこちらを見ている。


「だってさ、何か面白いことやれって小町が言ったんじゃないかよ。」


 責任転嫁。こう言った言葉を知らないわけじゃない。現場からの逃げ。その一手を打ってみた。


「うん、そうだね。そんな流れだったような気がするね。」


 茜は俺の後ろの席だ。会話が聞こえていて当然だ。


「だからさ・・・環菜・・・助けてくれ・・・」

「知らない。」


 環菜はこちらを見ようともしないで冷たく言い放つ。


「知らないって・・・冷たくない?」

「自業自得。因果応報。身から出た錆。自分で自分の首を絞める。そういう感じなんじゃないの?自分でなんとかするべきだと思うけど。」


 そう言いながら振り返って笑う。その笑みはとても綺麗だったが故に恐ろしかった。


「俺ってそこまでひどいことしたのか?」


 自分の顔を指差しながら小町に聞く。


「ひどいわ、夕人。私のことを弄んでおいて・・・」


 さらに泣き真似を大げさにして茜の胸に飛び込んでいく。明らかに俺が悪人の構図だ。


「ひどいね、夕人くん。小町ちゃんを泣かせた。」


 茜まで悪ノリしてくる。


「待ってくれよ、この流れって、ほら、俺と小町だからできるっていうかさ、そういうやつじゃない?だって、俺が茜にやったら問題だろう?」


「ふ〜ん、小町ちゃんにはできて、茜にはできないんだ。じゃ、私には?」


 環菜がとんでもないことを言い出す。


「いやさ、今の話ってそんな流れだったか?そもそも、その俺のとった行動の良し悪しって話の流れじゃなかった?」


 そう、こんな話じゃなかったはずだ。そもそも、始まりは杉田に話があると言われたことだ。何がどうしてこうなったんだ。


 四時間目の始業のベルが鳴った。

 この時は、まさか昼休みにあんなことが起こるだなんて誰も知る由もなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


平穏ですね。

楽しそうで羨ましい限りです。


教室で高い高いする勇気を持っている方は、ぜひ試して見てください。

いろいろと大変な目に会うと思われます。

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