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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第34章 『勉強合宿』なのであります
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実花、到着→混沌へ

タイトル通りです。

夫婦漫才に困り果てる夕人をご覧ください

「いやぁ。それにしても。まさか二人が先に来て勉強しているとは感心ですなぁ。」


 実花ちゃんが居間に自分の勉強道具を広げ、俺たちの宿題をコピーする準備を始めた。


「まだ・・・終わってないけれどな。」


 俺の言葉に対して、実花ちゃんが恐ろしい勢いで文句を繰り出した。


「はぁ?終わってないですって?なに?アンタたち、バカなの?あんなに時間あったのに終わっていないとか。写すこちらの身になってよっ。」


 ありえないキレっぷりだな。写経するために俺たちに宿題を終わらせろと?そう言うのでありますか?


「実花よ。宿題は自分でやらないと力にならないぞ?」


 翔が正論を口にするが、これで納得するような彼女ではないだろう。


「フザケないでよ。アンタたちみたいに頭のいい人間にはわからないでしょうけれどね、凡人にとって宿題というのは苦痛でしか無いのよ?それはもう・・・修行よっ。そうよっ、何も得ることができないただの苦行なのよっ。」


 すげぇな。圧巻だ。ここまで自分の歪んだ正当性をアピールできるなんて尊敬に値するぜ。それにしても、何も得ることがないって・・・そんなことはないだろう?何かは得られるはずだよ。


「あたしはね、アンタたちとは違うの。いい?あたしがこれをすべて片付けるのにかかる時間をAとして、アンタたちが片付ける時間をBとするわよ?」


 なんだ?翔っぽい話し方だな。文字式のような表現をしようとするあたりなんて、妙に理系チックだ。


「なんとA-Bは数十時間に相当するという試算が出てるのよ。」


 どこの誰か試算したんだ、そんな馬鹿げた計算を。そこまでの差はないだろう?数十時間って・・・


「なるほど。効率化・・・ということが。」


 翔よ、騙されてはいけないぞ。それは全て実花ちゃんが怠けたいからの発言であって、何一つ信憑性のない話なんだぞ?


「そうよ、法律化・・・よっ。」


 ん?今、なんて言った?法律?なんだそりゃ?効率だろう?完全に適当に語っていることがバレてきてるぞ。そろそろメッキが剥がれるな、これは。確かに、『音』は似ているけれど、それ以外に間違える要素はまったくないよな?


「何だと?法整備まで検討されているのか?時間効率化に対する法、これは・・・マズイな。」


 マズイのはお前らの頭の構造だ。

 今のデタラメな話の流れからどうして法律の流れになっていくんだよ。

 宿題だぞ?自分で取り組むのが当然だろう?


「そうよ。近い将来に日本政府は時間効率の悪い作業に対しての罰則を設ける法律を制定するわ。これによって、世の中の宿題に悩まされる子供たちは開放されるというわけよっ。」


 おかしい。これは絶対におかしい。

 そんな世界になるならいっそのこと滅びてしまうがいい。

 バルス・・・そう口にしたくなるよ・・・


「ふむ・・・そういうことなら仕方ない。俺の宿題を見せてやろう。」


 翔が実花ちゃんに宿題を手渡す。あれ?おいおい、いいのかそれで。


「いや、あんたのは字が汚いから夕人くんのを見せてもらうわ。それこそ効率化よっ。」


 実花ちゃんが右手の親指を立てて俺にアピールしてくる。このバカ夫婦、マジで手に負えねぇよ。


「く・・・俺の字が汚いだと?ならば・・・見せてやろうっ。」


 そう言って翔は自らの宿題を俺に見せつけてくる。


「・・・俺にどうしろと?」

「裁定をくだせっ。お前の判断次第で俺は死刑だ。」

「そうね、死刑ね。」


 待て待て。そんな法律はないし、大体にして字がキレイとか汚いとか、そんなのは主観的なものであって客観的なものではないだろう?


 って・・・うっわぁ・・・


「キタねぇな。お前の字。読めねぇよ。」


 心の底からそう思った。とても日本語とは思えない上に0と6の区別もつかねぇ。もちろん0と9も。これはダメだ。


「それが・・・お前の裁定か・・・」

「そうね、ギルティね。デス・ペナルティね。」


 いや、仮に有罪であってもその刑は重すぎるだろう?

 それじゃ国民が大量にいなくなるし、法律の改正を目指したクーデターが起こるわっ。

 

「仕方がない、後は夕人、お前に任せた。」


 翔はそう言って自分の部屋に向かって歩いて行く。


「あ、おい・・・」

「いいっていいって。放って置いてもしばらくしたら戻ってくるから。」


 そう言って実花ちゃんは笑みを浮かべながら俺の宿題を写経し始めた。


「いいのかよ、それで。」

「気にしないの。いつものことでしょう?それにもう少ししたら何かを持って戻ってくるって。」


 実花ちゃんの言うとおり、翔はすぐに戻ってきた。その手には美術の宿題であろうスケッチブックがあった。


「実花よっ。これを見よっ。これぞ我が渾身の出来、自画像だっ。」


 そう言って見せてきた絵。

 いや・・・それは絵なのか?

 俺には幼児が適当に書きなぐった何かにしか見えない。

 もしこれが自画像だと言うなら、アイツの目は腐っている。そうとしか思えない。


「見る価値な~し。あたしには芸術はわからないし、興味もないから。それにアンタの絵を見たら心が壊されるのよ。だからしまっちゃって、そんな有害図画。」


 厳しい。厳しいがその言葉には俺も賛成だ。いや、そうじゃない。この展開に俺はついていけない。誰か来てくれ、俺を一人にしないでくれっ。


「有害図画・・・」


 翔は落ち込んだようにがっくりとうなだれ、再び自室へ戻っていった。


「あ、おい・・・」

「いいって、放って置いても。」


 ん?さっきと同じ会話?もしかして時間がループしている?んなわけないな。頼む、環菜。早くここに来てくれー。この事態を解決できるのは環菜しかいないっ。


 俺のその願い虚しく、環菜がやってくるまではたっぷりと一時間はあった。その間、俺はずっと夫婦漫才を見せられるはめになったのだった・・・

ここまで読んでくださってありがとうございます。


怒涛の翔&実花ワールドでした。

毎度のように苦しむことになる宿題をネタに話を進めてみました。

短い話になりますけれど、納得できちゃう人もいるのではないのかなぁと思っています。


次章も合宿(?)の続きになります。

環菜が合流してからの話になっていきますので、少しは面白いことになるのかもしれません。

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