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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第31章 自分の気持ちに正直に
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修学旅行 その7 ー自覚のない行動ー

前回からの重たい話が続くことになります。

 夕人のいきなりの言葉に、俺だけじゃなくて茜も環菜も言葉を失っていた。

 でも、別にあいつは隠していたってわけじゃない。みんなに言う必要があるわけでもないわけだし、そもそもあの子達には言いにくいことだろう。いくら俺でもそのくらいはわかるさ。


 でもなぁ、まさか夕人の相手が椎名先輩とは思わなかった。


 夕人は恋ができない奴になっていたからな。

 今のこの居心地のいい関係を壊したくないっていう守りの気持ちって言ったらいいのかな。とにかく、その気持ちに変化を与えられたのかあの先輩だって言うのが少し驚きではあったけれど・・・


「そ、そうなんだ・・・」


 環菜が最初に口を開いた。


 俺の予想だと夕人の言葉を聞いていたら一番辛かった子が青葉だろう。あの子がこの場にいなくてよかったと思う。でも、今は田中と付き合っているんだったら、もう、いいのかな?

 茜は夕人のあの言葉を聞いても乗り越えられる。そういう強さを持った子だと思う。それになんて言うか、そう言うことで挫けるような子じゃないと思うし。

 でも、環菜は・・・どうなんだろう。俺にはわからない。環菜が夕人のことが好きだっていうのはわかる。いや、わかってきた。環菜は自分の思いを口にするのが苦手な子で、しかも考え込んでしまうタイプだと俺は思っている。だから、なかなか考えが読めない子ではあったんだけれど、彼女もあいつと同じ。少しずつ大人になってきたんだろうな。


 って俺が言うようなセリフじゃないけれどな。


「へぇ・・・いつから?」


 茜が笑顔のまま夕人に尋ねた。女の子って強いんだなって思いながら。


「割と・・・最近なんだ。そうだな・・・一週間くらい前。」


 どうして今、その話をするつもりになったのかは俺にもわからないけれど、あいつなりの思いがあるってことなんだろう。だったら親友としてはそれを受け止めてやるしかないよな。だって、それがあいつの気持ちなんだからさ。


「一週間くらい前・・・」


 環菜の表情にはまだ笑顔は戻らない。


「あぁ、そうなんだ。」


 どうして夕人の表情にも笑顔がないんだ?

 茜と環菜がいるからか?

 だとしたらここで話す必要もなかったんじゃないのか?


「そっかぁー。やっぱり椎名先輩に取られたかぁ。」


 茜がそう言ってひっくり返った。和室タイプの宴会場でよかったな、茜。


「取られたって・・・なんだよ、茜。」


 俺は少しだけ笑いながら茜の顔を覗き込んだ。


「えー、翔くんなら知ってると思ったんだけれど?」

「・・・なんのことだ?」


 俺なら知ってる?夕人から聞いているって思ったのか?生憎だけれど夕人はそう簡単にいろんなことを俺に話してくれるわけではないんだよ・・・寂しいけれどな。


「私が夕人くんにフラれたって話。」


 重すぎるっ。

 それを言われて俺はなんてリアクションしたらいいんだよ、助けてくれよ、実花。俺一人では突っ込みきれないぞ。なんと言っても俺はボケ属性なんだからな。


「えーー・・・っとなぁ・・・」

「あはは、ごめんごめん。困らせるつもりはないんだ。それにね、私はこうなっても諦めないしね。」


 強い。強すぎる。それを夕人がいる前で言える茜が強すぎる。

 俺にはもう、羨ましすぎて何も言えない。

 ・・・もとい。


 恐ろしすぎて何も言えない。


「・・・だから、ごめん。茜。」


 夕人が頭を下げた。

 おい、それは間違ってるだろう。少なくとも俺は違うと思う。


「なんで、謝るの?」


 茜は寝っ転がり天井を見つめたままそう言った。

 なんだか良くない展開になりそうだな・・・これは参った。


「それは・・・」

「なんで謝るのかなぁ。」

「・・・」


 夕人よ。地味にマズイぞ。俺には収拾できないからな。後は任せていいか?

 なんか、初めはかっこよく決めてみたいと思ったけれど、無理だ。

 茜が相手じゃ俺には無理だ。


「そうだよ。謝るなんておかしいよ。夕人くんが好きだって、そう思ったから椎名先輩とお付き合いすることにしたんでしょう?だったらちゃんと自信、持たなきゃ。」


 そうそう。俺が言いたかったのもそれだ。その言葉だ。でも、今となっては俺は何も言わないほうがいいだろうな・・・というか静かに消えたほうがいいかもしれない。


「・・・だよな。」

「そうだよ。あ、もしかして夕人くんがしたかった話ってこのことなのかな?だったら、もうそろそろ消灯の時間も近いし、私と茜は部屋に戻ろうかと思うんだけれど。いいかな?」


 環菜がそう言い寝っ転がったままの茜の手をとって、その場に立たせた。


「そうだな・・・俺が話したかったのはこれだけだ。」

「うん、わかった。私と茜は部屋に戻るね。それじゃ二人とも。また明日ね。」


 環菜はそう言って茜の手を引っ張って宴会場から出て行った。


「夕人。」

「なんだ?」

「俺には教えておいてくれてもよかっただろ?」


 初めから聞いていたら少しは何かできたのかもしれないのに、あいつときたら・・・


「そうかもしれないけれどさ。いつも翔に頼ってばかりじゃダメかなって思ったんだよ。」

「そんなことはないぞ?俺もお前に頼るし、頼って欲しいと思う。でも、そうだなぁ。夕人なりの考えがあるってことだよな。」


 そうだよ。俺、青葉に言ったじゃないか。あいつなりの考えがあるんだから、話す話さないはあいつの自由なんじゃないかって。やれやれ、俺もダメだなぁ。


「そう・・・だったんだけどなぁ。よくわからない。」


 夕人はそう言って俺の顔をみてきた。

 どうして、そんなに困ったような表情を浮かべているんだ?俺にはその理由まではっきりと分からないけれど、お前の心に引っかかる何かがあるっていうことなんだろうな。


「そうなのか。」


 そう言って俺は夕人の肩に手をのせる。


「で、それはともかくとして。風呂の話の続きだ。」

「なんだ?またその話か?」

「あったりまえだ。興味があるんだよ、俺は。」

「お前・・・意外にエロいんだな。」

「男はみんなエロい。それが俺の持論だ。」

「・・・間違ってはいないな。うん。」

「で、どっちがおっきかった?茜と環菜の。」


 夕人は軽く溜息を吐きながら『とりあえず、部屋に戻ろうぜ。』と言って歩き出した。


「待て待て。これだけは聞かせろよ。」


 俺は慌てて夕人を追いかけた。


「・・・茜かなぁ・・・」


 夕人は妙に真剣な面持ちでそう答えた。


「なるほど・・・」


 二人が宴会場を出たところで声をかけられた。


「やっと見つけた。どこに行ってたんだよ?」


 声をかけてきたのは同室の男子生徒だった。


「あ、ちょっとな。」


 俺は適当にごまかすことにした。今までの話は話したくないしな。


「ま、いいんだけどな。で、竹中。今夜はお前の話を聞かてもらうからな。」

「は?俺?なんの話だよ。」


 夕人は目を丸くして抗議の声を上げる。


「当たり前だろう?クラスの美女たちのうち三人がお前のグループにいる。そしてお前は肝試しでも小暮と玉置をゲットした。さらには学校祭での小暮とのあの演技。色々聞かせてもらいたいもんだ。」


 なるほど・・・クラスの男子にはそう見えているわけだ。つまり、夕人はモテモテだと。


「何言ってんだよ。そんなのたまたまだろ?」

「いーや、俺は絶対に裏があると見てるね。ちなみに俺は青葉派で、こいつは玉置派だからな。覚悟しとけよ。」


 いつの間にやら廊下には男子生徒が何人かやってきていた。

 やれやれ。夕人に色々と自覚させるのにはいい機会だと思ったけれど・・・面倒なことにならなければいいんだが。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


茜と環菜の正反対な態度が面白いところです。

性格の違いでしょうけれどね。


茜は明るくてなんでもある程度素直に話せる子。

そして、心が強い子です。


対して環菜はなんでもできるけれど、いざ自分のこととなると素直になれない子。

なんとなく、夕人とは似ているタイプでしょうか。


小町のことは・・・

別の機会に。

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