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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第30章 複雑な人間関係
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修学旅行 その5 ー両手の華ー

肝試し編はここで終わりになります。


ただ、修学旅行編はもう少し続くことになりますが。

「おー戻ってきたかー。」


 肝試しのゴール地点で翔が声をかけてきた。不思議と戻ってきたなっていう感覚があるな。


「あぁ、そりゃ戻ってくるさ。」

「だよねぇ。こんな単純なルートで迷ったりはしないよ。」


 茜が俺の隣で・・・いや、右腕に抱きついたままそう言った。ちなみに左腕もフリーの状態とも言えず、左手は環菜に握られている。二人とも、怖いものが苦手だったとはな。まさか、この二人がキャーキャー騒ぐなんて思わなかったよ。でその結果がこれってわけだ。


 実は俺も知らなかったんだけれど、折り返し地点の乙女の像を過ぎてからゴールまでの道のりにはいわゆる肝試し的な仕掛けがいくつかなされていたんだよ。幽霊とかに変装した人が隠れていておどかしてきたり、木の枝から何かぬるっとしたものが垂れてきたりと色々な仕掛けがなされていたんだ。誰の発案で誰が実行したのかははっきりとはわからないけれど、なんとなくはわかる。


「・・・なぜだ?」

「何がだ。」

「お前のその姿に決まっているだろう?」

「俺の姿?」


 何を言ってるんだ?特に変わったところはないと思うんだけれどな。


「そう、その、まさに『両手に華』っていう状況のことに決まってるだろっ。」

「んなっ。」


 今更それを言うのかっ。それに、これは不可抗力っていうやつであってだな。俺が望んでやったことの結果ではないのだが?


「両手に華だってさ、環菜。」

「もうっ、やめてよっ、茜ってばっ。」


 うん、そんなやりとりはいいから、俺の腕から離れようか。俺は苦笑いを浮かべて二人の顔を交互に見た後、翔の顔を見た。


『で・・・どっちが大きかった?』


 翔が身振り手振りで俺にそう尋ねてきた・・・ような気がした。


「茜・・・」

「ん?なに?」


 俺の言葉に茜が反応して右腕が解放された。なんだろう、急に右半身が寒くなったような気がした。


「環菜、翔。後で話、聞いてくれるか?」


 俺は大きく息を吐いてから気持ちを落ち着けてそう言った。環菜はまだ俺の腕を掴んでいたけれど、俺の表情を見てゆっくりと手を離した。


「ほう、夕人が改まって一体なんの話かねぇ。俺はもちろん構わないけれど、早く戻らないと風呂に入る時間に間に合わなくなるぞ?」


 翔が腕を組みながらそう言った。やっぱり、青葉は・・・ここにいないよな。


「夕人くん・・・」


 環菜の声が聞こえる。


「ん?」

「それって・・・大事な話ってことだよね。」

「いや・・・どうなのかな・・・わからないけど。」

「うん、ちゃんと聞くね。だから、ちゃんと話してね。」


 環菜は俺の目をジッと見て、そして笑みを浮かべた。


「あぁ、でも・・・時間、あるかなぁ。これから風呂の時間だし、そのあとは消灯時間だよなぁ。難しいかなぁ。」


 俺は自由になった右手で頭を軽く掻いた。


「バカだなぁ、夕人は。修学旅行だぞ?女子の部屋に忍び込む。これ、男のロマンじゃねぇかよ。俺はやるぞ?」


 翔は右手の拳を握りしめて気合を入れている。


「いや、それはちょっと・・・まずいでしょ。」


 茜が眉をひそめて首を横に振っている。


「面白そうではあるけれど・・・」


 真面目だと思っていた環菜が乗り気なのはどうしてだっ。


「まぁ、それは冗談として。風呂の後、消灯まで一時間以上は猶予があるからさ。多分、みんなはホテルの売店でお土産なんかを買ってるだろう?もし、その時間でいいならなんとかなるんじゃないのか?」


 翔は相変わらずグッドな提案をしてくれる。けれど、茜と環菜はそれでもいいのか?そう思いながら二人の方を見た。


「うん、いいね。とりあえず、お土産は明日でも買えるしね。」

「私もいいよ。それで。」


 快諾か。嬉しいけれど、いざとなると緊張するなぁ。


「よっし、そうと決まれば急いでホテルに戻ろっか。」


 翔はそういうが早いかホテルに向かって一人走り出した。


「ぷっ、相変わらず・・・ひどい走り方だなぁ。」


 俺は翔の後ろ姿を見て笑いながら言った。


「ほんと、ひどいよねぇ。」


 環菜も口を押さえて笑っている。


「いやぁ、でも、あれが翔くんのいいところでもあるよね。」


 茜は必死に笑いたいのをこらえているみたいだった。


「あれがいいところ?あいつが聞いたら泣くぞ?本気で。」

「いや、だって・・・あれがなかったら翔くんは完璧超人でしょう。」

「それは言えてるかも。」


 完璧超人・・・キン肉マンにそんな超人がいたような・・・ってそれじゃないよな。


「おーい、早く戻ろうぜっ。」


 翔は思ったよりもまだ近くにいる。やっぱり、本当に運動が苦手なんだなぁ。


「茜、環菜、俺たちも行こっか。」


 そう二人に声をかけて翔の元に駆けていく。


「そうだね。」

「うん。」


 俺たち三人はあっという間に翔に追いつき、そして追い越した。


「うぉーい、待ってくれぇ・・・」


 遥か彼方から翔の声が聞こえた。




 その日の夜の夕人くんの言葉、私には忘れられないよ。


「俺さ。今、ローザと付き合ってるんだ。」

ここまで読んでくださってありがとうございます。


最後の夕人の発言には驚かされました。

いやぁ、いつの間に?

そんな感じです。

茜も環菜も度肝を抜かれたことでしょう。


さて・・・これからどうなることやら・・・

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