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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第30章 複雑な人間関係
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修学旅行 その1 ーはじまりー

遂に修学旅行の時期になりました。

夕人たちを取り巻く環境は、少し暗い改善されたのでしょうか?

「よっし。いつも通りのメンバーだなっ。」


 翔くんが元気よく辺りを見回してそう言った。こういうセリフっていつもは夕人くんのもののような気がしたけれど、今回に限って言えば翔くんがリーダーで正解なんだと思う。


「そうね。翔くんに夕人くん。茜に小町ちゃんと私。いつも通りだねっ。」


 両手の拳をギュッと握り、そのまま胸のところに持っていった。

 いつも通り。そうであって欲しい。あの頃のいつも通りであって欲しい。私はそう願いをかけて言葉にした。


 今日は修学旅行の初日。集合は札幌駅。早朝にもかかわらず誰も遅刻しないだなんて、やっぱりみんな楽しみにしてたんだよね。


 でも・・・あの日以来、私たちはてんでバラバラ。その理由については言いたくない。だって、今そんなことを言ったって何も変わらないから。だから、せめて、最低限、今の状態を保っていたいっていう気持ちがあるの。けれど・・・やっぱり、難しいのかもしれない。


「はぁ・・・やけに元気じゃないか。騒ぎすぎだっつうの。」


 小町ちゃんが翔くんに対してため息をつきながらそう言ったんだけれど、誰も何も言わない。当の翔くん本人だけが小町ちゃんに対して何かを言っているだけ。いつもなら夕人くんや茜が何かをいうはずなんだけれど。


「茜はいつこっちに戻ってきたんだっけ?」


 私はあえて話題を変えようとして話を振って見た。


「おとついの夜かなぁ。いやぁ、流石に疲れたよ。」


 茜はいつも通りに笑顔を浮かべて私に答えてくれた。


「え?おとついだったら昨日学校に来たらよかったのに。」


 夕人くんも茜の言葉には普通に反応するみたい。なんか、こんな露骨な感じの夕人くんはどうなのかな。今までと違うよ。


「あ、それはね。こっちでもちょっとしたお仕事がありまして・・・」


 茜が『あはは』って笑ってる。右手で軽く頭を掻きながら。


「仕事ねぇ。学校よりも大事なんだな。ま、別にいいけどさ。」


 小町ちゃんが『あーあ。』なんて言いながら冷たく言い放った。


「そ、そういうわけじゃないんだけれどね・・・」


 茜もしどろもどろ。ちょっと前まではこんな感じじゃなかったのに。このままじゃ楽しくない旅行になっちゃうよ。なんとかならないの?


「青葉さぁ。そんな言い方はないだろう?茜だって色々大変なんだろうからさ。なんて言っても新人なんだぞ?そんなに自分の都合が通るわけがないだろう?」


 夕人くんが場を取り持とうとしてくれているけれど・・・きっと、うまくいかない。


「はいはい、そうだな。悪かったよ。」


 小町ちゃんはそう言って『フンッ』と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。


「さぁさぁ、言い合いはそのくらいにしてさ。もうすぐ点呼の時間だし、グループごとに並んで待ってようぜ。」


 翔くんがいいタイミングで悪い流れを止めてくれた。こんな感じがずっと続くのかなって思うと気が重いよ。


「なぁ環菜。」

「なに?」


 声をかけて来たのは夕人くん。彼も最近は以前とは違う。

 もちろん、表面上は何も変わっていない。相変わらず、話は面白いし、生徒会の仕事もきちんとやっているみたい。

 でも・・・なんだろう。翔くんとはよく一緒にいるところを見るけれど、放課後になるとすぐに教室からいなくなる。生徒会室に行っているのか、帰ってしまっているのかまではわからない。だって、カバンごといなくなっちゃうから。


「あのさ、青葉のことなんだけれど・・・俺じゃうまく話せないと思うんだ。多分、うまくやれるのは翔と環菜だけだ。だから、今回はよろしく頼むな。」


 小声で私にそうお願いして来た夕人くんは、今までの夕人くんのように見えた。


「でも・・・私にも難しいかも。この一ヶ月色々と頑張って見たけれど、どれもうまくいかなかったから。」


 私は自分自身の力不足に呆れていた。


 私が落ち込んでいた時、茜や小町ちゃん、夕人くんが何度も手を差し伸べてくれた。私だって、小町ちゃんに何かをしてあげたいと思う。でもダメだった。何度か話しかけてはみたけれど、何も変わらない、変えられない。どうしたらいいのかわからなかった。


「うん・・・かもしれない。だからさ、今回は大きな問題にならないように当たり障りない感じでいければ・・・合格点なのかもしれない。俺にもどうしたらいいのかわからないんだ。」


 それはそうだ、と私は思う。だって、夕人くんはあの時の私たち、女の子だけの話を知らないわけだし。小町ちゃんが夕人くんを無視しているようにも見える。いくら夕人くんでも、この事態を打開するのは難しいと言わざるを得ないと思うもの。


「うん・・・」

「だから、助っ人も頼んでおいた。同部屋のなっちゃんとむっちゃん。彼女たちにもお願いしておいたんだ。」


 夕人くんなりの気遣いだったんだと思う。彼は右手で軽く頭を掻きながら、少し渋い顔を浮かべていた。きっと、本意ではなかったんだろうって感じる。でも、それは彼もそのくらい悩んでいるっていうことなんだよね。


「そっか。でも・・・」

「うん、あんまりいい返事は得られなかったよ。」


 そうだよね。あの二人も例の現場にいたんだから。いくらなんでも無理だよ。そう考えると気が滅入ってくるけれど、夕人くんだってなんとかしようと頑張ってる。私が先に根をあげたらダメだよね。


「だよね・・・うん。なんとか頑張ってみるよ。」


 とは言ったものの・・・どうしたらいいんだろう。


*********************************


 その日の夜。

 今日は十和田湖畔のホテルに宿泊。そして、翔くんが提案していた肝試し。幸いなことに天気は晴れで少し暖かいから薄手の上着を羽織っていけば大丈夫だと思うけれど・・・

 このイベントには全クラスが参加するわけではなかった。そもそも、うちの学校は三年生が六クラスもあって比較的大所帯。だから、全てのクラスが同時に修学旅行に来ているわけじゃない。前半の一組から三組までは昨日出発していて、私たち六組は後発。だから今日は四組から六組までの約百人がここに泊まっているわけ。つまり、一組の実花ちゃんはいない。彼女がいてくれたら何かを変えられたかもしれないけれど、今回はその期待はできない。茜も無理だと思うし、なっちゃんやむっちゃんに頼るわけにもいかない。私が・・・頑張るしかない。


 そうそう、夕人くんの真似をしてちょっとだけ豆知識を披露してみます。


 えーっと、十和田湖は青森県と秋田県、岩手県の三県が接する県境付近に存在するカルデラ湖。地図上で見るとそう見えるけれど、湖と接しているのは青森県と秋田県だけ。

 そして、実際の県境は不明なんだって。水深は約三百三十メートルで国内第三位。湖の南岸側がホテルや観光するスポットになっていて、遊覧船が出ていたり乙女の像っていうのがあったりするの。そして、この湖の唯一の流出河川が奥入瀬渓流なの。今日の夕方に見学した綺麗な渓流よ。ぜひ、一度見に行って欲しいわね。きっと感動するから。

 ちなみにカルデラ湖ができたのは今から二万五千年前と一万三千年前の大噴火が原因と考えられているのよ。他にも何度か噴火をしていて、西暦915年の大噴火は西暦の歴史になってからの国内最大の噴火なんだそうよ?すごいよね。


 そんな十和田湖なんだけれど、実は生物はあんまりいなかったんだって。昔からいたのはサワガニくらいで、生息している魚は人工的に放流された魚がちゃんと住み着いたものなんだそう。今の特産物はヒメマスって呼ばれるサケの仲間。北海道ではチップって呼ばれていて洞爺湖にも放流されているわね。そして、成長して海に降りるとベニザケになるのよ。

 余談になるけれど、ヒメマスっていう魚の近縁種にはクニマスっていう魚がいるんだって。十和田湖よりも南にある秋田県の田沢湖が原産の固有種。でも、第二次大戦の末期頃、酸性の水が大量に流れ込んだことで絶滅しちゃったんだよ。ひどい話よね。

 もしかしたらだけれど・・・他の湖で生き残ってたりするかも。クニマスの卵が他の湖で養殖されてたっていう話も聞いたから。もし、生き残っていたら・・・嬉しいよね。いつかは田沢湖にも帰ってくるのかな?

 えっと、話が逸れちゃったね。時間もそろそろいい感じになってきたし、話を元に戻すね。



「さーて、そろそろ時間じゃない?」


 夕食も終わり、少し暗くなって来た頃。私は部屋のみんなにそう声をかけた。


「あ、そうだね。そろそろロビーに行こっか。」


 なっちゃんが私の声にいち早く答えてくれた。


「だねぇ。行こう行こう。」


 むっちゃんも続いてそう返事をして立ち上がった。二人は窓辺から湖を眺めるようにして何やら話をしていたのだった。


「外、寒いかなぁ。」


 茜がカバンから上着のパーカーを取り出しながら私に聞いて来た。


「うーん、どうかなぁ。暑くはないと思うよ。」


 私は笑顔を浮かべながらそう答えた。


「あ、ちょっと確かめてみよっか。」


 なっちゃんがそう言って窓を開けて外の空気を部屋に取り込んだ。思ったよりも寒くはない。でも、あったかいとも言えない。微妙な気温ね。


「うーん。いつもよりはあったかいってくらいかなぁ。」


 なっちゃんとむっちゃんが顔を見合わせながら微妙な表情を浮かべて言った。


「これくらいの気温だと上着は必須だね。」


 茜が笑顔を浮かべながらパーカーを羽織ってそう言った。


「そうだね。何か着て行ったほうがいいかも。」


 私も笑顔でそう答えた。そう、笑顔で。


「ったく・・・めんどくさい・・・」


 そう呟いたのは小町ちゃんだった。誰かに向かって文句を言ったわけでもないと思うけれど、部屋の雰囲気が悪くなっちゃったのは仕方がない。

 そうそう、私たちの部屋は五人部屋。私に茜、小町ちゃんになっちゃんとむっちゃん。割と気心の知れたメンバーだった。


「まぁまぁ。そう言わずにさ。せっかく杉田が面白い提案してくれたんだし。」


 空気を読んでそう言ってくれたのがむっちゃんだった。


「別に、行かないとは言ってないだろ?ただ、『めんどくさいな』って思っただけだっつうの。」


 軽く舌打ちをしながら答えた小町ちゃんは、本当に本心からそう言っているのかな。私にはどうしてもその言葉が小町ちゃんの本心とは思えなかった。

 今日一日小町ちゃんをずっと見ていて、なんとなくだけれどそう思えたんだよ。うまく言葉にはできないけれどね。


「うーん、その気持ちもちょっとはわかるかなぁ。でもさ、去年までだと夕食の後はクラスでの出し物とかで歌を歌わされたみたいだよ?それよりは楽しいと思うけれど。」


 私は苦笑いを浮かべながらみんなの顔を見た。


「あー、それはそうかも。なんか宴会芸っていうの?そういうのはちょっとねぇ。」


 なっちゃんが私の言葉に同意してくれたけれど、小町ちゃんは特に何も言ってはくれなかった。

 部屋に乾いた空気が広がったような気がした。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


どうやら改善されていないみたいですね。

むしろ最低な方向に向かっているようです。


翔が企画した肝試しで何かが起こるんでしょうか?

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