表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第29章 壊れていく友人関係
153/235

アー・ユー・レディ?

前回の続きになります。

少し嫌な話の流れになりますけれど、こんな会話も大事なんだろうと思います。

 せっかくみんなで集まったのに、どうしてこんな感じになっちゃうんだろう。

 それに、小町ちゃんのあの言葉。本心なんかじゃないよね?私が見た、あの時の小町ちゃんの表情と行動。私にだってすぐにわかるよ。

 でも、どうしてそんな言い方するの?わざわざみんなを苛立たせるような言い方、そんなの小町ちゃんらしくない。そもそもそんな男の子言葉だって似合ってなんかいないのに。

 小町ちゃんの表情を伺ってみる。なんだか、全てに関してどうでもいいかのような感じで窓の外を眺めている。

 茜も何も言わずにジュースを飲んでいる。こんな時に翔くんか夕人くんがいたら・・・いや、そんなことを言ってもダメよね。あの二人がいたらそもそもこんなことは起こっていないはずなんだから。


 今、私にできることって何?何かできることがあるの?


「えーっとさ。いいかな?話しても。」


 実花ちゃんが遠慮がちにみんなに対してそう尋ねてきたけれど、誰も返事はしない。


「そんな、わざわざ断ることなんかないよ、実花ちゃん。」


 私もそういうのが精一杯だった。


「そう?じゃ、言わせてもらおうっかな。あのさー、あたし思うんだけどね。夕人くんの事であたしたちが揉めるのはおかしいんじゃないかって思う。だってそうでしょう?夕人くんはここにいないんだし、それに、彼が誰と付き合っていたとしたって、夕人くんは夕人くんなんじゃないの?違う?それとも、あの椎名先輩のことが気に入らない?そうだね。あたしだってそんなにいい感情はないけれど。でも、夕人くんが決めたんだったら仕方がないんじゃないの?」


 実花ちゃんが言ったことは間違っていないと思う。でも、それを素直に認めたくないって思う私がいるのは事実で、それはきっと茜やなっちゃんにもそういう気持ちがあったんだと思う。だから、何も返事ができないんじゃないかって。でも、小町ちゃんは・・・


「だね。実花の言う通りだわ。全く。なんであんな奴のことでこんな空気になっちゃうわけ?そんなことは適当に放っておいてさ。別の話しようよ。」


 小町ちゃんが妙に明るい声を出してそう言った。そのあまりにも明るい笑顔の裏に、本心が見え隠れしているように思うのは私の考えすぎなのかな。


「・・・小町ちゃん。本当にそれでいいの?」


 茜が手に持ったカップを見つめたままそう言った。その表情はとても思いつめたような表情で、今にも感情が溢れ出てきてしまいそうな。そんな風に思えてとても不安だった。


「もちろん。なんでそんなこと言うのさ。私には関係ないことでしょ。」


 小町がそう言って笑いながら立ち上がった。


「そう・・・わかった。それなら、いいの。私は私で。小町ちゃんは小町ちゃんの考えがあるってことだもんね。」


 茜が口にした言葉の本当の意味は私にはわからない。でも、それは今までの茜とは少し違うような。そんな口調だった。


「そりゃそうでしょ。私は私で、茜は茜なんだから。」

「うん。そうだね。」


 なんだろう。こんなに胸がドキドキする。何かが起こりそう。そんな気がして、私は二人の成り行きをただ見守っていた。


「何?なんか言いたそうだね。はっきり言ったらいいんじゃないの?」


 小町が一歩だけ茜に詰め寄った。二人はいつの間にか少し離れた席に座っている。よくよく考えたら今日は初めから何かがおかしかった。あの春休みの出来事以来、茜と小町ちゃんの間にはなんとも言えないような不思議な緊張感があった。

 以前の二人のような姉妹みたいな仲の良い感じが全くなくなって、そう、言うなればライバルというよりも敵。そんな雰囲気があった。それが今日は急に二年生の時のような、いえ、それよりもずっと親しそうな、それでいて余所余所しい感じ。はっきり言ってしまうと気持ちが悪い。そう感じる二人だった。


 きっと、実花ちゃんもこんな感じでの修学旅行は嫌だろうって考えて企画してくれたんだって私は考えていた。だって、実花ちゃんだけは違うクラスで、今日ここに集まったメンバーは修学旅行の時の同部屋のメンバーだったんだから。


 翔くんが何か実花ちゃんに話したのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。もともとみんなのことを考えている実花ちゃんだからこそできたことだったとも言えるし。


「そうだね・・・うん。そうするよ。」


 茜が手にしていたカップをテーブルの上にポンッと置き、小町の顔を見た。それは睨み付けると言った険しい表情ではなく、とても穏やかな表情だった。


「どうぞ。ちゃんと聞きますから。」


 小町はせせら笑うような感じで笑みを浮かべた。それはとっても嫌な笑いだと私は思った。


「うん。あのね、小町ちゃん。私は夕人くんにフラれたよ。春休みにね。でもね、私はまだ諦めたくないなって思ってるから。誰かの気持ちがどうだとか、そういうのはいいの。私が納得いくまで夕人くんのことは諦めないって。そう決めたから。」


 茜の言葉に嘘はないんだろうなってその時の私は思った。あの時、二人が何を話したのは知らないけれど、きっと、その時にフラれたってことなんだと思う。そして、それと同時に『私に同じことが言えるだろうか。』ってことを考えていたんだと思う。


「へぇ。良いんじゃない?それこそ、私がどうこういうことじゃないじゃないか。」


 小町ちゃんはあくまでもそのスタンスで行くんだね。クールで達観しているように装って。まるで、昔の誰かさんみたいだよ。でも、誰かさんは他人のことを思ってのセリフだったよ。そんな感じに誰かを傷つけるような言い方はしなかった。そこが大きく違うし、間違っていると思う。


「うん、そうだね。そう思う。」


 茜は笑顔を浮かべて小町を見ている。


 茜って・・・すごいなって思う。小町ちゃんにあんな言い方されても、それでも笑顔でいられるだなんて。だからこそ、私は茜に憧れる。


「ちょっと待ってちょっと待って。二人はそれで納得したように話が進んでるけれど・・・私には全っぜん話が見えないんだけど。」


 なっちゃんが茜と小町の間に割り込むようにして入り込み、交互に二人の表情を見比べている。


「そうね。ごめんなさい。ちょっとね、春休みに色々あったの。それでね、なんだか整理しきれない気持ちがお互いにあったんだと思うの。少なくとも私はそう。だから、この場を借りてって言ったらおかしいけれど、そんな感じ。」


 茜は笑顔のままそう答えた。


「あぁ・・・それはそうなんだろうってことは私にだってわかるけどね?え、何?茜ってフラれたの?夕人くんに。」


 なっちゃんにとっての驚きはそっちだったんだ。思わず吹き出しそうになってしまった。


「そう。フラれたの。結構自信あったんだけどねー。」


 茜は『あはは。』と笑いながら右手で軽く頭を掻いていた。


「それは意外。てっきり夕人くんは茜のことが好きなんだと思ってたからさ。椎名先輩と付き合ってるって聞いたときに一番納得いかなかったのはそこなんだよねぇ。ってかさ・・・何があったの?なんて言われたの?」

「なっちゃん。それは良いんじゃない?聞かなくても。」


 むっちゃんがなっちゃんにピシャリと言った。


「ん、だね。あたしもそう思う。もちろん、茜が話したいって言うならあたしはいつでもどこでもきちんと聞きますけれど。」


 実花は『ニシシ・・・』と不思議な言葉を口にしながらそう言った。

 でもね、実花ちゃんのそのセリフって、『聞きたいから話して。』って言っているようにしか聞こえないよ・・・


「そうだね・・・んー、できれば言わないっていう方向がありがたいかな。」


 茜は軽く舌を出して実花ちゃんに答えた。


「ん、わかった。なら聞かない。」


 実花ちゃんは妙に男らしく腕を組んで大きく頷いた。


「・・・はぁ。どうせあの時のことでしょ?東京に行った時の。」


 小町が明らかにいうべきではない一言を口にしてしまった。


「・・・やっぱり・・・知ってたんだね。」


 茜が両目を閉じてゆっくりとそう言った。


「そうね。今までそんな話をする機会もなかったから何も言わなかったけどさ。そりゃわかるよ。」


 小町は『はんっ。』と鼻を鳴らしてそう言った。実花ちゃんたちは何も言えずに互いに顔を見合わせている。おそらくは、いや、私もその一人だったのは間違いない。だって、三人と目があったのだから。


「そうね。話、しなかったもんね。」


 茜は座ったままそう言った。目はまだ瞑ったままだった。


「なにさ。話す気があったとでも言いたいの?」


 小町は茜を睨みつけながら強気に言い放った。


「どうかな・・・なかったかもしれない。あんまり言いたくなかったし、聞かれたくなかったしね。」


 茜はフゥッと軽く息を吐いた。自分の気持ちを落ち着かせるような呼吸。私にはそう思えた。


「そりゃ、そうでしょうね。」


 マズイ。小町ちゃん、完全に暴走しちゃってる。これ以上は言うべきじゃない。私は直感的にそう思った。


「誰だってあんな姿・・・」

「小町ちゃんっ。」


 私は小町ちゃんの声を遮るように大きな声を出した。

 でも、それはもしかしたら間違いだったのかもしれない。正しい答えなんてわからないけれど、もっと早く小町ちゃんを止めるべきだった。声を出してしまってから気がついたけれど、もちろん、もう遅かった。


「そっか・・・環菜も知ってたんだ。いや、見られてた、のかな?」


 茜は目を開き、私の顔をジッと見つめてきた。睨みつけてきているわけではなく、私の真意を探ろうとしている目だった。


「・・・ごめん、そんなつもりはなかったの。」


 私にはそんな言葉しか言えなかった。夕人くんなら、もっとうまく言えていたように思うけれど、私にはできなかった。


「はぁ・・・私が言うことなくなっちゃったじゃない、環菜。」


 小町が『あーあ。』と言いながら両手を頭の後ろに組み、退屈そうな表情を浮かべて私たちに背を向けた。


「ちょっと待って。何をケンカしてるの?全然意味がわからないんだけど。みんなで東京に行ったってことは知ってるよ。羨ましいって正直思ったもの。けどさ、その時の出来事は私は知らないわけじゃない?まして、茜のプライベートな部分の話でしょう?それを勝手に話す小町ちゃんって、どう考えてもちょっとおかしいよ。」


 なっちゃんが背を向けている小町に向かってはっきりと言った。


「なっちゃん、いいの。本当のことだし。」


 茜はなっちゃんの顔を再び優しい笑顔を浮かべて見て、そしてこう言った。


「でも、ありがとう、なっちゃん。」


 そして、あの時のことを思い出したのか、茜は両手で顔を覆って声を押さえたまま泣き出した。


「はっ、私だけが悪者ってわけ。そうですね、私が悪かったよ。」


 小町ちゃんはこちらを振り返ろうともしない。茜の周りには私以外の子が集まって茜の様子を伺っている。みんな、茜のことを気にかけているのだ。


「小町ちゃん。どうして?なんでそんな言い方ばっかりするの?茜だって色々と思うところがあって、でも、それでも色々と我慢しているのに。不満があるならはっきり言ったらどうなの?そうやって誰かに当たり散らしていれば、それで満足だって言いたいの?」


 私は思わず言ってしまった。でも、これもやっぱり間違いだった。そうは思ったけれど、間違いだったかもしれないけれど、それでも、この選択をしたことを私は後悔しないと思う。


「なに?あんたも文句あるわけ?はいはい、はっきり言えばいいんだろ?いいよ、言ってやるよ。」


 小町は頭の後ろで腕を組んだまま振り返った。その時の冷たい表情を私は忘れられない。


「私はね、茜のそういう大人ぶったところが嫌いなの。いい?そのいつでも見下しているような、そんな感じが嫌いなの。あんたもよ、環菜。いっつも自分だけはいい子でいようとするその感じ。そのくせウジウジしたりするその心の弱さ。大っ嫌いだよ。それからなっちゃん。あんたのその中途半端なズルさが嫌いよ。私はあの時のこと、いまだに覚えてるから。それはむっちゃん、あんたも一緒。気持ち悪いんだよ。誰かのためにっていう名目で誰かを貶めようとする行動がさ。そして、実花。あんたは自分が順調に付き合っているからって調子に乗ってんじゃないの?いつも自分は関係ないってな感じでさ。そのくせ、何にでも首を突っ込んでくるその感じ、やってられないっつーの。」


 一気に吐き出した小町の言葉。誰もが何も言えず、ただその場で呆然とすることしかできなかった。

 みんながどう思ったのかは私にはわからない。小町ちゃんの言ったことは確かに正論だった。少なくとも私のことは。でも、だからって・・・



 本来であれば中学生生活の最も楽しい思い出になるはずの修学旅行。そのひと月前の出来事だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


やらかしてしまいましたね。

いろいろと思うところがあったとしても、小町のあの行動はよろしくありませんね。

明るい小町とは正反対。陰の要素が強すぎます。

こんなことをしていると孤立しちゃいますよ・・・


こんな雰囲気での修学旅行。

楽しいことが起こりそうな予感が全くしませんね・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ