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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第29章 壊れていく友人関係
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レッツ・パーリーッ!

また少し時間が進みます。

今回は女子会でレッツ・パーリーです。


とは言ってもバサラではありません。もちろん。

 ゴールデンウイークも開けた五月初旬。

 春の遅い北海道にも桜の便りが届き、本当の意味での春がやってくる季節になった。そして、俺たち三年生のもっぱらの関心はあと一ヶ月に迫った修学旅行だった。旅行会社の不手際のおかげで予期せぬ変更があったりもしたが、それでも俺たちにとって最初で最後の修学旅行だ。楽しみじゃないなんて言ったら嘘になる。


 そんな時期の土曜日。昼下がりのことだった。


「さぁ、今日は女の子だけのパーリーだよー。」


 実花の声かけで女子会が始まった。とあるファーストフード店のパーティルーム。集まった女子は六人。実花、環菜、茜、小町、なっちゃんにでこりん。もとい石井さん。どうしてこの六人がここに集まったのか。それはとても単純なことで、修学旅行での部屋割りで晴れて同部屋になったメンバーの集まりだった。


「いやぁ、なんかこんな感じで集まるのって、クリスマス以来じゃない?」


 なっちゃんがテーブルに置かれたポテトに手を伸ばしながらみんなの顔を見て言った。


「そうだね。男子がいないとちょっと楽かも。」


 石井さんが頷きながらなっちゃんに言葉を返した。


「んー、それよりもさ。茜も来れたっていうのは大きいかもな。」


 小町は相変わらずの男の子口調ではあるけれど、可愛らしい笑顔を浮かべて茜の腕に抱きついた。


「あ、うん。ありがとうね、声かけてくれて。」


 茜はいつものとびっきりの笑顔を浮かべてそう言った。


「あのさ、今ってどんな仕事してるのさ?」


 小町が腕に抱きつきながら上目遣いで聞いてきた。


「え?そうだねぇ、今はお姉ちゃんの手伝いみたいなことと、ドラマのエキストラとか。そんなのだよ。地味なお仕事。」


 そう謙遜しながらも楽しそうに茜は語った。


「へぇ、そうなんだ。」


 実花が腕を組みながら頷いていたが、他のメンバーも同様の様子だった。


「へー、そっか。有名人にも会った?」

「あ、いやぁ。そこはただのエキストラだから。まだお会いしたりとかそういうことはないよ、全然。」


 茜は、小町の問いかけに少し苦笑いを浮かべて答えていた。

 そして、そんな感じのやり取りを見ながら首を傾げている子が一人。もちろん環菜だった。


「どうしたのさ、環菜。なんか難しい顔して。」


 石井さんが横に座っていた環菜にそう声をかけた。


「え?何でもないよ、むっちゃん。」


 むっちゃんというのは石井さんのニックネームだ。石井むつみ。これか彼女のフルネームだ。だからむっちゃんと呼ばれている。


「そう?ならいいけど・・・」


 私にはちょっと意外だった。小町ちゃんが茜とあんなに親しげにしている姿を見るのは久しぶりだったから。仲が良いのはもちろん良いことなんだけれど、どこかおかしいような。


 小町ちゃんと私は示し合わせたかのようにあのことに触れることはなかった。あのことっていうのは三月末の茜と夕人くんの二人が何かを話していたっていう、アレのこと。

 茜本人は、私たちがその場に居合わせてしまったことを知らないだろうし、夕人くんも知らないんだと思う。そしてその話の内容もわからない。あんまり楽しい内容じゃなさそうだっていう事はわかったいたよ。あの時以降の茜を見ていればね。でも、私から聞くっていうのもおかしな話だし、だから、何となく何も言わずにそのまま時間が流れたっていう感じだった。きっと、それは小町ちゃんも同じなんだと思う。


「ま、そういう話も含めてさぁ〜。いろんな話をしていきましょ〜。今日はガンガン行くわよぉ〜。私には聞きたいことが山ほどあるからね〜。」


 実花ちゃんが元気よく宣言しているけれど、それで本当に大丈夫?


「何と言っても、私だけ・・・クラスが違うんだから・・・」


 あぁ、そういうことね。でも、実花ちゃんのことだから、本当にそれで終わりってことはない・・・よね。何だか嫌な予感がするのは気のせいだと良いんだけれど。


******************************


 環菜の予感に反して、女子会は和気あいあいと進んでいった。ポテトやナゲットをつまみつつ、オシャレの話題に花を咲かせる。そんな感じだった。

 しかし、なっちゃんの一言から女子会の空気があらぬ方向へ向かって行くことになった。


「そういえばさぁ、小町ちゃん。例の部活の話はどうなってるの?」

「はぁ?部活?」


 何を聞かれたのかわからないといった表情を一瞬だけ浮かべ、その後、軽く目を泳がせた小町だった。


「そうそう。ほら、去年新しくできたんでしょ?体操部。そこに入るか入らないかって話があったじゃない。」


 なっちゃんのいう体操部はもちろん学校の部活のことだ。

 昨年度の後半になって認可された新しい部活である。部員は四名であるため、校則によりギリギリ部活と認められている。しかし昨年度は予算の関係で立派な設備などは準備できず、今年度になってやっと鉄棒とエアーマットが手に入ったという状態だった。体操の床用のマットは他の学校から譲り受けたものがあったが、本格的に活動できるのは今年度かもしくは来年度からだろうというのが小町の見立てだったようだ。


 そして、その部を創設したというか発起人というのか、とにかく現在は部長として活動しているのが田中隆聖たなかりゅうせい。夕人たちと同学年の男子だった。彼は小町と同じ体操ジムに通っているため、顔見知りではあったが、特別に仲の良い関係というわけではなかった。しかし、その彼が体操部を立ち上げるということになった時、当然のように小町にも声がかかっていたのだった。


「あー、あれな。すっかり忘れてたけど。」


 小町はいかにもどうでもいいとでも言いたげな口調でなっちゃんの顔を見ながら答えた。


「あれ?だって、昨日も誘われてたじゃない、田中にさ。」


 なっちゃんは少しだけニヤリとした笑みを浮かべて小町の顔を見ている。


「んー、まっ、そうなんだけどさ。」


 あまりその話題には触れて欲しくないのか、小町の反応は今ひとつよろしくない。


「ふーん。」

「何だよ。」


 なっちゃんの意味深な返事に対して小町が素早く反応した。


「べっつにー。ただ、ちょっと面白い話を聞いちゃったからさ。」


 そのなっちゃんの言葉に反応したのは実花ちゃんだった。


「あ、それそれ。あたしも聞いたよぉ。なーんかさ、結構しつこく誘って来るんだって?」

「まぁね。それなりには・・・」


 今度の小町は反応が悪い。表情も冴えないものになっている。


「それってさぁ。本当に部活の勧誘?」


 なっちゃんは実花の言葉に乗っかるかの様にそう聞いてきた。


「なっ・・・そ、そうに決まってんだろっ。」


 妙に焦った様な口ぶりでなっちゃんと実花の顔を交互に見て全力で否定したのだったが、その行為でかえって二人が盛り上がってきてしまった。


「そんなに全力で否定するだなんて・・・怪しいねぇ。デートに誘われているとか。」


 実花が眉をひそめながらなっちゃんの耳元に囁いた。


「全くよねぇ・・・絶対に何かあるに違いないわね。これは確実に告白されたわね。」


 どうやら、二人は小町が何かを隠していると踏んだようだ。


「なんだよ?別に何もやましいことなんかないからなっ。それに・・・ちゃんと聞こえてるんだからな。」


 小町がそんな二人の様子を見ながら『フンっ』と鼻を鳴らした。


「あれあれ?小町ちゃん。本当のところは何があったのかなぁ?」


 茜までもが実花たちの言葉に乗っかり、小町に対しての追求をし始めようとした。


「な・・・茜までそういうこと言う?」


 小町は驚いたように茜の顔を見て、そして深いため息を吐いた。


「ねぇねぇ。いっつもこんな感じなの?」


 むっちゃんは四人のやりとりを見ながら環菜にそう尋ねた。むっちゃんは学校以外でこのメンツで集まったのは初めてだったから、その比較的ストレートな物言いに面食らったのだろう。


「えぇ、今日は特にすごいけれど・・・でも、こんな感じかな。」


 環菜は苦笑いを浮かべながらむっちゃんの顔を見た。


「へぇ・・・でも、小町ちゃんって明らかに夕人くん狙いじゃなかった?」


 むっちゃんの素直な一言を聞いて、小町がグルリと首だけを回すようにして振り返った。


「はぁ?私が夕人狙い?何言ってんの?ばっかじゃない?誰があんな女ったらしのことが好きだっていうんだよ。あんなの狙うくらいなら田中の方が百倍はマシだろ。」


 小町がいきり立って否定し始めた。口から出た言葉が本心からなのか照れ隠しのようなものだったのか。それとも別の何かがあったのか。それは小町にもわかっていなかったに違いない。


「あら?そうなの?だったら私がもう一度アプローチしちゃおうっかなぁ。」


 小町の売り言葉に対して買い言葉を返してきたようなセリフに、なっちゃんが澄ました顔で言った。


「いいんじゃない?なっちゃんがそうしたいなら。私は止めないよ。いや、むしろ良いんじゃない?ま、あんなの狙う奴の気持ちが知れないけどっ。」


 小町は自分の発した言葉にどれだけの意味があるのかわかっていたのだろうか。


「へぇ。そこまで言うならあんたはもう、夕人くんを狙ってないってことで良いんだよね。」


 なっちゃんは急に真面目な表情を浮かべて小町の目をじっと見つめる。


「当たり前じゃない。だって、あいつさ。もう彼女、いるよ?」


 その小町の言葉に最も敏感に反応したのは意外にもむっちゃんだった。いや、もしかするとむっちゃん以外は夕人とローザのことをどこかで見聞きしていたのかも知れない。


「うっそ?だれ?誰と付き合ってんの?」

「・・・去年卒業した先輩よ。でも・・・」


 茜がむっちゃんの顔を見ながら悲しそうな笑みを浮かべてそう言った。


「えぇっ。まじ?だれ?その先輩って。」


 知らないとはいえ、あまりに真っ直ぐな質問に茜は答えに窮したようだ。いや、認めたくないのかも知れ

ない。


「椎名先輩・・・」


 そんな茜に変わって答えたのが環菜だった。茜も小町も環菜の言葉を聞いて否定も肯定もしない。ただ、互いに別のどこかを見つめていた。


「はぁ?あのヤンキーの?」


 むっちゃんにとっては寝耳に水といった状況だったに違いない。先ほどからずっと驚きっぱなしだ。


「えっとさ・・・それ、本当?」


 このメンバーの中で最も冷静だったのは実花だったのかも知れない。みんなの顔を見回すようにして少し低めの声でそう言った。


「・・・さぁ・・・」


 そう小さい声で答えたのは誰だったのだろう。


*****************************


 同じ頃、夕人は翔と一緒にいた。


「おーい、翔よ。」


 夕人はどこからか手に入れてきた三輪車の車輪をバラしながら声をあげた。


「なんだー?」


 車庫というには少し広めの空間に翔の声が響いた。ここは翔の家の地下室。車なら数台置けそうな広さだ。


「例のあのパーツは手に入ったのか?」


 今度は違う部品を手に取り、何かの図面を見ながらそう尋ねた。


「あー、あれな。親父の知り合いに話したら作ってくれたんだよ。そこの棚に入ってるわ。」

「マジかー、すげぇな。だったらもう、完成間近なんじゃね?」


 夕人は興奮気味にそう返事をした。完成間近・・・一体なんのことなのだろう。


「なんとか・・・学校祭までには間に合わせたいなぁ。」

「まだ四ヶ月もあるんだからさ。大丈夫だろう?」

「いやいや。それがさ、組み立てて見てから試運転して、んでもって専門家にも見てもらって。うまく言ったら改良して商品化って話もきてるからさ。適当にはできないっていうか。」


 翔はパイプのようなものを手に取り、ヤスリで削り始めた。


「商品化って・・・妙に話がでかくなってないか?」


 夕人は驚きを隠せないようで、目を白黒させている。


「まぁ・・・どうなるかわからないけれど、うまく言ったら特許でも申請して、商品化権を取れるんじゃないかな。そうしたら、お金持ちになれるかもなっ。」


 翔は目をキラキラさせながら夕人のをに振り返った。


『お前は十分に金持ちだろう・・・』


 夕人は心の中でそう思っていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


女子会と言っても楽しい展開にはならなそうな感じです。

それにしても、ここに来て新しい人物が登場ですね。

田中隆聖。ごつい名前です。

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