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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第28章 そして三年生に
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寄り添える存在?

いろいろなことがあって学校に居づらいって感じることがありますよね。

そんな時に頼りになる人がいたら。

当然、会いたいと思っちゃいますよね。

「来ない・・・かな。」


 ここは区民センターのロピー。図書館があるおかげで比較的遅い時間まで解放されているロビー。俺以外には誰もおらず静まり返っている。蛍光灯が無情にも誰もいないロビーを照らし続けている。


「あと五分だけ待ってみよう・・・かな。」


 独り言のように三回目のセリフを口にする。かれこれ一時間ほど夕人はここで一人、ローザがやってくるのを待っていた。

 ロビーに設置されたソファとテーブル。彼はそこで宿題を広げていた。そうは言っても宿題はすでに終了し、明日の授業の予習と、塾の宿題に手をつけ始めていた。つまり、それほど長い時間んここにいるということだ。


 その時。入り口の自動ドアが開き、大きな荷物を持った制服姿の女子が入って来た。


「ローザっ。」


 夕人は思わず大きな声を上げてしまった。誰もいなかったからよかったものの、誰かが聞いていたならば驚かれるくらいの大きな声だった。それくらい、彼にとって待ちわびた瞬間だったということなのだろう。


「あ、夕人っ。」


 ローザと呼ばれた少女は夕人の声を聞き、可愛らしい笑顔を浮かべ、軽く手を上げて駆け寄って来た。

 少女は大きな荷物を持っているにも関わらずとても軽快な動きだった。それは彼女の運動神経の良さや体力の有無を示すものではなく、ただ、早く自分の名前を大きな声で呼んだ少年の元に近づきたい。その想いの現れだった。


「もう、夕人は待ってたらダメだって言ったでしょう?」


 少女はそう口にしながらも、満面の笑顔だった。


「待ってないさ。今来たばっかりだから。」


 少年は明らかに嘘とわかる言葉を口にした。しかし、そのくらい少女がやってくるのを待ち焦がれていたのだろう。


「うそ。テーブルにすっごくいっぱい物が出てるよ?まさか、ここで勉強してたとか?」


 少女は右手の人差し指でテーブルを指差し、そのまま少年の額を小突いた。


「あはは、バレちゃったか。」


 少年は笑顔を浮かべて少女の可愛らしい顔を見つめる。少女はここまで走って来たのだろうか、うっすらと汗を浮かべている。


「あ、待って・・・私、汗が・・・」


 そう言ってカバンから小さめのタオルを取り出して軽く拭いていく。


「別に・・・そんなの気にしないのに。」

「君は良くっても私が嫌なのっ。」


 少女は口を尖らせて少年に抗議の声を上げた。けれど、それは怒っているような口調ではなく、むしろ喜んでいるような、そんな口調にも聞こえた。


「そういうものなのかなぁ。ローザは部活もやってるんだし、そんなの気にしなくてもいいのに。」

「今日は・・・部活じゃないから。」


 ローザは『あはは』と笑いながら夕人の顔を見た。


「部活じゃないのにこんな時間になるのか・・・高校生って大変なんだなぁ・・・」


 夕人は感心したように腕を組んで一人頷く。


「う・・・実は補習が・・・」


 ローザはバツが悪そうな表情を浮かべて目をそらした。


「はっはーん、さては・・・?」

「いやぁ、もう聞かないでよぉ。」


 意地の悪そうな表情を浮かべている夕人の口をローザが右手で押さえつけて言葉を遮ろうとした。


「む・・・」


 夕人はローザに口を押さえつけられたままで彼女の顔をジッと見つめた。


「夕人・・・何かあったの?」


 ローザは夕人の口から手を離して彼の目を覗き込むように見つめた。夕人の目から何かを感じ取ったのだろうか。


「ローザに会うのは久しぶりだから・・・色々あったんだ、実はさ。」


 夕人はそう言ってハァッと吐息を漏らした。


*********************************


 夕人と会うのは久しぶり。いつぶりなんだろう?この前会ったのは三月の末くらいだったから二週間ぶりくらいかな。ここで会えなかったら週末に遊びに行こうって誘うこともできないし、せめて電話番号くらい聞いておけばよかったって後悔したよ、ほんと。


「なに?どうしたの?よかったら私、話聞くよ。」


 ほんとはもっといろんな話をしたいところだけれど、それはまた今度。だって、夕人がこんな表情をしてるなんて珍しいもんね。何か思いつめたような、そんな表情。きっと何か学校であったんだろうなってことはすぐにわかった。


「うん・・・いや、今日はもう遅いからさ、ゆっくり会える日って、ないかな?」


 あれ?夕人から誘って来た。それくらい深刻な話ってこと?なんか、それって複雑。もうちょっと楽しい話とかもしたいし。でも、私のことを頼ってくれているってことよね?それは嬉しいことなんだけれど・・・ゆっくり会える日かぁ・・・


「そうねぇ・・・部活も補習もあるから・・・うーん・・・」

「そっか・・・」


 ちょ、ちょっと・・・そんなにあからさまにがっかりしないでよぉ。私、どうしたらいいのよ。平日で会える日とかあったかなぁ。確か、明後日は部活が無いけれど、早くても夕方からしか会えないよ?いいの?それでも。


「あ、明後日は?部活、明後日なら無いよ?」


 私の言葉を聞いて『うーん』と声を上げて考え込むような仕草を見せた。明後日はダメだったのかな。


「明後日は塾があるんだ。週末は?土曜でも、日曜でも。」

「週末は部活なんだ・・・ごめん。あ、でも、日曜日は午後からで良かったら会えるよ。部活は午前中だから。」


 ほんとは窓花との約束があったんだけれど、ごめんっ、窓花。この埋め合わせは絶対にするからっ。


「日曜なら大丈夫。でも、ローザこそ大丈夫?部活の後ってツライんじゃない?」


 こうやって気を使ってくれるところが可愛いよね。うん、確かにちょっと荷物も多くなっちゃうし、可愛らしい格好はできないけれど・・・って、それは大問題じゃない?絶対に汗の匂いとか気になっちゃうし。


「・・・ジャージ姿でも良いでしょうか・・・」


 自分で言っておいてなんだけれど、すごく恥ずかしい。夕人に会うときは可愛らしくしていたかったのに。よりにもよって部活ジャージだなんて・・・


「俺はいいよ。ローザがいいなら。だって俺が無理にお願いしたようなもんだし。」


 そんなことないよ、私、会いたかったもん。いっぱい話しもしたかったし、聞きたかったし。だからそれは全然いいの。でも、可愛い格好じゃないから・・・


「できれば・・・一度、うちに帰って着替えてからでも・・・いい?」


 おずおずと言ってみた。もしこれでダメって言われたら仕方がない。ジャージ姿で会うしかない・・・それは嫌だけど。


「もちろんだよ。忙しいのにかえってごめん。」


 夕人はそう言ってペコリと頭を下げた。


「え、そんなことないって。私たちって、ほら、最近は全然会えてなかったじゃない?だからね、なんかほら、ね?」


 全部言っちゃうのは恥ずかしいじゃない?だから、そこはちょっとだけぼかしておいてって感じで。


「確かに、全然会えなかったよね。やっぱり、卒業しちゃうと今までみたいには会えないってことだよね・・・」


 それは・・・本当に申し訳ないなって思う。ごめんね、でも、私も我慢してる。君は耐えられない?


「ごめんね。」

「いや、こっちこそごめん。わざわざ週末も空けてもらったのに。」


 そんな事は気にしなくていいんだよ。私だってタイミングさえ会うんだったらいつだって会いたいんだから。


「ううん、いいの。でもー、約束破ったでしょ。」

「え?なんのこと?」


 私の言葉に夕人が驚きの声をあげた。


「待ってたりしちゃダメたって、言ったじゃない?」


 そう、私は何度かここで待った事はあった。でも、大体いつも遅い時間だったからね、君には会えないって思ってた。


「もちろん待っててくれた事は嬉しいんだよ?でも、私、君の負担にはなりたくないから。」

「負担だなんて。そんな事全然ないよ。」


 夕人はそう言って自分の顔の前で両手を振り、全力で否定した。


「そう?だったら嬉しいな。」


 私はそう言って、腰のあたりで手を組み、彼の顔を下から覗き込んで笑顔を浮かべた。


**********************************


 いつも思うんだ。


『ローザの笑顔は反則だ。』


 他の女の子の笑顔と違って、裏表ない笑顔っていうか。安心できるっていう気がするんだよな。


「ん?どうしたの?」


 笑顔を浮かべたまま軽く首を傾げて聞いてくる。


「な、なんでもない。」


 俺は思わずプイッと顔を背けた。


「あー、何よ、それー。ひどーい。」


 ローザは夕人の顔を両手で挟み、無理やり自分の方に顔を向けさせた。


「仕方がないだろ?」


 俺は顔を手で挟まれたままローザの顔をじっと見た。少し渋い表情を浮かべていても可愛らしいローザの顔があった。


「何が『仕方がない』なのよー。」


 プリプリとしているローザも嫌いじゃないけれど。こんなことを言ったら怒られるかな。


「言いたくないこともあるんだからさ。」


 笑顔で言ってみたけれど、この言葉は失敗だったかもしれない。なぜって?ローザが悲しそうな表情を浮かべたからさ。


「そっか。ごめんね。」

「いや・・・俺の方こそ。」


 俯く二人の間に無言の時が流れたが、二人がそれぞれ何を考えていたのか。それは本人たちにしかわからない。


「あのね?電話番号・・・教えてもらってもいい?私も、教えるから。」


 ローザは俯いたまま夕人に尋ねた。


「あれ?教えてなかったっけ?」

「うん、教えてもらってなかった。」


 二人はバツが悪そうに番号交換をした。けれど、お互いに家電だからそう簡単に電話ができるというわけではない。ローザの家には子機があるから、夕人よりはましとは言えるだろうけれど。


「じゃ、今日はもう遅いから、日曜日に、ね。」


 ローザが番号を控えた手帳をポケットにしまいこみながら笑顔を向けた。


「あ、うん。っていうか、一緒に帰ろうよ。途中まで同じ道なんだから。送っていきたいよ。」


 そう言いながら夕人はテーブルの上に出しっぱなしになっていた勉強道具をカバンにしまい始めた。


「あらあら、夕人くん。言うようになったじゃない?お姉さんを送ってくれるの?」


 そう言って夕人の背後から近づき、夕人の頭を撫で始めた。


「そのくらい・・・昔から言ってたと思うけれど?」


 夕人は頭を撫でているローザを放っておいたまま作業を続けた。


「ん、確かにそうかも。でも、なんかドキッとしちゃったよ。」


 黙々と作業を進めている夕人の後ろ姿を見ながらローザは一人満足そうに笑みを浮かべていた。


「よしっ。終わった。ごめんね、待たせちゃって。」

「ううん、帰ろっか。」


 どこからどう見てもカップルにしか見えない二人は、仲良く手を繋いで区民センターの扉から出て行った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


夕人とローザ。

このあとどうなっていくのでしょうか。

少なくとも、今の夕人にとってローザは頼りになる存在なのでしょう。

ローザにとっての夕人の存在は言うまでもないですよね。


それにしても、あれだけ仲が良かったグループがこんなに簡単にギクシャクしちゃうなんて。

本当に悲しいですよね。

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