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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第27章 非常事態です!
145/235

いつもとは違う場所で

二年生編は終わって三年生編に突入!

つまりは最終章へ!!


そんな感じに行きたいのですが、まずは春休みから。

とはいえ、いつもとは違う展開から始まります。

 三月末。本当に月末で年度末の三月三十日の夕方。俺たちは東京の浅草にいた。


「うっわ、あれ、うんこじゃね?」


 翔がいきなりとあるビルの屋上にある不可思議な物体を指差しながら言った。


「んなわけないじゃん、あんた、バッカじゃないの?」


 小町が翔のボケに対して厳しい言葉をぶつけている。


「でもさぁ〜、あれってそんな感じに見えるよ?しかも金色って。」


 実花ちゃんまでアレがうんこに見えるなんて言っている。

 確かに、うんこに見えないこともない。けれどさ、どこの変態が自分のビルの上にうんこを乗せるかな。


「あれは炎をイメージしてるんだって。なんかそう書いてあったよ?」


 環菜がおそらくは正確であろう情報を俺たちに流してくれた。

 うーむ、炎か・・・そう言われればそう見えるけれど、うんこと言われればうんこだよなぁ。


「炎には見えない。」


 翔が首を横に振りながら環菜の言葉を拒否するような仕草を見せる。


「あたしもー。」


 実花ちゃんも翔の言葉に頷いている。ちなみに茜は別行動組。今夜から俺たちに合流する予定になっている。今は何してるのかな?お姉ちゃんの手伝いって言っていたけれど、撮影に参加しているのかなぁ。


「ねぇねぇ、夕人くんはどう思う?」


 環菜がうんこビルのことを俺に聞いてくる。俺に聞かれてもなぁ。素直に感想を言えばいいのか?


「まぁ、うんこと言われればうんこだけれどさ。小町の言う通りにビルの上にうんこを乗せることはないだろ。普通はさ。」

「なんだ夕人、夢がないなぁ。」


 翔が大げさに肩をすくめてみせる。


「そそ、夢がないよねぇ。」


 実花ちゃんまで翔と同じ仕草で俺を責めてきた。


「うんこに夢なんかないわ。バカ夫婦。」


 小町が吐き捨てるように二人に言うが、確かに夢っていうのはどうかと思う。


「何をいう。うんこは色々な夢が詰まってんだぞ?」


 翔が小町に対して激しい抗議をぶつけ始めた。


「あのさぁ、夢はいいとして、ここでウンコの話はどうかと思うな、俺。」


 そう、ここは吾妻橋っていう橋の上。観光客らしき人たちもたくさんいるし、何より下品すぎるんじゃないのか?


「夕人は大人になったんだなぁ・・・」


 翔が寂しそうな笑顔を浮かべて俺を見てくる。実花ちゃんも似たような表情だ。全くこのバカ夫婦は。


「まぁまぁ。翔くんのいうことは一理あるかもしれないけれど、今は夕人くんの言ったことの方が正しいんじゃない?ここでする話じゃないと思うよ。」


 環菜が俺の言葉を支持してくれている。小町は・・・俺の顔を見ようともしない。相変わらず、俺のことを『夕人』って呼ぶこともないし、会話もない。無視されているっていう気がしてならない。はっきり言っちゃうと最悪だ。


「まぁ、夕人の言う通りか。」

「そうだねぇ。ここは夕人くんが正解だねぇ。」


 バカ夫婦も俺の意見に耳を傾けてくれたようで安心だ。

 あとは・・・小町と普通に話ができるようになれば、ある意味で俺の今回のミッションはコンプリートなんだけれどな。そう簡単には行かなそうだ。今のところ、札幌からここに来るまで小町とは一切会話をしていない。

 そう、一言もだぞ?空港への移動の間も、飛行機の中でも、ここまでの電車移動の間も。一体何が原因でこんなことになってんだか俺にはさっぱりわからない。だって、話してくれないんだからわかるわけがない。頼みの綱の茜もいないし。あぁ、つまらないっ。


「じゃ、うんこビルの話は置いといて、浅草寺に行こうよ。」

「夕人・・・お前、ここでそれを言うか?」


 翔に突っ込まれたけれど、あえて無視して最後の賭けに出た。


「小町、先に行こうぜ。」


 そう声をかけて小町の腕を掴んで走り出した。


「な・・・何すんのさっ、バカ夕人っ。」


 俺は思わず走りながら笑みがこぼれた。やった、危ない賭けだったけれど、俺の勝ちだ。誰かと勝負しているわけじゃなかったけれどな。強いて言えば俺自身か?


「小町っ、やっと話してくれたなっ。」


 俺は小町の手を引きながら走っていても笑みが止まらない。


「な・・・何さっ、バカ夕人っ。あんたのせいなんだからねっ。」


 小町が大きな声で文句を口にしているけれど、そんなことはどうでもいい。


「なんだよ、何が原因なんだよ。」

「・・・いいよ、もうっ。この・・・バカ夕人っ。」

「ははっ、やっといつもの小町だなっ。」


 俺は嬉しくて笑いが止まらなかった。小町が言っているように俺に何かの原因があるのかもしれないけれど、でも、話もできなければ何にもできないんだからな。これで、また一歩前進っと。


「う、うるさいっ、手を離せよっ、バカ夕人っ。」

「はっはっは、離すかってんだ、バカ小町っ。」


 俺は小町の手の温もりを感じながら、少し前までは日常だったやりとりを目一杯に楽しんでいた。



「ちょっ、ちょっとっ、離してよっ、バカ夕人っ。」


 私は夕人の手を振り払って、立ち止まった。あたりには観光客だと思う人がいっぱいいたけれど、そんなのは関係ない。実花たちとはぐれるような感じにもなっちゃったけれど、それだって関係ない。なんで?どうしてこんなことができるのさ。私が知っている夕人は、こんな人じゃない。誰にでも優しいけれど、でも、でもっ。


「なんだよ・・・」


 夕人が不服そうな表情で私のことを見てる。だって、仕方ないじゃない。私だってっ、前みたいに話もしたいし、色々なことしたいけれど、あんなの見せられたらなんか腹が立つじゃない。それって私が悪いの?


「なんなのさっ。」

「だから、何がだよ。」

「わかるでしょっ?」

「わからねぇよ。」


 周りを歩いている人がクスクスと笑いながら私たちのことを見てるけれど、そんなのはどうでもいい。どうせ、二度と会わない人たちなんだから。でも、なんでさ。なんでわかってくれないのさ。私はその方が嫌だよ。なんで無理矢理に手を繋いで走ったりするの?わけわかんないじゃん。


「もう、いいっ。」


 私はこの気持ちをどこにぶつけたらいいのかわからない。いや、誰に?そんなの夕人しかいないけれど、それはわかってるけれど・・・ううん、違う。わかってる。夕人は何も悪いことなんかしてない。


「よかねぇよ。なんなんだよ、小町らしくないなぁ。」


 何それ?らしくないのはそっちでしょ?そんな言い方、前までの夕人じゃないみたい。


「なにさ。」

「だから、なんだよ。」

「おーい、いきなり走るなよー。」


 後ろから杉田の声が聞こえる。私たちが急に走り出したもんだから、あの運痴も必死になって走ってきたんでしょ、きっと。こんな状態、みんなには見られたくない。


「私に話しかけないでっ。」


 ・・・言ってしまった。これは絶対に行ってはいけない言葉だったと思う。だって、これを言っちゃおしまいって感じがするもん。


「・・・そっか。わかったよ。悪かったな。」


 夕人、違う。違うよ、ごめん、違うの・・・


「な〜んで二人で走り出すかなぁ〜。うちの旦那は運動できないんだから走っちゃダメだって知ってるでしょう?」


 実花が少しだけ息を切らせながら文句を言っている。あの二人って・・・体力ないんだね。知らなかった。

 でも、私は今、確実に何かを終わらせてしまったような気がする。だから、他のことなんかどうでもいいのに、でも、色々なことを考えてないと変になっちゃう。


「小町ちゃん、夕人くん、どうしたの?急に走って。」


 環菜も走ってきたみたいだけれど、息が切れていないみたい。やっぱり、なんでもできる女の子っていうのは伊達じゃない・・・よね。


「なんでもないさ。ちょっとからかって見ただけだよ、みんなと・・・青葉を。」


 夕人?今、私のこと、小町じゃなくて、青葉って?苗字で呼んだ?どうして・・・


「え・・・っと、何かあったの?夕人くん?」


 右手を口に当てて驚きを隠せないといった表情の環菜。実花も目を丸くしている。杉田は・・・肩で息をしているからそれどころじゃないのかもしれない。


「何も。ごめん。俺、ちょっとはしゃいじゃってさ。ほら、東京って初めてだったからテンション上がっちゃって。」


 そう言って笑いながら右手で軽く頭を掻いている。それは夕人のクセだけれど、さっきまでのことを誤魔化そうとしてるんだよね・・・きっと・・・



「お、夕人もやっと上がってきたのか?テンションがっ。」


 翔は空気を読んでいるのか読んでいないのか全くわからない調子で夕人の肩をガシッと掴む。まだ息は荒く、走ることが彼にとって相当辛いことであることを示しているようだった。


「おうっ、上がってきたなっ。ほら、浅草寺に行って、花やしきにも行こうぜ?」


 夕人は妙に元気に翔の言葉に乗っかった。その姿はいつもの夕人とは違うものだったが、誰もがそのことを口にするのを躊躇ったようだった。


「夕人よ・・・夕方から花やしきは無理だ。明日は朝も早いしな。浅草寺だけ見たらホテルに戻ろうぜ?な?」


 翔はおそらく何かを察していたのだろう。実花に軽く目配せをして、自分は夕人の肩をガバッと抱き、浅草寺に向かって歩き始めた。


「よぉ〜し、あたしらも浅草寺にレッツゴー。」


 実花も呆然とした表情で立ち尽くしている小町の肩を左手で抱き、右手で環菜の肩をガシッと掴んだ。


「そだね、浅草寺、行こうか。雷門とか見たいしね、人形焼きとかお土産に買おうかなぁ。」


 環菜も不可思議なこの場の空気を読んだのか、実花の言葉に素直に従った。


 そして、誰もがこう思っていた。『この場に茜がいてくれたら。』と。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


夕人と小町の関係がギクシャクしすぎです。

それもこれも夕人が悪い!・・・のですかね?

はっきりと言わないお互いが悪いような気がしますけれど。


でも、言葉にできない思いがあるとこんなすれ違いもあるのではないかと。

そして、そのすれ違いはたまに大きな溝をつくってしまうものなんです。

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