BREAK OUT!
さてさて、デート編の続編です。
・・・と言いたいところですが、ちょっと別のお話です。
「ねぇねぇ、まだ買い物続けるの?」
日曜日だから街に遊びに来たけれど、茜の買い物って長いよ。そんなに買いたいものあるの?とか思ってるんだけど、全然買ってないんだよね。いろんなお店に行って、いろんなお店の売り物見て、なんか楽しんでるみたいなんだけど。
「え?いいじゃない。小町ちゃんも色々見て楽しもうよー。」
今日は珍しく地味めな服装の茜だけれど、その美貌と身長で目立っちゃうんだよ。
「はぁ・・・」
私はどちらかというと、あんまり買い物とかが好きじゃない方だと思う。だって、人混みとか疲れるし、何と言っても前が見えないっていうのがハラたつっ。茜は背が高いからいいけどさ。もうちょっと私のこと考えてくれてもよくない?
それに、二人でいると姉妹だと思われるし。もちろん、私の方が妹よ。そんなこと、言うまでもないでしょ。
「あ、つまんない?他のとこ行く?」
茜が、申し訳なさそうな表情を浮かべながら聞いてきた。
「あのね、ちょっと休憩しよう。人が多いとツライの。」
「そっかぁ。そうだよね、うん、どっかでお休みしよっか。」
念願のお休み。いい加減疲れたから、本当はもう帰ってもいいんだけどね。茜が楽しそうにしてるから、もうちょっと付き合ってあげようかな。
「そうしよう。できれば、人の少ないとこがいいな。」
「もう、小町ちゃん。そんなところあるわけないじゃない。」
茜は笑いながら私の顔を覗き込んできた。相変わらず綺麗な顔。それに背も高いし、スタイルもいいし。私とは大違いだ。私なんか背も伸びないし、胸囲も変わらないし、体重も変わらない。もう、成長が止まっちゃったんだろうかって思うくらい。やっぱり、男子って茜みたいなスタイルのいい美人の方が好きなんだろうなぁ。
「はぁ・・・」
「あれあれ?なんか元気ないねぇ。どうしたの?」
笑顔を浮かべたまま聞いてこられてもね。私も体力はある方だけど、こういう時の茜の体力にはかなわないなぁ。
「ううん、なんでもないよ。」
誰かと話すときは、どうしても見上げる感じに話さなくちゃいけない。これが昔からのコンプレックス。今更言ってもしょうがないんだけど。だから、茜と話すときに限ったことじゃないけれど、やっぱりいやだよね。だからってしゃがみこまれるのはもっといやだけど。
「そう?えーっと、そしたらね、あそこ行こう、四プラ。」
「えー、あそこ人いっぱいいるじゃん。」
「ふふん、美味しいお菓子のお店があるよ?」
お菓子?ソフトクリームとかかな。それはイイ。
「仕方がない。それなら行ってあげてもいいよ。」
私って茜に対しては随分と強気に出ちゃうことが多いかも。
「そう?じゃ、お願いしちゃおうっかな。」
茜は笑顔を浮かべたまま私の手を取って歩き始めた。この時の私はまだ元気だったし、まさかこの後にあんなことが起こるだなんて。もちろん知らなかったよ。当然、茜もね。
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四プラってお店は、いろんなテナントが入っているお店。洋服店やアクセサリー屋、ちょっと女の子向けのお店が多いのはお約束っていう感じ。洋服店は雑貨屋さんのような感じのお店からちょっとおしゃれな洋服屋さんまで色々。地下には小物アクセサリーの雑貨屋さんなんかもあるの。だから私は時間があるときに来て見たりしてるんだけどね。やっぱり一人だとあんまり楽しくないから、今日は小町ちゃんに一緒に来てもらったってわけ。こういうのは女の子同士じゃないと楽しめないんだよね。
「やっぱり、人いっぱいじゃん。」
小町ちゃんは私の横でふくれっ面をしている。子供っぽいところがあるんだけれど、そこが小町ちゃんの可愛らしいとこなんだよね。そんなとこ、私は好きだよ。だって、それは小町ちゃんの素直な証拠ってことだから。私には羨ましいところだよ。あんな感じに素直な自分でいられたらいいのにって思うこともあるんだから。
「今日はいつもより人が多いかも。」
そう、これには私も驚いた。なんだか制服姿の人たちがたくさんいるし。高校生かな。
「これじゃ、お店も混んでるよ?」
「大丈夫、大丈夫。すぐそこだから。」
そう言いながらお店の方を指で指して小町ちゃんに場所を教える。でも、本当に大丈夫かな?お店、混んじゃってるかも。
「見えないから、わかんないっ。」
小町ちゃんが不機嫌になってきちゃった。人が多くなってくると、小さな小町ちゃんは周りの人にぶつかられることが多くなるみたい。ちょっとかわいそう。
「こっちこっち。」
小町ちゃんの手を取って目的のお店まで人混みをかき分けるようにして進んで行った。
「ここだよ。」
「ふーん。」
小町ちゃん、相当不機嫌だ。参ったなぁ。こんなに混んでると思わなかったし。
「じゃ、買っちゃおうか。」
「えー、こんなに人いたら食べられないじゃん。無理だよ。」
腕を組みながら抗議の声を上げる。でも、小町ちゃんの言う通りかも。こんなに人がいたらたとえ買うことができても食べることなんて無理かも。
「ごめーん、無理だね。こんなに混んでるのはちょっと予想外。」
顔をしかめながら小町ちゃんの方に向き直ったときだった。
「あれ?」
「ん?なに?どしたの?茜。」
小町が茜の言葉に驚いたように声をかけてきた。
「あー、えっと・・・」
「なに?どうしたの?私は全然周り見えないんだから。ちゃんと教えてよ、ねー。なに?」
小町ちゃんが何か私に言っているけれど、あんまり耳に入ってきていない。だって、驚いちゃうよ。
「あ・・・小町ちゃん。ここ、人いっぱいだからちょっと外にでよっか。」
「え?なに、急に。いいけどさ。」
小町は茜にそう答えてクルッと向きを変えて、さっき茜が見てしまったもののほうに向かって歩き出す。
人混みの中に突っ込んでいくその小さな姿はとても頼もしいものに見えるんだけれど、今、そっちに行っちゃダメ。
「あ、そっちじゃなくて・・・」
小町が歩いて行こうとした方に茜もついていく。
ダメだよ、小町ちゃん。そっちは行かないほうがいい。そう思ったときだった。私の前を歩いていた小町ちゃんの足が急に止まったの。思わずぶつかりそうになっちゃった。まぁ、私は後ろから誰かにぶつかられちゃって、舌打ちとかされちゃったけれど、それは仕方がないかなぁって思った。そんなことより・・・
「茜?あれ・・・」
「・・・うん。」
何が『うん』だろう。私だってすごく驚いたんだよ?でも、それ以上に小町ちゃんの驚きは大きかったんだと思う。だって、夕人くんがいるんだもん。ううん、それよりも一緒にいる人。そっちの方が驚きだった。まさか夕人くんが椎名先輩と一緒にいるところなんて想像したことなかったもん。二人って、え?なに?どういう関係?付き合ってるとか?でもでも、夕人くんがそう言うことを隠すとか、そう言うの考えられないし。それに、すぐわかると思うし。なんで?どうしてあんなことになってるの?
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茜は『うん。』ってだけ言ったけど、はっきり言ってしまうと、そんなことはどうでもよかった。ただ、目の前の出来事が信じられないし、信じたくない。それだけだった。
「ねぇ、どうして?なんで椎名先輩?」
私は思った通りのことを口にした。別に茜に言ったわけじゃない。自分自身に問いかけたつもりだった。
「わかんない。」
茜から答えが返ってきた。そりゃそうだよ。私もわかんない。でも、今、目の前でのことは事実なんだし、その理由を考えたって仕方がないんだから。
「話しかけてみる?」
茜がすごいことを切り出して来た。夕人が一人でいるんだったら、私だって間違い無く話しかけるんだけど、いや、夕人が一人でこんなとこにいるなんて考えられないけど。
「なんて声かけるの?」
そう茜に問いかけた時、私の前に壁が現れて、夕人たちが見えなくなった。そう、もちろんそれは壁なんかではなくって、目の前に背の大きな男の人が立ちはだかるように立ったからだ。
「こんなとこに立ち止まってんじゃねぇよ、チビ。」
「何?このちっちゃいの。小学生?」
チビ?言ったわね?このうすらでかいだけのハゲッ。やんのか?こら。しかも、その隣の女、私のことを小学生って言ったな?
「あ、すみません。」
茜が私の手を取って夕人たちがいるのとは反対の方に引っ張っていく。
「ちょっとっ、どこに連れていくつもりよ。夕人たちはあっちの方に行ったんだよ?」
茜に手を引かれながら、夕人たちが歩いていった方を指差しながら茜に声をかける。
「いいから、こっち。」
茜は真っ直ぐに前を向いてどんどん歩いていく。そうしてやっと茜が立ち止まった場所、そこはポールタウンって呼ばれる地下街だった。
「何よ、茜。どう言うつもり?」
茜のことを睨みつけた。だって、急に手を引っ張るんだもの。夕人も見失っちゃうし。
「だって、変な男の人いたじゃない。」
あぁ、あのうすらはげ。別にあんなのどうでもいいのに。そんなことよりも夕人じゃないの。何を言ってるの?茜は。
「そんなの平気じゃん。あんなハゲ。」
「ハゲてなかったけれどね・・・でも、ほら、あのまま夕人くんを追いかけたって何を話したらいいのかわかんないし。」
それはそうだ。私だってわかんないよ。でも、あんな風に女の子と遊んでいる姿の夕人を見るのは初めてだ。楽しそうに笑っていたし。あー、なんかムカつく、バカ夕人。
「適当でいいじゃん。なんか知らないけど適当に話しかけときゃいいじゃん。」
もう、本当にハラタツ。よりにもよって、あの椎名先輩?なんて言うかさ、茜ならわかるよ?なんか仕方がないかなって思うけど、なんで椎名?
「ちょっと・・・小町ちゃん。落ち着こうよ。」
「何?私、全然、冷静だけど。そっちこそなんでそんなに大人ぶってんのよ。前にも言ったけど、そう言うとこ、変だよ?」
茜に当たったって仕方がないけど、なんだか止められない。
「大人ぶってって・・・そんなつもりはないけれど・・・」
「そう?茜っていっつもそうじゃん。この前のバレンタインの時だって、私のことだけ子供扱いして。私だってちゃんとやれるんだからね。茜に負けないくらい、ちゃんとできるんだからね。」
私、何を言ってるんだろう。こんなこと言うつもり全然ないのに。口が勝手に喋り出してる?ううん、これって、私が心の底で思っていたってこと?
「わかってるよ、小町ちゃん。ごめんね。」
茜がしょんぼりした表情を浮かべて私に謝ってくる。でも、私の口は全然止まらない。
「だってさ、茜だって夕人のこと好きなんでしょう?」
「え?それは、違うよ。」
茜がハッとした表情を浮かべている。どうしてここでハッとなるのか私にはわからない。
「違わないじゃん。学校祭の時だって、私が・・・私がやりたかったのにっ。あんなことにならなければ・・・茜になんか頼まなきゃよかったっ。」
ダメだよ、これ以上はもう言っちゃダメ。
「そっか・・・ごめん、小町ちゃん。」
茜は大きな綺麗な目に涙を浮かべて私に謝り、そしてクルッと背を向けて走って行ってしまった。
でも、私は・・・追いかけなかった。追いかけるべきだったのに。茜は意地悪な子じゃないって知っているのに。自分の気持ちを抑えきれずに、こんなところで茜と喧嘩してしまった。しかも言いがかりみたいな感じで。
「・・・ごめん、茜。」
私は少しだけ壁際に移動して、そしてしゃがみこんだ。
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小町ちゃんに言われちゃった。ひどいこと言われちゃったよ。悲しい。さみしい。友達だと思っていたのに。あんな風に思ってただなんて知らなかった。
「どうしてうまくいかないんだろう・・・私って。」
どこをどう歩いてきたのか、私はテレビ塔のふもとに立っていた。別にここを目指して来たわけじゃなかったのに、それなりの時間をかけてウロウロしていたらこんなところに来てしまっていたみたい。
「変だな・・・これまで、ちゃんと頑張ってきたはずなのになぁ。」
日曜日ということもあって、テレビ塔はかなりの人がいた。
「小町ちゃんとは、もう・・・ダメなのかなぁ。私、逃げちゃったし・・・」
独り言のように呟きながら手近なところにあったベンチに腰を下ろした。
学校祭の時だって・・・か。そうだよね。私、小町ちゃんの代役だったんだ。それなのにあんなことしちゃって・・・ダメだなぁ、私。でもね?私だってあの演劇は成功させたかったんだよ。それはわかってくれてるよね。
違う、小町ちゃんが言っているのはそういうことじゃないんだ、きっと。私が、『おとき』の領分を超えたことをしたってこと、気がついているんだ。あの時はその場の勢いっていうのもあったけれど、でも、私は夕人くんとキスをしたかった。だから・・・私はあの場面を利用した。そして、そのあとも・・・
でも、夕人くんは私のことを好きじゃない。嫌われてはいないと思うけれど、友達よりちょっと好き。きっとそんな感じなんじゃないかなって思ってた。そして、実花ちゃんに話をした。私って本当はどうしたいって思っているのかわからなくなって。
実花ちゃんは『そんなこと、あたしにわかるわけないよー。』って言っていたけれど、話しているうちに私自身で色々わかってきたことがあった。それは、私は夕人くんに憧れていたってこと。そして、好きっていう感情の種類が別物なんじゃないかっていうこと。でも、それはあくまで私の心の中の答え。夕人くんのことが好きっていう気持ちは変わらない。
ううん、変わった。言葉は変わらないけれど、確実に意味は変わった。
それに、私は春休みからお仕事が入るようになる。お母さんから昨日初めて聞いた。あの映画だけじゃなくて、他のお仕事もこなしていくことになるって。初めは小さなお仕事から。そう、私は芸能界に進むって決めていた。その時かもしれない。夕人くんへの気持ちが少し変わったことに気がついたのは。
「ねぇねぇ、何してんの?お姉ちゃん。」
ベンチに座っていた私に二人の男の人が声をかけてきた。
「え・・・別に・・・」
「お、めっちゃ可愛いじゃん。」
「な、マジで可愛いよな。なぁ、俺たちとこれから一緒に遊ばない?」
え、これって、ナンパ?嫌だよ、私、そんなことしたくない。小町ちゃん?小町ちゃんはどこ?周りを見回してみても小町ちゃんの姿は見当たらない。
「な?いいじゃん、ケチケチすんなよ。」
一人の男の人が私の肩に手をかけてきた。
「ひっ・・・」
恐怖から思わず変な声が出た。
「なんだよ、怖がるなよ。俺たち、全然怖いお兄さんなんかじゃないからさ。」
二人の男の人は妙にキザな格好をして、一人は整髪料で髪をオールバックにしている。もう一人は茶色っぽい髪で鋭い目つき。イヤだ・・・怖いよ。助けて・・・
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ここで茜・小町ペアの登場です。
茜の気持ち、小町の想い。様々な感情が些細なきっかけで明らかになりました。
それにしても、茜は大丈夫でしょうか。




