雪道を歩くのは少しコツがいる
えー、そのコツというのは少しだけ膝を曲げることです。
それでも、転ぶときは転びます。
日曜日。天気は曇り。
まぁ、こんな時節柄だから好天なんてことを期待はしていなかったけれど、晴れてくれた方がありがたかったな。いや、吹雪いていなかっただけ良かった。そう思うべきなんだろうけれどな。
今日はローザとのデートの日。どこに行くのかなんてことは聞いてない。昨日のローザとの話だと、行きたいところがあるって言っていたからそこに一緒に行って楽しめたらいい。そしていろいろ話して、お互いが少しずつでも分かり合えたらいいな、なんて考えていた。
待ち合わせ時間は九時。待ち合わせ場所はいつものようにローザの家の前。少しだけ早い時間での待ち合わせということは、もしかしてそれなりに遠くへ行こうと思っているのだろうか。そんなことを考えて、財布には五千円くらい入れてみた。あ、そうそう。学生証も持ってこいって言っていたな。忘れないようにしないと。
よし、準備は万端。早速出かけますか。
俺はコートを颯爽と羽織り、まだまだ雪が残る外に一歩踏み出した。
「ヤッホー、おっはよー。」
あれ?ローザが外で待っている。もしかして俺、あれだけ格好つけておいて遅れたのか?腕時計で確認してみると、待ち合わせ時間にはまだ少し余裕がある時間だった。
「何で外にいるんだよ。」
「え?だって、その方がすぐに移動できるじゃない?一緒に居られる時間、少しでも増や・・・まぁ、いいじゃん。準備が早く終わっちゃったからだよ。」
そこまで口にしてしまうと、ごまかした方が恥ずかしくならないか?言ってしまった方が楽になれると思うんだけどな。なんて考えておきながら俺の方が熱くなってくる。
だってさ、ローザって一言一言が可愛らしいんだよ。実際に、顔も可愛らしいんだけど。
「ん・・・えっとさ。」
「なぁに?」
「行こう。」
ローザの手を左手で掴み、さっさと歩き始めた。どこに向かえばいいのかもわかって居ないくせに。
「あ、ちょっと待ってよ。どこに行くか、まだ言ってないし。」
ローザは俺の後ろから声をかけてくる。
「まずは地下鉄の駅。間違ってる?」
考え付く限り、この考えが確率が一番高い。そう考えていた。
「うん、そう。どうしてわかったの?」
見えてはいないけれど、ローザが目を丸くしている姿が容易に想像できた。彼女は表情がとても豊かだったし、わかりやすいところがあった。
表情の豊かさはもしかしたらハーフだってことが関係あるんだろうか。いや、それは関係ないだろうな。色白な顔に整った顔立ちで、少しだけ大人っぽい顔つき。もしかすると場合によっては結構年上に見えるのかもしれない。そして、時には話し方が凄く子供っぽいところがある。これもまた、ギャップを感じさせられて面白い。
「今日も可愛い格好してるね。」
今日のローザは赤いコート。その丈はあまり長くはなく、ちょうどお尻が隠れるくらいの長さだ。上着に何を着ているのかは見えないけれど、短めのスカートであることだけはよぉーくわかる。そして、これはお気に入りなのだろうか。雪まつりの時と同じ丈の長めのブーツという格好だった。あ、そういえばマフラーはまた巻いていないな。手袋は・・・落としたんだけ?今日もはめていない。
「あ、ありがとう。君もかっこいいよ。」
俺の格好なんていつもと変わらない。何となく申し訳ないような気がしてくる。普段からよく着ている黒のロングコートに黒いパンツ。そして、ハイネックのセーター。何だろう。俺の格好って真っ黒じゃね?
「そっかぁ?なんか・・・真っ黒だ。」
「そだね、でもいいんじゃない?モノトーンって感じで。」
物は言いようってことか。俺は一人笑みを浮かべて、そして立ち止まる。
「あのさ、相変わらず手袋してないんだな。マフラーも。」
「あ、気がついた?実はねぇ、わざとなの。」
ローザは『えへへ』と言って俺の首にあるものを指差してくる。
「あぁ、そういうことね。はいはい。いいよ。」
俺は首にかけてあるだけのマフラーを外し、ローザの首に巻いてあげた。そして、左手の手袋を外してローザに手渡した。赤いコートに男物の黒いマフラー。これでいいのか?
「これでいいんだよね?」
「そ、よくできました。」
パチパチと手を叩いているが、片手が手袋だからポフポフとしか音がならない。何というかコミカルな感じだ。
「さ、行こっか?」
今度はローザに手を引かれる感じで俺たちは地下鉄の駅に向かって歩き始めた。
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「俺、ここに来たの久しぶりだ。小学生の時に来たような気がする。」
ここはサンピアザ水族館。
新札幌にある、札幌市で唯一の水族館だ。もっとも、札幌市近郊で一番有名な水族館は小樽水族館。アシカだかオタリアだかのショーが開催されたりする。イルカもいたような気もするし。それに、街自体が運河やガス灯なんていうものがあって観光地になっているから、観光客は大体そちらの方に行ってしまう。だから、ここ、サンピアザは地元の人達で賑わっていることが多い。俺もそうだったけれど、小学生の社会科見学的なもので隣接している青少年科学館をセットで堪能することが多いんだ。チケットもそういうセットがあるしね。
「そうなの?私ね、ここにも来たかったんだぁ。」
「へぇ・・・」
ローザの言葉に対して、なんだかぼやっとした返事をしてしまったことに気がつく。
「なんか・・・バカにしてる?」
ローザが俺のコートの右袖を引っ張りながら口を尖らせた。
「してない、してない。あぁ、そうなんだなぁって思っただけだよ。」
俺は必死に自分自身のフォローに回った。
「そう?子供っぽいとか、思った?」
「思ってない、思ってない。」
「青少年科学館も行ってもいい?」
「いいよ、いいよ。」
「・・・なんか適当に返事してない?」
袖をさらに引っ張り、体全体で迫ってくる。あんまり迫ってこられると・・・胸が・・・
「そんなことないって。本当だよ。この辺りには来た記憶がほとんどないから、全然わからないなぁって思ってただけ。」
この頃は表面上だけ取り繕うことが多くなったような気がするな、なんでだろう。
「へぇ、そうなんだね。」
なんとか納得してくれたみたいで安心した。ローザは茜とも小町とも違うパワーがあるからなぁ。押し切られてしまうことが多いんだよな。
「じゃ、回ってみよっか。」
「うん。」
俺たちはまず、水族館の方から回ることにした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
雪まつりデートよりは濃厚なデートになりそうな気がします。
夕人自身の気持ちの整理も付きつつありますしね。
さて・・・どうなることやら。




