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女の子と行けるお店探しは難しい

翔と環菜と話したことで、夕人は多少は成長できたでしょうか。

 三月は卒業シーズンで桜の時期。

 桜前線がうんたらなんてニュースをテレビで見たけれど、札幌は今日も雪が降っている。まぁ、北海道なんてこんなものさ。桜が咲くのはゴールデンウィークくらいまで待たないといけないからな。


 と、愚痴はさておき、実はまだ二月。今日は二月二十九日土曜日。今の時間は十三時。学校帰りにローザとの待ち合わせだ。待ち合わせと言ってもデートじゃない。

 学校でローザに話しかけて、帰りにこの前の場所で待ってるからってことだけ言ってきた。ローザは何も言わなかったけど、頷いていたからきっと来てくれると信じている。


 そういえば、翔から大事な話があるから月曜日は開けておいてくれって言われたな。なんのことかはわからないけれど、実花ちゃんや小町、茜と環菜というフルメンバーが召集されるみたいだった。ふーむ、そっちも気になるけれども、今はそれどころではない。

 時間が気になるからといって、頻繁に腕時計を見ても時間が早く進むわけではない。それに、待ち合わせの時間を言わなかったのは失敗だったかもしれないな、と思い始めていた。だって、ローザにも都合ってものがあるだろう?すぐに帰宅できると限らないじゃないか。どうしてそのことに考えが至らなかったんだろう。


「ごめーん、待たせちゃった?」


 ローザが手を振りながら小走りでやってくる。よかった、来てくれて。ホッとして大きく息を吐いた。それと同時に緊張してくる。俺は今日、ローザに伝えなきゃいけないことがあるんだ。


「全然待ってないよ。俺もついさっきここに来たばかりだから。」

「もう、時間とかも決めてくれればよかったのに。」


 ローザは口を尖らせながら、俺の左手を掴んで来た。


「ごめん。そこまで気が回らなかった。学校で話しかけるのが精一杯で。」


 なんだか俺らしくないような気もしたけれど、事実なんだから仕方がない。生徒会の用事とかで三年生の教室に行くならまだしも、私用で行くだなんて思ってもみなかった。


「ね、今日はちょっと時間、ある?」


 ローザが笑顔を浮かべて尋ねてきた。


「どうだろう・・・あんまり遅くまでっていうわけにはいかないけれど、多少なら大丈夫、だと思う。」


 俺は少し考えて、そう答えて首を縦に振った。


「うん、いいよ、それで。あ、ねぇ、私のうち、知ってるよね?」


 知らないわけがないだろう?もう何回か迎えにいったり送っていったりしたんだから。


「もちろん知ってるよ。で、それがどうしたの?」

「ちょっと寄ってかない?今日も両親はいないし、ちょっとお腹すいちゃったから。」


 家に行く?それはどうだろう。あんまり良くないような気がする。

 いや、ローザに限って何か変なことが起こるだなんて思わないけれど、女の子の家に簡単に遊びに行ってはいけないような気がする。


「えっと・・・それはちょっと・・・」

「んん?もしかして何か勘違いしているのかな?君は。私はね、お財布を取りに行きたいのだよ。だってね、君が急にお姉さんのことを誘いにくるもんだから、ちょっと寂しい中身なのよね、私のお財布。」


 ローザはニヤニヤと笑顔を浮かべて俺の顔を覗き込んできた。可愛らしい笑顔が憎らしく見えるけれど、これはこれで悪くない。


「・・・ちょっとだけ。」


 俺は右手の親指と人差し指がくっつきそうでくっついていないくらいの『ほんのちょっと』をローザに見せつけた。


「そう?ま、お姉さんはどっちでもいいけれどね。とはいえ、簡単に男の子を家に上げるような尻軽ではないのだよ。」


 なんだろう。今のローザの発言に対して不服そうにしている顔が頭に浮かんだような気がする。約二名の女子の顔だったような・・・


「そうですか。それは失礼しました。」

「え、なに、それ。なんか・・・変だよ?」


 少しだけ眉をひそめて俺の顔を見ている。今日の髪型、いつもと違うな。いつもローザは髪を縛らずに無造作に流していることが多い。でも、今日はポニーテールのように後ろで一本に縛ってある。なんというか、これはこれで良いのではないでしょうか。


「何?どしたの?無表情で私の顔を見て・・・」

「え、いや、髪型がね、違うなって。そう思っただけ。」


 俺は特にごまかしもせず、そのまま思ったことを口にした。


「あー、これ?うん、今日寝坊しちゃってね。ブローとかする時間なくてさ。」


 そう言って『あはは』と言って恥ずかしそうにしている。あぁ、なんでだろう。ちょっといじめたいという衝動が湧き上がってくるのは。


「もしや、寝癖とかすごいの?」

「あー、それそれ。このくらいの長さの髪型だとどうしてもね。あっちがハネたりこっちがハネたりするんだよ?大変なんだから。」


 真面目に答えられてしまった。どうやらいじめる方向を間違えたようだ。


「というか、行くならさっさと行こっか。ここにいても仕方ないから。」


 いつか少しだけいじめてみよう。そんなことを考えていた。


「もうっ。そっちからいろんな話を振ってきたのに。」


 そう言いながらもローザは俺の手を引いて先を歩き出す。ここまでなんの抵抗もなく手を取られたのは初めてだな・・・


************************


「よぉっし、お金、ゲットだぜっ。」


 ローザは玄関から出てくるのと同時に笑顔で右腕を空に向かって突き上げた。右手にはお財布と思われるものを手にしていた。

 一体何がそこまでテンションを上げさせているのか。とにかく『元気だな』なんて思って見ていた。

 それにしても今のセリフ。どこかで聞いたような気もするけれど・・・気のせいだよな。


「わかったから・・・玄関の鍵、ちゃんとかけなよ。誰もいないんだろ?」

「む・・・わかってるわよ。」


 俺の冷ややかな言葉に不服そうな顔をしながらも、きちんと鍵をかけている。


「ところで、わざわざお金を取りに戻ってどこに行くつもりなの?俺、ちょっとしか持ってないけど。」


 そう、俺の財布の中にはおそらく非常事態用の千円札一枚と小銭が少し。そのくらいしか入っていないはずだ。


「そだね、どこ行きたい?君の行きたいところでいいよ。」

「そう言われてもさ。この辺りは最近できた生協くらいしかないし。時間潰せそうなところって言ったらかなり歩くけど西友とか?東急とか?」


 思いつく限りのことを言ってはみたがどれもピンとこないように思う。だって、どこもスーパーマーケーットじゃないかよ。もっとこう・・・気の利いた店とか知らないのか?あ、近くにレストランがあったなぁ・・・しかし、お金がないし・・・


「そうだよねぇ。冬だと公園は入れないし。」


 ローザも顔をしかめながら軽く息を吐いた。

 公共の場所、特に公園は市民の雪捨て場になっていたり、道路の除雪作業で運ばれてきた排雪が大量に捨てられている。これは札幌市に限らず、北海道の町ではだいたい同じ光景だ。それに、あまりに積雪が多いから公園内の一部の通路を除いて除雪などされるわけもない。要するに、冬季間閉鎖ってやつだ。長々と説明したけれど、つまりはそういうことだ。


「うーん。そうなると・・・もう考えられる場所は一つしかないけれど、あんまりオススメはできないというか、土曜日でも開いているかどうか。」


 俺は腕組みをしながら自分の乏しい記憶の中から二人で話せる場所をピックアップして行く。


「え、それってどこ?」

「区民センター。あそこだとロビーが使えるし、小さいけど食堂みたいなとこもあったと思う。でも、どうかなぁ。イマイチかも。」

「だねぇ。そういうとこってあんまり大きな声では話せないし、何と言っても学校のすぐ近くじゃない。」


 そう、それだ。俺はいいけど、ローザが自分らしい姿でいられないんじゃないか?あれ?でもそうなると西友とかも一緒か。あ、イトーヨーカドーっていう手もあるけれど、やっぱ遠いんだよなぁ。

 二人で『参ったなぁ。』と同時に言って頭を抱える。


「・・・仕方がない。気乗りはしないけれど、これしかないか。」


 ローザが悩みに悩み抜いたようにして口を開いた。


「どこ?多少歩いてもいいけど。」

「ここ。」

「ここ?」

「そう、あっさり前言撤回するのも嫌なんだけれどね。時は金なりっていうじゃない?それに、お金の節約にもなるし。」


 えっと、つまりはローザの家ってことか?それはどうなんだ?彼女でもない女の子の家にお邪魔してもいいものなのか?


 え、今さら何言ってんだって?

 今まで何度も女子の家に入ってるじゃないかって?

 いやいや、そんな誤解を招く言い方はやめてくれよ。

 俺は北田さんの家と茜の家、あとは・・・って何を言わせるんだよ。小学生の時に誕生日会で女子の家に行ったくらいのものだぞ。

 ん?それだけあれば上等だって?そうか。わかった。もういい。聞こえない。何も聞こえないぞ。

 いいか?声をかけてきたのはローザだぞ?何かが起こるわけがないじゃないか。何を期待しているのか知らないが、そう簡単に思惑には乗らないからな。


「えっと・・・君は一体、何をブツブツ言ってるのかな?」

「ちょっと俺の中の心の声と会話をしていましたです。女の子の家に入るのは、ちょっとアレなもので。」


 どうした、俺。どうにもいつもの調子で話ができていないみたいだな。


「うーん、そんなに嫌ならもうちょっと考えてみる?」


 ローザは右手を口元に持っていき、『うーん』と小さな声で唸っている。


「お、俺ん家いく?」


 俺は何を言っている。それはおかしいだろー。今の流れからどうしてその言葉が出てくるよ。しかも、俺の家、いや俺の家じゃないけどさ。いや俺の家だけど。あー、そうじゃなくて。マンションだから小さいぞ?いや、マンションはでかいけれど、部屋は小さいぞ?イヤイヤ、狭いの間違いだ。


「え・・・それはちょっと・・・」


 ローザが目を伏せて動揺している。俺も動揺しているから問題ないけれどな。何が問題ないんだ?あ?問題しかないじゃないか。


「うちは、部屋も余ってるし、客間とかあるから。」


 そうなんだよ。ローザの家、おっきいんだよ。翔の家ほどではないけれどさ、それでも結構立派な家なんだよな。


「えと・・・ごめん、俺、自分が何言ってんだかよくわかんなくなってきた。」

「あはは、そんな緊張しなくていいよ。誰もいないし。」


 だから緊張するんだろーが。若干トラウマ気味なんだよ。


「じゃ、じゃぁ、ちょっとだけ・・・」

「うん、いいよ。君なら。」


 ローザはくるっと体の向きを変えて、閉めたばかりの玄関の鍵を開けている。その後ろ姿は何か少し、ウキウキしているように感じられたのは気のせいだったのだろうか。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


ローザと話している時の夕人はペースを乱されているみたいですね。

いつも平静を装っている夕人がギリギリな感じです。

それにしても、ローザの積極性はウザさや怖さを感じないです。

さすが姐さんっていう感じでしょうか。

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