国生さゆりwithおニャン子クラブ
有名なユニットです。
代表曲は・・・この時期になればどこのお店でもかかっている曲。
そう、「バレンタインデー・キッス」です。
「えっと、そっか。まぁいいや。うん、いろいろ話したしな。なんか話すぎたような気もするけれどな。っと、そろそろ教室に戻らないか?もう、ここでするような話はないだろう?」
俺は環菜に笑顔を向けた。
今の俺にこれ以上は聞かないでほしい。もう一度同じことを話せって言われても絶対に無理だしな。
「そうだね。うん、ありがとう。」
その時の環菜の顔は、さっきまでとはまた違う意味で俺が知っている環菜の顔ではなかったような気がした。でも、やっぱり何が違うのかはよくわからない。一つだけわかるのは、以前よりもずっといい表情をしてるってことだけだった。
「さ、行こう。」
「あ、待って。これ、バレンタインのチョコ。本当はね?もっと早くに渡したかったんだけど、どうにもタイミングが掴めなくてこんなに遅くなっちゃった。ごめんね。」
満面の笑みでチョコを渡してきた環菜だった。
「あ、マジかー。ありがとう。実はさ、チョコの数が足草に負けたってなって、あいつにバカにされたんだよな。」
俺は思わずホッとして軽口を叩いてしまった。
「そっかぁ。もっと早く渡せればよかったね。そうしたら足草くんになんか負けなかったのに。でも、変ねぇ・・・夕人くんだったらもっといっぱい貰えそうな気がするんだけれど。」
環菜が嬉しいことを言ってくれる。でも現実はこんなもんだ。
「んなことはないよ。去年も貰えたのは環菜からのチョコくらいだったしな。」
「え?そうなの?小町ちゃんは?」
どうしてそこで小町の名前が出てくるんだ?小町と知り合ったのは二年生になってからじゃないのか?俺は一年生の夏に出会ったんだけれどな。あの傑作な出会い。いつ思い出しても笑える出会いだった。
「ん・・・どうだったかなぁ。」
俺は適当にごまかしていたんだけれど、それこそ今さらと言う感しかない。
「あ、ってことは今年はやっぱり貰ったんでしょ。」
環菜がニッコリと笑いながら聞いてくる。
「ん、あぁ、貰った。」
俺はなんて言っていいのかわからなかったけれど、隠すのもおかしなことだと思ってそう答えた。
「うん、そうだよね。あ、じゃ、もう戻らないと。きっと夕人くんのことを待ってる女の子がいるよ?」
環菜はそう言って音楽室から出るように促してくる。なんだか急に変わったな、環菜。
「待ってるやつはいねぇって。翔もいないしさ。」
「さーて、それはどうかしらね。」
音楽室から出た俺たちは適当に雑談をしながら教室に戻った。
廊下の少しだけひんやりとした空気が気持ちいいと思った。
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教室の中からは女子たちの楽しそうな話し声が聞こえてくる。
小町に実花ちゃんと茜、それになっちゃんがいて雑談をしていた。他にも何人かの女子が残っていて、チョコをあげてどうだとか、こうだとか。そんな話が聞こえてくる。なんだか、恐ろしく男子が入りにくい空間を形成している。とはいえ・・・カバンは教室にあるから入らざるを得ないところが厳しいところだ。
あれ?茜は家に帰ったんじゃないのか?たしか、さっきはそう言っていたような記憶があるんだけれど・・・
「あ〜、やっと帰ってきた。」
教室の入り口に差し掛かったところで実花ちゃんが大声をあげる。まるで、翔を発見した時並みの大声だったから正直に言って驚いた。思わず後ずさりしてしまう。
「あ、あぁ、帰ってきたっていうか、戻ってきたけどさ。」
「ただいま、みんな。」
環菜は教室に入ると同時に女子たちの輪に加わっていった。う〜む、なんか俺は邪魔みたいだな。俺はくるりとその場で向きを変え、教室から出て行こうとした。
「ちょっと〜、どこ行くつもりなのよ。み〜んな夕人のこと待ってたんだよ?」
再び実花ちゃんが大きな声をあげて俺を呼び止めてきた。
「は?俺?」
呼び止められ、教室の入り口あたりで右往左往する俺。
「そうそう、待ってたんだからね。」
なっちゃんがそう言って立ち上がり俺の方に歩いてくる。
「俺のことを待ってた?」
こんなにたくさんの女子が?なんか、嬉しいような怖いような・・・
「はい、チョコあげるね。」
そう笑顔で俺に手渡してきたのはちょっと大きめの箱。え?これがチョコ?って思ってしまうほどに大きい。
「ありがとう・・・なんか、でかくない?」
重さはそれほどないけれど、とにかく大きい。ちょうど観光地に売っているご当地ポッキーの箱くらいの大きさがあるぞ?どうやって持ってきたんだ、こんな大きさのものっ。
「ほら、きっと他の女子は手作りとかだと思ったから、大きさで勝負よ。」
そう言って俺の目の前にブイサインを出した。
「お、おう・・・確かに大きくて驚いた。ありがとうね。」
「ヤッタァ。いいね、インパクト作戦成功っ。」
茜が手を叩いて喜んでいるけれど、なんなんだぁ?この雰囲気は。
「あ、あたしは普通のチョコね。もちろん、翔のよりしょっぱいやつだけどね。」
なっちゃんの横から実花ちゃんがチョコを手渡してくれる。普通のチョコであっても嬉しいことには変わりないよな。
「ありがと、実花ちゃん。嬉しいよ。今日は翔が休みで残念だったな。」
「いやいや〜、あいつが休みだったおかげで楽だったよぉ。」
「楽?」
どういうことだ?ちょっと何を言っているのかわからない。
「ほら、ファンクラブの奴らが押し寄せてくるからね。その処理がもう、大変で大変で。」
フゥッと大きく息を吐いて肩をすくめた。
「まぁ、あいつはモテるからなぁ。」
「そうそう、そんなのを彼氏に持った私は、すっごく苦労しますわ。」
なんだそりゃ、自慢か?自慢なのか?いや、確実に自慢だな。そうは言ってもある意味でどうでもいいことだけれど、俺にはな。
「ほほぅ。実花ちゃん。なかなかに調子に乗ってませんかね?」
なっちゃんが右手をポンと実花ちゃんの方に乗せた。
「え〜、だってぇ〜、本当のことだしぃ?」
おうおう。それは火に油を注ぐことになる発言じゃないのか?大丈夫か?
「言ってくれるじゃない?」
なっちゃんはそのまま左手も肩に乗せた。
「あはは、面白い面白い。」
茜がまたも手を叩きながら笑っている。なんだかなぁ。
「ふ〜んだ、悔しかったらグッドな彼氏でも作ってみなさいよ。」
実花ちゃんはなっちゃんの手を振り払うこともせずに腕組みをしながら高笑いをし始めた。怖い、怖すぎるぞ。実花ちゃんっ。
「言ったわねぇ・・・」
なっちゃんの怒りゲージがぐんぐん上昇していっているのが目に見えるようだ。
「えぇ、言いましたとも、言いましたとも。」
「むむむ・・・」
二人が意味不明なことでヒートアップしている。しかも、俺にはどうしようもないぞ。
「やれやれ。ま、二人には好きなようにやらせとこうよ、ね、バカ夕人。」
小町がいつの間にか俺の近くに来て笑顔で話しかけてきた。
「あ、うん。俺には何もできないからな。」
「で、はい、これ。あげる。」
そう言って何かを手渡してくる。あれ?これって?
「え?小町からはもう・・・」
「だからっ。もう、失敗したやつも欲しいって言ったじゃない。い、一応持って来てたんだよ。茜と食べようかなって思ってたからさ。」
プイッと顔を俺から背けてさっさと茜のところに戻って行った。そして茜に頭を撫でられている。ちょっと・・・俺、どうしたらいいんだ?
俺の目の前では実花ちゃんとなっちゃんが何やら激しく言い合いをしているし、向こうでは小町が何かを言いながら茜に掴みかかっている。まぁ、二人とも笑顔だから向こうは放っておいても平気なんだろう。環菜も二人の様子を見て笑顔を浮かべている。
俺はどうしたらいいんだ?だいたい俺の机の上には茜が座っているからカバンをとってトンズラってわけにもいかない。
「なんかすごいことになってるね・・・竹中くん。」
「あぁ、全くだよ。」
少し離れたところにいた同じクラスの女子たちが声をかけて来た。俺はハァーッと深いため息をつき、そう答えることしかできなかった。
「あー、ここにいたのか。探したんだぞ?」
この声は・・・ローザか。俺を探していたって?確かについさっきまでは行方不明みたいなもんだっただろうけれどさ。
「本当はそんなには探してないけれどね。」
そしてこの声は村雨先輩か。なんだろう。事態が好転する気配を感じない。むしろ悪化していくような気がしてならない。
「まぁ、そう言うなって。要は気分の問題でしょ?」
「そうね。こういうのは気分とか、雰囲気とか、流れとかが大事よね。」
二人セットで現れるとすごいな。俺の突っ込むタイミングがない。
「・・・で、何の用です?」
俺は振り返りもせずに声をかけた。何と言っても二人の登場で教室中が静まり返ったのだから。
「何の用って、そりゃ決まってんだろ?な?窓花。」
「そうそう。はいこれ。バレンタイデーのチョコですよー。」
村雨先輩が俺を強引に振り返らせて手渡してくる。ちょっと可愛らしい包装紙に包まれたものを手渡してきた。
「ちょっと、夕人くん?何それ、ちょっとチョコ、貰いすぎなんじゃないの?」
なっちゃんが実花ちゃんを押しのけてやってくる。えっと、なっちゃんってこんな感じの人だっけ?いや、確かにパワフルな女の子だよ?なんていうか攻撃力・・・もとい、行動力のある子だしさ。
「そ、そう言われてもさ・・・」
「確かにね。ちょっともらいすぎかもしれないね。」
茜が俺の机の上に座ったまま足を組み、笑顔を浮かべてそう言った。
「バカ夕人、調子に乗ってるね。」
小町まで冷たい目で見てくる。
「まぁまぁ、夕人くんは受け取っただけだからね?」
環菜が珍しく俺の援護をしてくれたけれど、多勢に無勢ってところか。
「アッハッハ、竹中は人気者だなぁ。」
ローザが大声で笑いながら俺の肩をバシバシと叩いてきた。
「イタタ、ちょ・・・力、強すぎだって、先輩。」
「ん?そっか?なんだぁ、思っていたよりも弱っちいなぁ。」
ローザは思いっきり笑っている。えっと、ここまで演技ってできるものなのか?あの可愛らしいローザとこのローザが同一人物とは到底思えないのだけれど。
「弱くはないけど、痛いものは痛いんだよ。」
ローザの顔を見ながら文句を口にした。ローザは口パクで何かを言っているように見える。なんだ?なんて言ってるんだ?・・・あ・・・と・・・で・・・ね・・・?もう意味がわからんぞ。
「じゃ、そういうことで。用事は済んだんで消えるよ、またな、後輩どもっ。」
ローザは右手をシュタッとあげて教室を出ていく。村雨先輩もそのあとをついて帰っていった。
「なんだかさ、嵐みたいな二人だよな。ははは。」
笑いながら振り向いたとき、女子たちの冷たい目線の集中砲火を浴びた。
「夕人くん。この際だから色々聞きたいんだけど。」
なっちゃんが強い口調で問いかけてきた。なんだ?何を聞こうとしているんだ?
「そうね。私も聞いておきたいかも。」
小町もグイッと迫ってくる。小さいのになんて迫力だよ。
「な、何をかな?はは・・・」
俺は一歩だけ後ろに下がった。
「はーい、そこまで。みんないい加減に落ち着こっか。」
実花ちゃんはパンパンと手を叩いてなっちゃんと小町の動きを止めようとする。
「そうそう。そんなに熱くなってどうするの?あの先輩たちのことはよく知ってるでしょう?しかも今日はバレンタインなんだから。チョコもらっちゃうのは仕方ないと思うよ?小町ちゃんもなっちゃんも、二人ともチョコをあげたんだし。」
茜が机から立ち上がって小町の頭を撫でながらなっちゃんの肩をポンと軽く叩いた。
「夕人くん。チョコいっぱいもらえてよかったね。」
環菜がほとんど笑顔を浮かべずにそう言った。しかも、棒読みで。
「か、環菜ちゃん・・・?」
茜がぎこちない笑みを浮かべながらゆっくりと環菜の方に向き直った。
「さぁさぁ、そろそろ解散しましょう。一応みんな目的は達成したんでしょう?」
実花ちゃんがなんとかこの場を収拾しようとしてくれる。
「そうだね。帰ろっか。」
茜が一早く実花ちゃんの言葉に乗るようにして、小町の肩を抱くようにして連れていった。
「茜、私はまだ話があるんだけどっ。」
小町が茜に駄々をこねるようにして騒いでいる。その様子はもはや姉妹のようだ。
「いいから。今日はやめとこう?ね?」
茜の言葉を聞いて、小町がおとなしく頷いた。
「私たちも帰ろっか。」
環菜がなっちゃんに声をかける。
「・・・そだね。おんなじマンションだし。一緒に帰ろっか。」
環菜となっちゃんも俺の周りから離れていった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
いやぁ、前の章とは対照的なくらいに色々な人が登場しましたね。
それにしても、実花ちゃんのリーダーっぷりがいい感じですね。
茜ともまだ違う感じです。
これで、バレンタインイベントは終わり?
いえいえ、もう少し続きます。




