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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第23章 男たちの聖戦
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あなただけ見つめてる

重たいタイトルで始まります。

 違うの。

 私は夕人くんとこんな話をしたくてここに来てもらったんじゃない。ただ、前みたいにいろんなお話がしたかっただけなのに。

 どうしてこんなにすれ違っちゃうの?前まではもっと自然に、すごく自然にお話できていたのに。今はもう、全然お話すらできないの?


 私は夕人くんのことが好き。

 もっと私のことを見て欲しいだけなのに。

 どうやったら茜や小町ちゃんみたいに自然に話ができるの?

 考えたらすごく悲しくなってくる。

 私が悪いってことはわかってる。でも、私もどうしたらいいのかわからないんだもん。

 ダメ。わからない。


 私にとっての夕人くんは、本当に遠い世界の存在だった。

 あの日、まだ出会ってもいなかった私を助けてくれた夕人くん。

 あの時のことは、今でもはっきりと思い出せるよ。

 そして、実花ちゃんたちと遊びに行ったこと。思えばあの頃が一番楽しかった。


 でも、夕人くん自身はそこにいるのに、本当はそこにいないような感じの人だった。

 そして私のことは見てくれてはいない。そう思った。

 

 それからしばらくして、東山さんとどんどん仲良くなっていって、私は委員会のことで一緒に話すくらい。今じゃその委員会すら一緒じゃない。今の夕人くんは生徒会の副会長さん。もっと、ずっと私の手の届かないところに行ってしまった気がする。

 だから、今の夕人くんはあの頃よりもずっと、ずっと遠い存在になってしまった。


 こんなに近くに居るのに。不思議ね。


 そういえば、以前に夕人くん言われた言葉。『私の考えていることがわからない』って言葉。すごくショックだった。でもね、それはね、私も一緒なんだよ。私だって夕人くんのことがわからないよ。


「・・・ごめんなさい。」

「別に謝って欲しいわけじゃないさ。俺は理由を聞いただけだ。」


 そうだよね。夕人くんは怒っているわけじゃない。理由を聞いているの。私がとった行動の理由を。


「聞きたかったの。夕人くんにとってあの人はどんな人だったのか。夕人くんはどんな人のことが好きなのか。だって、私・・・」

「やめてくれよ。」


 やっぱり。

 今でも最後までは私の言葉を聞いてくれない。これじゃあの時と一緒よ。

 私はね、あなたが好きだって言ってくれる女の子になりたい。

 あたなに好かれる女の子になりたいだけなのに。それすら許されないの?


「なぁ、環菜。俺、思うんだけどさ。」


 夕人くんが何かを話してくれようとしている。だから私はちゃんと聞かなきゃいけない。

 夕人くんの話、言葉、行動。そこからきちんと考えるんだ、もう一回初めから。もちろん、初めからやり直せるなんてことは思っていない。だけど、ここから始めることはできるよね。


「うん。」


 そんな私の返事を聞いて、それから夕人くんはゆっくりと話し始めた。

 きっと、夕人くんだって色々考えて言葉にしているんだ。彼だってなんでもできるわけじゃない。なんでもわかるわけじゃない。それでも一生懸命考えてくれる。例え、私のくだらない行動が原因だったとしても。


「人ってさ。本当に色々あると思うんだ。例えばさ。俺は翔みたいに頭が良くなりたいと思うことがよくある。はっきり言って羨ましい。いや、妬ましいとまで思ったこともあるよ。はっきり言うとさ。でもさ、俺がどんなに頑張っても翔にはなれない。俺さ、こう言うのもなんだけれどテストの点数は取れている。翔とそう大して点数は違いはない。でも、だからって翔と同じ考えができるというわけじゃない。翔と同じような事ができるわけじゃない。それに、そうだなぁ。小町と茜。あの二人は仲がいいけれど、でもそっくりってわけじゃない。もちろん体格とかのことじゃないぞ?性格的なものさ。小町は・・・なんていうかさ、素直なっていうか、まぁそういう感じだろう?でも茜はどこか大人っぽくて、いい意味でも悪い意味でも本当の気持ちっていうのは見えない。もちろん、全部が全部ってわけじゃないし、本当の気持ちが見えすぎることもどうなんだろうとは思うよ。って俺は何を言いたいんだ?よくわからなくなってきたぞ?」

「ううん、お願い続けて。」


 夕人くんの考え方。きっと今を逃したらもう二度と聞けないと思う。

 だから、私に全て聞かせて欲しい。


「あぁ、悪いな。うまく整理できないからぐちゃぐちゃな言い方になっちゃうと思うけど。だいたいさ、今の俺はこんな風に思っているけれど、一年後の俺が同じことを考えているかすらわからないんだ。自分自身のことなのに。だってさ、一年くらい前の俺はこんなことは考えていなかったと思う。人は変わっていく。絶対に変わっていくんだ。変わらないといけないところがあると思うんだよ。でもね、変わらないところ、いや変われないって言ったほうがいいのかもしれないけれど、そういうのもあると思うんだ。それはさ、本当の性格だと思うんだ。どんなに大人になったとしても、その根底にある部分は変わらないと思うんだよね。そりゃ、尖っていた性格が丸くなったりするとは思うよ。でもそれは角が取れたんじゃなくて、角が目立たなくなったんだと思う。だから・・・えっと環菜だって変わらない部分があると思うんだ。それがなんなのか俺にはわからないよ。でもさ、その部分まで変えようとしたってダメだと思うんだ。それで、だ・・・話の本題なんだけれど・・・長くなっちゃったな・・・」


 夕人くんは色々と身振り手振りを交えながら一生懸命に話してくれている。

 それはきっと、私のためじゃないのだろうけれど。

 夕人くん自身のためなのかもしれないけれど。

 だとしても、私は彼の言葉をしっかりと聞きたい。

 そして、変えられるものなら・・・変えたい。

 彼の言葉とは矛盾していたとしても。


「ううん。お願い。」


 私の言葉に彼はただ頷いた。いつものクセで右手で頭を軽く掻きながら。


「・・・確かに、俺は東山さんのことが好きだった。」


 それだけ言って言葉を切った。でも、今私がここで口を挟むべきではないと直感的に思った。それが正しいのかはわからない。けれど、なんとなくだけどそう思ったの。


「・・・いや。そうか。そうだったんだな。」


 夕人くんの中で一つの答えが出た。そんな感じがした。

 そして、その答えを聞きたいと思う私と、聞きたくないと思う私がいたのは私のわがままなのかな。


「うん、俺は今でも東山さんが好きなんだ。あの子の優しいところ、話し方や仕草。そういうところが好きだった。とってもね。でも、それはさ、思い出っていうやつさ。彼女は俺にとってすごく大切な存在だった。そういうことなんだ。でも、今はいない。だからと言って嫌いになれるわけがない。なるほど・・・俺は・・・あの子の代わりになってくれる子を探していたんだな。」


 そう言って夕人くんはどうしてか一人笑みを浮かべて笑い出した。


「・・・」

「まさか、翔の言った通りだったとはな。さすがだよ、あいつはさ。」


 男の子同士の話っていうものなのかな。

 私が知っている男の子たちとはちょっと違う二人の話。そんな二人だから一緒にいることができて成長できてるってことなのかな。

 だとしたら・・・私は一年生の頃から何一つ成長していないのかもしれない。


 だって・・・私にはこんなことを話せる相手は・・・


「あぁ、ごめん。なんか変なこと話しちゃったな。とにかくさ。みんな何かしらの理想っていうのかあって、それを追いかけてると思うんだ。それは夢だったり、好きな人だったり。それこそ色々だと思うんだよな。でも、人は変わらないし、追いかけるものは本当に千差万別だと思う。その考え方も見た目の姿も。だからさ、環菜は環菜なんだよ。俺が俺であるようにさ。だから、俺の好きだった東山さんがどんな子だったのか、なんてことを俺の口から聞いたってさ、仕方がないんだよ。環菜は東山さんにはなれないし、そのまた逆も然りなんだ。そう、俺が翔のようになれないように。」


 とっても長く、ゆっくりと、一言一言をしっかり考えて私に話してくれた。

 そう。これが夕人くんの答えなんだろう。

 私にはわかることと、わからないこととが両方あった言葉だったけれど。でも、私は変われる、いえ、変えられるのなら変わりたいと思う。理想となれる女の子に。

 でも、そんなことはできないんだってあなたは言った。それはつまり、私が私である限り私のことは見てくれない。そういうことなの?


「ねぇ、一つ答えて。」


「いいけど。でも、聞かれた内容によるけどな、答えられるかどうかは。」


 それはそうだよね。私の聞き方はいつもズルイ。そして小賢しい。我ながら本当にそう思う。質問の内容も言わないで答えの確約だけ求めるだなんて、愚の骨頂だとしか言いようがないよね。


「私のことをどう思ってるのか聞かせて。」


 私の言葉に夕人くんは言葉を失った。


「それって・・・」


 夕人くんが怪訝な表情を浮かべて私を見ている。


「ごめんなさい。やっぱり、いいです。答えなくて。」


 私はその場の勢いに任せて何を聞こうとしたんだろう。


「あー、あのさ。環菜っていう子はさ。俺が思うに、っていう感じだけど。色々と考えてる女の子なんだと思う。でも、その考えは自分の中でぐるぐる回っている感じで、一人で答えを見つけようと頑張ってる。それに、何かに向かって頑張れる女の子なんじゃないかなと思ってる。それが何なのかは俺にはわからないけどな。でも、それは環菜が一番よくわかってるはずだろう?で、はっきりいうと、難しい女の子だと思う。ま、女の子なんてみんな難しいんだけどな。妹の小夜のことすらよくわかんないしなぁ。」


 そっか。

 夕人くんにとっての私ってそんな感じなんだね。

 でも、確かに夕人くんの言う通りかもしれない。

 だって、私は自分自身に自信が無いの。

 何一つ誇れるものがないの。

 大好きな音楽のことも、勉強も、この容姿も。そして、性格も。


 もちろん、誰にも負けないって意味での誇れることがある人なんてなかなかいないのだろうけれど、それにしても・・・私には何もない。


「あのさ、環菜から見た俺ってどんなやつなんだ?」


 夕人くんが両手を弄びながら聞いてきた。私はなんて答えたらいいんだろう。好きだって素直に言ってもいいの?でも、それは聞かれていることは違うよね。


「夕人くんはね。とっても強い人。精神的に強いとかそういうのは私にはよくわからない。だから、私が言えることはね、他人を思いやることができるという意味での強い人。だって、強くなければ人には優しくなれないと思うから。でもね、ちょっと意地悪な人。みんなに優しくて、そして厳しい。」


 夕人くんは私の顔を見ながら聞いてくれていた。

 私の思っていることが少しでも伝わることを信じて、そして話した。


「うーん、そっかぁ。俺ってそんな感じなんだなぁ。ありがとう。よくわかった。」


 そう言って笑顔を浮かべた。

 その笑顔は少しぎこちないような気がしたけれど、夕人くんは私の気持ち、考え方を受け止めてくれているように見える。


「うん、ごめんなさい。変な話ばっかりして。でも、東山さんのことも少しわかったような気がする。でも、だからってそれを知っても仕方がないってこともわかった。」


 そう。私も東山さんを追いかけていたのかもしれない。

 ううん、もしかしたら東山さん自身ではなくて、私自身が作り出した東山さんと言う虚像だったのかもしれない。

 だとしたら、私にできることはとても簡単だ。一生懸命に行動するだけ。もっと自分自身をきちんと磨いていくこと。

 私が思い描く理想の女の子になるために。

 そして、いつの日にか、夕人くんが私を見てくれるようになるために。


「あ、そっか。そう言うことになるのか。うーん、参ったなぁ・・・って、なんでこんな話してたんだっけ?」


 夕人くんは両腕を組みながら首を傾げている。

 忘れてくれていいよ。今までのことは。でも、これからのことは覚えていて。私、やっとわかったから。だから、これからの私を見て。そして・・・


「えっとね。私が話をしたいって言ったから。何の話がしたかったってわけじゃないの。ほんとはね。」


 私は、自然に・・・ごく自然に微笑むことができた。


 そう、本当はただ夕人くんとお話がしたかっただけ。それだけだった。それなのに何かの理由をつけて話をしようとしていた。


 でも、それが良くなかったんだって、今ならわかるよ。

 ありがとう、夕人くん。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


環菜の視点から物語を進めました。

彼女の考えがよくわかる人、わかるけれどわかりたくない人、わからない人。

いろんな考えの方がいるはずです。

でも、それでいいんです。

これは環菜の考え方です。

夕人が言うように、みんな違うんですから。


でも、だからそこに惹かれて、憧れて。

そう思うんです。

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