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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第3章 今でも・・・
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伝わらないお互いの気持ち

前回は杉田の家でグループの全員が集まりました。

それぞれの個性が出ていたとは思います。

それにしてもちゃんと勉強会は出来たのでしょうか。

友達が集まると遊んでしまうのが基本ではないかと思いますが。


さて、今回は夕人と環菜の二人での話です。

この二人の組み合わせで明るい話になるのでしょうか。

「・・・さて。みんないなくなったけど?」

「うん。ちょっと、こっち。ついてきてくれる?」

「いいけど。どこ行くんだよ?」

「すぐそこに公園あるから。そこに行こう?」


 案内されたのは本当に小さな公園。


「へぇ、こんなところに公園あったんだね。」

「うん、そうだよ。知らなかった?」

「知らなかったよ。」


 玉置さんが公園の中に入っていく。公園と言っても小さな公園だ。名前なんかあるのかな?ブランコの他に遊具が二、三個あるだけの公園だ。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・あのね?」


 玉置さんがブランコに座りながら話しかけてくる。


「なに?」


 俺もブランコの柵に腰を下ろす。


「この前話したこと、覚えてる?」

「この前って、いつのことだよ。」


 たぶん、あの時のことだ。生徒総会の準備で居残りをしたあの時。わかっていてごまかした。


「わかってるんでしょ?夕人くんはごまかすの上手いからね。」

「やっぱり、その話なのか。」


 夕人くんって呼ばれるのは、やっぱりこそばゆい。


「そうだよ。他に誰かに聞かれたらマズい話、あると思った?」


 玉置さんはブランコを軽く漕ぎながら笑顔でいう。


「そうだね。ないかな。」

「うん。無いよ。・・・今はね。」

「それで、どんな話?玉置さん。」

「あれ?私のことは環菜って呼んでくれないの?」


 玉置さんは笑顔で聞いてくる。こういう時の玉置さんには勝てないんだよなぁ本当に。でも、いきなりそう呼べって言われてもなかなかできるもんじゃないだろ?


「え・・と、じゃあ、何の話?・・・環菜・・・。」

「なんか、ギリギリな感じだね。」


 笑いながらそう返されると困る。


「だって、なんか難しいって、急にはさ。」

「・・・そうだよね。そりゃ、そっか。」

「そうだよ。で、何の話なの?」

「・・・あの時、私には話してくれたよね。でも、たぶん、みんなには話してないでしょう?」

「話してないよ。どう話していいかわからないし。」

「椎名先輩と村雨先輩のことも?」

「話してない。あの先輩たちの話をしたら、必然的に川井さんの話にもなっちゃうだろう?どう話すんだよ。」


 そう。それが問題なんだよ。だから、みんなには話しにくいんだ。


「そうなんだよね。そこなんだよね。」

「いいんじゃないかな。話さなくても。」


 なんとなく、最近は椎名先輩たちの話題にはならないからこのままでもいいと思ってた。


「ううん、良くないと思う。」

「なんで?もう、意味不明にあの二人が来ることないし、解決したことじゃないか。」

「それは、夕人くんと私だけでしょ?他のみんなも心配してるんだよ?」


 そう言われてみれば当たり前のことだ。なんでそこに気が付かなかったんだろう。


「そりゃ、そうだね。」

「だから、みんなにも話しておこうよ。」

「だけど、なんて話したらいい?」

「そう、それのこと。で、私ね?考えてみたんだ。」

「そうなの?」

「うん、だから、聞いて。」


 玉置さんはブランコから降りて、俺の右横に座ってきた。


「あのね。こういったらいいと思うの。あの二人は、夕人くんが陰で悪口を言ってたって誤解してたの。それでついカッとなってあんなことをしたの。でも、ちゃんと話をする機会があってその時に誤解が解けたっていう感じ。どうかな?」


 俺の横に座ってじっと顔を見つめながらゆっくりと説明してくる玉置さん。どうかなって言われても、どうなんだろう。


「これなら、あの川井さんの話も出ないし、二人の話もしなくていいと思うんだよね。」

「そうかもね。」


 でも、いいのか?そんな中途半端な話で。


「なんなら、私からみんなに伝えてもいいよ?」

「そっか。いや、それはどうかなぁ。」


 どうせいうなら自分で言うべきだと思うんだよなぁ。


「みんなも解決したって聞いたら安心するから大丈夫だよ。」

「そうかなぁ・・・」

「そのあたりは大丈夫。私が保証するよ。」

「なんで?そんなにはっきり言えるの?」

「えっと、それは・・・ね。」

「うん。」

「ごめん。今日、その話、もうしちゃった。」

「はぁ?」


 なんで、そんなこと勝手にやってるんだよ。


「今日さ、夕人くんの合流、少し遅かったでしょ?その時にさっきの内容で話しちゃった。」

「なんで、勝手に?」

「夕人くんが来る前にそう話になっちゃったの。それで、小町ちゃんとかすごく心配してて。それで、私だけ知ってるのはなんか不公平な感じで。だけど、そのままは伝えられないから・・・。だから、ちょっとだけ話を変えて、わたしも昨日聞いたんだってことにしたの。ごめん。」


 なんてことだよ。もう、伝えちゃったんじゃないか。事後報告だよ。けど、これはみんなに伝えなかった俺が悪い。きっと、みんなも俺に直接は聞きにくかったから、俺がいない時になんとなく話したんだろうし。そうだとしたら、答えは一つしかないよな。


「そっか、ごめん。ありがとう。俺の代わりにいろいろ考えてくれて。」

「ううん、いいの。だって、こうなっちゃったのって私が原因だから。」


 やっぱり、そう思ってるのか。


「あれは、玉置さん・・・じゃない。えっと、環菜のせいじゃないだろう。馬鹿な先輩が一方的にしてきたことだろう?環菜が気にすることじゃないよ。それにさ、こういう言い方はヒドイかもしれないけど、俺はあの時、環菜のことを知らなかったからな。助けようとしてやったんじゃない。あの時一番近くに、本当に偶然近くにいた俺に一番火の粉が飛んできたんだよ。だから、それを振り払っただけだよ。だからさ。そんなに気にするなよ、もう。」

「そうかもしれないけど、でも、私はすごく嬉しかったんだもん。」


 俺をしっかり見ながら話を聞いていた玉置さんが、急に泣き出してしまった。


「な、なんだよ。泣くなよ。もう一年以上前のことだぞ?」

「だって、すごく怖かったんだよ。あの先輩が教室に入ってきたとき、あの怒鳴り声を聞いて、もう、体が動かなかった。本当に怖くて。誰か助けてって思ってた。でも、そんなときに限って先生は来ないし・・・。もうダメだって思った。でも、その時、夕人くんは・・・。立ち上がってくれたよね。本当に驚いた。こんな人がいるのかって思った。あの時から夕人くんは、私のヒーローなんだよ。」


 俺の右肩のあたりをギュッと掴みながら、さらに続ける。


「だから、俺は、ヒーローなんかじゃないって。」

「そんなことないよっ。まだあるの。あの時は確かにあれで一旦は収まったよ?でも、あの人が卒業するまで一年間、また、何かされるんじゃないかって。毎日怯えていたの。でも、夕人くんはそんな私に優しくしてくれたじゃない。覚えてる?移動教室の時に三年生がいる四階に移動しなきゃいけなかったときなんだけど。」


 俺の右肩に、顔を押し付けてくる。


「ん、いや、もう、いいよ。そんなことわざわざ言わなくても。」

「ううん、言わせて、お願い。その時も夕人くんは優しかった。四階に移動するのを怖がってた私の手を取って、『大丈夫。もうあんなことにならないから。俺と一緒に行こうよ。』って連れて行ってくれた。」


 こんな彼女の姿は見たことがない。


「もう、いいって。」

「それから、こんなこともあったの。あの後、みんな私のことを怖がって話してくれなかったの。次の日、夕人くんが休んじゃった日。あの日、私は誰にも話しかけられなかったの。話しかけてもみんなよそよそしくて。すぐ逃げて行っちゃった。その次の日もだよ?夕人くんしか話しかけてくれなかったの。今でこそ、友達はいっぱいできたけど、それだって夕人くんのおかげたから。」

「そうだったんだ・・・大変だったんだね。ごめん、俺もそこまでは気が付いてなかったよ。」

「ううん、いいの。ごめん、こんなこと言うつもりはなかったの。でも、あの時のことが、今になって私たちにかかわってくるなんて思わなかったから・・・。」


 俺の肩から彼女の重さが消えた。


「だから、もういいって。俺のことは大丈夫。環菜にだって、今更、何かあるってことはないと思うよ。たぶん、俺とあまり一緒にいなければね。」

「大丈夫。わたしはもう大丈夫。だから、私は夕人くんのためになりたいの。今度は私の番。あなたが困ってるときは、私ができることならっ。どんなことだってするからっ。」

「・・・ありがとう。でも、そんな決意は要らないよ。それは、環菜を苦しめる要因が、川井さんから俺に変わっただけのことになる。だから、ちゃんと友達・・になろうよ。そういう、貸し借りとか無しでさ。」

「でも、それじゃ、夕人くんに申し訳ない・・・。私はあなたの中学生活を変えてしまった張本人なのよ?それに、あの時だって・・・」

「だからっ、もうそんなこと言うなっ。あれは、俺が決めて行動した結果だ。最善の行動じゃなかったのは分かってる。けど、それでも、あの時はそれが最良だと思って行動したんだ。だから、その結果で降りかかる問題は、すべて俺の問題だ。そういうものだよ。」

「うん、ありがとう。でも、ごめんなさい。」


 泣き顔だけど笑顔で言われた。


「もう・・・いいから。」


 玉置さんの肩に手をかけて軽く叩く。『もう、気にしなくていいから。』と言って。彼女は何度も『ごめんなさい』と言った。どんなに、大人びて見えたって彼女も中学校二年生なんだ。改めてそう思った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


これで短いですが第3章は終わりになります。


夕人と環菜の久しぶりの本音トークだったのではないでしょうか。

明るい話にならないのはひとえに作者である私の至らなさでございます。

と言っても、第一部でのアレもありますし。

明るい話が展開できるようになれば良いのですが。


次の章からはまた、新たな展開になっていきます。

一難去ってまた一難。

そんな展開になるのでしょうか。

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