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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第17章 真実はいろいろあるかもしれないが事実はいつも一つだ
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無理して来なくてもいいのよ?

選挙後、その3です。

 翔と夕人が日高さんと話していた時。誰にも気づかれないように夕人たちのことを見ていた人物がいた。その人物とはもちろん環菜だ。


「茜とは昨日話した。大丈夫。私は・・・もう一度やり直せる。だって・・・そう決めたんだから。」


 そう・・・決めたのに。どうして話しかけることができないんだろう。だって、話しかけなかったら、ずっとこのままになっちゃう。そんなのはイヤだ。独りぼっちになりたくない。茜と小町ちゃんと・・・夕人くんと話したい。それなのにどうして・・・


「どうしよう・・・前までだったら普通に話しかけられたのに・・・」


 私、考えすぎなのかなぁ。でも、ちゃんと考えないで行動したらあとで後悔しちゃう。でも、今話しかけないと・・・きっとそれも後悔しちゃう。


「茜・・・助けて・・・」


 そう呟き、その場にいられなくなり立ち去ろうとする。


「環菜?何やってるんだよ。こっちに来いよ。」


 二人で肩を組みながら歩いてくる二人。彼らはいつも二人でいるわけではない。けど、あんなに仲が良い。それは私にとって憧れの関係でもあったし、私が夕人くんに惹かれる理由の一つ。そして今、私に何気なく声をかけてくれたのはやっぱり夕人くん。私のことをどう思っているのかは分からない。でも、今の一言で一つだけわかった。


『茜が言ってたことは本当だった。』


 私のことを心配してくれてる。嬉しい。ありがとう、夕人くん。そして今までごめんなさい。私、もっと素直になってみる。


「夕人くん、おめでとう。」


 久しぶりに笑ったような気がする。笑うってこんなにも気持ちのいいことだったなんて。初めて知った。


「よし、環菜も戻ったことだし、みんなのところに戻ろうか。」


 そう言って夕人くんが手を差し出してくれる。




「あー、環菜ちゃん。やっと来たんだね。」


 茜が笑顔で環菜に飛びつく。


「まったく・・・今まで何やってたんだか。」


 小町も口調は厳しいがとてもうれしそうだ。


「まぁまぁ、環菜もさ、いろいろ思うところがあるんだろうけど、こうやってまた俺たちのところに戻ってきてくれたんだ。こんなにうれしいことはないよな。」


 翔がリーダーに相応しい発言をする。まぁ、俺たちにとって嬉しいことが重なるっていうのは最高だ。選挙結果が出て、体育館前は幾分平静を取り戻しつつあったが、俺たちの祭りはまだまだ続きそうな気がする。


「で、バカ夕人。日高さんとは何を話してきたの?」


 俺達は肩を組んだまま顔を見合わせて言った。


「「内緒だ。」」


 小町はぷうっと頬を膨らませて不服そうな表情をする。全く・・・小町は可愛いなぁ。


「えっと、ところで、新会長さん。さっき言ってた提案の言うのはどうなっているのだろうか?」


 稚内くんが右手で眼鏡の左側の弦を触れながら聞いてくる。何という不自然なポーズだ。


「あぁ、すっかり忘れていた。」


 そう言って翔が仲間を見渡す。今ここにいるのは翔の嫁こと実花ちゃんに茜、小町、稚内くんに砂川さん。それに北田さんに石井さんだ。それに環菜も戻ってきて、やっと、いつものメンバー+アルファになれた。それにしても気が付いたら仲間と呼べる人間がすごく増えてるような気がする。


「で?何を忘れてたんだよ。」


 小町はいつだって翔に対してトゲがある言い方をするが、悪気があって言ってるわけじゃない。小町が優しい女の子で翔とうまくやっていることはみんなが知っている。


「あのさ、今日は俺んちで祝勝パーティーを企画してるんだよ。でさ、良かったらみんな来ないか?パーティーって言っても食事会だよ。みんなで楽しくやろうぜ?」


 今日は金曜日。明日も学校はあるが午前授業。多少羽目を外しても若さで乗り切れる。それを見越したように翔はサプライズを企画している。大した奴だよ、まったく。


「あ、いいねぇ。私も行ってもいいの?」


 小町はノリノリで聞いている。


「当たり前じゃないか。夕人が当選したのは小町のおかげと言っても過言じゃないからな。もちろん、稚内くんも砂川さんも、北田さんも石井さんも、あ、もちろん茜もな?来てくれるかな?実花は大丈夫だよな。環菜も、来れるかい?」


「もちのロンでしょ、ちゃんとお泊りの準備だってしてるわよ。」


 それはさすがに準備が良すぎだろう。


「あのさ、翔。」

「なんだ?」

「俺も行っていいんだよな?」


 疑問を翔にぶつける。


「はぁ?何言ってるんだよ。当たり前だろ?お前がいなくて何の祝勝パーティーなんだよ。」

「いや、だってさ。さっきのお前の言ったメンバーに俺はいなかったぞ。」

「いや・・・ほら・・・そりゃおまっ・・・なぁ?」


 そう言いながら茜に助けを求める翔。茜は苦笑しながら翔に続けて言った。


「無理して来なくてもいいのよ?夕人くん。」


 今までの茜の言葉で最も堪えた一言だった。


***************************


 俺は一旦帰宅し、選挙の結果を伝えて、翔の家でパーティーが開かれることを伝えた。


「あらあら。それはすごいわね。でも、向こうのご両親はそんなにたくさんのお友達が来ても大丈夫なのかしら?」


 そう言われてみたらそうだ。

 翔が発起人とは言え総勢は何人になってるんだ?なんかクラスの奴らも何人か来るって言ってたし。普通の家庭だったら狭くて身動きが取れなくなる。いや、それよりも家に入りきらない。


「う~~ん、大丈夫なんじゃないの?翔が提案したんだしさ。」

「そういうものじゃないのよ、夕人。自分の子供の友達たちをもてなすというのはね。あなたにはまだわからないでしょうけど、大人には大人の大変さがあるのよ。」


 そう言って母親は電話に向かって歩いていった。恐らくは翔の家に電話をしてるんだろう。


「杉田さんのお宅ですか?私は翔くんのお友達の竹中夕人の母でございます。いつもお世話になっております。・・・・・えぇ。・・・・いえいえ。こちらこそ。・・・・はい。いいえ。そんなことは・・・・はい、はい・・・・・いつも申し訳ありません。・・・・よろしくお願いいたします。はい、では失礼いたします。」


 母親の電話が終わる。聞こえていたことから話していた内容は容易に想像がつく。それにしても、今回は翔のお母さんがいるのか。ちゃんと挨拶しないとな。あ、お土産とか持って行かないとダメじゃね?


「ありがとう、お母さん。それでさ、お土産とか買いたいんだけど・・・」

「あら、夕人。あんたもそんなことに気が利くようになったのね。嬉しいわ。それじゃ、今からお菓子買ってきなさい。お金はあげるから。」


 俺は風の如くのスピードで着替えて自転車のカギを手に取る。


「ありがとう、お母さん。買い物したら一回戻ってくるから。」

「戻ってこなくていいから。気を付けて行ってきなさい。ちゃんとご挨拶するんだよ?」


 母親の言葉を最後まで聞いて『うん』と頷いてから、俺は家を飛び出すように出かけて行った。



 翔の家に集合する時間は十九時で今は十八時。まだ余裕がある。お菓子も買ったし、自転車だからそんなに翔の家まで行くのにそんなに時間もかからない。

 ただ、買い物をしたスーパーは翔の家からは結構遠い。俺の家からも遠い。だからきっと母親は一度戻ってくる必要はないと言ってくれたんだ。どんなお菓子を買ったらいいのかというアドバイスもくれたから、悩むこともなかった。ありがとうお母さん。

 でも、まだ集合時間まではちょっと早い。時間は充分にある。どうしよう。今日は誰かと一緒に行く約束なんてしてないしなぁ。

 買い物をしたスーパーから翔の家に行く途中には、茜と小町の家があったはず。まぁ、実花ちゃんの家もあったと思うけど、それはいいや。

 茜か小町のうちに寄ってから行くかな。

 いや、待てよ。小町の家に行くと例のお母さまが・・・よし、やめよう。

 茜だな。

 うん、茜のうちに行こう。

 そう思い立った時には勢いよく自転車のペダルを蹴り飛ばしていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


祝勝パーティを企画するだなんて、中学生とは思えない行動ですね。

それにしても、夕人はどうして茜の家に行こうなんて考えたんでしょうか。

色々と思うところがあるのですけど、とりあえずは見守ってみましょう。

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