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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第17章 真実はいろいろあるかもしれないが事実はいつも一つだ
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生徒会副会長候補、二年六組竹中夕人

選挙演説です。

どんな話をするのでしょうか。

「それでは、これから立候補者の最終演説を開始します。まず初めに生徒会長候補一人目、二年六組足草次郎くんです。」


 選管のアナウンスと共に最終演説が始まる。演説の順番は届け出順ではなく役職順+五〇音順。持ち時間は一人最大三分で長すぎる時間でもないけど、多くを語る時間はない。

 ステージ上で少しだけ緊張していた俺だったが、足草の緊張はそれ以上みたいだ。アナウンスと同時に立ちあがり、手と足をそろえて歩く忍者の「なんば」のような歩き方になっている。あいつも緊張するんだなぁ。その姿を見ていると本当に申し訳ないんだが、自分の心に余裕が生まれてくるのがわかる。

 足草は演説台まで歩いていくと、ポケットから原稿を取り出そうと・・・出てこないな。

 あいつ・・・もしかして原稿を忘れたな?

 流石だ。素晴らしい。まったくもって尊敬に値する。

 あいつがこの状況をどうやって乗り切るのか見ものだ。会場にいる生徒たちも気が付いたのかザワザワし始めた。


「えー、どーも。会長に立候補した足草だべ。なんか原稿持ってくるの忘れたんで、とりあえず自己紹介するわ。生まれは・・・・・」


 終わったな、足草。いや、そもそも始まるわけがなかったんだ。何といっても足草だからな。何かをやらかすだろうとは思っていたけど、最終演説で原稿を忘れた上に自己紹介だけで終わった奴は前代未聞だろう。

 さすがの足草も少し堪えたのか肩を落としながら席に戻る。そして、自分の出番が終わったのに安堵したのか諦めたのか、背もたれに寄りかかり、椅子をカタカタ揺らして遊んでいる。わかっていたことだけど、こりゃ翔の圧勝だよな。

 翔は足草がどういった演説をするのか聞いてから話す内容を変えるなんて言ってたけど、どういう感じに変えてくるんだろうな。


「あ、ありがとうございました。えーと、続いては二人目の生徒会長候補、二年六組の杉田翔くんです。」


 会場からワーッという歓声とともに拍手が上がる。黄色い声も多数混ざっているのは非公認ファンクラブ会員からの声だろうか。


「ご紹介にあずかりました、二年六組の杉田翔です。よろしくお願いします。えーっと実はですね。僕は学級会長などのクラスをまとめる役職をこの中学校で担ったことはありません。つまり、僕の能力ははっきり言って未知数です。でも、それには理由があります。僕よりもずっと能力がある人間が同じクラスにいたからなんです。その彼の名は竹中夕人くん。そう、今回の選挙で副会長に立候補している彼です。」


 会場のざわめきが大きくなる。いったい何を言い出すんだ?既に足草との勝敗は決したと言っても、不信任投票をされる可能性があるんだぞ?アイツらしくない。どうしたんだ?


「こんな話を聞いて、皆さん、不安に思うかもしれません。しかし、違うのです。僕は彼が最も生徒会長に適した人間だと思っています。それは今でもそうです。彼は他人を思いやることができ、リーダーシップをとることができるそんな素晴らしい奴なんです。じゃあ、彼が会長になればいいんじゃないか?そう思う方もいると思います。なので、ここで少しだけ、僕と彼の話をさせてください。」


 おいおい、なんだか話の内容がおかしな方向になってきてるぞ?こんなこと打ちあわせにはなかったはずだ。


「僕は中学に入学する時、群馬県から引っ越してきました。なので、まったく友達がいませんでした。そんな時です。彼は自分を犠牲にしてクラスの人間を守りました。詳しい話は今ここではしません。ご存知の方も多いと思うからです。そして、僕らはその後、友人になりました。今では親友と呼べる間柄です。そんな彼が三期も学級会長を務めあげたのです。僕が出る幕なんてないでしょう?ところがその彼がこう言うのです。『翔、俺なんかよりお前の方がずっと人の上に立つべき人間だ。』と。そして、こうも言ってくれたのです。『お前が会長になるんだったら俺が副会長としてお前を支える。だから、もっと楽しい学校生活を作ってみないか。』と。僕が最も信頼する竹中くんが僕のことをこんなに評価してくれる。だから、彼の言ってくれたことを信じてやってみようと思ったんです。」


 そこまで一気に話した後で体育館に集まっている生徒全員をゆっくりと見渡し、大きく息を吸って演台に両手をついて続きを話し始めた。


「正直、自分がどこまでできるのかはわかりません。でも、僕ができる精一杯の努力で、皆さんの学校生活をより充実したものに変えていきたい。そして、この学校をみんなが楽しめる楽しい学校にしていきたいんです。生徒会長と言ってもできる事は限られています。僕一人では何もできない。でも、竹中くんやみんなの協力があれば変えていけると思うんです。ですから、ぜひ、僕に皆さんの力を貸してください。よろしくお願いしますっ。」


 そう言って全員に頭を下げる翔。

 静まり返る会場。静寂が支配していた時間を突如拍手が起こり打ち破る。最初の拍手を始めたのは実花ちゃんだ。さすが、自称『翔の嫁』。何もかも分かっているかのようなタイミングで起こった拍手に、会場は拍手に包まれていった。

 スゴイな翔。お前の話は正直驚いたぞ。

 なにせ、俺の超えるべきハードルをアホのように高めたんだからな。

 頭を上げて会場を見渡し、一礼して席に戻ろうとする翔。途中、俺に向かってサムズアップをする。もうこれはアイツの癖なんだろうけど困ったもんだ。


「杉田くん、ありがとうございました。続いては生徒会副会長候補、二年六組、竹中夕人くんです。」


 やれやれ、恐らく翔のことだから、演説の順番、足草のやらかしたこと。そのあたりをいろいろ考えて場を作り、そして俺にパスしたんだろう。だとしたら・・・俺の取るべき道も決まったよな。


「えー、先ほどの杉田くんに紹介されました副会長候補の竹中夕人です。」


 会場に笑いが起こる。堅苦しいはずの選挙演説が翔の演説であっという間にエンターテインメントな世界に変わってしまった。


「本当は準備してきた原稿があったのですが・・・あんな紹介をされてしまったので、ちょっと使いにくくなってしまいました。そう言った訳で、僕も今ここで考えた演説をさせてもらいます。」


 一体何を話したらいいんだろう。思ったよりアドリブを行う力がないことを思い知った俺だった。


「杉田くんが話した内容は事実です。確かに僕は学級会長を今まで三期務めさせてもらいました。正直に言うと、二年生になってからは杉田くんにやってもらいたかったのですが、のらりくらりと躱されてしまったんです。まぁ、そんなことはどうでもいいのですけど。いや、良くはないんですが、彼がヒトの上に立つべき人間だと思ったことは部分的に本当のことです。彼の巧みな話術によっていかにもすべてが本当の出来事のように聞こえると思います。・・・えー、でも、まぁ、ほとんどは事実の様な気がしないでもないのですけど・・・あ、話がそれてしまってすみません。」


 会場内に少しだけ苦笑のような笑い声が響く。


「えっと、様々なイベントを学級会長としての立場で臨んだ僕は、経験というところでは、彼の上に立つことができるのかもしれません。しかし、その僕を支えてくれたのは杉田くんでした。そして、僕が結論を出すのに迷っている時に彼の助言、つまりアドバイスがあったから三期も務めることができたのです。もちろん、副会長を務めてくれた人もクラスのみんなも協力してくれたからこそであることは言うまでもありません。今ここではっきりと言います。彼は天才です。僕は彼には到底及ばない。そのひらめきや行動力にはいつも驚かされています。そんな彼を支えたい。副会長として。そして、彼の目指すものを見ていたい。そう考えています。僕は彼が考えているほど素晴らしい人間ではないかもしれない。けど、僕も精一杯努力し、皆さんと一緒になって楽しく過ごせる学校生活を作っていきたいと考えています。ですから、皆さん、どうか僕を助けてください。よろしくお願いします。」


 一気に話して礼をする。会場からは拍手が起こる。翔の時ほど盛大なものは得られなかったが仕方がない。だからこそアイツが会長になるべきなんだ。

 結果はどうなろうと今日の演説に後悔はない。本当に思っていることを言えたんだ。

 これで落選してたら・・・結構恥ずかしいんじゃないか?俺。それに、環菜は・・・聞いていてくれたのかな。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


演説ってあまりしたことないのですけど、皆さんは経験ありますか?

短い時間で自分をアピールすることって本当に難しいと思うんですよ。

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