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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第16章 人間は誰でも嘘をつくよ
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話もしなかったら・・・お互いに分かり合えないよ。

この章は一方的に時間が流れていきます。


時間は誰にも平等であって、待ってはくれない。

そして、それをどう使うのかは人それぞれだということです。

「今日こそは環菜ちゃんと話しないと。」


 おそらくは独り言だったんだろう。それはあるいは決意の現れであり、あるいは恐怖の現れだったのかもしれない。もちろん彼女自身もどうしたら一番良いのかわかっているわけじゃない。だから、茜はもっとも信頼している人間に昨夜のうちに電話をして助言を求めた。

 その相手は母親と姉。二人に現状を話して、自分がどうすべきなのかアドバイスをもらった。その結果は、『自分だけで解決できると思わないこと。』『大切な友達を見捨てたりしないこと。』『自分の考えを押し付けないこと』だった。


「大丈夫。環菜ちゃんと話さえできれば・・・」


 そう。環菜ちゃんから話をしてくれたなら、いっぱいお話聞くのに。何でもいい。私に対する文句でもいい。夕人くんのことでもいい。悩みでも恨みでも悲しみでも。何でも聞く。だから、お願い。環菜ちゃん。

 そんな悲壮なまでの決意をして茜は環菜のもとに歩み寄った。


「ねぇ・・・環菜ちゃん。」

「なに。」


 あの時と同じ。全然何考えてるのかわからない。さすがに教室じゃ話ずらいよ。まずは一緒にどこかに移動しないと。


「あのね?私の話を聞いて欲しいの。」


 出来るだけ普通に。環菜ちゃんの負担にならないように話していかないと。


「どうして。」


 やっぱりね。そう言われると思ってた。


「あのね。環菜ちゃんとしか話せない話なの。だからお願い。」


 これでも断られたどうしよう。もしそうなったら、ちょっと強引にでも手を引っ張って屋上に連れて行こう。


「どうしても話したいの?」


 予想とは違う返事が返ってきた。

 もしかして、この前の環菜ちゃんとはちょっと違うのかもしれない。どこが違うのかはわからないけど。


「うん。お願いできるかな。」


 さっきまでよりちょっとだけ強めに言ってみる。今までの環菜ちゃんならこんな言い方をしなくたって話を聞いてくれた。それに、まだ私の顔を一度も見てくれてないというのも気になる。


「わかった。いいわよ。どうぞ。」


 そう言って環菜は読みかけの本に栞も挟まずに閉じる。まるで本を読むことすら興味がないかのように。


「えっと、ここじゃちょっと・・・屋上とかでもいいかなぁ。」

「私はここで構わないけど。」


 そうだよね。そう言われるような気がしてた。


「う~ん、私的にはここはイヤかなぁ。できれば人がいないとこの方が良いんだけど。良いとこ知ってる?」

「知らない。」


 その返事も予測済み。だから、こう返すんだ。環菜ちゃんが興味を持ちそうな話を切り出す。


「んとね。明日は生徒会の選挙なんだよね。」

「知ってる。」

「私たちの友達から、翔くんと夕人くんが立候補したよね。」

「・・・そうね。」


 ん?答えに少し間があったけど、それってどういうことなんだろう。


「えっと・・夕人くんのことが気になる?」


 これはちょっとした賭けだった。環菜ちゃんが夕人くんのことを好きだったことは知ってる。だから、ちょっと危険だけどこの爆弾を使ってみる。


「・・・別に。」


 また、答えるまで少し間があった。でも、これ以上この爆弾をここで使うわけにはいかない。だから、他の話に少しずつ変えていかなきゃ。


「私さぁ。夏休み頑張ったんだ。いろいろと。でね?そんな話もしたいんだよね。だから、屋上でゆっくりお話ししない?」

「わかったわ。」


 そう言って環菜は立ち上がって歩き出す。まるで茜のことはどうでもよくて、屋上に行くことが目的であるかのように。


「あ、待ってよ。一緒に行こうよ。」


 遅れないようについて行かないと。その移動の間にも何か話せるかもしれないし。



 屋上まで移動する間に、私はいろいろ話しかけてみた。学校祭のことや生徒会選挙のこと。昨日の応援演説のことなんかも。でも、環菜ちゃんは聞いているのかすらわからない。時折、何かを考えているように少しうつむくくらいのリアクションしかない。どうしよう。ちょっとくじけそう。

 でも、こんなことで負けちゃダメだ。夏休みのあの日。私と話をしてから環菜ちゃんは変わってしまった。話をする前は本当に今まで通りの環菜ちゃんだったのに。だから、ヒントはあの会話の中にあるはず。


 そうは言っても、あの時の話って普通の会話だったと思う。でも、環菜ちゃんにとってはすごく重要な何かがあったはずなのよ。本当にたわいのない会話。でも、ちょっとだけいつもの環菜ちゃんと違う感じだった。何というか何かを心に決めたような、そういう雰囲気だった。

 そして、ご飯を注文して一緒に食べようと思ったんだけど、環菜ちゃんがすごく長い時間考え事をしていた。その後、環菜ちゃんの表情が消えちゃった。だから、きっとこの20分くらいの間の話が重要なのよ。


「話って、なに。」


 あ、もう屋上についてるんだよね。マズいマズい。ちゃんと話さないと環菜ちゃんのことだから教室にさっさと帰っちゃう。


「えっとね。夏休みなんだけど、私すっごく勉強を頑張ったんだ。」

「そう。」


 うぅ・・・やっぱりダメかな。


「うん、でね?今回の中間試験なんか真ん中くらいまで順位が上がったんだよ?今までは下から数えたほうが早かったくらいなのに。」


 軽く舌を出しながら右手でコツンと頭をたたく。


「そうなのね。」

「うん、でね、いっつも上位にいる環菜ちゃんにとっては大したことじゃないんだけど、私はすっごく嬉しかったの。」

「良かったわね。それで、それを私に話してどうするの。」


 あぁ、厳しい。なんて話していけばいいんだろう。


「う、うん。あ、とりあえず、あそこに座らない?」


 そう言って二人で腰を下ろせそうな場所を指さす。もしかしたら拒否されるかもって思ったけど『いいわ。』と言って環菜ちゃんが先に歩いていった。私も遅れないように付いていく。


「そうそう、それでね?」


 ここでもう一度爆弾を投下してみよう。


「夏休みに、夕人くんに勉強教えてもらったんだ。」


 環菜ちゃんの表情、一つ一つを見逃さないように覗き込むようにして話をしていく。夕人くんの名前を出したらさっきは返答に間があったから、もしかしたら、今回も何かしらの反応があるかもしれない。


「・・・そう・・・なんだ。」


 やっぱり。夕人くんの名前を出すと最近見えなくなってた環菜ちゃんの感情が見え隠れする。きっと、今でも夕人くんのことが好きなんだよね。


「うん。夕人くんって教え方上手でね。なんだか楽しくなってきちゃって。これからも教えてくれるって言ってくれたんだ。」


 大丈夫。ここまでは嘘も何も言ってないし、環菜ちゃんの反応もちゃんと見れてる。あとは、あの時の話と同じような流れに持っていけたら、きっと何かがわかるはず。


「それを私に話してどうしたいの?自慢?」

「ううん。そういうことじゃなくって。勉強ってやってみると面白いもんだなぁって。だから、今度は環菜ちゃんにも教えてもらいたいなぁって思ったんだ。」


 少しでも関係を持てるようにしないと。


「私には無理。夕人くんに教えてもらえばいいじゃない。」


 んー、この話でこれ以上は何も見えてこないかも。こうなったら、もう一度ストレートに聞いてみよっかな。


「ねぇ、環菜ちゃん。何があったの?みんなでお泊り会した時の環菜ちゃんはこんな感じじゃなかったよ?私と夏休みに西友で会った時だよね、こうなっちゃったのは。私、何かしちゃった?環菜ちゃんがこうなっちゃう原因つくちゃったの?わからないの。全然。だから教えてくれる?」


 正直に言うしかないのかもしれない。私は所詮、ただの中学生という無力な存在だ。一人じゃ無理かもしれない。でも、でもっ、一人でできるとこまではやってみたい。


「別に・・・」

「別に?そうなの?だったらあの時、注文したご飯にも手を付けないで考えていたことは何なの?20分よ?そんなに長い時間考え込んでいたことが、『別に』の一言で片付くなんて思えないよ。」


 言ってしまってから後悔する。失敗した。こんな風に責めるつもりなんてなかったのに。


「どうして。そんなことが気になるの?」

「気になるに決まってるじゃない。友達なんだよ?友達が突然変わっちゃったんだよ?今までの環菜ちゃんはどこに行っちゃったの?ちょっとだけ大人ぶってて、でもそのくせ泣き虫で、いつもいろんなことに一生懸命だった環菜ちゃんはどこに行っちゃったの?何があったのよ・・・」


 いつの間にかまた涙が流れてきた。悲しい。全然わかってもらえない。どうしたら私の気持ちが伝わるんだろう。


「私は何も変わってないわ。」

「変わったよっ。全然違うよっ。なんでそんな嘘をつくの?」


 少し大きな声で強めに言ってしまった。


「あなたなんかに私の何がわかるっていうのよ。」


 驚いた。

 初めて聞いた環菜ちゃんの本音。確かにそうだ。私、わかったつもりになってたんだ。他人のことなんてそんなに簡単にわかるわけがない。


「ごめん、環菜ちゃん。でも・・・私がいつも見ていた環菜ちゃんと今の環菜ちゃんは別人みたいだよ。」


 でも、話もしなかったら・・・お互いに分かり合えないよ。


「別人・・・ね。」


 そう言って環菜の口元には少しだけ笑みがこぼれた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


茜が頑張っています。

環菜との距離を少しでも縮めるために。

とはいえ、一人でできることには限界がある。

それもわかった上での行動です。


環菜は茜の話を聞いてはいるみたいです。

でも、その言葉を素直に受け取れない。


辛いところです。

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