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それでも、俺のライラックは虹色に咲く。  作者: 蛍石光
第2章 気がつけば・・・
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鬱屈した気持ち

前回よりは短い話です。


ですが、ある意味で前の章を引き継いだような内容になっています。


それにしても、この物語が始まってから他のキャラに比べて玉置さんの出番が少ないですね。

やっぱり「虹色ライラック」でのアレが尾を引いているんでしょうか。

 宿泊研修一週間前。クラスは宿泊研修ムード一色。

 しかし、学校全体としてのイベント事には各委員が駆り出される。だからどうしても、宿泊研修よりも生徒総会の準備に優先的に駆り出されることになる。

 去年と同様に、全学年のクラス委員が参加する代表会議で生徒総会についての議題が扱われた。俺はいつも同様、集中できなかった。こう言っちゃなんだが、代表とは言っても、生徒会が決定した内容をクラスのみんなに報告するだけ。俺がいる必要があるのか?今だって、準備といったって、クラス全員分の書類をホチキス止めをするという単純な作業だ。ただ、その枚数が半端ない。一部当たり二十枚くらいある。

 さらに時間は、代表会議終了後。すでに太陽はとっくに沈んでしまった。いつも以上にやる気が出ないのは当然のことだろう?今は自分のクラスに戻って玉置さんと二人で準備の続きをしているところだった。


「どうしたの?竹中くん?何かあったの?」


 玉置さんが心配そうに声をかけてくる。


「いや・・・ちょっとね。」


 悶々とした気持ちがあるがそれを誰かに言っても仕方がない。


「・・・そう?」


 納得出来ないと言った表情で俺を見る玉置さん。


「うん、つまらないなと思って。」


 俺はそう呟いた。


「つまらない?」


 目に見える結果としては、宿泊研修のしおりの出来は素晴らしいものになった。もちろん俺が頑張ったようには見える。けど、これだって思わぬサポートがあったおかげだ。期せずして、俺の評価が上がったわけだけど、やっぱり自分の実力じゃない。俺がいた意味があるのか?


「まぁ、こんな作業だったら楽しくはないよね。」


 玉置さんは俺の言葉を誤解したようだ。

 そうじゃないんだ。作業だから楽しくないとか、そういうことじゃないんだ。


「そうかもね。」


 俺も無難な返事を返すが本心は違う。そうじゃないんだ。自分の実力以上の評価はつらい。いつだって、ひとりで何かができたわけじゃない。何かあった時はいつも杉田に助けてもらってた。そして、あの時は玉置さんに助けてもらった。


「早く終わらせて帰ろうね。」


 玉置さんは笑顔で明るい声を出した。


「そうだね。」


 本当に俺は自分では何もできないな。


「あ、けど、竹中くんの研修のしおり、あの原案ってすごかったよね。やっぱり、竹中くんはすごいよ。」


 すごい?全然そんなことないよ。一人でやったわけじゃないしな。


「そんなことないよ。あれは。」

「すごいと思うよ。だって、あれをでやったんでしょ?」


 今を逃したらもうタイミングはないかもしれない。せめて友達には知ってもらいたい。


「あぁ、うん。実はさ。あれ、手伝ってもらったんだよ。」


 そうだよ。言ってしまえばいいんだよ。いや、待て・・・そう言えば・・・




 あの時の帰り道。


「あたしたちとした話は、他の人には言わないほうがいいよ?」


 椎名先輩が自分のカバンを軽く蹴飛ばしながら言った。


「え、なんでです?別に隠すことないような気がしますけど。それに、この件では結構友達に相談に乗ってもらってて・・・」


 俺は正直にそう言った。実際、栗林さんにいろいろな情報を貰ったし、青葉さんはキレそうになってたし。杉田はいつも俺の話を聞いてくれていた。


「あぁ、そりゃそうかもね。なんか、本当にゴメン・・・。」


 椎名先輩は急に元気をなくしてしおらしく言った。


「いや、もう、理由も判ったんで、俺はいいですよ。」


 そう。理由がわかってしまえば今までの怒りなんて吹っ飛んでしまった。今でも二人の先輩のやり方はどうだろうとは思ってはいたが、それも全部俺のためだったわけだからな。


「あ、それで、言わないほうがいい理由はね・・・・」


 村雨先輩が声のトーンを落として言う。


「川井さんの話、広めちゃうとマズいと思うんだ。何が起こるかわからないからね。」


 なるほど。そっか、相手はノーマルな人間じゃないかもしれないんだ。ってことは、この先輩たちってそんなリスクを冒してまで、俺には教えてくれたわけか?


「あ、ありがとうございます。先輩たち。俺なんかのために・・・」


 そう思うと本当にありがたいという気持ちが沸き上がってきた。


「え?どうしたの?なんだからしくないみたいね。」


 椎名先輩は少しだけたじろいでいるみたいだ。本当に今までの椎名先輩らしくない。ちょっとかわいい。


「でもさ、竹中くん。どうしても伝えなきゃいけない時もあるでしょ?その時は、言えばいいのよ。」


 冷静な村雨先輩がアドバイスをくれる。


「そそ、それでいいよ。・・・あ、でも、あたしたちの今日のこの姿は・・・言うんじゃねぇぞ、こらっ。」


 笑顔で迫りながら、人差し指で俺を小突く。やっぱりその仕草は反則ですって。



「そうなの?誰に手伝ってもらったの?」


 ここまで言っておいてなんだけど、言いにくい。けど、玉置さんなら、わかってくれるんじゃないかな。そんな気がする。


「いや、実は・・・椎名先輩と村雨先輩に・・・」

「えぇ?そうなの?いったい何があったの?」


 玉置さんは驚いたようで、手に持った書類の束を落としてしまった。

 そりゃ、驚くよな。あんな事があったんだから。俺だってこうなるとは思ってなかったし。


「まぁ、だから一人でやったわけじゃないんだよ。」


 落とした書類を拾い集めながらポツリと言った。


「けど、なんであの人たちが?」


 書類を拾い終わると同時に玉置さんが聞いてきた。


「これから話すことは、他のやつには言わないで欲しいんだ。」


 俺は意を決したように玉置さんの顔を見て言った。彼女の顔は笑顔と真顔の間の表情だった。


「なんで?みんなも聞きたいと思うんだけど。」


 玉置さんが俺のことをいぶかっている。それはそうだろう。けど、同じ立場だったら?同じように冷静に切り返せたか。いや・・・難しいだろうな。玉置さんはすごい。


「わかる。よくわかるんだけど、もしかすると危険なことになるかもしれないんだ。だから、実は玉置さんにも言わないほうが良かったのかもしれない。ほんとにこんなわけのわからないこと言ってゴメン。」


 どうして言ってしまったのか。後悔の気持ちが湧き上がる。


「理由はよく分からないけど、うん、いいよ。誰にも言わないよ。今までも、意味のないこと、竹中くんはしなかったもんね。きっと、どうしても言えないこと、あるんでしょ?だから、私にだけは教えて。これからも・・・。」


 玉置さんは竹中には見えない方のスカートの裾をキュッと握りしめながら言った。


「あぁ、約束する。だから、玉置さんも、この約束、守ってくれるか?」

「うん、約束する。」

「それじゃ・・・」


 俺は、伝えた。二人の先輩から聞いたことを。そして、もしかしたら、危険が身に及ぶかもしれないってことを。



 玉置さんはしばらく沈黙だった。そして、大きく息を吸ってから言った。


「ごめん。」


 強いけど、たった一言。『なんで?』そう言いかけた言葉を飲み込んだ。たぶん、玉置さんが考えたことがわかってしまったから。そして、俺の考えが足りなかったことがわかったから。あの時のことは、玉置さんにとってもいい思い出じゃないんだ。


「ごめん。」


 俺から出た言葉もその一言。


 そして、その後、俺たちに会話はなく、黙々とその作業を進めた。まるで、互いに気持ちの整理をつけるように。

 積み上げていく書類の束はただ静かに二人の間に積み上がっていった。


 生徒総会の準備は終わった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


第2章のラストになります。

ここまでは結構ノリが良い感じで進んできていたのですが、少し暗い話になっています。

悩みはあるけど素直に言えない。そんな葛藤があるみたいです。


それにしても、玉置さんの出番は久しぶりでしたね。

ましてや、竹中と二人の場面なんて。2章の冒頭以来ですか。

これから登場回数が増えていくのでしょうか。

とは言っても、青葉さんも小暮さんもいますからね。


頑張らないと出番が増えないのかも・・・しれません。

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