新たな日々の終わりを
「お疲れーす」
町の衛兵らしき鎧を着た男達に挨拶して町の中へと入る。
町の景観はRPGゲームそのものにしか見えない。
文化の傾向は西洋に偏って見える、時代は中世ぐらいっぽいよな。
まぁ、歴史とか詳しくないからわからねぇから予想の範囲だけど。
なかでも、とびっきり興味を惹くのはちょいちょい混じってる頭に獣耳が生えている諸君だ。
「おや?キョウヤ殿は獣人を見るのは初めてですかな?」
「まぁ一応?見たことないっすわ」
「ほうほう。獣人といえば我が国内で活動地域広いことで有名ですが。貴殿の黒目黒髪も珍しい。失礼ながら異国の方で?」
「ま、そんなとこっすね」
キョロキョロ辺りを見ていた俺の様子を不審に思われたのかもしれない。
助けたおっさんが俺に少々、驚きながら聞いてきた。
どう答えたもんか。
この世界に来たばかりで地理になんて詳しくねぇし、黒目黒髪も珍しいらしい。
適当にニホンなんてでっちあげてもいいがこの世界にないとバレたら面倒だ。
悩んでいると先にレフィリアが口を開いた。
「ええ、そうね。ロキはレンディル出身よ」
「なんと、そんな遠くからここまで来られたとは!それならば獣人を見たことないというのも頷ける」
「あー、はい。ソウッスネ」
ナイスフォローって言いたいところだがレンディルって何処だよ、しかもロキって誰よ。
色々、突っ込みたいところだが下手に口を出すとこれまた面倒になりそうだから黙っておく。
その間にもレフィリアとおっさんの会話はどんどん進んでいく。
「‥‥なるほど。ではロキ殿は家督を継ぐために旅を?それはなんとも厳しいのですな」
「ほんとよねー。けど、私も付いているしね」
「はっはっはっ。それはなんとも頼もしい」
んー?ちょい待てよ。
黙って聞いてたらなんかほっといているうちにどんどん話がデカくなっているような‥‥?
「え‥‥ちょい待‥‥」
「さぁ!着きましたぞ我が店へ!」
少し修正しようとしたが、タイミングが悪くおっさんに遮られた。
どうやらおっさんの店に着いたらしい。
正面を見るとなかなか立派な建物だった。
「ほー。こりゃ立派なもんだ」
「はっはっ。見てくれこそ立派なだけで中身は大したものではないのですよ。ささっ、是非中へ」
「はぁ、どうも」
とりあえず中へと入らせて貰う。
途中でおっさんの後ろで控えていた嫁さんと娘さんは俺に一礼して別の部屋へと入っていった。
「申し訳ございません。ロキ様、レフィリア様、私達は一旦ここで失礼致しますわ」
「じゃあねっ」
娘さんに手を振りながら別れる。
しばらくおっさんの後について歩いて行くととびきりでかい部屋に通された。
背中に背負っていた大剣を壁に立てかけてソファーに座る。
「ここは応接室となっておりまして大変申し訳ないのですが、しばしここでお待ちいただいてもよろしいですかな?」
俺達が了承するとおっさんも部屋から出て行く。
見ず知らずの部屋に取り残されるのは気が引けるってもんだがレフィリアと二人で話がしたかったので丁度いい。
おっさんが出て行ったのを目で確認してから声を出した。
「おい、レンディルって何処だよ。てかロキとか誰だよマジで。なんつー嘘でっちあげてんだよ」
「いいじゃない別に。それにあんたがキョロキョロしてんのが悪いんだから。疑われても面倒でしょ?」
「まぁ‥‥そうだけどよ」
「丁度いいわ。私の作った新しいあんたの設定とこの世界について今話しておくわ」
レフィリアはやれやれだぜ、といった風に肩をすくめると俺におっさんに話した『設定』とこの世界について話し始めた。
ロキ・アスガルド。
これがこの世界での俺の偽名もとい名前だ。
なぜ神話から名前を取っているのか尋ねたところ、ああいう神話は神のおっさんのお気に入りらしく咄嗟に思いついたのがこの名前らしい。
北欧神話のロキといえばトリックスターやずる賢いなんて意味があって、そこにレフィリアの悪意を若干感じないでもないが空を旅する者なんて意味もあるそうで、気に入ったから良しとする。
なんか普通にかっこいいし。
次にレンディルとこの世界について話された。
この世界には色々な種族がいて、人、さっきのような獣人、吸血鬼などといった魔族なんて呼称されるのもいるようだ。
そんでもって俺のいる町ガランダート。
この町は大陸で最も力を持つ四つの国の
うちの一つ、王国の端にある町だそうだ。
ちなみに俺の故郷って設定のレンディルはマイナー中のマイナーな国。
特に力を持っているわけでもなく、黒髪黒髪が珍しいって有名なだけの国。
俺は一族のお厳しい仕来りによって家督を継ぐために着の身着のまま、一族を守護してきた精霊だけをお供に旅する男らしい。
さすがファンタジー。
精霊って言って納得するあたりにホントビックリ。
「だいたいこんな感じよ。どう?わかった?」
「だいたいはな。それにしてももうちょっとマシな設定はなかったのかよ」
「なに?文句あんの?」
「いんや。ねぇけど」
「そ、ならいいのよ」
ドヤドヤしながら胸を張って踏ん反り返るレフィリア。
ムカつかんでもないがその設定に助けられたのも事実だから文句は言わないでおいてやろう。
そんな感じで設定をきいてから暫く待つとおっさんが両手に色々持って戻ってきた。
「いや、お待たせしまい申し訳ない。こちらがお礼というわけで貰って頂きたいのですが」
おっさんが持ってきたものを広げる。
黒いロングコート、指輪、緑の瓶などそれはもう一杯に。
引くレベルで一杯に。
そりゃこんだけ時間かかるわけだ。
「さ、さすがに、んな貰えねぇっての」
「ですが。このくらいでなければ‥‥」
「いいって。マジでそんなにいらねぇって」
幾ら何でもこれを全部貰えるほど神経が図太くない。
沢山持ってきたおっさんには悪いが遠慮しておく。
「聞けば着の身着のままで出てきたとのこと。せめてこの服だけでも」
しつこく勧めるのもどうかと思ったのか黒コートだけを渡してきた。
「んじゃこれだけ貰っておくよ」
「ええ、是非とも」
黒コートに何かあんのかよとか思わないでもないがとりあえず貰っとかないと引かなそうだから貰っておく。
それだけじゃ物足りないのか自分が経営する宿にも泊めてもらうことにもなった。
町での宿泊の目処が立っていなかったので、そちらの誘いは受けておくことにした。
結局、暫くおっさんの話を聞きおっさんに案内されて宿へと向かう。
宿は夕食と朝食付きだったので、食堂へと足を運ぶ。
食事は注文すれと店員が持ってきてくれる。
文字に関しては不安があったがレフィリアのおかげで特に問題なく注文できた。
ちなみに見たことがない料理が多く味も上等とは言えないが不思議とマズイとは感じなかった。
作法や暗黙のルールに関しては、レフィリアに教えて貰う、まさに完璧な体制。
レフィリアが予想以上に便利ということがわかった。
元が値段の張る宿だったからか、入った部屋もなかなかの立派なものだった。
「ふぅ‥‥ホントビックリだよな色々と」
備え付けのベッドに座りながら呟く。
レフィリアは俺の肩で涎を垂らして寝ていた。
この世界に来て初めての休息だ。
レフィリアも疲れたんだろう。
殴られて吹っ飛んだしな。
このまま起こさないように枕へと体を持って行き寝かしておく。
レフィリアを見てふと今でも不思議だと感じた。
自分が死んでこんなファンタジー世界に来たことに実感が湧かない。
普通に考えるならばありえない話だ。
だけどよ。
部屋とか窓から外を見てると俺のもといた世界とは違うことに気づかされる。
だからといって寂しいとかいう感情も湧かない。
ホントに前世には興味がない。
むしろこっちの方が性に合ってる。
今は目的はないけれど、いつかは見つけられると信じて歩き続ける。
幸い、体は特別製。
歩き続けていくことが、今の俺にできることだ。
ぐーすか寝ているレフィリアを見て。
「ありがとうよ、爺さん。あんたのおかげでまだ俺は歩き続けられる」
そう、夜空へ向かって言って目を閉じた。
黒い暗闇に包まれていく。
どこまでも真っ黒な世界。
けれど不安なんてなく。
明日への期待を込めて。
俺は眠りについた。
こうして俺の新たな世界での最初の日々が終わりを告げた。
刀の飛燕から大剣エスレシオンに変更しました。
ほんと適当ですんません(^◇^;)
一応、これにてプロローグ的なものは終わり