ある意味定番なこれ
約一時間前、俺達は無事に洞窟を出て近くの町に向かおうという結論に達した。
そして、確かに俺達は順調に町へと向かって歩いていたはずだ。
特に問題もなく、本来なら今頃は町に着いているはず。
しかし、現状は違った。
「おらぁ!こいつの命が欲しかったらさっさと金目のもんと有り金全部置いてきなぁ!」
「に、逃げてください!早く!」
目の前には髭面の強面のおっさんとそのおっさんに組み敷かれている身なりのいいおっさん。
家族連れだったんだろうか。
後ろには小さな女の子と一人の女性が縄で縛られていた。近くには髭面の子分みたいのが三人。
「なぁ、こいつら何だ?」
「多分、盗賊ね。私も見るのは初めてだけど」
「へぇ、こいつらが‥‥盗賊ねぇ。なんかそこら辺にいそうなチンピラみたいな感じじゃねぇか」
改めて目の前のおっさん共を見る。
いや、出来ればおっさんの絡みなんて見たくはないんだが。
髭面のおっさんは言うまでもなく盗賊なんだろう。手に長剣を持って俺に切っ先を向けている。
主な会話は全部こいつがしていることあら四人中でもリーダー格と見て間違いねぇな。
「おいこら!てめぇ聞いてんのか!」
「あ、わり。聞いてなかった。もっかい頼む」
「ちっ、もう一回だけだぞ。ゴホン、おらぁ!こいつの命が欲しかったらさっさと金目のもんと有り金全部置いてきなぁ!」
ご丁寧にもう一回さっきの台詞をリピート。とっとと襲ったほうが早いのに、盗賊なりの様式美ってやつなのかね。
「有り金って言われてもなぁ。見ての通り荷物も何も無いもんで」
「うるせぇ!もういいっ。てめぇらやっちまえ!」
「「「へいっ」」」
リーダー格のおっさんの号令の下、同じような顔した下っ端共が俺の周りに集まってくる。
レフィリアはバレ無いように人質の方に飛ばしておいた。今頃は人質の縛られた縄を解いているころだろうな。
「へっへっニーチャンよぉ。いいこと教えてやる」
「今からテメェの相手をすんのは俺達、かのレギン盗賊団の幹部の三人組‥‥」
「ヒュッポー三兄弟!!」
まるで戦隊物のようなポーズ。
やべぇ、笑いそう。
「ぷっ」
「ああああ!てめぇ笑いやがったなぁ!ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって!」
「ああ、ワリワリ。で、ピーポー三兄弟だっけか?」
「「「ヒュッポーだ!!!」」」
三人同じ顔で茹でたったタコみたいに赤い顔をしている。
奴らの武器はボロい長剣を持った奴が一人、残りの二人はボロい短剣。
無手でも負けるつもりはないが一応、エスレシオンを背中から外して構えておく。
「おいおい、こいつ俺達と殺る気なのかぁ?」
「いいから兄ちゃんさっさとこいつ殺しちまおうぜ」
「おうよ!お前ら一斉にかかれぇ!」
目の前にいた長剣を持った盗賊が俺に斬りかかる。そして、それと共に残りの二人が追従する。
三兄弟ってだけはあってコンビネーションはそこそこのもんだと思う。
だが、所詮は盗賊。
その動きはあまりにも稚拙で遅すぎた。
「ひゃっはぁっ!」
振られた長剣が目の先を通過する。
スペックの差ってやつなのかほとんど振るわれた後に避けても余裕を持って回避できる。
俺は長剣の盗賊の利き手の甲に軽くエスレシオンで斬り裂いて、さらに腿の辺りを数回傷付ける。
「いぎっ!!」
「に、兄ちゃん!テメェ!」
斬られた盗賊が倒れるのを横目で確認して背後から短剣を突き刺そうとしてきた盗賊をいなし、すれ違いざまに思いっきし顔面を蹴りつけた。
「うぎぃ!」
蹴られた盗賊は顔面から鼻血を出しながらぶっ倒れる。
その様子を見ていた残りの一人が吠えながらこちらへと飛びかかってきたが短剣を振り下ろす前にエスレシオンの柄で殴る。
痛みに耐え兼ねて短剣を落とした隙に左手でアッパーを見舞う。
「ひぎぃっ!」
時間にすれば数秒程度の出来事。
瞬く間に三人共倒し切る。
「よっと。こんなもんか」
「あ、ありえねぇっ‥‥」
唯一気絶してない長剣の盗賊が自分の斬られた箇所と他の兄弟を見て呟いている。
「で、まだやるか?」
できるだけ低い声で威圧するように喋るとブンブンと首を振るう盗賊。
すると、俺の後ろから野太い声が聞こえた。
「ほぉ。ヒュッポー達を瞬殺たぁなかなかやるみたいじゃねぇか、あんちゃんよぉ」
「お頭!!」
声のした方を向くとさっきまで身なりのいいおっさんの上に乗っていた髭面のおっさん。
やっぱりこいつがリーダーだったみてぇ。
「俺の名はレギン。このガラン盗賊団の頭をやってるもんだ」
「いや、聞いてねぇっての」
「見たところなかなか腕に自信があるようだが、俺はちと一味違うぜ?」
レギンが長剣を構える。
構え方からして我流臭いが確かにヒュッポー三兄弟とやらよりは腕が立ちそうな雰囲気を醸し出していた。
こうなることを見越してってわけでもないが余力は残してある。レギンを圧倒するには十分なほどだ。
「喰らえやぁ!!」
強面なだけあって迫力と気合いだけはある。それも特に気にするほどじゃない。
くるりとエスレシオンを手で回しながら構える。
面倒だし、一発で終わらせる。
「おらよっ!」
右下から左上にかけて軽くエスレシオンを振るうと魔力の衝撃波が発生する。
それをレギンは真正面からガードすることなく胴体に喰らって吹っ飛んでいく。
「お、お頭ぁぁ⁉︎」
すぐさま、ヒュッポーの生き残りがレギンのもとへと走って抱き起こす。
白目剥いて気絶はしているが死んではいない筈。
加減はしたつもりだ。
「で、もっかい言うけどよ。まだ、やるか?」
人質になっていた方を指差す。
そこには、ドヤ顔のレフィリアと安堵した表情の女性と女の子。
「ち、チクショー!覚えていやがれぇ!」
「あいよ、おつかれ」
雑魚キャラ定番の台詞を吐きながらヒュッポーは気絶した三人を背負って逃げていく。
「はえーな。意外にあいつが一番すげぇんじゃねぇか?」
その様子を笑いながら見送る。
あの感じなら殺す必要もなく死ぬだろうからな。とりあえずは見逃しておいた。
「いやぁ。助かりましたぞ名の知れぬお方よ」
「ありがとうございます。あなたが来ていなければどうなっていたことか」
「あいがとー」
レギン盗賊団に捕らえらていた三人から礼を言われる。
彼らはやっぱり家族で、俺達が目指していた町で商売をやっているそうだ。
なんでも、小さい娘さんを人質に捕らえられて何も出来なかったそうだった所を俺が偶然通りかかったということらしい。
お礼がしたいということで今は一緒の目的地である町‥‥カランダートへと向かっている。
「いんや、別になんかしたつもりはないから別にいいっておっさん」
「はっはっはっ。そんな謙遜しなくとも貴殿の動き、盗賊をたちまち打ち倒した手腕、レフィリア殿との連携、全て見事なものでしたぞ」
さっきからべた褒めで少し気恥ずかしさを感じちまう。
「当然よ!何たって私は神の‥‥モゴモゴ」
「ああ、いやなんでもない。気にしないでくれ」
神の使徒、と言おうとしたレフィリアの口を塞ぐ。
いくら妖精のような姿だろうが神の使徒なんて言ったら百パーセント引かれるのはわかっている。
「はぁ、分かりました。っとそろそろですぞ」
進んでいくごとに人が多くなっていく。
鎧を着たやつだったり、馬車に乗ってたり、徒歩で歩くやつ、様々だ。
「さぁ、ここがガランダートですぞぉ!」
商人のおっさんが腕を広げて紹介をする。
鋼の門に、そばに立つ鎧姿の男達。
この世界にきて初めての町、俺達はガランダートに到着した。
感想やら修正点あったら是非ともよろしくお願いします。いつでもお待ちしています(。-_-。)