初戦闘
「ボアアアア!!」
「おらよっと」
さっきまでやっていた空中ジャンプで緑肌の怪物の突進を回避。
ついでに顔面に蹴りを叩きこむ。
「やっぱり効くわけねぇよな。わかってたけどよ」
確かに顔面にクリティリカルヒットはしたが全く効果なし。
やっこさん、首振っているがピンピンしてやがる。
「全然効いてないじゃない!どうすんのよ!」
「さて、どうすっかな」
「えっ、何にもないの?⁉︎」
「ねぇな」
「はあぁぁ⁉︎」
耳元でやかましい使徒様。
言われても素手じゃやれることに限度があるしな。せめて武器が欲しいところだ。
「なんか情報ねぇのか‥‥よっ!」
「ゴアア!」
怪物の振るう棍棒を紙一重で避けながら尋ねる。
「うーん、ちょっと待ってなさい‥‥ふんふん、えー、あったわ!こいつの名前はグラントロール。魔法が有効だそうよ。あと、近接戦は厳禁」
「それだけなのかよ」
「そう‥‥みたいね」
「使えねぇな」
「うっさい!」
再び棍棒を躱してとりあえず距離をとる。近接戦は確かにキツそうってのは間違いないみてぇだ。
このまま、いつまでも避け一辺倒じゃいつか殺られちまう。
何かないもんか。
‥‥‥‥。
‥‥。
‥。
あ。
「さーせん。ちょいと素晴らしい神の使徒様であるレフィリア様に頼みたいことが」
「急にあんたどうしたの?ま、確かに?私が素晴らしいのは間違いないけどねっ。ふふん、いいわ、その頼み聞いてあげる!」
「サンキュー」
さすがに敵も会話の暇を与えてくれねぇ。簡潔に肩に止まったレフィリアに内容を説明する。
「ふむふむ、わかったわ。それくらいなら任せといて!」
そう言ってレフィリアはグラントロールに向かって飛んでいく。
それを見送ると俺は反対方向にある宝箱へと駆け寄った。
「何が出てくっかな〜」
武器が手にないのなら今ここで手に入れればいい。
宝箱の開けて中身を確認。
すぐさま使えるものを物色し始めた。
後ろをレフィリアに任せてな。
「ってまだなの⁉︎さっさとしなさいよ!ヒィ⁉︎」
「おっ、ナイス回避。やるじゃねぇか」
「そ、そうかしら。じゃなくて早く探しなさいよ武器を!」
「わかってんよ。もうちょい待ってろ」
振り下ろされる棍棒をヒラリと躱すレフィリアを褒めつつ、宝箱を探る手は緩めない。
「うしっ、だいたいこんなもんだな」
使えそうな物、よくわからない物、と判断したのを地面に並べる。
錆びた斧、よくわからない文字が書かれたボロ紙、腐ってそうな木剣、割れた瓶、鉄の棒、半ばで折れた槍‥‥並べたものはこんな感じだ。
つまり、大半が使えないガラクタだった。
「あー、こりゃ詰んだわ。うん、ワリィなレフィリア。収穫ゼロだなこれ」
「嘘でしょっ、じゃあどうすんのよ」
「どうすっか」
「ふざけんじゃぐあっはぁっ!!??」
「ゴアアアアア!」
棍棒じゃ当たらないと踏んだのかグーパンに切り替えてきたグラントロール。
タイムラグがなくなったせいか、俺に注目してたせいかはわからないがとりあえずレフィリアにクリーンヒット。
振り抜かれた拳を全身に浴びてこちらへ向かって飛んでくる。
「受け止めて〜」
「悪い、無理」
そのまま勢いよく空の宝箱へ突っ込むレフィリア。
「おーい。大丈夫か?」
「だ、大丈夫。私は神に造られた存在だからこの程度じゃ‥‥ごふっ」
「もろ吐血してんじゃねーか。ってあれ?」
血を吐くレフィリアの元に駆け寄ると足元にぶつかった衝撃でぶっ壊れている宝箱に気付いた。
「おっと、えらくでかいと思ったら二重底になってたのかよ」
不幸中の幸いかレフィリアの体を張った献身的な行動が宝箱の細工を粉砕した。
中身を見るとやたら豪華な細長い袋に入れられた物を中に見つける。
「グッジョブ、レフィリア。これは‥‥大剣に腕輪か?」
袋の紐を解いて確認するとそれは白い布に包み込められた黒柄の大剣と赤、青、黄、緑の四色ひし形状の宝石のようなものが埋め込まれた銀色の腕輪。
「へぇ、こいつなら使えそうだな」
大剣を布から解き、腕輪を装備する。
新たな体のおかげか重さ関係なく持ち上げることができた。
大剣は抜き放たれたのを喜ぶように鈍い光沢を、腕輪も共鳴したかのように四色の光を放つ。
正面を見ればその光に呑まれたように動かないグラントロール。
「さぁて、今度はこっちの番だぜ」
ニヤリと笑って俺は目の前の敵へ向かって刀の切っ先を向けて走った。
「っとあぶねっ。そらよっ」
「ゴガアアアア‼︎」
振られた拳を余裕を持って躱し、すれ違いざまに腕を斬りつける。
なんてことはない技術もへったくれもない力任せの斬撃。
大剣が生々しい鈍い音と共に緑の肌に埋まるのが見え、そのまま腕を斬り落とした。グラントロールが痛みから片手に持っていた棍棒を落とし、絶叫しながら斬られた腕を押さえる。
押さえた傷からは緑の血がだらだらと流れていた。
「マジかよ。どんな威力してんだコイツ」
適当に斬っただけで腕を斬り落とした大剣を見つめる。あれだけのことをしたのに血が付いただけで刃こぼれもした様子もない。
剣を見るのも束の間だった。
すぐさまグラントロールは体制を整える。といってもダメージが大きいようで叫ぶ気力も無く腕を押さえながら突進してくる。
さながら命を賭けた決死の一撃。
その巨体から放たれるプレッシャーは半端じゃない。
「お前も死にたくないんだろうけど、俺もまだこっちに来たばっかなんだ。すまねぇ」
ふと言葉が勝手にこぼれる。
ここは万全を期して後ろの死角へと移動し、姿を捉えさせずに首を落とすのが正解なんだろう。
けどそれをせずに真正面からこの怪物を斬り伏せたくなった。
グラントロールが着々と近づき地面が揺れ、洞窟が震える。
大剣を構えると大剣を支える手のひらが少し暖かくなったように感じる。
使い方なんか知らない筈だ、けどこの時だけは何故かこの武器の使い方がわかったような気がした。
「はぁっ!」
気合いと共に大剣を振るうと衝撃波のようなものが生まれ真っ直ぐに飛んでいった。
真っ直ぐに突っ込んできていたグラントロールがそれを避けられる筈もなく、ほどなくして崩れ落ちた。
そして、地に伏した緑の巨人は淡いエメラルドの光を放ちながら消滅する。
エメラルドの光はその場で待機していたがしばらくすると俺のもとへと飛んできて体に吸い込まれるようにして消えた。
死体があった場所には何もなく滴っていた緑の血もない。
代わりにあるのはさっきの光と同じ緑の石。
「なんだったんだ今の?それにこの石。ま、いいか」
考えるのは後にして緑の石を拾ってポケットに入れる。
真っ先にやることは決まっている。
とりあえずは使徒様の労いに俺は行くのだった。
伝説の武具みたいな感じ