新たな世界で
「うん?」
目が開くとそこはさっきの空間ではなかった。目を瞬き、自分の状態を理解する。
どうやら無事に新しい世界ってのに移動できたらしい。
「おー、ここが新たな人生の舞台ってわけか。にしても、自由な世界ってキャッチフレーズのわりには狭くてなんか暗いな」
周囲を見回すと暗がりがどこまでも広がっていた。
辺りを照らす明かりも壁に設置された松明のみだ。
「当たり前でしょっ!ここは洞窟なんだから!」
「うおっ、誰だよ!」
耳元で急に叫ばれて思わずビビってしまう。周りは暗いが流石に人が来れば分かる。
「私よ、私!あんたの支援に無理矢理駆り出された神に仕える健気な使徒様よ!」
「ああ‥‥そういや付いて来るって言ってたっけな。確か名前はレフィリアだっけか」
「そうよっ!私の名前はレフィリア。でもあんたに名前を呼ばれる筋合いはないわ。私のことは使徒様と呼びなさい。レフィリア様でも可」
フフンと何故かドヤ顔の銀髪美人使徒のレフィリア様。
先程までの殊勝な態度はどこへ行ったんだか。洞窟気にしても仕方なし、ここが洞窟だとかツッコミたい気持ちがあるがそれよりもさっきから気になっていることがあった。
「へいへい。で、その偉い使徒様に聞きたいんだけどよ。なんでお前さんそんなに小さくなってんだ?」
「仕方ないでしょっ!ミスした罰なんだから!」
「ミス、ねぇ。だからそんな小さいのな」
今のレフィリアの身体の大きさは手のひらサイズ。俺を殺した罰で小さくはなったが背中から生えてる羽もあってちょっとした妖精みたいに見えなくもない。
「そういうあんたも大分変わってるわよ見た目。ほら」
「あー、ホントだな」
俺の姿がわかるようにレフィリアが鏡をどこからか取り出して見せてくれる。
周囲に気を取られて気付かなかったがよく自分の体を見てみると大分変わっていた。
具体的に言うと、短かった黒髪は背中まで伸び、特徴の無かった体は筋肉質になっているといった感じだ。
「うーむ。髪がなげぇしなんだか女みてぇだなぁ」
「なによ。神が造られた体に何か文句でもあるの?」
「いんや、ぶっちゃけると無い。普通にカッケェしな」
確かに女みたいな髪というのは本音だが別段気にしてない。むしろこの新しい体に合っていてなかなか伊達男っぷりを発揮している。
「ふぅん、そういうもんかしら。私としては多少は見られる顔になっていいんだけど」
「見られない顔で悪かったな。んで、ここが洞窟ってのはマジか?」
「そうよ。ドーケン洞窟って名前らしいわ。洞窟って言ってもほぼ一本道だし、真っ直ぐ進めば大丈夫だから心配する必要はないわ」
流石は支援役で付いて来させられただけはあるな。すぐさま、現在地の情報を提示してくれる。
正面をみると確かに一本しか道がないし、正確であることは間違いない。
だが、その先は暗闇だ。
「一本道つってもだいぶ長そうだし、今日中に外に出れんのかこれ?」
「それも大丈夫。今のあんたの体は特別製だから」
「特別製?この体がか?」
「ええ」
特別、ね。
確かに神様が造ったっつうスーパーボディだしな。外見もさることながらその能力も高いと。
「具体的にいうとどこら辺が特別製なんだ?」
「具体的?そうねぇ‥‥あんたの体には魔力っていうのが流れてて、それに加えこの世界の生物基準で‥‥ってああもう、面倒くさい!」
「おいおい、諦めんなよ。使徒様なんだろ?」
「うっさいわねっ!要は今まで出来なかった動きが出来るってことよ。何でもいいからやってみなさい! 」
「やってみなさいって、んなこと言われたってなぁ」
説明途中で放っぽり出す使徒様。
何で、あの爺さんはこんなん寄越したんだかホントに謎だ。案外、厄介払いだったりしたらかなり笑えるな。
ま、とりあえずその話は置いといて、何かやらないと煩さそうなので、なんかやってみることにする。
「‥‥‥ふぅ」
大きく深呼吸して精神を落ち着ける。
イメージするのはゲームのキャラとかがやる動きだ。
「いいから早くやりなさいよ」
「うっせぇな。やりゃあいいんだろやりゃあ‥‥ほっ!」
レフィリアに急かされながら、足に力を込めて飛んで空中で回転し、そのまま地面に着地。しっかりとイメージ通りの動きになっていた。
「おおっ!すげえな」
「でしょ?神様は凄いんだからっ!」
「ああ!ホントにすげぇ。うしっ、このまま行ってみっか」
またまたドヤ顔をするレフィリアだったがそんなことより自分が行なったことの方に気がいってしまう。
男として生まれたなら一度はやってみたいことが色々出来るんだから、興奮する。それに、この性能なら確かにすぐに出られそうだ。
新たな体を確認した俺は先に進むべく、歩みを進めていった‥‥‥。
「で、いつまであんたはピョンピョン飛んでんのよっ!しかも進む方向逆だし!」
「だってよ、ほっ。意外にやってると楽しくてよっと。それに、こういう場所には宝があるってなっ?」
「意味わかんないし、飛ぶか喋るかどっちかにしなさいよ‥‥‥」
あれから暫く。
俺は自分の身体能力の高さに興奮しながらジャンプしつつ奥へと進んでいた。
ジャンプしながら進んでいたせいか今では空中二回転も可能だ。
「‥‥よっと。そろそろ疲れても大変だしな。ここらでやめとくか」
「でも、奥に進むのはやめないのね」
「当然だ」
「‥‥はぁ」
俺を見て溜息をつくレフィリア。
そんなに不満なのか。
「あんた分かってるの?この世界はあんたの居た世界とは大違いなの。普通に怪物が襲ってくるし、盗賊だっている。運命に囚われないってことは神の庇護がないってことなのよ?いつでも、死んでしまうし、いくら神様の造られた体だっていっても限度はあるの。それにこんなチンケな洞窟になんて宝があるなんてとても思えな‥‥」
「やっぱりあるじゃねぇの。ほらあそこ」
「ウソォ!」
長々と何か話していたが全く聞いてなかった。宝の話だけは聞こえたので前方を指差すとそこには金色の宝箱が置いてある。その先に道がなくどうやら終点みたいだな。
「いくらなんでも‥‥そんなこと。しかもあんないかにもな感じの宝箱があるなんて」
「まぁ、いかにもってところには同意だな。こどこういうのは開けてみなきゃわかんねぇ。開けるぞ?」
「もしかして、罠かもしれないわね。少し様子を見てから‥‥ってちょっと!」
時すでに遅し。
レフィリアの注意を聞く前に俺は宝箱へと手を伸ばして開ける。
「‥‥へぇ、色々入ってんじゃねぇか」
中を見ると、様々な物が詰め込んである。錆びた鉄のようなものから瓶のようなもの、はた何か書かれた文字のようなものまでそれはもう色々と。
「あんたねぇ‥‥。まぁ、いいわ確かに色々入ってるみたいだし色々見てみなさい‥‥‥あ」
「だな。とりあえずなんかねぇか探してみっかってどうした?」
突然、レフィリアが何かに気付いたみたいに声を上げる。
「あ‥‥あぁ」
レフィリアの目線の先にゆっくり顔を動かすとそこには緑の肌をした大きな体躯をした生物。
何故か息が荒い。
「あー、こりゃ罠だったみてぇだな。ワリィワリィ」
「だから言ったじゃない!言ったじゃない!」
「二度も言わなくたって分かってるっての」
「どうすんのよ!あれ!」
緑の肌の怪物はゆっくりと腕を回すとその手に持った棍棒のようなものを構え‥‥突進してきた。
「どうするもなにもやるしかねぇだろっ!」
確かにこれなら退屈はしねぇよ、爺さん
。心の中で見てるかどうかもわからない神にそう言って俺は拳を構えるのだった。